廃墟ホテルに到着後、内部はウィルスだらけでした。
「と言うことは……」
彼はペットボトルに入ったお茶を握りしめながらも、青ざめた顔で白い乗用車を見ていた。
「シイラさんが確実にこの中にいるって事っすよね」
フグトラは目の前にそびえ立つ、退廃したラブホテルを指さすと確認するかのように言ってきたのだ。
「あぁ。その確率が一番高ぇな。タミコが見た白い乗用車がシイラのだとしたら」
「うん。確実にシイラさんが乗ってた車だね。かなり高そうだったの、覚えているし」
「はぁ。気が進まねぇけど、行くしかねぇか」
「ですね。行きましょう」
「あぁ。何かあったら俺に言ってくださいっす! いつでも力になるっす!」
「ありがとな。フグトラ」
こうして、私達4人は、監禁されているかもしれない真生くんを救うため、廃墟ホテル ソロモンに乗り込むことにした……、が。
「あ! ちょっと待って」
「どうした?」
ふと、暑さで喉が乾いた私は、細長くて少し年季が入った赤い自販機のラインナップを見ながら、千円札を躊躇いなく突っ込んでみる。
「うん。これにしよっと」
――ピッ。ガコッ。ピッ。ガコッ……
そして、『ある飲み物』を見つけた私は、同じ飲み物を一回、二回、三回、四回と、繰り返しながら、ボタンを押してみた。
ちなみに、お金がなくなったら、更に千円札を投入し、違う種類の飲み物も、片っ端から買ってみたが、20本は買いすぎたか。
「お前……、何だその量は!」
「あわわわ! タミコ様! これを! そのままあげますよ!」
すると、あまりの多さに心配したヒガンさんが、パーカーのポケットからエコバッグを取り出して渡してきたのだ。
コンパクトにもしまえるピンクの可愛いエコバッグ。モルモットのデザインが付いていて、何ともお洒落な。
でもヒガンさん、わざわざエコバッグまで持ち歩いているとは、かなり周到すぎでは?
「あ! ヒガンさんありがとう! でも何でポケットにエコバッグを?」
「あー。実は、依頼で頼まれた回収品が大き過ぎたり、推しに貢ぐ用で買い込みすぎてしまった時に、使っているのですよー」
「へ、へぇ……」
まるで近所のスーパーにいるマダムみたいな取り出し方に思わず苦笑いしてしまったが、お陰でかなり助かったかも。
「ったく、タミコさん。どんだけ買い込んでるっすか。しかも、こんな暑い時に甘ったるい飲み物とか……」
「まぁ、みんなの分も兼ねて、『ヒガンさん』の真似して、お差し入れをしようかと」
「おっ! もしかして、俺の分もあるっすか! ありがとうございますっす!」
「あはは。フロントに着いたら渡すね」
「りょーかいっす!」
彼は犬のようにはしゃぎながらお礼を言うと、廃墟ホテルの玄関口まで歩いて行ってしまった。
「おいおい。その甘そうな飲み物、『誰』に差し入れするつもりだ?」
「それは『秘密』だね。でも安心して。黒幕にあげる予定は全く無いから」
「はぁーん。なるほどな」
「とりま、行くっすよ!」
「おー」
「フグトラ。気をつけて行きますよ。ソロモンは『獣の巣窟』なのでね」
「獣の巣窟って! ぶはっ! ヒガンさんったら!」
「真面目にやれよー。フグトラ」
「ちょっとリルドさん! その言い方は酷いっす!」
「あははは!」
なので、改めて私含む4人パーティで、魔境 ソロモンの中へと入ったが、中は薄暗くてカビ臭いし、気味が悪い。
――あぁ! ぃいいい! ぁああああ!
オマケに各部屋から獣みたいな雄叫びが幾つか聞こえてくるのだが、まさか、こんな夕方からヤッてるの?
確認する様に、パーカーのポケットからスマートフォンを取り出すと、時間を確認した。
夕方4時頃。夜に決行とゴエモンさんは言っていたが、グソクさんから連絡が来たから、早めに見つけないと。
しかも、真生くんがオートロック付きの部屋にいるとしたら、こんな密閉な所で何時間もいたら、熱中症で倒れちゃうって!
なので、それも心配して、沢山飲み物を買ってきたのは正解だったのかもしれない。
「ていうか、扉越しから声がダダ漏れっすよ。至る所でお盛んっすね」
「声で分かりますよ。夏のせいか、至る所でおせっせしてますね~」
「おい。二人共、タミコがいる前で何つー言葉発してんだ?」
『はっ!』
「大丈夫だよ、リルド。私は成人済みだから、そういう話は聞き慣れているし。つまり、この声は各部屋でキメセ……、んぐっ!」
しかし、何故か私が言おうとしたら、彼が背後から片手で口封じされてしまった。
そのせいか、前を歩いていたヒガンさんとフグトラが咄嗟に私らの方へ振り向き、密かにくすくすと笑っていたのだ。
「はい。おしまい。これ以上言ったら、目の前の連中がはしゃぐからやめろ」
「んーー! んんー!」
だけど、何で言おうとすると止めるのよ!
前の二人だって、一番分かりやすい例えだ、て言ってたのに!
「んーっ!」
私は思わず不貞腐れた顔で、下から見上げる形で彼を睨んだけど、微動だにしていない。
しかも、何故か余裕そうに、ニンマリと不敵な笑みを浮かべてるし。あーもう! ムッカつく!
「お。ここがフロントっすね」
「じゃあ、飲み物渡しちゃうね。はい。こういうのはどうかな?」
何だかんだでフロントに着いた私達は、早速エコバッグから飲み物を取り出し、フグトラ達に渡していた。ちなみに彼からの口封じは、睨んだ末、何故か解放されたが。
「お! 緑茶っすね! 好きっすよ! ありがとうございますっす!」
「ヒガンさんは、これとかどう?」
「おおっ! コーラ! こう見えて、ジャンクな飲み物、好きなんですよ」
「えええっ!?」
「まじかよ。俺、たまたま買ったの、烏龍茶なんだけど」
「リルド、めっちゃ意外……」
「あ。べ、別に茶色が好きで意図的に選んだ。とかじゃねーから。薬を飲むために仕方なく。えっと……」
「もしかして、無意識にタミコさん、意識してるっすか?」
「おいフグトラ! そんなんじゃねーって!」
「だって、薬飲むだけなら、ミネラルウォーターで十分じゃないっすか」
「それはそうだが、はぁ……」
「おー。いいですね! 夏の暑さに甘い恋愛。たまらないです! 是非とも私に全ての費用を貢がせ……」
『遠慮致します!』
しかし、ヒガンさんがまた、笑顔でとんでもない事を言ったものだから、再び声が揃ってしまった。
ちょっと待ってよ。
何でまたリルドと声が揃う訳?
わざとじゃないよね?
内心思いながらも、早速、管理パソコンを探してみることにした。有人フロントだから、もしかしたら、受付の近くにあるはず。
「もしかして、これっすか?」
「流石ですね。フグトラ」
すると、彼がチェックインカウンターの裏側に置かれた一台のパソコンを見つけたのだ。
省スペース型のデスクトップパソコンだが、電源を押すと起動できる。廃墟なのに罠みたく、無造作に置かれているのが気になったけど。
でも、これでソロモンの部屋の数や状況が、少し把握出来る様になると思うと、探索がかなり楽になるかも。
「しかも、ここにかけられている部屋の鍵もよ、何故か『二つだけ』欠けているんだよな」
「え!?」
彼もまた、パソコン付近にあった小型のキーボックスを開けて、確認していたのだ。
「何番と何番が欠けていますか?」
「えっと、ざっと見るに、『51番』と『72番』だな」
「分かりました。そこに監視カメラがあるかどうか、チェックしておきますね」
「お? それでできるのか?」
「えぇ。まず、これでパソコン内に撒き散らかっている、ウィルスを撃退しておきましょうか」
彼はそう言うと、早速黒いカーゴパンツのポケットから、一本のUSBメモリを取り出したのだ。
「え? それって……」
「私が独自に『開発』した、ウィルスバスターですね。これでウィルスだらけになっている敵側のPCを綺麗にすることが可能です」
「へぇー……」
そして、彼は躊躇いなく、四角くて黒いスリム型のパソコンに挿し込んだのだ。
それにしても、ヒガンさん、自分でウィルスバスターを『開発』するなんて、強すぎないか?
「まぁ、ヒガンさんは俺よりこういう『魔改造』や『プログラミング系』はめちゃくちゃ得意なんすよ。あぁ見えて」
「あぁ見えて、は余計ですよ。フグトラ」
「えー。だってそれ、事実じゃないっすか。んま、暇なんでその辺見張ってるっす!」
「俺もー……うっ! はぁ、はぁ……」
「ん?」
すると、先程までケロッとしていたリルドが突然、胸を抑えながら周囲を見渡し始めたのだ。
「だ、大丈夫!?」
「はぁ、はぁ、平気だ。けど、血腥いんだよな。この辺」
「確かにそーっすよね。元々、男女絡みによる『無差別殺傷事件』が起きた現場だった様で……」
「……」
「しかも、原因は恋愛トラブルって言うだけで、後は分からず。らしいっす」
「それで……」
フグトラさんの説明で、何だか納得してしまった自分がいた。
しかも、男女絡みの無差別殺傷事件かぁ。
詳しい動機は結局、何も分からないままだけど、その曖昧さが、余計に気味悪さを増しているのよね。
「え? それって、ハムスタキロに投稿した事件より、前の話か?」
すると、先ほど落ち着きを取り戻したリルドが、烏龍茶を軽く飲みながら、恐る恐る聞いていたのだ。
「そうっすね。20年もの前になるし、俺が産まれる前なので、何とも言えないっすけど……」
「へ、へぇ……」
あまり気にしてなかったけど、改めて周囲を見渡すと、確かに床や壁には、年季で黒くなった血痕の跡が、びっしりと付いていた。
電気もヒガンさんが弄っているパソコン以外は通ってない、若しくは壊れているかで、部屋は暗いまま。スマホの明かりで何とか周囲が見えるほどの明るさだ。
まるで心霊スポットにでも足を踏み入れたかの様な不気味さなのよね。悪寒が私達の背筋を凍らせてくる。
「さてと。ウィルスバスターで、PCの内部はとても綺麗になりましたよ。オマケに……」
そして、彼が満足そうな笑みである画像を私たちに見せてきたのだ。
「それって!」
「えぇ。各フロアの部屋に取り付けられた防犯カメラ映像ですね」
「でかしたっす! ヒガンさん!」
「よし! とっととクソサイトと黒幕をぶっ潰して終わらせるぞ! あー。早く寝てぇー」
「全く。リルドったら……」
でも、言いたいことは凄くわかるのよね。
私もこんな薬まみれの気味悪い場所、一刻も早く出たいし。
「しかし……」
だけど、彼は真剣な眼差しで、PCの画面をガッ。と睨むと、自身の下唇を強く噛み始めたのだ。
「何か、不都合な事が発生したの?」
「えぇ。そうですね。とてつもなく厄介です。まさかこんな事まで……」
なので、恐る恐る聞きながらもバレない様にPCの画面を覗くと、先ほどリルドが言っていた『51番』と『72番』の部屋だけ、映像が無いのだ。
オマケに他の防犯カメラ映像には、各部屋で四つん這いで動き回って叫んだり、激しく淫らな運動をしている、異様な人型が映し出されていた。
「この二つ『だけ』が、何をしても真っ暗なままなんですよ。もしかしたら……」
「つまり、二つのどちらかに、『黒幕』か、『真生くん』がいるのね」
「そうですが……」
「なるほど。良いことを思いついた!」
「ぅえええ!? タミコさん、こんな状況で!?」
「うん。だけど、それは『秘密』て事にしといて」
「……」
だって、これこそゴエモンさんが、極秘で出した『敵味方全員を欺け』にピッタリな作戦だもの。
内容はまだ、みんなには内緒にしておくけど、それを実行するためには、ある程度の準備も必要なんだ。
そのためには、まずは事前に買っておいた17本の『いちごミルク味のジュース』を、お差し入れとして持っていこう。と。
「ほーん。何か妙案が浮かんだ。というわけか」
「その通り。内容は言えないけど、第一段階として、『真生くん』と先に合流したいかな」
「まぁ、確かにこの場合、依頼者から助けるのが普通だな」
「そう。というわけで、フグトラさんと手分けして探す?」
「賛成だ。幸い、俺もまだ平気だが、何かあったらフグトラにおぶってもらう」
そう言うと、彼は背の高いフグトラさんの背中をバシッと叩いていた。
「うぇ!? 俺、リルドさんの世話係っすか!?」
「は? 嫌なのか?」
「い、いいい、嫌じゃないっす! 何言ってるんすか!」
「ふっ。ならいいや」
「まぁー、万が一何かあったら、俺の判断でヒガンさんがいるフロントへと戻るので、安心して進んで下さいっす!」
「ありがとう! ええっと……、二人はどこから行く?」
「どうするかな……」
「そういえば、三人に質問ですが……」
「何だ?」
「こんな時に質問だなんて。突然どーしたんすか? ヒガンさん。どっか頭打ちました?」
「失礼ですよ。フグトラ。私は至って正常です」
「あー。だって、貢ぎ過ぎて、頭のネジまで推しに献上してしまったのかと、思ってたっす」
「それ、私も思った」
「タミコ様まで!?」
すると、パソコンで密かにカタカタと打っていたヒガンさんが、変な事を言ってきたものだから、私と彼は思わずツッコんでしまった。
でも、ヒガンさんの事だから、ツブヤキで初めて会った時みたいな、斜め上の質問が飛んできそうで怖いんだけど。
「まぁ。話を戻しますが……」
「ちゃんと聞くから言ってくれ。ヒガンさん」
「良かったですよ。真面目に聞いてくれるのは、リルド様だけです!」
「いやいや! 俺もちゃんと聞いてるじゃないっすか!」
「フグトラはすぐ茶化すので、ツブヤキに帰ったら、マスターに頼んで、メニューから抹茶パフェを外して貰いますよ」
「あー! それはずるいっす! ちゃんと聞くので言ってくださいっす!」
「あは、あははは……」
「分かりました。では、三人に質問です」
『……』
それにしても、相変わらず面白いなぁ。
内心思いながらも、彼はパソコンの画面と睨み合いをしつつ、こんな質問を投げかけてきたのだ。
「大事な物を隠す時、皆さんならどこに隠しますか?」
「大事な物を隠す時……」
「んー、鍵をかけて、誰にも見られない場所に保管するな。まぁ、そのせいで、家宝のブローチは、棚の奥深くに埋もれてしまったが……」
「俺は背も高いので、誰の手にも届かないぐらい、『高い所』に隠すっす!」
「私も、リルドと同じ、鍵をかけて誰にも見られない場所に保管だけど……、あっ!」
そういう事か!
私は咄嗟に閃いてしまったのだ。
ちなみに私の場合は、更に忘れないように、場所を『写真』に収めてクラウドに保存するんだけどね。ま。そこまでは言わなくていっか。
「これで、場所は絞れましたね」
「まさか、『72番』の部屋に、真生くんがいる可能性が高い。と」
「その通りです。小規模アジト、中規模アジトで起きた事を考えると、敵は『高い場所』や『誰も入りたがらない場所』に、大事な物を隠す習性があるようですね」
「習性って……。はい、リルド」
「おまっ!? あ。ありがと」
動物かよ。と内心思いつつも、さり気なく彼に自販機で買ってきた麦茶を渡すと、更にヒガンさんの話に耳を傾けることにした。
「なので、今回も同じと考えていいかもしれないですね」
「そういえば、メンコさんも現に、小規模で制圧した際『2階に行ったら箱があった』て言っていたような」
「あー。確か、中規模の時は地下の製造所に箱があって、そこには『改良版ネクターのレシピ』、5階には『タミコ』とナイトがいたよな。フグトラ」
「そうっすね! そう考えたら、単なる偶然では無さそうっす!」
「じゃあ、私は72番がある5階へ向かうね。ヒガンさん」
「はい」
ふと、私はパソコンの画面を見ながら、前でパソコンを弄っている彼にある質問をしてみた。
「オートロックの扉って、どうやって解除できますか?」
「そうですね。ここみたいな有人フロントタイプなら、部屋からフロントへ電話をかけ、開けてもらう必要があります。ですが、わざわざそんな事をしなくても良さそうですね」
すると、彼は慣れた手つきで画面を切り替えると、こうケロッと言い始めたのだ。
「今の段階では、こちらで解除することが可能みたいなので」
「というと……」
「外部からウィルスが侵入して来ない限り、今のところは平気ですが、念の為、私のスマホとミラーリングをし、逐一報告をする形をとりましょうか」
「なるほど……」
「フグトラ達もです。51番に行く際は気をつけてくださいね。何故か画面上から、とてつもない程の不穏な気配を感じますので……」
「まじか。ていうか、シイラもその辺にいるんだよな」
「ですね。オマケに薬でイカれた連中もいる。まともな場所では無いのは確かなので、三人ともお気をつけて」
「でも、ヒガンさんは?」
だけど、彼一人残して大丈夫なのだろうか。とても心配になった私は聞いてみたら、彼は『あー……』と固まった後、暫く考え込んでしまったのだ。
おいおい。まさか自分の身の安全を考えていなかったのか。
「すっかり忘れておりました。ええっと、フグトラとリルド様」
「なんすか? まさか、命まで捧げるつもりでした? 勝手に自滅行為はやめてくださいっす」
「フグトラ。それは流石に無いから安心していいですよ。推しに捧げるなら命ではなく『愛』を捧げたいので」
「どうしたヒガンさん? さっき、妙に気味悪い事を言ってたが……」
「あははぁ! お気になさらず! 」
「それ言われると、かなり気になるんだよなぁ……」
「私も」
なので、私とリルドは呆れ気味にツッコミを入れたが、ほんと、この二人は相変わらず。っていうか、居ても飽きない面白さがあるのよね。
「実は自衛用で、例の改造銃も持って来ているのです。ですが、万が一、変な奴らが邪魔をした際、とても面倒くさくなるので、誰かここに残ってもらうことは可能ですか?」
「え? まさかの居残りっすか?」
「俺はそれで構わねぇ。フグトラだけ51番に行って戻ってきていいぞ」
「あ! その手があったっすね! 了解しました!」
「てなわけで、俺とヒガンさんはここに残るから、フグトラは51番。タミコは72番の部屋の調査を頼む」
「分かったよ。そういえば、そこに通ずるエレベーターは使えるのかな?」
「やってみますので少々お待ちを……、おっ!いけました!」
「なら、大丈夫そう」
これで、何時でも行ける準備は出来た。
あとは……。
「タミコ様。フグトラ。スマホをこちらへ……」
「は、はい」
「りょーかいっす」
そして、言われた通りに、私達は彼にスマホを渡すと、慣れた手つきで両手で操作をし、こう言いながら再度渡してきたのだ。
「こちらも、ミラーリングの設定をしておきました」
「流石っすね。これでタミコさんと俺の居場所がヒガンさんに共有された形になるっすね」
「ま。俺はここでナイトと合流してからフグトラの所に向かうから安心しろ」
「あー。そういえば! マスターから聞かされてたの忘れてました! あははぁー」
「ヒガンさん。まさか、彼の存在を忘れていたっすか?」
「そんなことはないですよー! 『推し』の存在を忘れるなんて!」
「まぁ、いいや。タミコ」
「……ん?」
「気をつけて行けよ。何考えてんのか分かんねーけど、危ねぇ事だけはするなよ」
「……まぁ、死にはしない。生きて帰るから」
私は笑顔で彼に言い残すと、フロント近くのエレベーターにフグトラと共に乗り込んだ。
「ったく。相変わらず無茶苦茶なことばっか言いやがって……」
閉まる直前、ボソリと言い残していたのを聞こえていたけど、彼なりの不器用な優しさだと受け取るから安心して。
「さて。私は5階。フグトラさんは3階かな」
「そうっすね。お互い、生きて戻るっすよ」
「……うん」
こうして、私達は敵の寝ぐら内を探索する事にしたのだった。




