イメチェン後、混沌(カヲス)な展開が起きました。
「あらま。どうしたのかしら?」
「はっ!」
ふと、私は考え過ぎてしまったせいか、オカマ店長に心配されてしまったのだ。
「あ。いや。別に……」
「まま。ここは『海横一の凄腕美容師がいる』だなんて噂があるぐらいだから、若い子と言っても、沢山いるわよー」
「ま。そうですよね。あはは……」
「それに、『同性のカップル』もよく訪れる訳でね……」
「へ、へぇ……」
だけど、この店長、色々と喋りすぎではないか?
雑談に花が咲くのはいいのかもしれないが、『若い子』とか『同性カップル』とか。
そんなワードが出てくる度に、何故かあの『地雷カップル』が、頭の中をチラつくのですが……。
「あっ! そうそう! この前来た同性カップルさんなんか、どっちも『美形』だったのよー!」
「うぇ!?」
ちょっと待って!?
思わぬ情報に一瞬、変な声を出しながらカタログを捲るページを止めてしまったが、まさか、シイラさん達も、ここによく来ているって事!?
いや。考え過ぎだ。うん。
「それでねー、その片方の子がね『ドラマを見てハマってしまったから、流行りの髪色を入れてみたい』と言ってたの!」
「は、はぁ……」
「それもつい昨日辺りの話よー! あとね!」
「は、はい……」
それにしてもこの店長、テキパキとやりこなしながらも雑談をしているのよね。手は動かしたままでも話が途切れないのは凄すぎるって。
でも、次はどんな話が来るのだろうか。かなり身構えていたが、この店長、何か知ってそう。
「あのメンコちゃんが、髪色を黒にする。と言ってきた時は驚いちゃったわよー」
「え!?」
「実は彼女、ここに何度か来てる常連さんなんだけど、幾ら流行りの色をおすすめしても『アタシはこの髪色が良いんだ』と言ってね。頑なに変えようとしなかったのよ!」
「そうだったんですか……」
そういえば確か、従来のオレンジ髪は『親友のアンナ』の事を忘れないようにするため。て言っていた様な。
「きっと、彼女にも何か、心の変化があったのよね。緑色を入れたいだなんて。もしかして、『好きな人が出来た』のかしら!」
「あはは……」
流石、店長だなぁ。
色んな人を見てきたせいか、何でも『お見通し』ていう感じがする。
「でも、敢えて黒をベースにして、メッシュを『二色』も入れるなんてねー。タミコちゃんもお試しに、メッシュ入れてみるぅ?」
「ええっ!? あ。今は……、入れなくても、いいです」
「今は?」
「はい。また、来た際にお願いするかも。ですね」
「なるほどね。分かったわよー。その時までに、沢山『雑談のネタ』を仕入れておくわねー」
「あはは……」
だけど、話していて、とても楽しい人だ。
また何かの機会があったなら、染めに来ようかな。今度はメッシュも入れてみて。ね。
「よし! できたわよ!」
ふと、色々と考え事も含め、オカマ店長と会話をしていたら、いつの間にか、カラーリングや洗髪を含めた全ての工程が終わっていたのだ。
「おわぁ。これ……」
赤みがかかったブラウン色になった自分の髪色を見るなり、艶が入っていたせいか、思わず鏡を二度見した。
これが、今の自分、なのか。
黒とピンクの水玉柄が付いた半袖パーカーに映える様に、綺麗になった髪を見て、何度も自分の髪を触って梳かしていく。
「驚いた様ね! お気に召した様でなによりだわぁー!」
「す、凄いですね! 何度も触ってしまうぐらいに綺麗で……」
「まぁ。貴女はベースも綺麗だからねぇ。お陰様でやりがいがあったわぁ!」
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえー。また、『雑談のネタ』を増やしておくから、何時でも来て頂戴!」
「は、はい!」
こうして、カラーリングも終えた私は、メンコさんが待つ待合室へ戻ると、私を見るや、驚いた顔をしていたのだ。
「えっと、どう、ですか?」
「おわぁぁ! タミコちゃん、赤みがかかったブラウン色じゃない! とーっても似合ってる!」
「えっ!? そう、ですか!?」
「うんうん! もしかして、『リルド』を意識して?」
「あーー! それはその……」
「あら、まぁぁ! タミコちゃんも、メンコちゃんも、『恋』をしていたのね! うふふぅ!」
「えっ!? ちょっと店長! アタシは『恋をしている』だなんて、一言も言ってないんだけど!?」
「何を言ってるのよ! 今まで頑なに髪色を変えなかった人が、突然変えたいって言ってきたら、普通『何かあった』て思うでしょぉ!」
「あ。えーっと。お会計はアタシがまとめて払うからぁ……」
「ふふふっ! ほら! メンコちゃんは図星な事があると、すーぐ話を変えるんだからぁ! 今度、教えなさいよ! どんな人に思いを寄せているのか!」
「それは、幾ら仲良い店長さんでも、プライバシーにあたるので、遠慮しまぁ~す!」
「あはは……」
そして、彼女は笑顔でさらりと断りながらも、スマホのバーコード決済で支払いを終わらせると、私と共にリルドが待つ黒い軽自動車へと向かったのだ。
「ったく。おっせーぞお前ら」
「だってしょーがないでしょ! アタシとタミコちゃん、『イメチェン』したんだもん!」
「はぁ!? イメチェっ……」
すると、私の顔を見るや、彼は何故かフリーズしてしまったのだ。
「ど、どうしたの!?」
「あ。いや。その髪色、少し、赤い茶色なんだな。て思ってて……」
「ん?」
「あ。その。『似合ってる』って言いたかった、だけ」
「あ。そ、そう……」
だけど、彼は私から視線を逸らしながら、言葉の歯切れが悪かった。しかも顔は何故か真っ赤になっているし。
「ちょっと待って! 何その感想! まーじウケんだけど! アハハハ!」
「んなっ! メンコテメー!」
「やっぱり、リルドはタミコちゃんを見ると、すーぐこうなるんだからぁ! イヒヒヒ!」
「ったく。後で覚えてろよ!」
「あは、あはは……」
そのせいか案の定、不敵な笑い方をするメンコさんに茶化されていたが、私はこのやり取りを見る度に、ここにいて良かったなぁ。て思っている。
でも、仮にこの居場所が、外部から奪われたり、潰されたりしたらと思うと、怒りでどうにかなりそうなのも、本当だ。
それに、今回の件で、みんなに多大な心配をかけてしまった。もし、攫った人がナイトさんではなく、鰒川の息がかかった人だったら。と思うと、ゾッとしてしまう。
「さて。ツブヤキに着いたよー」
「おー。フグトラいるか?」
「分かんないけど……」
考え事をしているうちに、ツブヤキに着いた私達は、慣れた手つきで扉の取っ手に手をかけ、開けてみる。
――カラン。カラン。
「いらっしゃいませ」
すると、白髪混じりの中年、マスターがお出迎えをしてくれたのだ。それにしても、相変わらず覇気があるよね。
裏社会特有の圧がある。っというか……。
「あの……」
「やっほー! マスター」
すると、私の話を遮るかのように、彼女が元気よく、マスターに声をかけていたのだ。
「おー! メンコさんでしたか! 髪色が変わってて分かりませんでしたよ!」
「あはは! ちょっとした『イメチェン』よ!」
「イメチェンでしたか。とても似合っておりますよ」
「それは嬉しいなぁ。何十年ぶりか、黒に戻したからね」
「そうそう。ちなみに、貴女専用の席に、お客様がいらっしゃっております」
「おっ! 来てたんだ。ありがとう!」
「えっと……」
この時点で、色々と聞きたいことがあったのだが、メンコさん、まさか『自分専用の席』を持っていたとは。
「ささ! 二人ともこっち!」
「あ。おい!」
「とりま、メンコさんの後をついて行こう。何かありそう」
「あ、あぁ……」
なので、渋々ついていくと……。
「あぁ。堪んないですわぁ! この壁ドンをしている攻めのシチュエーション! 相変わらず妾のツボを刺激していくのよ!」
「分かるわぁ~! ミクラもぉ、壁ドンされた受けが焦ってるけどぉ、実は受けが誘ってる。という感じがぁ~。もぅたまらないわぁ~!」
「ですが、突然、何かの拍子に、攻めと受けが入れ替わるのも良いですね! リバさいこぉー!」
「つまり、創造神様が作る薔薇本は、どれもハズレが無いって事ですわぁ!」
『わかるぅ~!!』
「ええっと……」
圧倒的な腐のオーラを醸し出しながらも、メンコさんが書いたと思われる薔薇本片手に語りまくっている、ベノムの三姉妹がいたのだ。
ラボで出逢った白衣姿とは違って、私服姿だが、三姉妹共にお洒落な格好をしていた。
エボシさんは上品めなシンプルコーデで、ミクラさんはふわ甘な膝上ワンピース。ギンコさんはカジュアルだが、爽やかな雰囲気を醸し出していて、『腐女子』だと除けば、至って普通な女性に見える。
「おい。タミコ」
「え!?」
「俺、離脱していいか?」
「ダメ。離脱するなら私も」
「だって、4対2じゃ割に合わねーからよ」
「それ、分かる」
でも、ラボに行った時は、これよりも、色んな意味でもっと酷かったけど、今回はリルドもいる。かなり安心するなぁ。うん。
「何言ってんのよ。2人共。報酬を貰いに来た訳でしょ?」
「えっ!? えっとぉー……」
「ていうか、ぜってー、報酬以外に用件があるだろこれ」
「有り得る」
なので、渋々空いてる席に座ると、マスターが「ご注文はどれに致しますか?」と聞かれたので、私、リルド、メンコさんはいつもの。と答えていた。
私やメンコさんは何となくわかるけど、リルドは何を頼んだのだろう。密かに彼の半袖黒パーカーの裾を軽く掴んでみるが、全く気が付いてない。
「おやぁ? もしかして、タミコさんですかぁ!?」
「ぎ、ギンコさん!?」
すると、ギンコさんが、赤縁メガネで銀髪を揺らしながら、私の方をガン見してきたのだ。
「あらまぁ~。タミコちゃん、イケメンな彼氏さんなんか連れてきちゃってぇ~。もしかして、上司が言っていた、リルド。ていうお友達かしらぁ?」
「ミクラさんもお久しぶりで……、ええっ!? かか、彼氏!?」
「は? 上司?」
私は驚きのあまり、顔を真っ赤にしてしまったが、彼は何故かピンと来ないようなきょとんとした顔をしている。
「あー。恐らく、妾達の上司 シイラ様のことですわ」
「は!? アイツが上司って事は……」
「あー。ごめんね。リルド。実はこの三姉妹達、シイラさんの『部下』なのよ」
「まじか……」
すると、彼は彼女から、この思考が腐った三姉妹が部下と聞いて、かなり絶句していた。
そりゃぁ驚くよね。私も驚いたから分かる。
「そーなのですわ。それにしても、随分格好良い人ですわね。傷もアクセントみたいに見えますし。薔薇本の表紙に飾っても悪くないですわ!」
「あはは。実はこの彼に『大いに』関係している訳で……」
「ふーん……。まさか、こんなメンツばっか集めた状態で、『ナイト』の事を知りたいってか?」
だけど、彼は少し考えた後、核心めいた事を口にし始めたのだ。
「うぎゃっ!? ちょっとリルド! 何を突然!」
「えっ!? それ、どういう意味よ! まさか創造神様に猛アタックしてきた人って……」
「はぁ。なるほど」
私はため息混じりで呟いたが。そうか。そういう事ね。この時、全てを察してしまった。
「そうですね。実はメンコさん、この彼、リルドの『双子の兄』に告白されたらしいのですよ」
『ななな! なんですとぉ!?』
「ちょっ! タミコちゃん!?」
なので、彼女らに真相を言ったら、三人とメンコさんは大声で驚いていたのだ。
「それ、本当ですの!? 創造神様!」
「あー……。ええっと……」
「もしかして、彼の『双子の兄』さんから、壁ドンされたり、『貴女は野に咲く薔薇のように美しい』て口説かれたり、スポドリ差し出されたり、好きですって告白されたって事ですか!?」
「あぁ……」
「……」
しかも、出るわ出るわ。ギンコさんの口から中規模アジトで起きたカヲスな出来事が。
だけど、何となくメンコさんの気持ちがわかる気がする。
私もそんな、レディファーストみたいな紳士的な行動をされたり、口説かれたりしたら、流石に乙女になっちゃうって。内心、戦闘どころじゃ無かったのだろう。
「でも、三姉妹達は何で、ラボで真生くんといたはずなのに、メンコの事、そんなにも知っているんだ?」
「確かに……」
かなり疑問に思っていたけど、何で?
まさか、メンコさん、わざわざ三姉妹に……。
「あー。それに関しては、創造神様から直々に相談があってな」
「やっぱり」
「エボシぃぃ! それはダメだってぇぇ!」
「けど、事実だろう? 妾にわざわざ『野に咲く薔薇ってどういう意味?』て、ライムで聞いてきて……」
「ぇぇええええ!?」
彼女は顔を真っ赤にしながらも、必死に否定していたが、まさかの事実に戸惑いが隠せなかった。
確かにエボシさんは植物に詳しいけど、突然そんな通知が来たら、かなり驚くって。
「いやあぁぁぁ~! あのやり取りはほんっと、聞いてるだけで、心停止しちゃいそうでしたわねぇ~! ギンコ!」
「ほんっとですよ! あれから三人共、尊過ぎて心停止しちゃいましたから! ねぇ! エボシ姉さん!」
「そうですわ。妾の心臓も、何個停止したことやら……」
「えええ……」
だけど、この三人の相変わらずの混沌っぷりには笑ってしまうなぁ。
呆れ気味に笑っていたが、シイラさん達もこんな部下が居て大変そうだ。いや。彼は部下が居たとしても、お構い無しか。
「あー。そういえば、あれから帰ってきた後、メンコさんの左手の甲にIDらしき……」
「あああ、IDですとぉぉ!?」
「あーー! もう! タミコちゃん! それ以上言ったらぁ!」
「お待たせしました。こちら、オレンジジュースとレモネード、抹茶オレです」
すると、タイミング良く、マスターが飲み物を持ってきてくれたのだ。
私がよく飲む抹茶オレに、メンコさんが飲むオレンジジュース。もう片方は薄く切られたレモンの輪切りが、薄黄色い飲み物の中に入っており、見た目は爽やかそうだ。
「あっ! マスター! ありがとう! って、リルド、レモネードなんて飲むの?」
「あぁ。どうもこの時期になると、無性に飲みたくなるんだよな。しかも、ガキの頃から」
「へぇ……」
――カラン。カラン。
すると、背後からドアベルの音が鳴ったのだ。誰が来たのだろうか。
「いらっしゃいま……」
「コンニチハ。エト……」
「あぁ。面接希望の方ですね。ヒガンから伺っております。では、こちらへ……」
「ア。アリガトウ、ゴザイマス」
「!?」
背後から聞き慣れた声がしたので、私とリルドは思わず振り向くと……。
「なな、ナイトさん!?」
「おまっ! なんだその格好!?」
「オォ! Salut ルーク!」
何故か上下黒いスーツ姿のナイトさんが、手を振りながらこちらに向けて、笑顔で挨拶してきたのだ。
「はぁ。人前で俺の本名を言うのはやめてくれ。すげー恥ずかしいんだが……」
「何デダ? 本名イウ、恥ズカシイ、ノカ?」
「いや。そうじゃねーよ。ええっと……」
しかし、見た目も瓜二つの二人が並ぶと、本当に驚くほど、そっくりだ。
だけど、戸惑うリルド。いや、ルークと、不思議そうに首を傾げるナイトさんの二人が、何だか可愛く見えてしまう。
「はぁぁ。もう無理。どうしよう。恥ずかしいんだけど……」
一方、メンコさんはテーブルに突っ伏したまま、動けない状態になっていた。
「ふぁっ!? そそそ、創造神様ァ! 大丈夫ですかぁぁ!? 気を確かに!」
「わぁ! 確かにそっくりですが、何なんですか! スーツ姿の彼から発する神々しいイケメンオーラは!」
「黒い眼帯に黒いスーツ姿なんてぇ~! 堪んないわぁ~!」
近くにいた三姉妹もまた、かなり騒がしい状態になっていたが、二人並んだだけでも見た目は勿論、中身も恐ろしい程の破壊力だ。
……ごめん。リルド。
今回ばかりは三姉妹と一緒になって、心拍数が上がりそうだ。
「あのさ、ナイト」
「ナンダ?」
「その、無事で良かった。大丈夫かと、心配だった」
「……フッ」
「んだよ! 突然鼻で笑いやがって!」
「約束ハ、守ッタ。ソウダロ?」
「まぁ。けどよ……」
「……」
「面接以外にも、何か用件があって、こっちに来たのだろ?」
「……ソウデスネ。ルーク」
「んあ?」
すると、彼は先程の陽気な雰囲気から一転し、空気がヒヤリと冷たく変わった。
真剣な眼差しでリルドを見ている。
何があったのだろうか。
私は隣で抹茶オレを一口啜りながら、静かにその様子を見守っていた。
「コノ際、言ウ」
そして、彼はポつりと一言、ルーマニア語でこう呟いていたのだ。
「Fugukawa Hijiri îl viza și pe Tamiko.」
(鰒川聖は、タミコも狙っていたから気をつけろ)




