sideリルド 戦闘はまるで、ゲーム感覚の様でした。
「さてと……」
どうやってあの構成員を気絶させようか、俺は考えた。
一人はガリ体型。もう一人はデブ体型。両極端な敵だな。
雑居ビルの入口に立ち塞がる門番みたいだ。
それに、敵の背後はスカスカだ。デブがいる所は壁も近いな。うん。これにしよう。
俺は息を殺し、敵の背面近くの壁まで素早くダッシュ。壁を蹴りあげ、反動で体を捻る。
そして、軌跡を描いた脚が、デブの頭へクリティカルヒットをした。
「うがぁ!」
「何だ何だ!? うわぁぁぁあ!」
すると、蹴られたデブは卒倒し、ドミノ倒しの様に、ガリがデブに押し潰されたのだ。
ゲーム風に言えば、『スキル 回し蹴り』『ガリはデブに巻き込まれて気絶した』と言った所だな。
「すげぇ……。何なんすか!? 背後であーんなアクロバティックな動きをしてたんすか!?」
「ほぉー。一発で二人も仕留めるとか。やりますねぇ!」
「相変わらずえっぐいねぇ~。でも助かったよ~」
「ほんっと、リルドは毎度、容赦ないわね」
「メンコも殴る威力は、俺と同じぐれーだろ」
「それは無いって!」
そんなたわいな事を話しながらも、敵二人は床に寝そべっていた。
一生寝てろ。
俺は先に行く。
「さて。僕はここでおいとましますね~」
すると、片手に重箱を抱えたアイツが、意気揚々と出入口へ向かって歩き始めたのだ。
「あれ? シイラさんは最上階、行かないんすか?」
「そうだね~。『これ』抱えちゃってたら、流石に動けないし。それに……」
そして、ひっきりなしにピコンピコンと鳴るスマホをポケットから取り出すと、ニッコニコ笑顔でこう言い始めたのだ。
「愛しの真生の所に行かないと!」
「んだよ。お前……」
「どんだけ溺愛してるんすか。そこまで行くともう俺、何も言えないっす」
「あっちゃぁ。恋の重症患者が、ここにもいたのね」
「はぁ……」
シイラはほんと、こういう所、全く空気読まねぇよな。フグトラなんて、かなりドン引いた顔しながらお前の方を見ているぞ。
ま。今更驚くことでもねーか。
「じゃあ、まったね~! リルドぉ~!」
「あ。あぁ……」
そして、彼は笑顔で重箱を抱えながら、ひらりと俺達に手を振ると、軽すぎる足取りの音と共に、その場を後にしたのだった。
「それにしても、あの人何なんすかね。ものすっごくペースをかき乱された感覚っす」
「まぁまぁ。フグトラ。シイラさんはそういう人なのですよ。今更驚いたところで、何も起きるはずはありませんし……」
「ヒガンさん。やけにシイラさんの肩持ちますよねー。何か賄賂でも握られてます?」
「コラコラ。そんな事ある訳ないじゃないですか~。実は私自身、マフとの事、真生くんの事が、かなり気がかりでしたのでね」
「へー。ヒガンさん、マフの事も気にしてたなんて、かなり意外っすね」
「ええ!? そうですかね~。まぁ、あのキルマイ騒動の際、現教祖はあの惨状を知らない『フリ』をして逃げた様で。なので、その事に対して、もの凄く腹が立ちましたのでね」
「なるほど……」
それでヒガンさん、あの騒動の時にブチ切れて、ベローエの分断が起きた。という事か。
フグトラの方を見てみると、俺から視線を逸らしていたが、このベローエの内部事情、俺の想像よりも、遥かに根が深い話みたいだ。
特に『ヒガンさんに関する事』は話したら殺されるっす! という勢いで話題に触れないようにしているのが、フグトラを見てわかる。
暑さのせいかもしれないが、彼の首筋には。じっとりと汗が浮かんでいた。
まぁ、この辺はタミコの予想通り。ヒガンさんは何か『知っている』な。
「さーて。とっとと上へ行こーよ」
「あぁ。何人ぐらい、敵さんいるっすかね?」
「どーでしょーね。この廃墟ビル、確か5階まであったような……」
「そんなに高いのかよ。めんどくせぇ」
「エレベーターがあれば、サクッと行けるっすけどね」
「それだと、果たし状の意味が無いでしょ。全く……」
「おいおい」
だけど、こうやって仲間とたわいのない会話をしながら行く任務も楽しいな。
例え、この穏やかな時間が続く訳ない。と分かっていても。な。
「どーしたっすか?」
「あ。いや……。とっととタミコの所に行くぞ」
「お? リルドも早く、愛しの彼女のところに行かないとね~」
「うっせーぞメンコ! 少しは黙れ!」
「やだぁ! あ。いたいた!」
「あー。ほんとだ」
そして、2階へ上がると、上り階段付近に敵が5人程いた。
どうするか。敵の野郎、みんなこっち側に向いてやがる。
「まぁ。お任せ下さい」
すると、ヒガンさんが自身のパーカーのポケットから、小型の銃らしきものを取り出してきたのだ。
あの野郎、涼しい顔してどこからそんな、物騒な物を。
「これは普通の銃とは違いますね。魔改造したので。あ。皆さんは下、向いて下さいね~」
「お、おう……」
「了解っす」
「おっけー」
そう言うと、彼は真剣な顔で敵がいる天井に向かってバン。と軽く一発打ったのだ。
『うがぁぁあ!』
『まま、眩しいぞ! なんだァァ』
「さぁ。今のうちです」
「わかったっすよ!」
「おっけぇー!」
「ありがとな。ヒガンさん」
敵の目が眩んで動けない隙に、俺が出ようとすると、前にいたフグトラが片手で俺を制し、こう言ってきたのだ。
「おわっ!? フグトラ? どうした?」
「リルドさんは少し休んでいいっすよ。この辺の敵は、俺とメンコさんでボコしとくっす!」
「お、おぅ……」
すると、彼はパーカーのポケットから、銀色のメリケンを取り出し、両手に装着し始めたのだ。
おいおい。メリケンとは、なかなかな物を持って来てるな。
そういや、俺も使ったことがあるが、あまりの威力に驚いて、シイラにあげた事があった様な。
「あ、ありがとな。フグトラ」
なので、この辺はフグトラ達に任せ、俺は背後を確認することにした。幸い、追加の敵は来ていない様だ。
ふと思ったが、このメンツ。まるでRPGに出てくる勇者パーティみたいだな。
目の前を見ると、護身術で華麗に倒しているメンコと、みぞおちアッパーを決めて、荒々しく攻撃しているフグトラが暴れていたのだ。
こうして見ると、二人共、素手(フグトラはメリケンを付けているが)で戦うのに、それぞれ戦い方が違うんだよな。
メンコは鮮やかに決めるタイプだが、フグトラは喧嘩に近い感じだ。
どれも『気絶特化』のはずなのに、それぞれ戦闘スタイルが違う。こうして見ると、とても面白いな。
「ふぅー」
「終わりましたっす!」
「もう終わったのか」
「そりゃぁー、5人だけだからね。こんぐらいなら、フグトラと戦えば速攻終わるって」
「ふっ」
考えているうちに、もう倒し終わったらしい。振り向くと敵が既に床に伏していた。
それにしても、メンコは本当に強ぇ。
前々から気にはなっていたが、周りが男なのに、それに混じってぶちのめしたりしていたからな。前世、男だったんじゃねーのか?
「次は三階だね。この調子で行くよー!」
「お、おぅ」
しかし、彼女に背中をボン。と強く押され、危うく転びそうになるが、直ぐに体勢を整えると、俺含めたメンツ4人は、更に上へと目指す。
まぁ。メンコの上下ジャージ姿が珍しいせいもあるか。
普段はTシャツ短パンのラフな格好で乱闘しているのにな。今回ばかりは本気のようだ。
「さて。着いたよー」
「おー。何人いるっすか?」
「ざっと見たところ……、4人か?」
「サクッとやっちゃおっか」
「りょーかいっす!」
「おー」
なので、俺も指先の関節をポキポキと鳴らしながら、敵がいる階段付近へと向かう。
まぁ、高身長のフグトラの背後に隠れながら。だが。
周囲は相変わらず、薄暗いコンクリート製の壁や床に覆われていて、不気味だ。だけど不思議と怖くねぇ。まるでダンジョンの洞窟にいるような感覚だ。
『何だテメェ!? ぐはっっ!』
『おわぁぁあ! 何しゃがんだお前ら! うがっ!』
「大人しく寝ていて下さいっす」
「永眠してろ」
そして、俺は背後から来た半グレに向かって、後ろ回し蹴りを放つと、敵は吹っ飛んでしまったのだ。
この時フグトラとは背中合わせの状態になった感じだが、中々様になっているだろう。
ゲームで言えば『スキル 後ろ回し蹴り』『半グレは数メートル吹っ飛んで、コンクリートの壁にめりこんだ』と言った所だな。
「相変わらずえぐわねぇー。ってオラぁぁ!」
彼女は汚物を見るような目で、敵に睨みを利かせると、そのままみぞおちに一発、ボディフックをかましていた。
『ぐはっ! この女クッソつえええええ!』
「うるさいわね。黙ってくれる?」
『いぎゃぁぁぁぁ!』
そして、敵はあっという間に床に伏せていたが、構成員のヤツら、こんなに弱かった……、か?
「あのよ」
「どーした?」
「ここにいる奴ら、妙に弱くねーか?」
「んー。確かに歯ごたえがない気がするんだよね。小規模にいる奴らの方が、まだ威勢が良かったよ」
「あぁ。何か変だな。まるで屍みたいで……」
「……」
「ヒガンさん、どーしたっすか? 倒れた人ををわざわざ調べて……」
「……」
ふと、ヒガンさんが床に倒れた敵を調べながら、こうボソリと言ってきたのだ。
「もしかしたら、コイツら『ヤク中』かもしれないですね」
「ヤク中!?」
「えぇ。ガタイは良いのに、全く力が入ってないのが気になりまして……」
「……」
「それに、皆さん、どの方も目の光が『死んでる』のですよ」
「おいおい。まじかよ……」
この時、何故か俺は察してしまったのだ。
アジトにいる奴ら、みんな『薬漬け』になった人らではないか。と。
「確かにこれ……、やってるね。薬。しかも、覚醒剤みたいな、強いやつ」
「メンコも、そう思うのか」
「うん。それにしても、ここまで酷いなんて。4階に行ったら、どうなっちゃうんだろう」
「さぁなぁ」
考えたくないが、それよりも早く、アイツを助けねーと。
「確かに俺も殴ってて歯ごたえ無いなぁー。とは思ってたっすよ」
「そーいやお前、タミコから聞いたけど、頬に傷つけられた際、すげー怒って相手をはっ倒したって?」
「あー。あの時っすね。まぁ、俺自身、間違ったことは嫌いな性分なので」
「ふーん」
「それに、相手が未成年であろうと、人の物を盗ったり、他人に危害を加えたら、流石にダメっすよ。俺からしたら『制裁』の対象っす」
「制裁って……」
普段はおちゃらけてるくせに、言ってることが裏組織の住人みたいだな。
って、何を言ってるんだ。俺も十分、フグトラ側の人間じゃねーか。
「さて。行きましょうか。何だか嫌な予感がしてきます」
「ほー。人数が多くなるとか?」
「それもありますが、何故か、下の方が騒がしくなってきているので」
「まじか。とっととタミコを助けねーと」
「そうね。アタシも何だか、嫌な予感がしてくるのよね」
なので、俺達は急いで4階へと向かうために、階段を駆け上って行った。
「はぁ。はぁ」
「あと少しだね。4階は……、あれ?」
「どうしたっすか?」
「誰も……、居ないのよ」
「ええっ!? あ。本当っすね! でも、何で4階に誰もいないんすかね?」
「知らねーよ。俺も聞きてぇ所だ」
しかし、4階へ着くと、何故か静寂な空間が漂っていたのだ。なので、周囲を見渡しても、人の影すらない。
「何だか気味が悪いですね。嵐の前の静けさ。と言いましょうか」
「でも、ラッキーと思って、先に進みましょーよ!」
「ま、そうっすね! 次の階に、タミコさんが居るかもですし」
「あぁ。油断せずに行くか」
だけど、本来の目的は最上階。つまり5階に用があるので、俺達はスルーして階段を上ることにした。
「ここかな」
5階に到着した俺達は、目の前にある『休憩室』と呼ばれる扉を開けようとした。見た目は錆び付いていて、如何にも廃墟の中の部屋と言ったところだ。
――ぐぁああ!
――アヒャヒャヒャァ~!
しかし、下から何故か、聞こえてこないはずの呻き声が聞こえてきたのだ。
「おわぁぁあ!? 下には誰もいなかったはずなのに声がっ! どういう事っすか!?」
そのせいか、フグトラは半パニックになりながらも、何故か俺の背後にしがみついていたのだ。
「ちょっ!? おい! フグトラ! 重いから少しは離れろ!」
「あぁああ! 怖いっすよ! 助けて下さいっす!」
「ったく……」
「折角あと少しだと言うのに。リルド。ヒガンさん。フグトラ」
「何だ?」
「どう致しましたか? メンコ様」
「どうしたっすか!? アネゴォ~」
すると、彼女はハァ。と深いため息をつきながらも、こう言い放ってきたのだ。
「アネゴじゃないっての。まぁ……、アタシの事はいいから、先に行って。そんで、タミコちゃんと合流してきて」
「えっ!? おい! メンコはどーすんだよ!」
「アタシはまだ、暴れ足りないから、下に戻って暴れてくるよ。それに……」
「……」
「アンタらに、後悔させたくないからね」
「何を無茶な! 俺も行くっすよ!」
「相手は『薬を欲しがる』イカれた連中よ。だから、三姉妹から貰ったドーピング薬を『餌』にして、敵を撒いてくる」
「お前も無茶なことしやがって」
「まぁ。ちゃーんと『生きて』帰ってくるから! じゃあ! 早くタミコちゃんに会いに行きなさいな!」
「お、おい!」
しかし、俺の制止を無視した形で、彼女は下のフロアへと消えてしまったのだ。
「ったく。あんのゴリラ女。勝手な行動しやがって……」
「まぁ、タミコさんとは目と鼻の先ですし、早く合流するっす!」
「お、おぅ」
なので、俺は恐る恐る、休憩室の扉を開けることにした。
「オレト、付キ合ッテクダサイ!」
すると、緑色のパーカーで、フードを深く被っている人が、何故かタミコに告白していたのだ。しかも片言で。
「あ。ごめんなさい。私、ルークと付き合っているので……」
「オォー! ルークと! ソレハスマナカッタ!」
しかも、断られたせいか、海外の人みたいなオーバーリアクションをしながら謝っている所を、俺達はタイミング悪く見てしまった。
『……はぁ!?』
そのせいか、俺含めたフグトラとヒガンは、まさかの光景に、思わずフリーズしてしまったのだ。
おい。この状況は何だ!?
先程の緊張した空気はどこへ行った!?
「あっ! ルーク!」
「おいおい。フグトラいる前でその本名を言うのは……」
「オオォ! ルーーーク!」
「おわぁぁあ!? んだよ! 急に!」
すると、緑色のパーカーの人が、俺を見た途端、突然ハグをし始めたのだ。
「19年ぶりダナ。ルーク」
「まさか……、ナイト!?」
俺は思わず双子の兄の名前を言ってしまったが、彼はフードを外すと、ニッコニコの満面な笑みでこう言ってきたのだ。
「ソーデスヨ! ソノ三本傷、忘レモシマセンネ!」
「マジかよ……」
唖然としてしまったが、紛れもなく双子の兄、ナイトだったのだ。
俺と全く同じ癖がついた赤髪で、翡翠色の瞳。色白い肌だし顔のパーツまでも俺とそっくりとは。
だけど、彼の片目には、黒い眼帯が付けられていた。
「んで、なーんで、タミコに告白なんてしてんだよ。バカナイト」
「バカジャナイデス! オレハ至ッテシンケンダ! デモ、タミコサン? マサカ貴女ハ『タミコリュウグ……!』」
「はぁー。それに関しては、私が説明するね」
彼女は話を遮るように、ため息混じりに言うと、呑気にテーブルに置かれたおにぎりをむしゃむしゃと頬張っていた。
「おー。それなら助かるが、何でお前がナイトに攫われたり、告白されたりしていたんだ?」
「まぁ、それには事情があってね……。うん。美味しい」
「待て待て待て待て! 今の段階でも頭の整理が追いつかねぇよ!」
「そーっすよ! まっさかこーんなそっくりだとは思わなかったっす!」
「おおぉ。これぞ、双子の神秘というものですね!」
「あの、三人とも……、話は良いかな?」
『……え、あ、はい』
すると、彼女は呆れた顔でおにぎりを完食すると、こう語り始めたのだ。
「それはね……」




