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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラッグルームスープ編(後編)
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久しぶりの美容院は、とても明るい雰囲気でした。

「って……」


 突然の展開に戸惑いと困惑があったが、もしかして、今夜、全部が終わる。と言うのか。


 5日の依頼から数えて4日程かな。あっという間だったけど、とても長く感じた。


「まぁ、三人とも色々あったが、もうそろそろ終わりが近づいて来てっからな。油断せずに気を引き締めろ。いいな?」

「あぁ。分かった」

「師匠。了解した!」

「ゴエモンさん。分かりました。それと、場所はどこなんですか?」

「あぁ。タミコ。そうだったな」


 すると、彼は思い出したかのように電子タバコを軽く吹かすと、こう発言したのだ。


「場所は、『ラブホ街にある廃墟ビル』に、アイツらの本拠地があるらしい」

「はぁ!? また廃墟ビルかよ! 階段登るのめんどくせぇ。エレベーターはねーのか?」


 リルドはと言うと、駄々をこねる子供のように、ブーブーと文句を垂れていた。


「廃墟なんだから、あっても壊れてて使いモンになんねぇぞ。ていうか、文句は敵に言え! 敵に!」

「はいよ。ぶん殴る練習してくる」

「ったく……」


 そのせいか、直ぐにゴエモンさんに(たしな)められていたが、彼は口でそう言いながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。


「だけどアイツら、建物に入るのほんっと好きよね。中規模の時も、溜まり場近くの雑居ビルだったし!」


 彼女もまた、呆れ気味に言っていたが、本当に今回の敵さん、高い建物にいるのが好きだよね。セミかよ。


「ラブホ街……」


 そういえば、小規模にいた奴らが言っていた様な。『ラブホ街にいる連中は』て。


 だけど、いつ聞いても胸糞悪い。

 薬を餌にして女の子を釣って、食い散らかす。まるで死肉に引き寄せられた、ハイエナやハゲタカの様で嫌だ。


「ま。そういう事だから、お前ら気をつけろよ」

「おー」

「アタシも。三姉妹に会って、報酬を貰わないと!」

「おい。もしかして、あの時の箱の中身、分かったのか?」


 すると、リルドは彼女に訊いていたが、中身は何だったのだろう。前にレンタルルームで開けた時は『錠剤版ゾンビタバコ』だったよね。


 その通りにいくと、また物騒な何かが入ってそうで……。


「そうなのよ! あれから真生くんに開けてもらったら、案の定、『改良版ネクター』のレシピと本物が出てきた。て、三姉妹がライムで報告して来たのよ」

「そうだったんですか!」


 攫われている間、ちゃんと越智さんから頼まれた依頼をこなしていたんだ。

 私は隣にいたせいか、細かい内容が気になってしまったので、更に耳を傾けることにした。


「そうなのよ。しっかも、あの改良版ネクター、分析したらね、MDMAと全く同じ成分で作られていた事が分かったわけよ」

「うわぁ。まじかよ」

「それって……」


 単なる鎮痛剤が、いつの間にか合成麻薬になっていた。て事よね。

 つまり、あの時の龍樹君やリルド、危うく違法薬物に手を出す所だったんだ。


 うーわっ。怖っ!

 かなり身近に危険が潜んでいたと思うと、恐ろしさのあまり、言葉が出ない。


「まぁ、お前ら。敵側が変な薬を持っていたとしても、ビビらずに行け! 分かったか?」

「はい!」

「おぉ」

「分かったよー! 師匠!」

「ったく。メンコ! 師匠呼びはやめろってあれほど……」


 そして、それぞれ返事した私達は各自、夜の任務へ向け、準備を進めていた。


「まずは……」


 私はスマホを開くと、メモアプリに秘密の計画を書き込んでみる。



 鰒川 (ヒジリ)の制裁方法。何がいいんだ? 安直に暴力行為では、相手は絶対に反省しないし、こちらの首を絞めかねない。


 相手は薬で思考回路が狂った『指名手配犯』だ。普通の正攻法なんて、通用しないのは目に見えている。


「あ。そうだ!」


 ふと、一番初めにリルドが言っていた言葉が、脳裏を過ぎった。



――ま。そういう非道な奴には殺しなんて、生温いと思うがな。



 本当にそう。

 まるで温くなったスープみたいで、不味そうだから、もっと『加熱』しとかないと。

 そのためにも、相手の『地位』や『信用』を失わせる『(トラップ)』が必要になる。


 これ、もしかして使えるかな?

 私はおもむろにパーカーのポケットに入れていた『龍樹君のスマートフォン』を取り出し、キズが無いか確認をする。


 うん。普通の黒い端末だ。何ならボイレコ用で、もう一台あれば良さそう。スマホを複数持って、それぞれ用途によって使い分ける。ってね。


 それと、精神的に『ぶっ壊せ』ば良いのよね。直接手を下すのではなくて、相手の弱点を突いて、地獄に落とすの。


 だけど、鰒川の弱点って何だろう。誰に聞けばいい?


 今の所、唯一接触したことがあるナイトさんと、その息子の……。いや。シイラさんが意図的に、彼の前で(ヒジリ)の話をしないように避けているのだから、やめた方が良いか。



――あぁ。それと、依頼人も余程の事でない限りは、流石に殺しなんて希望してないだろうな。



 そういえば、メンコさんも言っていた。

 殺しではなくて、『社会的制裁』を望んでいる。と。

 それに、私もクズ一人を殺してまで、人生を棒に振って刑務所には行きたくないのが本音だ。



――情報を集め、身分がない状態を上手く利用して、制裁をすればいい。



 まぁ、馬鹿と鋏は使いよう。この『今の状態』を美味しく、新鮮な所だけ、摘んで使い潰せばいいのよね。


「さてと……」


 夜の準備に向けて、私は動きだす。


「メンコさん」

「お? どーした? タミコちゃん」


 まず始めに三姉妹と接触するため、メンコさんに声をかけてみることにした。


「私も、一緒に連れてって貰えますか?」

「お? 三姉妹のところに?」

「はい。例の『薬』が欲しいので……」

「なるほど。そういえばドクター越智の報酬であったもんね。『ドーピング薬、使い放題』ってね!」

「はい」

「いいよ。ついて来て!」

「は。えぇっ!?」


 すると、彼女は笑顔で私の手を引き、颯爽と事務室を後にしたのだ。


 あの時は正気の沙汰じゃない。と思っていたけど、今思うと、有難い報酬よね。

 上手く使えば三姉妹にとっては、データが取れる『被検体』にもなる。だから、そう考えると、悪用の余地がありそう。


「そ・れ・に、ちょっと相談したいこともあったからねー」

「そそ、相談ですか!?」

「そーよぉ。あ。リルドも!」

「はぁぁ!? 何で俺まで!?」

「あんたにも『関わってる』事だからぁ! お願いぃぃ!」

「んだよそれ!」

「あはは……」


 これは絶対『ナイト』さんのことだ。

 しかも、リルドまで巻き込むなんて、本当にメンコさん、面白いなぁ。

 ま。そんなサーフェスのみんなが好きだから、いいけどね。


 なので、私とリルドは、強引に彼女の車の中に押し込まれる形で後部座席へと座る事になった。

 彼女はというと、運転席の近くにあるエンジンキーに鍵を刺し、エンジン音を吹かしている。


「実はさ……」


 すると、彼女は徐にワンピースのポケットから、オレンジ色のスマートフォンを取り出すと、ある写真を見せてきたのだ。


「これって……」


 写真には16歳ぐらいの歳の女の子二人が、楽しげに親指と人差し指を交差させ、小さなハートを作っていたのだ。

 右側の子は黒髪のセミロングヘアーで、黒いTシャツにデニムパンツを着用していた。

 一方、左側の子は、オレンジ髪のショートヘアで、白いTシャツに短めのデニム短パン。普段のメンコさんの格好とほぼ似ていたのだ。


「実は左側の子がアンナで、右側が、『アタシ』なのよ」

「え、ぇぇええええ!?」


 黒髪の子がまさかのメンコさんだとは思わなかった私は、かなり大きな声で驚いてしまった。


「は? 全然雰囲気ちげーじゃねーか!」

「当たり前でしょ! もう十年以上も前の写真なんだから!」

「まぁ、そりゃぁそうだけど。これがどうした?」

「あ。いや。もうアタシもアラサーだからさ、この際、『黒髪』に戻してみようかなぁ。なーんて。あはは」

「えっと……」


 何だろう。きっと彼から『黒髪になった姿も見てみたい』なんてライムで言われたのかな。

 こういう時のメンコさんは、顔や態度に出るから、非常に分かりやすいのよ。


「もしかして、ナイトに言われたのか?」


 すると、私より早く、リルドが核心めいた事を言っていたのだ。


「ぅえええ!? ちょっと!」


 そのせいか、彼女は声が裏返りながらも慌ててハンドルを手にし、冷静を取り戻そうとしていた。


「ま。とりま、先に行きつけの美容院に行くからね!」

「あ! テメー、話逸らすな!」

「あはは……」


 だけど、こうしてやり取りを聞いていると、まるで姉弟みたいな関係に見えるのよね。

 とても微笑ましいけど、私には確か、兄弟がいた記憶が……、無い。


「おい」

「え!?」

「えっとその……」


 突然、彼が声をかけてきたが、一瞬、視線を逸らし、再び翡翠色の瞳で私を見つめるとこう言ってきたのだ。


「タミコもその、美容院、行ってくればいい」

「は? 急にどうした?」

「髪色、前より落ちてきてるだろ?」

「あ。そういえば……」


 確かに入社したての時より、髪色は焦げ茶っぽくなっているけど、唐突にどうした!?


 まさかの提案に戸惑いが隠せない。


「ま。染めるかどうかは好きにすればいいけど、俺はどっちでも良いからな」

「何を急に……」

「さて。美容院に着いたよー」

「あっ! メンコさん!」


 いつの間にか、美容院に着いた様で、私と彼女は共に降りることにした。


「俺は車の中で待ってる」

「あっそ……。じゃ、待っててね」

「おー。いってらー」


 そして、私は彼女と一緒にお店の中へ入ると……。


「あらぁ! いらっしゃぁーい!」


 と、店長らしき、ガタイのいい中年の男性が、オカマ口調で言ってきたのだ。


「店長さん、ちーっす!」

「おっ! メンコちゃんじゃなーい! 今日はどんな風に決めちゃうのかな?」

「そうだねー。アタシともう一人、この子もお願い出来る?」


 すると、彼女は私の背中を軽く押し、店長の目の前へと進ませたのだ。


「えっ!? わわ、私ですか!?」

「そうよ。タミコちゃんも染め直すなり、好きな髪色にしちゃえばいいんじゃない? 折角の機会よ?」

「あー。それなら……」

「なら、先にメンコちゃんの方をやっちゃうからねぇー! 待合室でカタログを見ながら、どんな色がいいか、決めちゃって!」

「あ。は。はい……」


 なので、渋々待合室にあるソファに座って待つことにした。

 だけどメンコさん、どんな風にイメチェンするのだろうか。かなり気になるけど、私はどうしようか悩んでいた。

 茶色に戻すか、『赤みがかかった茶色』にしようか。それとも敢えて、焦げ茶色にするか。


 あれ? どれも明るいか暗いかの、違いしかない。

 でも、別の色に思い切ってやろうと思っても、今の色も好きだから、あまり変えたくないのもあるし。うーん。


 私はカタログと睨めっこしながらも、メンコさんが終わるのを待っていた。


 それと、あのオレンジ髪から黒髪に戻すとなると、どのぐらいかかるんだろう。

 なんて、そんなしょーもないことを考えながらも、壁にかけられた時計を見ると、昼の12時頃となっていた。


 もう、そんな時間が経っていたのか。

 だけど、この4日間は、色々ありすぎたと思う。龍樹君が倒れた事が発端で、今回の闇サイト『ドラックルームスープ』が露見された。

 そして、溜まり場の人達も薬物中毒化してしまって、海横がゾンビタウン寸前まで来ている。これが今の現状だ。


 本当なら、こんな呑気にイメチェンする暇も無いんだけど。でも半日ぐらい、こんな日があっても、いいよね?


「お待たせぇー! メンコちゃん、何色でも似合うのはいいねぇー!」

「え? ほんと!? 店長ありがとぉ〜! ねね! タミコちゃん!」


 すると、メンコさんが意気揚々と満面な笑みで私の元へ来たのだ。


「おわっ!? その髪色……」


 だけど、彼女の髪色は、全体的に黒なのだが、右サイドには、オレンジ色と緑色のメッシュが二本かかっていた。オマケに髪型も外ハネのショートヘアから、ストレートのボブヘアになっており、本当にお洒落な女性となっていたのだ。


「えへへ! ちょっと仕事がデキる感じあって、良いでしょ!」

「デキるっていうか……」

「ん?」

「かっこいい女性。って感じがします!」

「わぁ! 嬉しいなぁ! ありがと! じゃ、アタシは待合室で待ってるねー」

「は、はい!」

「そんじゃ、タミコちゃんだっけ? こっちおいでぇー」

「はい!」


 そして、オカマ店長に連れて行かれる形で、奥の部屋へと入ると、柔らかいアロマの香りがふわりと漂ってきた。何の香りだろう。甘酸っぱくて、心が休まる感じだ。


 白とグレーを基調にした内装で、都会的だけど、壁際には小さな観葉植物や雑誌が置かれていて、落ち着いた温かみもある。

 それと、鏡の前のスポットライトが、髪型を整える自分の顔だけを、静かに照らしていた。


「いい匂いでしょー」

「はい。とても爽やかな香りですね」

「そうでしょ! 夏なので、オレンジみたいな柑橘系の匂いを炊いてみたのよー」

「とても良いと思います」

「ま。そこに座って!」

「は、はい!」


 そして、私は彼に促されるがまま、茶色いスタイリングチェアに座ると、店長は背後で、こう話しかけてきたのだ。


「初めて来たのよね」

「あ。はい」

「今日は何にする?」

「えっと、毛先を整えるのと、『カラーリング』で」

「了解したわよ。何色がいいかしら」

「えーっと、最近はどんな色が流行ってますか?」

「お? 流行りの色を取り入れてみるのね!」

「はい。カタログをバーッと見ても、あまりピンと来なくて……」

「なるほど。つまり、『お任せ』でいいって事ね!」

「は、はい……」

「それなら『赤みがかかった茶色』がおすすめだわ。最近流行ってるのよー」

「え? そうなんですか!」

「そうそう! そういや前にも一人、カラーリングで来ていたお客様も、その色にしていたわ!」

「へぇ……」

「それにしても、確かに枝毛が目立つわね。もしかして、お仕事が忙しくて、大変だったでしょう?」

「そういえば、最近ケアを怠っていた様な……」

「やっぱりねぇー。髪の毛は女の命たるもの! 忙しくても、ケアは大事よ! ましてや、うる艶の髪が似合うほどのロングヘアーな訳だからねぇ。髪型はどうする?」

「えっと、あまり良いのが決まらなくて。このままで」


 だけど何だろう。店長が屈託のない笑顔で話すものだから、あまり警戒しなくて良くて、話してて楽しく感じる。

 しかも、慣れた手つきで私の髪を軽く触っては、雑談を交えながらも、的確にアドバイスをしていたから、かなりの凄腕なのかもしれない。


「わかったわよ! 今からやっちゃうから、目の前にあるカタログを読みながら待ってなさいな!」

「は、はい!」


 なので、私は新たな髪色ができるまでの間、カタログ『ゴスロリ特集』を読んで待つことにした。

 それにしても、もう一人同じ髪色にしたお客様って誰だろう。

 あと、その特集の中には『ゴスロリ ラブズナトアレ』という、呪文めいた様なタイトル名のドラマの事が書かれていたのだ。


 あらすじを軽く読むと、こんな感じだ。

 とある赤茶の髪色をした主人公の女性が、最愛の婚約者を敵に殺されてしまい、復讐の鬼と化してしまった。そして、様々な方法で悪者を制裁していくお話らしい。


 何だか面白そうなドラマだから、今度、ネットで調べてみようかな。だけど、ラブズナトアレってどういう意味だろう。


「ええっと……」

「どうしたのかしら?」

「同じカラーリングにしたっていうお客様って、どんな子でしたか?」

「あらまぁ。プライバシーがあるから深くは言えないけども、参考がてらに話すわね」

「え!? あ、はい……」


 だけど、彼は慣れた手つきでカラー剤を、私の髪に塗りながら、こう答えてきたのだ。


「そうねぇ。最近、このゴスロリのドラマの影響かもしれないけど、タミコちゃんより『若い子』にも、赤茶のカラーリングが流行っているのよ!」

「そ、そうなんですか……」


 私は戸惑いながらもカタログを捲るページを止めなかったが、誰だろう。『私よりも若い子』かぁ。


 その言葉が、何故か胸の奥に引っかかっていた。

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