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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラッグルームスープ編(後編)
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男の娘の傷は、思ったよりも深過ぎました。

「でも、不思議よね」

「ん? 突然どーしたっすか?」

「この電気も『盗んで』使っているとなると、どこから引っ張ってきたのかなぁ。て」

「それは俺も流石に分からないっす。あっ! 着きました!」


 廃墟なのに、何故か動くエレベーター内で考えていたが、三階に着いてしまった。


「とりあえず、気をつけて……」

「タミコさんも。っす! では!」


 彼は黄色いパーカーのフードを、目が隠れるほど深く被ると、早速三階へと降りたのだ。


 というのも、このソロモン、1フロアにつき、18部屋もあるらしく、そこから探すのが大変なのよね。


 私の場合は最上階である、5階の最奥。というのもあって、何となく行ける気がするけど……。


「あっ。もう着いちゃったか」


 私も5階に着いたので、黒い猫耳パーカーのフードを深く被ると、エレベーターから降りる事にした。


 よし。ここから真生くんが監禁されているだろう、72番へ行かないと!

 なので、物陰に隠れながらも、目的の部屋へと向かう事にした。

 フロア内には、派手めな半グレの格好をした鰒川の連中が彷徨いていたので、身を潜めながらも、少しずつ歩を進めていく。


 途中、スマホを取り出し、画面に映るヒガンさんと場所を確認し合いながら、着実に目的の部屋へと進めていく。



――おい。三階で暴れてる人がいるぞ!



――まじかよ。ボスは話し合いの最中だと言うのに! くそっ!



 もしかして、フグトラさんが暴れて注意を引かせようとしているのかな。そのせいか、徐々にフロア内に人がいなくなっていく。


『フグトラ、やりますね。タミコ様』

「は、はい!」

『72番の部屋を見つけたら、報告をお願い致します。見つけ次第、解除致しますので!』

「ありがとうございます!」


 なので、フグトラさんが作ってくれたチャンスを逃さないよう、私は周囲に警戒しつつも、最奥の部屋へと向かったのだ。


 途中、喘ぎ声やら奇声が沢山聞こえてきたが、私からしたら単なる雑音でしかない。


「ここかな。72番」


 私はやっとの事で真生くんがいるであろう、最奥の部屋へと着いたが、確認のために後ろを振り向くと、誰もいない。


「ヒガンさん。着きました」

『了解です。しばしお待ちを……』



――ガチャッ



 すると、扉の前からロックが解除される音が静寂な廊下に大きく響いたのだ。


 なるほど。こうやって、ラブホテルの扉は解除されるのだが、廃墟のせいか、湿っぽいし埃臭いし、何より気持ち悪い。

 なので、右手に持っているエコバック(中身は大量のいちごミルク味のジュース)を片手に私は扉を恐る恐る開けると……。



――シュパッ。シュパッ。



「あー! もう! ここ、わいふぁい通ってない! しぃらに送りたいのにぃ! うぇぇーん!」


 何故か、子供のように泣きじゃくりながら、両手にピンク色のスマホを抱え、必死に打ち込んで送ろうとしている真生くんがいたのだ。


「ええっと..……」


 だけど、何だこの状況は。

 改めてスマホを確認すると、かろうじて電波は通っているが、ヒガンさんとはミラーリングで繋がっている状態だ。


『ど、どうしましたか!? タミコ様!』

「あー。真生くんが無事なのは確認できたけど、なんて言うか……、あっ!」


 しかし、何故か電波が突如、切れてしまい、画面が真っ暗になってしまったのだ。


「もしかして……」


 試しに扉も開け閉めしようと、取っ手に手をかけたが、ガチャガチャ音を出しても一向に動かない。

 あ。詰んだ。と思ったけど、これで一個分かったことがある。

 それは、この部屋全体、通信機能を遮断させる『何か』が設置されている。と言うことかな。


 だけど、あのアオハトに寄せられた通知はどうやって送ったのだろうか。まさか、先程みたいに、閉じ込められた『直前』に送られたものなのかな。そうだとしたら納得できるけど。うーん……。


「……あっ! タミコさん!」

「ま、真生くん!?」


 すると、私の存在に気がついた彼が、笑顔で声をかけてきたが、髪色や服装がまた、変わっていたのだ。


 薄手の薄ピンク色のパーカーに、中は黒で固めたフリフリワンピース。靴下も黒白の縦ストライプになっており、靴も黒色で厚底。完全なゴスロリファッションに身を包んでいたのだ。

 もうここまで来たら、完全にシイラさんの趣味だよね。オマケに髪色も……。あれ?


「そうです! DMを送ったの、ぼくだったのですが、わかりましたか?」

「うん。私の上司から聞いたからね。だから、君を助けに来たけど、どうやって…… 」

「それに関しては、連れてこられる『前』にアオハトのDMを使って送りました。『ぼくを助けて』て。その後は何しても連絡ができない状態になっちゃいましたが」

「なるほどね」


 一先ず、粗方状況は分かった。

 真生くんは連れてこられる『前』に、DMを使って助けを求めたんだ。だから通信妨害を受けること無く、助けを呼べた訳だが……。


「けど、その髪色……」


 気になった私は思わず彼の赤茶色の髪に指をさしてしまったが、ここに来て髪色がダブるなんて。


「あっ! これ、今流行っている『ゴスロリ ラブズナトアレ』に出てくる主人公みたいな髪色にして、格好も真似てみたんです! どうですか? えへへ!」

「ま、まさか……」


 そういえば、オカマ店長がこんなことを言っていたような。



――それでねー、その片方の子がね『ドラマを見てハマってしまったから、流行りの髪色を入れてみたい』と言ってたの!



 そのせいか、恐ろしいほどの偶然としか思えないけど、まぁ。今更驚くことも無いから、いっか。


 半分諦めつつ、監禁されても尚、スマホ両手に抱えながら、通信できる場所を探している彼を見ていたが、流石シイラさんの同居人ていうか……。


「怖く、ないの?」

「ん? 大丈夫です! わいふぁいが通ってないのが困ったぐらいで……」

「確かに。だけどここ、電気も薄暗いし、かなり不気味な場所だと思うけど」

「それは、慣れているから大丈夫」

「え!? そうなの?」

「あとね、ぼくに何かあったら、サーフェスのアカウントにあるDMに連絡するように。て、シイラさんが教えてくれたんです!」

「そ、そうだったの!?」

「うん! 『ここに送ったら、確実に助けが来るから安心してね』て、ボイス付きで送ってきてくれたから、もっと怖くない。て思えるのかも。えへへ」

「へぇー……」


 何だろう。シイラさんが事前に言っていたのも驚いたけど、彼が囚われの身だと言うのに、ここまで平常でいるのも不思議だ。

 普通ならパニクったり、固まって動けなかったりするのに。


「それに、ボイス付きで送られてきたら、イヤホンをしながら、何度もリピートをする事にしているんです。まるで耳元でシイラさんが囁いているみたいで、とーっても安心します。えへへ……」

「あー。そ、そうなんだ……」


 そういえば、真生くんもまた、シイラさんが好き過ぎて、恐ろしい方向に行く傾向があった気が。

 私は戸惑いながらも相槌を打っているが、えへへと笑う彼の恍惚な笑みが、何故かとてつもなく怖く感じるのよ。どうしよう。


「それにしても……」


 すると、彼は私と全く同じ髪色に気がついたせいか、綺麗な茶色い瞳でじーっと見てきたのだ。


「えっ!? ななな、何!?」


 だけど、可愛い格好をしていても、中身は男の子なんだよね。一瞬バグりそうになるけど、本当に男の子なのか、女の子なのか、分からないほどの中性的な顔をしている。


 そういえば、私の元親友も、可愛い顔つきをしていた気が。そのせいか、何処か真生くんに似ているのよ。いや。気のせいだよね。


「あっ! 驚かしてしまって、ごめんなさい! えっと……」

「ん?」

「実はそのドラマに出てくる主人公、背がタミコさんぐらいなんです!」

「え?」

「そうなんですよ! 女の人なのですが、芯が強くて、戦略的に敵を倒していく姿がとってもかっこよくて。ぼくもああいう復讐をしたいなぁ。て、心の中では思ってはいるのですが……」

「……」


 しかし、彼はふぅー。とため息をつきながら、ベットの端に腰掛け、両足をブラブラさせるとこう言ってきたのだ。


「怖くて、無理なんです」

「……」

「いざ、あの人を目の前にすると、胃に入ってた食べ物が、全部空になっちゃう程の、吐き気が出ちゃうのです」

「そんなに……」


 それって、相当強いトラウマが(ヒジリ)に対してある。ていう事よね。

 そのせいか、私自身も益々怒りが湧いてきているのは、紛れもなく事実なのだろう。握る拳が強すぎて、手の平の感情線に爪がくい込んできて、正直痛い。


「うん。だから、今でもあまり、食べられる物は限られちゃうけど、シイラさんと食べるご飯は、どれも好きです」

「……そっか」


 彼はコクリと静かに頷くと、続けて語り始めたのだ。


「今でも思うんです。もし、ぼくがあの時、シイラさんやタミコさんと出逢っていなかったら、ここにいるホテルの人みたいになっていたのかも。て」

「それ、どういう……」

「言葉の通りです。何処の誰にも拾って貰えずに、溜まり場の人達と一緒になって、薬をキメて死んでいたのかもしれない。て」

「……」

「それに、あの時のぼくは、思い出したくないほどの地獄の様な日々を送っていました」

「……」

「あ。それと、学校は嫌いじゃなかったけど、アイツに助けられる前は、ぼくの事を『男女(おとこおんな)』って言う人もいて、正直嫌だったのを思い出します」

「……」


 すると、彼は顔色一つ変えず、淡々と語りながらも、自分の今まで経験してきた過去を、打ち明けてきたのだ。


「あ。遅くなっちゃったけど、これ」

「え!? これ……」

「喉乾いたかな。て思って、近くの自販機で買ってきたの。どうかな?」

「嬉しい! ありがとうございます! しかも、いちごミルクだぁ! やった!」

「良かった! でも、大丈夫? かなり甘ったるいと思うけど……」

「ううん。わいふぁい探しに頭を使っていたら、甘いのが欲しくなってきたので、丁度良かったです。えへへ!」

「そ、そうなのね……」


 それと、私も差し入れでジュースを沢山持ってきていたので、17本持ってきたうちの2本を、私と彼で飲むことにした。

 それにしても、わいふぁい探しに頭を使っていた。て。シイラさんに相当送りたかったのだろう。


 だけど、任務中にバンバン送って迷惑ではないのだろうか。いや。シイラさんなら、何件通知を寄越しても、喜んで受け取るか。彼もまた、倫理観はバグってるから、来た通知を全部、鍵付けて保存してそうなのよね。うん。


「それと、三ヶ月前に起きた騒動の時は、その、ごめんなさい」

「え?」

「沢山の人に迷惑をかけてしまったし、ぼくもあの時誰かに『止めて欲しい』と心の中では思っていたので」

「……」


 そういえば、あの騒動がきっかけで、物事が色々と大きく動いたのよね。

 例えば、ベローエの内部決裂。ヒガンさんが怒ってフグトラさんと共に抜け、裏組織 デットプールが誕生した。まぁ、理由は現教祖の孫であり、冒涜者として追われている、ミオ君を守るため。


 あとは現教祖が責任を逃れるために、現在も逃走中だということ。今回のスープ事件で、現教祖の下にいる『鰒川家』が悪事を働いた為に、そこの頭領 鰒川 (ヒジリ)に復讐をする。その聖の子供にあたる真生くんと話している、というのが今の状態だ。


「あと、実はぼく、本当のお父さんはあの人ではない事も、知っています」

「えぇぇ!?」

「よく、ぼくを殴る時、口癖の様に言ってましたから。『お前は俺に全く似てない!』て」

「うわぁ……」


 よくある典型的な毒親だと思った私は思わず引いた顔をしてしまったが、まさか、これでヒガンさんが言っていた話も、本当の事になってしまうとは。


 現教祖と信者の間に生まれた子が『真生くん』という事が。


「それに……」

「……、それって!」


 彼はそう言いかけると、肩にかけていたピンク色のショルダーバッグから、何故か『錠剤版ゾンビタバコ』を取り出してきたのだ。


「こんなモノ、もう見たくもないし、持ちたくないです」

「……」

「なので、タミコさんにお願いがあります」

「えっ!?」


 そして、彼は深呼吸をし、意を決すると、真剣な眼差しでこう言ってきたのだ。


「ぼくからの『依頼』、聞いて貰えますか?」






「ど、どうしましたか!? タミコ様!」

『あー。真生くんが無事なのは確認できたけど、なんて言うか……、あっ!』

「タミコ様! タミコ様ぁぁ!」


 ロビー周辺で見張りをしていた俺は突然、背後からヒガンさんの焦り声が聞こえてきたのだ。


「おい。ヒガンさん、何があった?」

「ま、まずいっ! ここに来てウィルスだと!? くそっ!」


 なので、かなり焦った様子で駆けつけると、彼は顔面蒼白な顔で、パソコンの画面に向かって暴言を吐いていたのだ。


「ウィルスが、どうかしたんですか?」

「あー。リルド様。大変申し訳ありません!」

「何が起きた? 怒らないから簡潔に言ってくれ」

「分かりました。実はロックの解除を終え、タミコ様が部屋に入った瞬間、突然、ロックが作動されてしまったのですよ!」

「何だって!?」

「なので、私も解除しようと、再びウィルスバスターや対策ソフトを使って排除を試みましたが、全く効かず……」

「……」


 こんな時、俺はどうすれば良いんだ。

 ただ、タミコや真生くんが攫われて閉じ込められているのを、助けずに指を咥えて見てろ。ってか? ふざけんな!


「あっ! リルド様!」

「悪りぃ。フグトラと合流して、72番の扉壊してくるわ」

「ちょっと待って下さい! 下手に動いたら、アイツらの思うツボです!」

「は? どういう事だ!」

「鰒川 (ヒジリ)は狐の様な厄介な男です。二人を狙うだけではなく、貴方達の弱点も、全部知っている可能性が大いにあるでしょう」

「どういう意味だ! 弱点を全部知っているって……」


 一瞬背筋が凍ってしまったが、まさか、そいつは俺の事も『知っている』とでも言うのか?

 恐る恐る聞くと、ヒガンさんが今まで見た事の無い様な怖い表情で、激昂している俺にこう忠告してきたのだ。


「そのままの意味ですよ。リルド様。貴方、『血』を見ると発狂してしまうのでしょう?」

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