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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(アジト襲撃)
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再開後、大量の敵が押し寄せてきました。

「って言うことがあった訳よ」


 私は淡々と話していたが、実はかなり照れくさかったのは本当だ。

 断ったとはいえ、勢いで『付き合ってるので』て、つい言ってしまった訳で。


「それで俺と付き合ってるって……。はぁあああ!?」

「いやー。かなり大胆っすよねー。タミコさん。しかも相手は、まさかの双子のお兄さんに……」


 フグトラさんは驚きと戸惑いが混じったリアクションをしていたが、リルドは暫く固まっていた。


「アハハァ! ハジメマシテ!」

「おぉ~! 初めまして! 私はヒガンです! 日本語上手ですね!」

「アリガトウゴザイマス!」

「しかも、とても綺麗なお方ですね~。是非とも私の所で働きに来て欲しい!」

「ワァオ! イイノデスカ!?」

「えぇ。衣食住はきちんとしておりますし、こんな狭い所ではなくて、立派な住居を提供しますよ~」

「イショクジュウ? リッパナ住居?」

「えぇ。難しいのであれば、ポケトークを使って会話しても構いませんよ!」

「オォー! multumesc(ありがとう)!」


 だけど、ヒガンさんは私達そっちのけでナイトさんの方に行くと、意気揚々と勧誘をし始めていたのだ。


 この人『美形』に対しては、凄まじい程の執念を持ってるっていうか。まるで推しに貢ぐファンみたい。


「それとですね、実は、貴方にお近づきの印として、『お土産』を持ってきたのですよ~」

「オチカヅキノシルシ? オミヤゲ? デスカ?」

「えっ!?」


 すると、彼は鼻歌を歌いながらも背中に背負っていたリュックを木製のテーブルに置き始めたのだ。


「ちょっとリルド!」

「んあ? どーしたタミコ」

「ヒガンさん、何取り出してるの!?」

「彼いわく、『お土産』らしい」

「お土産ぇ!?」


 いやいや。ここ敵のアジトだよ?

 何、呑気にお土産なんて持ってきてる訳!?


「オォー! コレハァ!」

「あははぁ~。貴方にあげたくて、つい奮発しちゃいましたぁー!」

「トテモ! ステキデスネ! 浴衣!」

「えっ!? ちょっとヒガンさん! それ、『浴衣』じゃないですか!」

「おいおい。何か入れてるなーって思ってたが、敵のアジトになんつーもん持ち込んでんだよ」

「ええっと。ヒガンさん……」


 彼はリュックのチャックを開けると、なんと、そこから男物で白黒の浴衣を取り出したのだ。


 ちょっと待って。確かにナイトさん、子供のように喜んでいるけど、ここ敵のアジトでしょ!?


 何、関係ない物を持ってきてる訳!?

 それと、今ここで渡すこと!?


 まさかの彼の『貢ぎ癖』が発動したせいか、私はかなり戸惑ってしまった。

 

「ったく。誰が敵地のど真ん中で着替えんだよ」

「でも。似合いそうっすねー。リルドさんも着てみるの、ありだと思うっす」

「俺は断る」

「でも、タミコさんに言われたら、着るんすよね?」

「……ちっ」


 しかも、リルドとフグトラさんも何か仲良く会話しているし。ってあれ?


「ねぇ。メンコさんは?」

「あー。実はアイツ、暴れ足りないから。て言って、下に降りてったんだよな」

「そんな!」

「でも、覚悟決まった様な顔をしていたからな。『生きて帰る』て言ってたし……」

「……」


 すると、それを耳にしていたナイトさんが、こんな事を言い始めたのだ。


「マサカ、下デ何カアッタノデスカ?」

「実は、俺がここに来るまでの間、薬でイカれた連中が暴れ始めたんだ。構成員は出会った奴らはほぼ全員半殺しにしたが、異様に少なかったんだよな」

「……ン?」

「そうなんだ。あ! ポケトーク、お借りしても大丈夫ですか?」

「アァ。ドウゾ」


 なので、私は日本語のやり取りでポカンとしているナイトさんに、ポケトークを借りながらも、ルーマニア語に翻訳して返したのだ。


「……アノ男、ユルサナイ!」

「えっ!?」


 すると、彼は先程の笑顔とは変わって、扉に向かって睨んだ様な表情をすると、ヒガンさんにこう言い始めたのだ。


「下ノ敵、全員ヤッツケテカラ、コノ浴衣、モライマス」

「な、ナイトさん!?」

「ソレト、ヒガンサン。貴方ミタイナ、愉快ナ方ノ元デ、オレハ働キタイ。ナノデ、面接ノ仕方、後デ、教エテ下サイネ」

「そ、それは良いけども。貴方こそ、無事でいて下さいね!? アイツら、薬でイカれた連中でしたし……」

「……心配ナイ」


 そして、彼は笑顔で返事を返すと、再びパーカーを深く被り直し、錆びた扉へ向かおうとしていた。


「おい! ナイト!」


 しかし、彼の声でほんの一瞬だけ、ナイトさんは足を止めていたが、何かを振り切るように、取っ手に手をかけようとしていた。


「大丈夫ダ」


 すると、彼はこちらへ振り向くと、反対側の扉を指さし、強めに言ってきたのだ。


「ルークハミンナヲツレテ、アソコノ緑色ノ扉カラニゲロ!」

「は? 何でだよ! バカナイト!」

「今、ココデミンナヤ、タミコヲ守レルノハ、ルーク。君ダ!」

「……」

「安心シロ。メンコトイウ人、助ケル。ソシテ、オレガヤル!」

「……!」


 その覇気のある声に、迷いが無かった。彼のパーカー越しから見える翡翠色の瞳には、どこか『過去を終わらせる人間』の様な、淡くて眩い光が見えた気がした。


「ソレト……、優シイママデイテクレテ、オレハ良カッタヨ。マタナ!」

「……くそっ! 待てよ!」


 そして、彼はふっ。と軽く笑いながら、再び錆びた扉の方へ向けると、颯爽と休憩室から出て行ってしまったのだ。



――バタンッ



 分厚くて鈍い音と同時に、部屋は静寂に包まれていたが、彼の握り拳は、かなり震えていたのだ。


「ちゃんと浴衣を着て下さ……、ありゃ。行かれてしまいましたか」

「ったく。ヒガンさんったら。綺麗な人を見ると、すーぐそうなるの、何とかならないっすか?」

「フグトラよ。それは私の美的意識に反しますので」

「何なんすか。その謎すぎる言い方は」

「あはは……」


 しかし、デットプールのコンビは、相変わらずの漫才みたいなやり取りをしていたが、私は乾いた笑いで返すしか出来なかった。


 早くこの場から逃げないと。

 そう心の中で思っていても、黒い半袖パーカーを着た彼の震えた背中を見ると、どうしても躊躇ってしまう。


「ええっと……」


 そのせいか、私はどう声をかければいいのか分からず、オロオロしてしまった。


「……おい。タミコ」

「え? どうした!?」

「いくぞ」


 すると、彼は私の右手首を突然掴むと、反対側の非常口がある扉へと歩いていったのだ。


「あっ。う、うん!」


 その手が私の手首を掴んだ瞬間、鼓動がひとつ跳ねる。


「フグトラやヒガンさんも。こちらです」

「リ、リリリ、リルドさん!? 突然雰囲気が変わったっすけど……」

「みんなで、ここから脱出するぞ」

「えっ!? でもリルド。メンコさんは……」

「大丈夫だ。ナイトがメンコさんを助けると言ったんだ。俺は、アイツを信じる」

「安心して下さい。三人とも」

『ヒガンさん!?』


 そして、彼はパーカーのポケットから、先程の閃光銃を取り出すと、突然、中に入った弾の入れ替えをし始めたのだ。


「後ろは私がサポート致します。閃光から、別の弾へと入れ替えましたので、フグトラ、リルドさん。前は頼みましたよ」

「あ。ヒ、ヒガンさん。ありがとう、ございます」

「ええっと。ヒガンさん、別の弾ってまさか……」

「フグトラ。その『まさか』ですよ」

「えっ!?」


 ちょっと待って。弾を入れ替えたということは、今度は実弾でも詰め込んだ訳!?

 殺すのだけは、騒動になるからやめて欲しいんだけど。


「まぁ。『致死率は低い』し、足止めで使える『麻痺弾』なので、安心してくださいね~」

「いやいや……」


 その『安心してください』が一番怖いのよ。

 彼の相変わらずの行動の読めなさに、私は乾いたため息をついていた。


「ったく。おいフグトラ」

「何すか?」

「ヒガンさん、毎度あんな物騒なのを持ち歩いているのか?」

「ここみたいな、危険な任務の時だけっすよ」

「それならいいけど、てっきり、普段からあんなの持ち歩いてるのかと……」

「あははは! そーれは流石に偏見が過ぎますよー。リルドさぁーん!」

「えっ……」


 ヒガンさん。まさか、推しへ貢げたから、嬉しすぎて酔っている?

 背後でやたらとテンションが高い彼を気にしつつ、私達は非常口を開け、薄暗い階段を降りて行った。


「どう?」

「まぁ。このまま1階まで降りれば大丈夫だろうな」

「でも、まるでゾンビを銃でぶっ倒すゲームの中にいるみたいっすね」

「雰囲気が。ってことだろ? その辺のゲームはシイラがよく好きでやってたな」

「まじかぁ。確かに好きそーっすよね。あの人」

「そうそう。どこかにハーブみたいなの落ちてねーかな」

「えっと……」


 そんな都合良く、解毒剤みたいな葉っぱがある訳ないでしょ!

 全く。ここは現実なんだから、一旦ゲームの世界から離れて!


 私は呆れながらも、心の中でツッコむと、勇者パーティーの様なメンバーと共に、脱出を試みる事にした。


 5階からスタートして、4階、3階……



――うぉらぁぁあ!


――ぐはっ!



 何処からか雄叫びの様な声と、殴られて血を吐く声が聞こえてきたが、メンコさん、もしかして戦っている?


「声が聞こえたけど……」

「あぁ。助けに行きたいが、1階まで降りて何処まで悲惨になっているか、見に行かねぇと」

「そーっすよね。まずは何人程、ヤク中の奴らが押しかけているのか。っすよね」

「ですね。元凶を絶たない事には、無限に湧いてしまうので……」

「そっか……」


 やっぱり、私は足でまといになってしまっているのだろうか。

 私もメンコさんみたいに前線に立って戦えてたら……。



――強さって言うのはね。力だけ有り余っても、ダメな事があるのよね。


――力より大事なのはね、心なの。


――そう。心の芯がブレずに、きちんとしている女の子の方が、私は強いと思うけどね~。


「そうだ!」


 私は私しか、できない事をすればいいんだ。

 なので、降りながらも万が一、ここで敵に出くわした時の対処法を、ありとあらゆる方面で考える事にした。


 まずはここは狭い非常階段。背後で挟まれたらひとたまりもない。

 しかし、相手はゾンビの様に、薬で狂乱してしまった人達だ。話し合いでは全く解決しないのは目に見えている。


 かと言って、殺すのは得策じゃないね。


 という事はメンコさんみたく、『武力行使』か足止め……。そうだ!


「ねぇ。ものすごくいい方法を思いついたんだけど……」

「なんだ? 言ってみろよ」

「うん。まず、今の段階では、先頭にフグトラさん。リルド、私、ヒガンさんの順番で降りているけど、このままでいいかな」

「あぁ。確かにその方が良いかもな。タンク役として、フグトラに盾になってもらおっか」

「ぉええ!? このまんま俺が盾になるんすか!?」

「そうだ。でも、無事に降りれたら、『期間限定の抹茶味のチョコ』を買ってやるからよ」

「よっしゃ! やるっす! やるっす!」

「あはは……」


 すると、抹茶チョコでフグトラさんが釣られるように、引き受けてくれたのだ。

 でも、この二人も何だかんだ言って仲良いよね。そういえば、フグトラさんって何歳なんだろう。

 

「で、前に敵が見えた時はフグトラさん。リルドに軽く指を鳴らすなり、合図を出して」

「事前に知らせておくってことっすね」

「そうそう。で、ヒガンさん」

「はいはい。何でしょう」

「背後から敵の声が聞こえてきたら、私の肩を叩いて。それで、私が貴方のパーカーの裾を持ったら、やっていいよ。の合図ね」

「了解しました。遠慮なく引っ張って構いませんよ」

「おい。タミコ」

「え? どうしたの?」

「前の敵が来たら、どーすればいいんだ? 俺の勝手な判断でいいのか?」

「えっと……」


 しかし、彼は子供のように拗ねた顔で聞いてきたので、私は戸惑いながらもこう答えたのだ。


「前の敵が来たと、フグトラが合図を送ってきたら、リルドは黄色いパーカーの裾を引っ張り返すの。それで『やっていいよ』の合図としよっかな」

「ほーん。互いに合図を送り合うのですね。大丈夫でしょうか?」

「ヒガンさんが勝手な行動を取らなければ、多分平気」

「いやいや! 何で私がフラフラ行く前提で話を進めてるんですか!?」

「えっ。だって、ヒガンさん、勝手にスカウトしてたじゃない」

「そーいえば、そーっすね。俺やミオさん達の許可なしでナイトさんを勧誘してたっすよね?」

「えーっと。ちょっと、フグトラにタミコ様!?」

「ふっ。そんなに気になってたのか? ナイトの事」

「あー! 全く。リルド様まで!」


 でも、こんなに慌てるヒガンさんも、珍しい気が。

 まぁ、いっか。とっととこんな薬まみれの場所から脱出しないと。



――ぁああああ! ねくたぁぁぁー!


――ちょぉぉぉだぁぁあい!



「わぁぁあ! 下から声がしてるっすぅ!」

「おいおい。落ち着けフグトラ。とりま、出くわしたら、お前の強烈メリケンパンチで気絶させろ」

「りょ、りょーかいっす!」


 しかし、ホラー映画の様な展開が突然来てしまったせいか、彼は合図を忘れて叫んでしまっていた。


 だけど、声だけ聞こえてくるせいか、この空間自体が異様かも。


 本当にメンコさん、大丈夫かな……。

 でも、大丈夫。みんながいる!

 私は意を決して、みんなと共に出口を目指す事にした。

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