カラマリアが誕生したきっかけは、単なる『人助け』でした。
「は? それ、本当か?」
リルドは見たことの無い程の顔面蒼白だったが、彼はコクリと静かに頷くと、『ダカラ、オレモ、協力スル』と一言言い残していた。
何が何だか分からなかったけど、タミコと言っていた事から、鰒川もまた、私を狙っている。という事を言いたかったのだろう。
ごめんね。ナイトさん。
日本人はニュアンスからも何を言っているのか、微かだけど分かるんだ。隠したくて敢えてルーマニア語で伝えていたと思うが。
「Salute 美々子!」
「ふぇえ!?」
しかし、彼は先程の真剣な眼差しとは程遠い程のニッコニコ笑顔を、顔が真っ赤になったメンコさんに向けると、こう言っていたのだ。
「ソノ髪色、トテモ似合ウ。面接終ワッタラ、マタ、ココ二来ル」
「あ。ええ!? あ、うん」
「La revedere!」
そして、ルーマニア語で言い残すと、彼は軽く手を振ってマスターの元へと行ってしまったのだ。
「アイツ、19年も見ないうちに、人たらしになりやがって」
「あはは……」
隣にいたリルドは、呆れ気味に溜息をつきながら、レモネードを軽く飲んでいた。
「あわわわ! どうしましょう! 創造神様の顔がぁぁ!」
「はわわわわわ!」
「メンコ様ぁぁ!」
一方、三姉妹は突然の出来事に、かなり大慌していたのだ。そりゃぁ、面接終わったらまた来るって言われたら、腐の話どころじゃ無くなるか。
「どうしよう……。ねぇ。タミコちゃぁぁん!」
しかも、彼女は何故か熱がある様な真っ赤な顔で私に助けを求めている。何なんだ、この状況は。
「ぇええええ!? どどど、どうしたんですか!? メンコさん!」
「おいおい。大丈夫かよ……」
「異性に髪色、褒められたの初めてだよ! どうしよう……」
「いやもう、堂々として良いと思いますが……」
「はぁー」
彼はというと、もう知らねぇ。と言わんばかりの表情で、レモネードをチューチュー飲んでいたのだ。
「それと、スポドリのお礼、もしかしてしてないんじゃ……」
「ぁあああああ! 確かにそうだった! ありがとう! 彼、何なら飲むかな?」
「んー……」
ふと、リルドの方をじーっと見てから、私はこう答える。
「これ、頼んでみたら良いんじゃ……」
「は? おいおい。何で俺と同じ物にするんだ!?」
「え? 双子だから、その、リルドと好みも同じじゃないかな。て」
「つまり、好みが『ダブる』とでも思ったのか?」
「そういう事」
「まぁー。一理有り得るかもなぁ。けど、全部が同じとは限らねーからな。ドッペルゲンガーじゃねぇし」
「じ、じゃあ、レモネード、頼んでみる!」
「え!? 今からですか?」
「当たり前よ。フグトラが確か、出勤してるから……」
そう言いかけた時、厨房から緑髪のフグトラさんが、店員姿でひょっこりと現れたのだ。
「おわっ!? 突然呼ばれたので来ましたけど、何があったんすか!?」
「わぁお。凄いタイミングできたね。フグトラさん」
「ほんとそれな。フグトラ。俺と同じものを一つ頼む」
「は、れれ、レモネードを、っすか?」
「あぁ。頼む」
「かか、かしこまりましたっす! 今持ってくるっす!」
すると、彼は再び厨房へと消えてしまったが、かなり珍しい。リルドがメンコさんの恋路をアシストしているなんて。
まぁ、確かに『兄弟』だから、大いに絡んでいる。と思うが……。
「さて。ふぅー……」
しかし、テーブルに突っ伏している彼女の目の前にいるエボシさんが、一つ溜息をつくと、こう話を切り出してきたのだ。
「今回、貴女達が来た目的は、改良版ネクターを無事に回収できたから、その報酬を貰いに来た。でよいか?」
「そうですね。その前に一波乱ありましたが……」
「確かにあれは、妾も予想外だったな。ミクラもギンコも未だ、心停止に近い状態であるからな」
「あは、あはは……」
確かに周囲を見渡すと、ミクラさんやギンコさんも彼女同様、テーブルに突っ伏した状態で未だに動いていない。
これが俗に言う『尊死』だろう。
「こういう事は良くあること。ですか?」
「いや。かなり珍しいな。妾も尊すぎて心停止しかけたが、かろうじて、生きておるぞ」
「そ、そうですか……」
「あぁ。それと、ドクター越智にも、感謝せねばな」
「……え? 越智さんに感謝、ですか?」
ふと、彼女の口から越智さんの名前がポロッと出たので、改めて聞いてみると、アイスコーヒーを一口飲み、こう呟いたのだ。
「あぁ。妾含めた三人は元々、ここまで生きれるか分からないほどの『難病』を抱えておってな」
「……」
「どの病院で治療しても『無理』だと匙を投げられてしまったことがあったのだよ」
「そんな……」
あんなメンコさんと明るく話している三姉妹に、そんな過去があったとは。
しかも、難病を抱えていたなんて。
そうとは全く思わなかった私は、思わず抹茶ラテをこぼしそうになっていたが、今の彼女らを見ても、健康体そのものに見えるのに。
「だけど、こうして三人共、楽しく生きていられたのは、ドクター越智が最難関の手術を三人に施し、全て完治させたからなのだよ」
「え、ええええ!?」
「まじかよ。あの人、本当にスーパードクターだったのか……」
「あぁ。だから、妾含めたカラマリアの人達は、ドクター越智に感謝しておるのだよ。忠誠を誓うほどの。な」
「……」
なるほど。越智さんの『神がかった治療』によって、三姉妹は今日まで何不自由無く、生きる事ができた。ということか。
私は静かに抹茶ラテを一口飲むと、気になった事を聞いてみる事にした。
「そういえば、カラマリアって、どんな事がきっかけで作られたのですか?」
「ほぉー。かなり核心ついた事を言ってくるとは。そうだな。妾が知ってる限りの事を話そう」
「ありがとう、ございます」
「構わん。創造神様の乙女チックなところが見れただけでも、妾はご満悦なのでな。ははは!」
「ははは……」
彼女は満足気に笑いながら軽くアイスコーヒーを飲むと、早速語り始めたのだ。
「そうだな。ドクター越智は、困った人が居たら放っておけない『律儀な方』でな。それが闇組織の人間だろうと関係なく、自分の救える範囲で助けていたのだよ」
「なるほど……」
そういえば、越智さんところの息子の龍樹君もまた、困ってる人がいたら放っておけない性格だった様な。
だから、監禁されていたミオ君を助けていた訳だが……。
「そしたら、ドクター越智に忠誠を誓う者が沢山現れてな。中には『神格化』して感謝する者までも現れたのだよ」
「まじか。まるでどっかの宗教団体の教祖みてぇな言われ様だな」
「あはは。本人は単に人を助けた『だけ』なのにな。そして、暗部の人間も助けていたものだから、今度はそいつらを雇う場所も必要になってきてな」
「それがまさか……」
「そう。カラマリアの誕生だ。そして、ドクター越智は、『スーパードクター』と『闇医者』という、『二つの仮面』を被る事により、表裏の世界にいる人間全てを幸せにしようとしているのだよ」
「なるほど……」
私から見たら、かなりスケールがでかい話に聞こえてくるが、実際にやってのけているのが越智さん。というわけか。
彼女らの話を聞きながらも、抹茶オレを軽く飲んだ。
「それさ、思ったけどよ……」
「どうしたの? リルド」
「あー。さっき言ったこの状況よ、ベローエからしたら、『神が二人もいらない』て言いそうだよな。て」
「確かに、今回、薬でイカれた奴らを、わざとドクター越智がいる病院に、集中的に搬送させたりしていたのも、それが狙いだ」
「何だそれ……」
「ぇえええ!? ゴホッ! ごほ!」
まさか、医療崩壊を狙っていた訳!?
恐ろしすぎるんだけど!
驚きのあまり、気管に入ってむせてしまったが、何とかグラスを白いコースターがある場所へと戻した。
「恐らくドクター越智を過労死させ、妾の上司が大切にしている『真生くん』を奪おうとしているのだ。上司からしたらそんな魂胆なんて、とっくに見えているがな」
「確かにアイツなら、そこまで見てるかもな。オマケにドクター越智もまた、似たような事を言ってた様な……」
「越智さんの場合は既に『確定』みたいな感じで言ってたものね。『ドラックルームスープ』には、鰒川家が大きく関わってる。って」
「流石ですわね。ドクター越智。あの時点でそこまで、考えていたとは……」
「はぁぁぁ~。心停止していましたわぁ~。エボシお姉さまぁ~」
そして、彼女がアイスコーヒーを一口飲んだ後、隣にいたミクラさんが、やっと正気を取り戻したかの様に起き上がってきたのだ。
「やっと起きたのね。ミクラ。無事に生還できて良かったわ」
「生還って……」
色々ツッコミどころが多いのだが、これ以上言うのを疲れた私は気を紛らわすように、抹茶オレを一口、体内へと流し込んだ。
「それにしてもぉ~。今回の事件はぁ、かなり酷い状況ですよねぇ~」
「だな。妾も思うぞ」
「うんうん!」
「……はっ! 心停止しかけてましたが、無事に生還できました! お姉様ぁぁ!」
「おぉ。ギンコも正気を取り戻したようだな」
「ですね。それと……」
「あぁ。これの事だな」
すると、彼女は自身の膝上に置かれたバックから三種類の薬を取り出し、私に渡してきたのだ。
「これがドクター越智からの……」
「そうだ。くれぐれも『三種類一気飲み』をしないようにな」
「は、はぁ……」
しかし、彼女は意味ありげに警告をしてきたのだ。
なんでだろう。そういえば真生くんも『三種類一気に飲まなければ大丈夫だ』とか言ってた様な……。でも引っかかるなぁ。
「……はっ!」
「やっと目が覚めたか。創造神様よ」
「あぁ。ごめんね。色々と起こりすぎて、頭の中でパニクってたよ」
「おいおい。アイツはただ、報告しに来ただけなのに、何だその気絶具合は」
私の隣にいたリルドはというと、レモネードを飲みながらも、呆れ気味に言葉を漏らしていた。
でもこの現状、貴方のお兄さんが引き起こした事なのよ。他人事みたいに言っているけど。
「何を言っているんだ。貴様は」
「は、はぁぁ!?」
「君の兄君が、この状況を作ったのだろう。弟である君も責任があるだろう?」
「はぁぁぁ……。そんなの聞いてねぇし! ったく……、あんのバカ野郎!」
「あはは……」
彼は拗ねながらも文句を言っていたけど、私が言いたかった事を、彼女が熱く代弁してくれたから良いとするか。
なので、隣で軽く笑いながら、抹茶オレを飲み干した。
「さて、この辺でお開きとするか。ミクラ。ギンコ」
「はぁ~い! エボシお姉様ぁ~」
「はい! お姉様! それでは私はこれにて!」
「あー。ごめんね今日は。アタシがこんな状態で……」
そして、三姉妹は席を立つが、その中の一人、ギンコさんが突然、思い立ったかのように、こんな事を言い始めたのだ。
「いいんですよ! それにしても、ナイトさんでしたっけ? メンコ様とお似合いじゃないですか!」
「は、はぁぁぁあ!?」
「そりゃぁ。何もかもスマートに行動していて、軽く褒め言葉を言って華麗に去って行くとか。どこの恋愛漫画の一コマでしょうか!」
「それは確かにぃ。ミクラも思ってたわよぉ~!」
「ふっ。ベノム共々、創造神様の恋路を応援しておるぞ!」
「あー! もう! 三人ともぉぉ!」
「ではまたな!」
「は、はい……」
「お。またなー」
こうして、波乱を呼んだ三姉妹は軽く手を振ってツブヤキを後にしたが、嵐が過ぎた後の静けさの様で、暫くは呆然としていた。
「さて。先にサーフェスに帰っていいわよ」
「え!? メンコさん!?」
「ちょっと。ね。その、二人だけで話したい事があるから……」
「なるほどな。俺らは『お邪魔虫』てか」
「いや! そういう意味じゃないのよ! なんて言うか……」
「もっと、彼を知りたくなった。って事ですよね?」
「タミコちゃん……」
まぁ。察してはいたけど、これで私の方も計画の準備は出来たから良いかな。後は決行の夜を待つだけ。
「良いと思います。リルド。サーフェスに戻るよ」
「あぁ。もしかしたら、グソクから何か、新着な情報が入ってるかもしれねぇしな」
「そう。だね。先に行ってますね」
「うん。でも、気をつけてね」
「あぁ。鰒川の連中にはバレねぇ様に動くから安心しろ。タミコはその……、俺が守るから」
「……は?」
「ぶはっ! ちょっとオレンジジュースが変なところに入っちゃったじゃないの!」
「ま。アイツのレモネード分の会計はやっとくから、気にせずに会話しろよな。その、ナイトとな!」
「はいよ。とりま、気をつけて帰ってね!」
「あぁ。タミコ、行くぞ」
「あ。う、うん」
そして、彼に連れられるがまま、私らもツブヤキを後にしたが、さっきの『俺は守るから』って何よ!
しれっとナイトさんみたいな事を、口にしてんじゃないよ! 全く……。
「さて……」
――ブーッ。ブーッ
ふと、私の水玉パーカーのポケットに入ってたスマホから、何故かバイブが鳴ったのだ。
「何だ? 俺もだ」
彼もまた、パーカーのポケットからバイブが鳴ったので、私達は同時にスマホを起動し、通知を確認する。
「グソクさんからだ」
「しかも、ビデオ通話だ。珍しいな」
「確かに。何があったのだろう……」
すると、彼からビデオ通話の応答が来たので、素直に応じると、彼が慌てた顔で息を切らしながらこう言っていた。
『あぁあああ! たたた、大変なことになりましたぞ! タミコ氏! リルド氏! メンコ氏!』
「ど、どうしたのですか!? そんなに慌てて……」
『突然のビデオ通話って何事? 人待ってるから、簡潔に話せる?』
「まじか。何があったんだ。グソクさん」
『わわわ、分かりましたぞ! では、簡潔に言いますとな……』
店内にいた彼女は、かなり冷静な声で話していたが、彼は顔面蒼白な顔で、一言、報告するかのように、言葉を吐いたのだ。
『アオハトのDMに『ぼくを助けて』と通知が入りまして、詳しく聞いたところ、その差出人が『真生くん』だったのですよ!』




