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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラッグルームスープ編(後編)
83/106

アジトに向かう車内は、何故か男子校みたいなノリでした。

「おい。それって……」


 リルドは今まで見たことのない程の顔面蒼白となっていたが、まさか、あの時の『事件』を思い出してしまったのか?


『それと、更に詳しく聞いてみた所、どうやら鰒川の連中が、真生くんを攫って『オートロック付き』の部屋に監禁したらしいのですぞ』

「ええぇ……」


 わざわざ厳重な部屋に監禁、ということは、完全に真生くんを閉じ込めて、逃げられないようにしよう。てことか。


 若しくは彼を『利用』する目的があったり……。


『なるほど。丁度、こっちにマスターがいるから、デットプールの人達も呼んどくね』

『おぉ! メンコ氏! ありがたい! それに、オートロックなら、向こうの管理パソコンさえ見つかれば、解除可能ですぞ!』

「そうなの!?」

『オマケにですな、ヒガン氏もまた、ワイと同じく、ハッキングが出来ますので、彼を管理パソコンまで連れて行けば、後は解除のみですぞ』

「……」


 確かにラブホなら、管理パソコンからハッキングすれば、オートロックも解除できるけど、大規模アジトの場所って『廃墟』なんだよね?


 なのに、電気が通ってるなんて……。


「なんか可笑しくない?」

「ん? どうしたんだ? タミコ」

「ゴエモンさんが言ってたけど、大規模アジトって『ラブホ街にある廃墟ビル』なんだよね?」

「あ。そーいや……」

「それなのに、『オートロック付き』て可笑しくない? もしかして、『一部だけ』電気を通してたなら、盗電して利用してる。で納得がいくけど……」

『もしかすると、その辺も調べたら、余罪がたんまりとありそうですな!』

「そう言われてみれば! しかも、随分と計画的に練られてる気がするんだよな。最初から何かを閉じ込める気満々っていうか……」

「でしょ? 監禁するのにわざわざオートロック付きにするなんて。『鍵師殺し』にも程があるって!」

「だよなぁ。ハナから鰒川の狙いは、自分の子供だった。ていうことか!」

「そうだね」


 それを隠すためと、カラマリアを徹底的に潰すために、わざわざ溜まり場の連中を『利用』し、医療崩壊を企てようとしていた訳で……。


 ん? もしかしたら、龍樹君を徹底的に追い込んだ、あの時の『教育ママ』もまた、鰒川の『刺客』だとかじゃ、ないよね?


 もしそうだとしたら、全ての出来事が数珠の様に繋がっていくのよ。


 まさか……。私の考え過ぎ?


「それも、10年以上前から、鰒川家はベローエの手先として計画的に、そして念密に、カラマリアを潰そうと、動いていたのかもしれません」

『……』

「……」


 あくまで憶測だ。でも、とてつもなく嫌な予感がする。

 私は一つ一つ、言葉を選びながらも、慎重に口にしていく。


「例えば、『ドラックルームスープ』という、3つのコンテンツが合わさった闇サイトを立ち上げたきっかけも、彼らからしたら、単なる『金儲け』でしょう」

「……」

「勿論、『改良版ネクター』を作り、どんどん薬物中毒の人達を増やして『鰒川家の資金源』として、全てを搾取していた」

『確かに。それだったら、全て起きたことも納得いくのですぞ』

「うん。それらを利用し、溜まり場の連中を薬漬けにしたのも、アジトへ押し寄せたりと言った小細工も、もしかしたら……」

『って事は、そんな小細工の為に、アンナが犠牲になった。って事!? 信じられないんだけど!』


 メンコさんは拳を握りしめ、テーブルを強く叩いていた。その手の震えは、画面越しからでも、怒りと悲しみが混ざり合っているのが見える。


『どうして……、どうして!』

『美々子!』

『……うぅ。あぁ。ぁああああ!』


 すると、彼女の画面には、面接を終えたナイトさんが駆けつけ、泣き喚く彼女を宥めていた姿が映っていたのだ。


「……」


 これ以上は、言わないようにしよう。

 なぜなら、画面という壁を壊してまで、殺そうと睨みを効かせる彼の殺意が、こちらにも恐ろしく伝わってきたからだ。


『何デ、彼女。泣イテル?』

「ごめんなさい! 私が……」


 なので、必死に謝ろうとしたら、彼は静かに首を横に振ってはこう答えたのだ。


『大丈夫。謝ラナクテ、イイ』

「……」

『ダガ、ヒジリ。アイツダケ、許サナイ!』

「……そう、だね」

『少シ、落チ着イタラ、ソッチ、向カウ』

「え!?」

「そっか。なら助かるわ」

「リルドぉ!?」


 しかし、隣で彼がスマホ片手に画面を見ながら、ケロッと言ったため、呆気を取られてしまった。


「あぁ。言っておくが、あぁなったナイトは、誰にも止められねぇよ。対象が『死ぬ』まではな」

「何、その時限爆弾みたいな存在」

「そりゃぁ、小さい頃から何度も見てきたからな。アイツが『殺意』剥き出しになって、対象をぶち殺す瞬間を」

「……」

「だが、それは『大切な人を守るため』にやっているのであって、『快楽殺人鬼(シリアルキラー)』みたいな思考は一切持ってねぇからな。シイラと一緒にすんじゃねーよ」

「それは流石に分かってるって……」


 思わずツッコミを入れてしまったが、先程のあの背筋が凍るような睨んだ目は、リルドの言う通りかもしれない。


 まるで、魂を狩り取ろうとする『死神』の様で。


『ご、ごめんね。タミコちゃん……』

「メンコさん。先程はその、ごめんなさい。もっと言葉を選ぶべきでした」

『ううん。気にしなくていいのよ。うぅ……。ごめんね。一旦ビデオ通話、切る』

「……」


 こうして、彼女は通話を切り、繋がっているのは、私とリルドだけになってしまったのだ。


『メンコ氏。大丈夫ですかな? いつもの彼女みたいな明るさがない気が……』

「グソクさん。今はそっとしておこう」

「あぁ。俺も同意だ」

「それよりも、私とリルドは真っ先に、大規模アジトへ向かえばいいのよね?」

『ですな。お? ヒガン氏からも通知が……。ふむふむ。おお。そこに待っていれば、迎えに来るそうですぞ!』

「え!? 迎えにって……」



――ププーッ!



 車のクラクションが鳴ったので、音がする方へ向いてみる。


「タミコ様ぁ~! リルド様ぁ~! 此方ですよぉ~!」


 すると、朱色のパーカーを着た、ラフな格好をしたヒガンさんが、こちらへ向けて手を振っていたのだ。


 っていうか、ヒガンさん、車の運転もできるの!?


「まじか……。しかも、随分オシャレな車だな」

「うん。なんて言う車種だっけ?」

「ハリアーですね。多分、最新のヤツでして、元信者の方が感謝の意を込めて、私にくださった物なのですよ」

「ま、まじかよ……」


 わたしとリルドは後部座席に乗り込みながらも、唖然としてしまったが、何だろう。そこだけリアル『わらしべ長者』を地で行っている気がするのだが……。


「やっほー! 俺も忘れないでくださいっす!」

「ええっ!? フグトラさんもどうして!?」


 しかも、助手席には、勤務中のはずのフグトラさんまでも乗っていたのだ。まさか、仕事をサボったのか?


「ちゃーんとレモネードを提供した後なので、大丈夫っすよ!」

「そ、そうなんだ……」

「しかも、マスターから『今日は重要な任務が入ったから、早退しても構わない』と言われまして……」

「まじか。あの人、俺らの会話を遠くから聞いていたんじゃ……」

「まぁ、ツブヤキのマスターは、いつもあんな感じです」

「そ、そうなの? ヒガンさん」

「えぇ。優先順位としては、任務優先になるので、今回みたく、勤務中に依頼が入った場合は、フグトラの様に、早退してもオッケーなんですよ」

「ふーん」

「ちなみに給料も、ツブヤキで働いた分と任務の分で上乗せされるので、ベローエにいた時よりは、かなり儲かってるっす!」

「あはは。確かに言えますね。現に私もデットプールに移ってから、貢げる額も増えましたので……」

「ええっと……」


 つまり、ヒガンさんの場合は、転職に成功し、推しに投資できる額が増えた。ていう解釈でいいのね。だからナイトさんに浴衣のプレゼントができたわけで……。


 て、いやいやいやいや。


 裏社会にいる彼らには、『貯金』という概念が無いのだろうか。もう少し将来の事を考えて蓄えた方がいい気がするのだが。


「まぁ、場所はある程度わかっていますので、ご安心を! 確か、『ラブホテル ソロモン』の跡地ですね」

「……」


 しかし、私の隣にいた彼は、何故か両腕を組んで静かに聞いていたのだ。


「まぁ、跡地って事は、廃墟ビルって事でいいのね」

「そうですね。このソロモンは確か、5階建てのビル形式になってまして、エレベーターも搭載されているのですよ」

「……、へぇー。フロントは?」

「有人タイプですが、廃墟なので、運良く管理パソコンがそこにあれば、オートロックぐらいは開けられるかと」

「なるほど……」


 エレベーターが搭載されていて、有人タイプのフロントかぁ。そこそこ大きなホテルだったのね。

 私自身、行ったことは無いけど、そこまで大きいのなら、(ヒジリ)が手配から逃れる為の隠れ家にしててもおかしくはなさそう。


「ですが、その、ソロモンはですね、噂によると『隠れたヤリスポット』だなんて言われてまして、かなり治安は最悪なんですよ」

「えええっと……、ヤリスポット?」

「ブフォ! ちょぉぉっとヒガンさん! もう少しましな例え方をして下さいっす! ヤリスポットって!」


 すると、助手席にいたフグトラさんが、何かを思い出したかの様に吹き出しながら笑い始めたのだ。


「タミコ」

「え?」

「わりぃ。耳を塞いでおく」

「ええっ!? ちょっとリルド!」


 しかも、隣にいたリルドが突然、私の両耳を両手で塞いできたので、かなり困惑してしまった。


 ええっと。こう見えて24歳の成人だから、そこまで過敏にならなくても大丈夫だって。


「話、続けていいぞ」

「いやいや。そこまで遮断させなくても大丈夫っす。ええっと、事細かく言うとっすね……」

「あらぁ~。タミコ様がいらっしゃる前で、あんな下品な事を! すみませんねぇ。フグトラがもっとマシな言い方をしますので、ご安心を」

「ええっと……」


 オマケに何だ、この男子高校生みたいな会話は。

 私は何故か、リルドに両手で両耳を塞がれているし、ヒガンさんは涼しい顔で運転しているし、フグトラさんは隣でツボに入ってるわで……。


「ままっ。その、まろやかな言い方をするとっすね。ええっと、男女が薬をキメて『チョメるのに最適な場所』て言われてるっす!」

「フグトラっ! チョメもキメても反則でしょうが! タミコ様が、困っておりますよ!」

「おいおい。普通にそれぐれぇ大丈夫だ。ある程度理解した」

「えっ!?」

「つまり、その、今俺らが行くラブホの廃墟は、法も通らない『無法地帯の場所』と言いたいのだろ?」

「あぁーー! それそれ! それが言いたかったっす!」

「嘘つけ! 一番危ねぇ発言してたの、前の二人だろーが!」

「えええっ!? リルド様!? もしかして、私も含まれてるのですか!?」

「当たり前だ! この貢ぎ魔人め! 最初にヤリスポットって言ってたのあんただろ!」

「それはその……。あははぁ~」

「貢ぎ魔人って! もうリルドさんやめて下さいっす! もう! ぎゃははははは!」


 だけど、両手の指と指の隙間からも、騒がしい声が聞こえてくるから、内容もわかるのよね。

 全く。アジトに行くって言うのに、三人とも、修学旅行気分ではしゃいでるんじゃないよ。


「ちょっっと待って! お願いリルド! 一旦両手離して?」

「え? ヤダ」

「やだ。じゃないよ! もー!」

「ったく。リルドさんは、どんだけタミコさんの事が好きなんすか?」

「それは、その……」

「まぁまぁ。いいじゃないですか~。私は二人を『推し』として恋路を応援しておりますので、何かあったら金銭面も兼ねて、協力致しますよ~」

『遠慮致します!』


 だけど、前二人が茶化してきたので、思わず私とリルドは同時で言ってしまった。


「それにしても、偶然が重なってるなぁ……」

「どういう事?」

「あ。いや。丁度いいか。フグトラ、ヒガンさん」

「ん? どうしたっすか?」

「何でしょう? 恋愛に対するご相談も受け付けますよ~」

「ヒガンさん。それは遠慮する。そういうご相談なら、メンコにしてくれ」

「なるほど。了解しましたよ」

「あー。そういえばアネゴ、黒髪に二色のメッシュ入れてて雰囲気変わったっすよね。まさか恋人が出来……」

「まぁ。その話は任務が終わってから、じっくりと話してやる。実はだな……」

「えっと、それ、私も聞いて平気?」

「あぁ。寧ろ、『この三人だけ』に聞いて欲しい事なのだが……」

「う、うん……」

「口外はしないので、安心してくださいっす」

「なるほど。ソロモンに着くまで、まだ少し距離があるので、その間なら……」

「みんな、ありがとう。ええっと……」


 しかし、彼は突然、ふぅー。と呼吸を整えると、こう話を切り出したのだ。


「実は、『ラブホテル ソロモン』は、俺とシイラが任務に行った際、アイツが標的を殺して、ハムスタキロに投稿した場所なんだ」

「……は? それ、本当?」

「あぁ。確実に覚えている。今でも記憶にこびりついて離れない時がある。でも、今は平気……」

『……』


 そう言うと、彼は青ざめながらも三姉妹から貰った薬を、密かに握りしめていた。

 だけど前の二人は驚きのあまり、暫く沈黙が続いていた。


「……標的を殺して、ハムスタキロに投稿って、普通視点から見たら、正気の沙汰じゃないっすよね」

「ですが、不思議と彼なら、何人殺って投稿しても、可笑しくは無さそうだな。と、腑に落ちていましたね。私は……」

「ヒガンさん……」

「だって、タミコ様と合流する前、シイラさんにお会いしましたが、彼、ナイトさんを見てなんて言ったと思います?」

「えっ……」

「そーいや、奇妙な事を言ってたな。ややこしい事になるから、ナイトには敢えて言わなかったけど」

「そこまで、その、シイラさんは、やばい事を言っていたの?」


 恐る恐る聞いてみると、ヒガンさんはため息混じりに言い始めたのだ。


「彼、こう言ったんですよ。『雰囲気からして、かなりの『血を浴びてきた』様な感じがしたね。来日するまでの間に何人殺ったんだろー』て、満面の笑顔で言ってましたからねー」

「えええっ……」


 それってつまり、シイラさんは、犬並みの嗅覚で ナイトさんの『抱える闇』を嗅ぎ分けていたって事?


 だけど、確かに来日するまでの間。つまり彼がルーマニアにいた時に、ヴァルテ家の人達を滅ぼした。と彼はポケトーク越しで言っていたから、ほぼ当たっているのよね。


 正直言ってかなり怖いんだけど。


 彼が発した言葉があまりにも恐ろしすぎて、一瞬リルドの服の裾を掴んでしまった。


「ですが、恐らく彼はあの時から『壊れたまま』なのかもしれませんね」

「壊れたまま?」

「えぇ。執拗に抱き締めて離さないのも、昔の彼と真生くんを重ねている可能性が高いでしょう」

「確かに……」


 一連の彼の動きを見ると、彼もまた、誰にも言えない程の『重たい過去』があったのかもしれない。


「もし、そうだとしたら、アイツもまた、小さい頃に……」

「ん?」

「そういや『家族』の話になると、かなりはぐらかしたり避けたりする傾向があったんだよな。もしかすると……」

「ですが、自分で自分を責めてはいけませんよ。リルド様」

「ヒガンさん……」

「そーっすよ! 人間、みんな完璧万能のチート能力みたいのを持ってないっす! それに、リルドさんはとても、頑張ってるっすよ!」

「フグトラ……」

「だから、何時でも私らに頼ってくださいな」

「そーっすよ! それに、秘密もきちんと守るっす! 情報を扱う組織として、当然の事っす!」

「リルド」

「……あ。タミコ」

「大丈夫?」

 

 ふと、心配になってしまったので、私はセレーヌを持って震える彼の右手を、両手でそっと包むように握りしめた。


「悪ぃな。行く前からこんな話をして」

「ううん。大丈夫。実は私、シイラさんのこと、『性転換したエリザベート・バートリー』だと思っていたの」

「エリザ……、はぁぁぁあ!?」

「ぶはっ! エリザベート・バートリーって! ちょっとタミコさん! 血の伯爵夫人に例えてたとか!」

「なかなか凄いところを突いて来ましたね! 彼を性転換して、殺人鬼に例えるなんて! あははははは!」

「おいおい。さっきまでのシリアスな展開が消え失せたぞ。何してくれてんだ。全く……」

「でも、似てたと思うのよね。それと、さっき話したソロモンがキメセ……、んぐっ!」


 しかし、言おうとしたら突然、左手で口を塞がれてしまったのだ。


「おい。タミコ。その話はとっくに終わってる。これ以上言うな」

「んー! んんー!」

「全く。タミコ様もなかなか反則なワードを使おうとしますね。まさかその言葉が来るとは……」

「まぁ、その四文字が一番分かりやすいっちゃ分かりやすいっすけどね」

「もう着くんじゃねーの? ソロモン」

「あ! そうでしたね。ここです!」

「えっと、ここが?」


 都心にあるツブヤキから、少し外れたラブホ街の中にあったせいか、思ったよりも時間がかかってしまった。

 しかも、車内の窓から覗くと、中規模で見た廃墟よりも、悍しさが数倍違ったのだ。


「前よりも気味悪さが跳ね上がってんな。妙に薬臭ぇ」

「やはり。その辺は噂通りですね」

「お互い、気をつけて進むっす」

「う、うん」


 私達が車を降りた途端、湿った土埃と古いカーペットが腐ったような、生ぬるい空気が鼻を突いてきたのだ。それと同時に、薬中の体から放ってそうな、独特の甘い匂いも。


 五階建てのビル。いや、もはや建物と呼ぶにはあまりにも廃れたラブホテルだ。

 それに、外壁はかつてピンク色だったが、今は色褪せ、雨垂れの跡だけが黒く筋を引いている。

 屋上に掲げられていた『ホテル ソロモン』の看板は半分落ちかけ、ネオン管はバキバキに割れ、辛うじて残った一部がチカッ。チカッ。と不気味に瞬いている。


 窓ガラスはほとんど割れており、風が吹くたびに破片がカラン、と乾いた音を立てていた。

 建物全体が、まるで『何かがまだ中に潜んでいるダンジョン』みたいで、妙な生温かさを放っている。


「さて、行きましょうか」

「何だか、お化けが出てきそうで不気味っす」

「あ。先に行っててくれ」

「リルド?」


 すると、彼は近くにあった古びた自販機でお茶を買うと、先程手に持っていたセレーヌを、お茶と共に流し込んでいたのだ。


「……ふぅ」


 そういえば、中規模アジトで危うく改良版に手を出しかけたんだ! て、彼が説教混じりで言っていたのを思い出した。


「あれ?」


 ふと、駐車場を見渡すと、ヒガンさんの黒いハリアーの他に、見慣れた白い乗用車を見かけたのだ。


「どうした? 白い乗用車なんか見つめて」

「ん? どうしたっすか? 何か……」

「あれ? どうしましたか? タミコ様」


 すると、私が止まったと同時に、三人も足を止め、突然聞いてきたのだ。


「あー……」


 なので、私は戸惑いながらもこう答えてしまった。


「あの白い車、シイラさんが運転していた車と同じだなぁ。って」

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