朝起きたら、何故か復讐のバトンを託されました。
*
「ふぁぁぁー」
そういえばあれから、ぐっすり眠りこけていたみたい。
「はぁ……。眠たい」
実はメンコさんが逃げるように部屋に戻った後、私はリルドの部屋前で、こっぴどく怒られちゃったんだよね。
「お前さ。何で突然、あんな行動をとったんだよ。わざわざ攫われるように仕向けてさ!」
「え?」
「一人で勝手に、危ない橋渡るんじゃねーよ! めちゃくちゃ心配したんだ! 俺もそうだが、メンコもな!」
「……」
確かにそうだ。今回は流石に、軽率過ぎたかも。たまたま攫った人が『ナイト』さんだったから、事なきを得た感じもあったが、これが鰒川の息がかかった人間だと思うと……。
申し訳なさでいっぱいになってしまった。
「最初はどっか買い物に行ったのかと思って、呑気にしてた。だけどさ、アジトに入ってから、あんな走り書きされたメモが置かれて、そこで攫われたと気がついてさ……」
「……」
「この時の俺、守れなかったという『無力感』や小さい頃のトラウマとか、色々思い出しちまってよ。危うく薬に手をつけそうになっていたんだ」
「そんな!」
「だけど、運良くシイラが来て、飲むな。て止めてくれたんだ」
「そうだったんだ。ごめんなさい」
まさか、私がいない間にそんな事になっていたとは思っていなくて、思わず謝ってしまった。
薬が嫌いなリルドが、改良版ネクターに手を出そうとしていた。それだけでも信じられないのに……。
「あぁ。つい、余計なことまでいってしまったな。今日も遅いから早く寝ろ。いいな」
「うん。えっと。本当に、ごめんなさい」
「謝ることなんて、一切ねーよ。あ。それと……。これ」
すると、彼はパーカーのポケットから、私のスマホを取り出すと、軽く渡してきた。
「あ。ありがと……」
「じゃ。おやすみな」
「あ!」
しかし、彼はそう言って微笑んだ後、自分の部屋へと行ってしまったのだ。
確かに、アジトでは色々あり過ぎた。
薬漬けでやられた連中が、アジトに押し寄せてきたり、鰒川 聖という黒幕の存在がいたり。
それに、ナイトさんは、ヴァルテ家は自分の手で全て滅ぼした事を、ルークに伝えるために来日した。と、言っていた様な。
あ。彼で思い出したけど、事務室に帰ってきた時のメンコさんが、明らかに乙女っぽい顔をしていたのが、気になっていた。
それに、彼女の左手の甲に書かれたIDらしき文字も、誰に書き込まれたのやら。
一体、中規模アジトで何があった訳?
疑問に思いながらも、白黒のベッドに入って、そのまま寝て今に至るのよ。
「うぅ……」
寝ぼけ眼で顔を洗うと、着替える準備を始めた。
今日はどんな格好にしようかな。
おもむろにメンコさんと一緒に買い物に行った時に、買った夏服を眺めてみる。
「あ。これいいな」
すると、少し大きめで、黒とピンクの水玉柄が付いた半袖パーカーを見つけてしまったのだ。チャック付きなので着脱可能。フードも猫耳が付いていて可愛らしい。
たまにはこういう、奇抜な服も着てみるか。
なので、白い無地のTシャツに袖を通し、水玉の半袖パーカーを着ると、下は黒いワイドパンツにしてみたのだ。
それに、外は紫外線も凄いから、ついでに通気性の良い黒いUVアームカバーも装着してみる。
「わぁお」
すると、全身黒に近い、リルドみたいなスタイルができてしまったのだ。
近くにあった全身鏡で見ても、リンクコーデみたいで……。て、いやいや。そんな意識は無いんだけど。
「あー! もう!」
だけどあの時、告白を断る際に、勢いで『ルークと付き合っているので』と言ってしまった事を思い出してしまった。
そのせいか、恥ずかしさのあまり、部屋の中で一人、叫んでしまっていたが、誰も聞いていないよね?
それに……。あー。これ以上深く考えたら、ダメだ。大事な事が頭に入らなくなる!
全く。ゴエモンさんも『敵味方全員欺け』って無茶な要求をしてくるんだから、かなり困るんだけど。
でも、そうしなきゃ、救えないのかもしれないんだよね。
それにしても、シイラさんがいる『カラマリア』の動きが、あまり感じないのが不気味なのよ。
鰒川側に悟られない様に『敢えて』潜めているのかな。でも、ここまで静か過ぎても気味が悪いから、一つぐらい動きがあっても……。
「さてと」
リンクコーデに近い形の格好になった私は、スマホを片手に部屋を出てみる。
「おはよ。タミコちゃん」
「メンコさん!」
すると、トレーニングルームでメンコさんが壁に寄りかかりながら、待っていたのだ。
それにしても、朝の10時なのに、バッチリ格好が決まっているの、凄いとしか言いようが無いんだけど。
「どうしたんですか!? えっと、その……」
「あー。これ、三姉妹に会いに行く時の格好で着てみたんだけど、どう?」
「どう? って。でも、メンコさん、青色のワンピースって……」
オレンジ髪に合わせるかのように、その格好も普段のTシャツ短パン姿とは程遠かったのだ。しかも、青色の爽やかなロングワンピースときた。
「めっちゃ、珍しいって事?」
「はい。とても素敵ですが、あんまりそういった姿、見たことがないので……」
「あはは! 気まぐれよ! き・ま・ぐ・れ!」
「ふーん……」
なので、上から下へとじーっと見てみたが、彼女は顔を真っ赤にしながらこう反論してきたのだ。
「って何よ! その顔は! そそそ、そんなじーっと見てても何も出ないし! それに! べべべ、別に恋してるから服装替えた。とか、そういう意味じゃ!」
「ええっと、メンコさん。私、恋してますか? だなんて、一言も言ってないですよ」
「うぇええ!? ちょっと待って! アタシが勝手に墓穴掘ったみたいで、恥ずかしいじゃないの!」
すると、彼女は熟れたトマトの様に、顔を真っ赤にしながらも両手で顔を隠していたのだ。
何だろう。メンコさんって、こんなにも乙女チックで、可愛らしい人なんだ。
「まぁ……、何となく、意中の相手も、分かりましたので」
「え? ちょっとそれって!? おっと。話が脱線しちゃったけど、実はタミコちゃんにお願いと、ちょっとした報告があって、ここに来たわけよ」
「お願いと、報告、ですか?」
「そうそう!」
だけど、彼女からお願いと報告があるだなんて、珍しい。明日、ゲリラ豪雨でも降ってくるのだろうか。
かなり驚いたけど、一体どんな内容か、気になった私は仕方なく、耳を傾けることにした。
「まず、ちょっとした報告なんだけど……、実はね、あれからナイトとライムでやり取りしてて、そこで聞いた話だけど、タミコちゃん、アジトの中で告白されたっしょ」
「あー。確かにされましたけど、それが何か?」
「あれ、実はルークが日本で『どういう人』と行動を共にしていたのか、彼はかなり気になっていたらしく、『敢えて』告白して試していたらしいのよ」
「……は?」
「つまり、『他の人から告白されても、靡くか靡かないか』、もし簡単に靡く様な人だったら、ルークに『コイツと付き合うな』と忠告しようと思っていたらしいの」
「いや。何それ!?」
驚きのあまり、スマホを落としそうになっていたが、何だその度が強すぎるブラコンは。
でもメンコさん、さらっと言っていたけど、いつの間にかナイトさんと、ライムのやり取りをしていたとは。あー。なるほど。
「……ね! その辺、おっそろしい程のブラコンよね~!」
「でも、なんでメンコさんだけに、そんな個人的な情報を?」
「わ、わわわ、分からないよ! そんなの!」
なので、更に詳しく聞いてみると、彼女は明らかに動揺していたのだ。猫のようなくりくりとした瞳は、明らかに右往左往泳いでいたし。これは何か隠しているな。
「あー。でも。私は何となく、分かりました。あくまで直感ですが」
「え!? 直感?」
「そう。恐らく、ナイトさんは、メンコさんの事が好きだと思うんですよ」
「やっぱ、そう?」
「はい。それに、普通は『自分のこと』を自分から、周囲にべらべらと話さないと思うのですよ。余程のナルシストでは無い限り」
「あー。そう言われてみれば……」
「だけど、相手が『好きな人』なら、親密になりたくて、自分の事も分かってもらいたくて、秘密をさらけ出したり『君だけにしか言わない』という特別感を出すと思ったんですが……」
「うん! 確かにそうかもしれない」
「え? 嘘っ!?」
すると、彼女は思い出したかのように、衝撃的な発言をしてきたのだ。
「実は、告白されてしまったのよ。彼から」
「こくは……、うぇえええええっ!?」
思わず大声で驚いてしまったが、まさかの展開に戸惑いが隠せない。
「それとね、これ言っていいのか分からないんだけど、『24年生きた中でも、貴女みたいな強くて美しい人は初めて見た』とか、『野に咲く薔薇の様に美しい』とか、『ポケトークを使わなくても良いように、日本語を勉強したいし、貴女の事も知りたい』て口説かれちゃったのよね」
「えーっと、ちょっと待って!?」
思ったよりもアプローチが凄すぎて、私は驚いてしまったけど、ナイトさんって、本当にリルドの双子の兄な訳!?
あまりにも性格も行動も発言も正反対過ぎて、開いた口が塞がらないんですけど。
「もう、あんなこと言われたの、初めてだったから、どうしていいか分かんなかった訳よ」
「それはどう答えればいいか分からないと思いますが、その、メンコさん」
「ど、どうしたの!? 何かまずいこと言っちゃった?」
なので、戸惑いながらも聞いてみたが、彼女もまた、顔を赤らめながら語っていたものだから、混乱した様な顔をしていたのだ。
「いや。まずくはないです」
「良かったぁ!」
「ですが、返事はちゃんと返さないと。ですよ?」
「それは、真摯に返す事にするよ。アタシだって、そんな白状モノではないし」
「まぁ。メンコさん、その辺はちゃんとしてそうだと思ってたので……」
「ていうか、タミコちゃん。最近、思考がかなり達観しているっていうか、妙に人生経験者みたいな発言しているの、気のせい?」
「いや。それは無いかと」
「え!?」
「至って普通です。ですが……」
「おーい」
『ふぁっ!?』
ふと、扉から声がしたので、二人揃って振り向くと、リルドが扉から顔を出しながら、声をかけてきたのだ。
あ。そういえば、私達が話していた場所、リルドの部屋の前だったのをすっかり忘れていた。
「メンコにタミコ。人の部屋の前で、何女子会みたいにべらべらと喋ってんだよ。全部丸聞こえだ」
「えええ!? 恥ずかしすぎてやだぁ!」
「あー。ごめん。リルド」
「おいおい。それとメンコは何、乙女みてーになってんだよ」
「それは、私も分からない」
「ふーん。んで、タミコ、その格好はどーした?」
「え!? べ、別にリルドとお揃いにしよー。だなんて思ってないから!」
「嘘つけ! ほぼ黒で固めてんじゃねーか!」
「いちいちうるさいってば! もう!」
「は、はは、あははは!」
「え?」
ふと、メンコさんは、私らのやり取りを見て面白かったらしく、お腹を抱えて大笑いしていたのだ。
「やっぱ仲良いね! 二人はさ! お似合いのカップルみたい!」
「え!?」
「そーか?」
「ま。それはそれとして、もう一つ、お願いというのがね……」
そう言うと、彼女はふぅー。と深呼吸をすると、私に向かって、こう言ってきたのだ。
「今まで抱えてきたモノ全て、タミコちゃんに託そうと思っているんだ」
「え?」
「おい。それ、どー言うことだよ!」
「その、『アタシからの依頼』として、受け取ってくれる?」
「依頼。ですか?」
まさかの発言に困惑しながらも、彼女の話に耳を傾けてみる。
「そうね。報酬は『服のプレゼント』と、そうだねー、渋沢さんは用意出来ないけど、『とあるサイト』に関する情報をプレゼント。はどう?」
「とあるサイトに関する情報。ですか?」
「そう。タミコちゃんに関わりがあるか、分からないけども、『ドラッグルームスープ』を調べていた際に、奇妙なサイトの情報を見つけたのよ」
「そんな事が……」
「ま。それは『アタシからの依頼』をこなしてから。ね」
「はい。えっと、その、『依頼』とは?」
かなり気になった私は慎重に聞くと、彼女は恐ろしい事を口にし始めたのだ。
「そうね。アタシの代わりに『ドラックルームスープ』の管理人を、社会的に抹殺してきて欲しいのよ」
「おいおい。そう来たか」
「うん。本当はこの世界から消し潰したいところだけど、サーフェスにいる以上、そういうのは無理。だからね」
「なるほど……」
「やり方は、何でもいいわよ。タミコちゃんの好きにして。それに、もう管理人は誰だか、分かっているんでしょ?」
「まぁ。分かってはいますが、えっとでも。何で突然?」
「……」
いきなりの事で戸惑っていたが、彼は部屋の壁に寄りかかりながら、静かに耳を傾けていた。
「それはね、強引に復讐を果たしたとしても、『空虚』しか残らない。『代償』だってね、ついて回るの。それをこの目で見たの。アタシ」
「空虚。代償、ですか?」
「そう。例え体の一部が失われても、それを耐え抜くだけの『強固な信念』や『全てを背負う覚悟』が無ければ意味が無いのよ」
「信念。背負う、覚悟……」
「そう。残念ながら、アタシには無かった。例え、10年もの間、復讐に費やしていたとしても」
「……」
彼女は小さく息を吐くと、一つ一つの言葉を確かめながら、ゆっくりと語り続けていた。
だけど、その言葉が釘のように、復讐で埋めつくされかけた私の胸の中に、深く、強く、突き刺さってくる。
「それに、アンナ自身は、この復讐を『望んでいたか』と言われたら、そうではなかった。彼女は『アタシの事は良いから、自分を大事にして』て言い残していたからね」
「それで……」
「だから、アタシは『依頼』という形で、タミコちゃんに、復讐のバトンを託そうと思ったの」
「なるほど……」
そういう背景が、あのアジトの中であったとするなら、納得がいく気がするけど、この急な心の変化はどうしたものか。
あと、復讐の先にあるのは、空虚と代償か。
そういえば、私もリルドと共に『天海愛華』に復讐しようとしているのよね。
本当に、あの女はどこにいるのやら。
見つけ次第、とっ捕まえて問い詰めたいけど、今は目の前にある依頼と、現在抱えている依頼をこなさなければ。
それに、メンコさんはアンナさんの『遺言』を元に、『依頼』という形で、私にバトンを渡してきたんだ。ちゃんと引き継がないと。
だけど、強固な信念や全てを背負う覚悟。かぁ。
今の段階だけでは、申し訳ないけど、復讐を終えた後の未来想像図が描けなくて。
でも、一つだけ言えることは……。
私は『後悔』したくない。
「分かりました。メンコさん。方法は、『何でもいい』んですよね」
「そう! 何でもいい。タミコちゃんに任せたわよ!」
「は、はい」
「……おい。メンコ」
「ん?」
すると、暫く黙っていた彼が、ふっ。と軽く笑ってこう言ったのだ。
「まさか、ナイトのせいか?」
「は!? ち、違うし!」
「じゃあ、なんで顔真っ赤にして否定してんだよ!」
「ちがうってば! あー! もう!」
メンコさんは子供のように大声を出しながらも必死に否定していたけど、何だろう。『ナイト』という、ワードを出しただけで、こんなにも乙女モードになっていたから、別の意味で恐ろしいのかも。
「おいおい。若い奴らは朝からうっせぇなぁ。ふぁぁぁぁ」
『ゴエモンさん!?』
すると、ゴエモンさんが、大あくびをしながら、シークレットルームから出てきたのだ。
そして、真剣な眼差しで私らを見ていたが、何だろう。トレーニングルームの空気が、妙に張り詰めている。
「実はな、グソクのおかげで、聖のクソ野郎の居場所が特定出来たのさ」
「え!? そうなんですか」
「あぁ……」
すると、彼は愛用の電子タバコを吹かすと、一言、強く言ってきたのだ。
「だから、今夜決行な。今のうちに準備しとけ」




