標的に無事、制裁をすることが出来ました。
「い、いい、いつからここに居たの!?」
私は困惑しながらも尋ねた。
まぁ。それはそうだ。彼は私達と単独行動をしていたはずだ。それなのに、もう私の目の前にいるなんて。瞬間移動でも何かしたのだろうか。
「あ。ついさっき来たところだ。実は、あの外道の事で、新たな事実が分かったのでな。メンコと合流しよーとしたら、戦闘中だったみたいで、軽くビビっちまったわ」
「えっ……」
「メンコがあそこまで強かったのも驚いたけど、まだ、あれで100パーセントでは無いんだよな。確か」
「は、はぁぁ!?」
すると、彼の口から衝撃的な発言が飛んだ来たので、思わず声が裏返ってしまった。あれでまだ本気じゃないってことは、メンコさん、本当に何者!?
「詳しくは知らねーけどな。ゴエモンのじーさん曰く、元々は武道やら戦闘系に通ずるすげー家系の子供らしいけど、その家系は何なのか教えてくんなかったんだよな。小僧が出しゃばるなって怒られたぐらいだし」
「へ、へぇ……」
だけど、メンコさんがその辺の一般家庭とは、何かが違うっていうのは、確かにあったけど、戦闘民族の出身だったとは。納得したと同時に、驚いて声が出ない。
「あ。それと、新たな事実っつーのは、あの外道、多額の借金をしていたらしいんだ。しかも、億単位の」
「え。えええええ!?」
しかし、外谷さんがまさか、借金をしていたとは。思わず目がまん丸くなったのだが、それにしても、リルドもリルドだ。背後からの奇襲が綺麗過ぎて、まるでゲームに出てくるアサシンみたいで、戸惑いを隠せない。
「だからかもしれねぇな。その借金を親子に擦り付けようとして、今に至るらしい」
「何それ……」
「まぁ。擦り付けて風呂落ちを狙っていただろうが、残念だったな。てところだな」
「……」
それを聞くと、ますますムカついてきた私は再び、握りこぶしを握り直していた。彼はそれを見抜いていたのか分からないが、私にこう言ってきたのだ。
「でも、安心しろ。あの外道に相応しい、最高な制裁方法を考えているからな」
「相応しい、制裁方法?」
何を考えているのか分からないけど、何かいい方法があるのかな? なので、再度聞いてみる。
「あぁ。そのためだが、メンコからのプレゼント、あるだろ?」
「あ。もしかして、『コレ』のこと?」
すると、プレゼントの事を聞かれたので、彼女から貰った、緑色のスティック包装された薬を見せた。
「あぁ。『ソレ』だ。そうだな。この近辺に、ソースをかける容器、ねーかな」
「あー……。探してみる!」
「頼むな。タミコ」
「うん!」
なので、白目を天井に向けながら、気絶している栗尾根さんを退け、彼の後ろにある扉を開けると、そこはきちんと綺麗に整備された厨房だった。主にたこ焼きや、フライドポテト等の軽食を出すのに、ここで作っているのかな。
その引き出しの中には、ちゃんと容器ごとに区別もされていた。もしかして、栗尾根さんって、かなりの几帳面?
「あ。これかな。確か、ソースをかけるための容器だけど……」
この容器で一体、何を考えているのだろうか。ひとまず、ボトル型の出口が細いタイプの空容器を1本手に入れ、彼の元へと向かう。
道中、カウンターの先には、相変わらず戦闘が続いていていたが、2、30人ほどの半グレ集団が、既に床に転がっていた。
「はぁ。はぁ。ひっさしぶりに、動いたせいか、すっごい、気持ちぃぃ!」
しかし、メンコさんは息を切らしながらも、100点満点の笑顔で、両手を天井まで伸ばして叫んだりと、戦闘狂みたいになっていた。
「あーあ。半グレ達、ご愁傷さまだなこりゃ」
「ありゃまぁ……」
そして、奥にいる外谷はというと、顔面蒼白な顔で、呆然と立ち尽くしていた。もう、彼女の暴れっぷりを見て、逃げる気力も無くなってしまったのだろうか。
「それと、例のやつ持ってきたか?」
「うん! これでいいかな?」
「おー。空容器で、上等な代物だな。これなら使える」
「それで、次は……」
「そこに、漆黒のドリンクでも作っとけばいいな。作れるか?」
「えっっと……。やってみる」
なので、言われた通り、全部のフレーバーのドリンクを少量ずつ、空容器に詰めて満タンにした。そして、仕上げに『ソレ』を通常の5倍にして蓋をし、先端を人差し指で抑えながら、両手で縦にシェイクをしたら、漆黒ジュースが出来上がった。
「うわぁ……」
完成したジュースは、生理的に飲みたくない様なドブ色になっていた。冷たいの限定でもここまでえぐい色になるんだな。と、改めて勉強になった。
まぁ、それはそうだ。
その漆黒ジュースの中身は、コーラを始め、ぶどうジュースやオレンジジュース、お茶と言ったフレーバーを、少量ずつごちゃまぜに全部入れたのだから。
「よしよし。一本貰っておくぞ」
「う、うん!」
そして、彼はそれを手にすると、真っ先に外谷の元へと歩き、猫のようにうなじ付近を摘んではこう大声で言っていた。
「おい!」
「ひゃっ! ひゃぁぁぁ!」
「借金の返済はまだか?」
「えっ!? しゃしゃしゃ、借金だなんて俺はしてねぇぞ! 何かの勘違いじゃ!」
「嘘つくんじゃねーぞ! こっちは全部調べがついてんだ! しかも、億単位の莫大な借金を、親子に擦り付けよーとしていた事もな!」
「何……、だと」
外谷は既に、世界の終わりだと言うような、絶望的な顔になっていた。
というか、莫大な借金を抱えていた様にも見えなかったが、じゃあ、このメンコさんにやられている半グレ達は、誰に雇われていたのだろう。まさか……。
「だからな、今隠し持ってるカードから、全額引き出せ! そうしたら何かしら考えてやる。いいな?」
「そ……、それは……」
「それとも、『コレ』を一気飲み出来たなら、全額ではなくて、『半額』引き出せば良いだけにしてやる。さぁ。好きな方を選べ!」
「くっ!」
しかも、彼は不敵な笑みを浮かべながら、2つ選択肢を突きつけていた。が、どれを選んでも、破滅エンドしかない選択肢だ。
「じゃ、じゃあ、これで……」
だけど、外谷はばっ。と私特製の漆黒ジュースを手に取ると、手軽に取れるインゼリーの様に、片手で漆黒ジュースを一気飲みをしていた。途中、嘔吐きながらだが。
「はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。これで半額だけ、引き出せば、解放されるんだろ?」
「まぁ……」
「あの親子からも手を引く。またお前らに、袋叩きをされたくないからな」
「分かった。さ。銀行に行こうか」
「うぐっ!」
そして、彼はリルドに首元をつままれながら、クリオネを後にしたのだ。
「メンコさん! けけけ、怪我はありませんか!?」
立っているのは私と彼女だけになった。なので、心配になった私は、彼女に声をかける。
「怪我? あー。全然平気! それよりもさ、タミコちゃんこそ、さっきは大丈夫だったの!?」
「まぁ。私は大丈夫です。リルドのおかげで……」
「まぁ。アイツの不意打ちは、誰も見破れないからねぇ。アタシですら、不意を突かれることが度々あるし」
「えぇ」
武闘にも秀でてる彼女ですら、彼の不意打ちは見抜けないとは。彼も人の事言えないが、もしかしてリルドもまた……。
「さて、安全を確保した所で、改めて依頼人のところに行こっか」
「は、はい!」
そして、私と彼女は、気絶したままの栗尾根さんと、外谷に雇われた半グレ達を置いて、依頼人の元へ向かおうとした。
――ギュルルルルルルル
すると、何処からか腹の音が勢いよく鳴った。まさか、『アレ』が効いてきたのか?
「ぁぁぁぁぁぁあああ! 腹がァァァ!」
「ぐぉぉぉぉ!」
そして、床に伏していたはずの半グレ達が、一斉にトイレへと向かって行ったのだ。しかも、どれも私がお茶として渡して、飲んでいた人達ばかりで、いつの間にかトイレ周辺は、半グレ達の行列が出来ていた。
「えっと……。何。この地獄絵図」
そのせいか、メンコさんは、かなり困惑しながらも、私にこう聞いてきた。
「た、タミコちゃん。もしかして……。アタシから貰った『アレ』使ったの?」
「はい! 使いました! かなり効果があって良かったです!」
そして、私は笑顔で緑色のスティック包装された『下剤 ハラルンルン』を取り出した。
「まさかそれ……」
「はい。半グレ達には通常の2倍。標的には、5倍にして漆黒ジュースに入れて、リルドの力を借りて一気飲みさせました!」
「ちょ! まじやーばっ! アタシが暴れてる間にそんな事になっていたなんて! あははははははは!」
メンコさんはゴエモンさん並みに豪快に笑うと、共に奥にいる依頼人の元へと向かった。
まぁ。ネカフェが茶色く染まるのも、時間の問題だろう。だけど、私達には依頼を達成しないといけないので、栗尾根さんの断末魔を聞く暇は無い。
「あ。依頼人の所に行かないと!」
「そうだね! ま。報酬は今、リルドが引っ張る所だと思うけど、多分リルド、嘘ついたねー」
「う、嘘?」
すると、彼女は何かを企てるかのような、ニンマリとした顔をすると、私にこう教えてくれたのだ。
「うん。アイツ、漆黒ジュースを飲んだら、半額引っ張ると言ったけど、ガチで全額引っ張るつもりだよ。何かしら、『追加』の条件をつけてね」