sideリルド トラウマから救ってくれたのは、アイツや仲間達でした。
「何でお前が……」
「はぁ。それよりもこれ! ちゃんと飲みなよ!」
すると、彼は呆れ気味にため息をつくと、『セレーヌ』とペットボトルに入ったジャスミンティーを差し出してきたのだ。
「あ、あぁ。ありがとう……」
「ったく。また『あの時』みたいに発狂してたじゃん。大丈夫?」
「ま、まぁ……」
「ほんっと、リルドは血の耐性がかなり弱いんだから、気をつけなよ」
「あ、あぁ……」
「それに、君の血を飲むのは『僕が死ぬ時』て決めているんだからさ、勝手に変な薬飲んで死のうとしないでよ」
「何だよ。そのトンデモ理屈は」
「ははっ! まぁ。それよりも、そのクソな薬に手を出す前で良かったよ~」
「どういう意味だ? この散らばったのが『改良版ネクター』って……」
俺は訳が分からずに彼に訊ねるが、それにしてもお前、どうやってここに来たんだ?
「あぁ。だってここ、『製造所』でしょ?」
「まぁ、そうだが……」
「簡単だよ~。ここで『改良版ネクター』を作って、パキりたい奴に売り飛ばして金にしてんだよ。僕達カラマリアにとっては、かなりの営業妨害な訳だけど……」
――ピコン。ピコン。ピコン。ピコン……
「ほー。それで、歩いてる道中に出くわしたゾンビみてーな奴らが、『改良版ネクター』に手を出した末路って事か?」
「大当たり! 流石だねっ!」
「これで当てられても嬉しくねーんだけど……」
だけど、あの時シイラが止めてくれなかったら、俺も廊下で横たわる屍人みたいになってしまっていた。て事だよな。つくづく恐ろしいが……。
ありがとな。シイラ。
俺は感謝の意を込めて、セレーヌをジャスミンティーで流し込む様に飲み込んだ。
「だからさぁ~。今回の件で僕は、こう見えて、絶賛お怒り中な訳よ」
「だろうな」
確かにこの辺は、タミコが言っていた通り、鰒川家がカラマリアに営業妨害を仕掛けている様だ。
それに、前にツブヤキで龍樹君が言っていた『未成年の血や臓器は、穢れがなくてレア』というのも大いに絡んでいる気がするな。
「だってさー。知ってた?」
「何が!?」
「ヤク中になった人の、臓器や血って『売れない』のよ」
「へー。何でだ?」
「それは、みーんな『ミステリーボックス』行きになるからさ!」
「何だそれ?」
ミステリーボックスって聞いたことがねぇな。
それに、薬漬けになった人は『売れない』てどういう意味だろうか。
俺は静かにジャスミンティーを、飲みながら彼の話に耳を傾けていた。
「あ。ミステリーボックスというのは、承認欲求の人の成れの果てさ。単純に言うと『ジャンク品』の事だね」
「つまり、リサイクル出来ずに『廃棄品』、若しくは『中古品』として価値が下がる。ていう事か?」
「そうだよー。だって、臓器売買って元々は『移植を希望する人』が、『穢れの無い神聖な臓器』を買う為に作られたビジネスみたいな物っしょ?」
「……」
「それなのに、今回みたいに薬漬けされちゃうとさ、ビジネスどころか、下手したら『廃業』も有り得るところだったからねー」
「なるほど。つまり、黒幕はカラマリアに『甚大な被害』をもたらした。ていう事か」
「その通り。だから、そのツケはしっかり返して貰わないとね~」
「ふっ」
相変わらず、考え方がぶっ飛んでてこえーけど、こういう所は『闇ブローカー』みたいでちゃんと仕事をしてるんだよな。
俺は感心しつつも、ジャスミンティーを軽く飲みながら再度話を聞く。
それにしても、このお茶、飲んでて安心するな。薬みたいな味がするのに、何だか穏やかな気持ちになって、癖になる。
「にしてもお前、どーやってここに来た? メンコがいくら待ってもおせーって、怒ってたぞ」
「あー。それに関しては、アジトの裏側から窓を突き破って、入ったからねー」
「……はぁぁあ!?」
おいおい。相変わらず変な所から侵入してんな。メンコが聞いたら、また怒るだろうな。
「それに……」
――ピコン。ピコン。ピコン。ピコン。
しかし、さっきからシイラの白パーカーのポケットから、通知がひっきりなしに鳴っている様な……。
「おい。シイラ」
「んー?」
「さっきから話しているのに、通知がうるせーぞ。任務中ぐらいは切っとけよ」
「あー。切ったら、逆に30件ほど鬼電で来るけど、それでもいい?」
「……はぁ。お前なぁ……」
それは流石に、任務に支障が来たしてしまうな。なので、俺は呆れ気味にため息をつくと、再度、ジャスミンティーを口にした。
「それに、通知も100件来る中の80件は真生からの通知だから、安心していいよ~」
「いや。それ……」
安心ではなく、完全なる『束縛』だろそれ。
ま。コイツらにとっては至って普通な日常なのだろうな。俺とタミコとのやり取りだと、到底考えられないが。
「それとね、送ってくる内容もさ。相変わらず可愛いんだよね~。帰ったら愛でたくなっちゃうぐらいにさ~」
「……はぁ」
しかも、コイツもコイツで親バカの愛犬家みたいに、自分の同居人自慢をしてやがる。
「見てみる?」
「うぇえ!?」
すると、彼は平然と、自身の白いスマホの画面を、俺に見せてきたのだ。いや待て。それは流石に駄目な気がするのだが……。
「それはちょっと、相手にも悪いぞ。やり取りを赤の他人に見せるのは……」
「えー! 別に平気だって。レンタルルームでも会ったんだから、知ってる顔だよね?」
「いや。そうだけどよ……」
俺は頑なに拒否をしたのだが、彼は不思議そうな顔で「何で?」と言った表情を、こっちに向けてきたのだ。
何で? も何も。2人だけの濃厚なやり取りを、誰が興味本位で見たいんだ!?
くそ。これじゃあ、さっきまでの幻覚や幻聴で苦しんでいた俺が、馬鹿みてぇじゃねーか!
こういう時は、どう回避すればいいんだ!?
頼む。タミコ助けてくれ!
「あーいたいた! リルドぉ!」
「大丈夫ですかぁぁ!」
「メンコ! ヒガンさん!」
すると、騒ぎを聞きつけてきたメンコ、フグトラ、ヒガンの三人が製造所へと到着したのだ。
「リルドさん、大丈夫ッすか? しっかしこんな所まで一人で……」
「フグトラぁぁ!」
「うわぁぁあ! 何なんっすか!? 突然!?」
俺は現実に戻れたという安堵感が出てきてしまったせいか、思わず泣きながら、フグトラに抱きついてしまったのだ。
「あ。シイラ、先に来てたの!?」
「いんやー。裏側の窓を突き破ってきたよー」
「あのね。廃墟とはいえ、壊したら一応、器物破損になるからね! 気をつけなさいよ!」
「あはは~。わかったぁ!」
「それにしても、こんな所に製造所があったなんて……」
「あ。ヒガンさん。こんばんは~」
「おー。シイラさん。こんばんはですよー。いつ頃からここにいたんですか?」
「ついさっきだよー。真生は三姉妹がいるラボにお留守番して貰ってるからねー」
「まぁ、その方が安心でしょうね。それよりも、『改良版ネクター』が、まさかこんな所で作られていたとは……」
彼はじーっと錠剤を見つめると、朱色のパーカーのポケットからチャック付きの袋を取りだし、指紋が触れない様に回収していたのだ。
「何してんだ? ヒガンさんも……」
「あー。回収して、ドクター越智に渡しておこうかと……」
「そっか。実は俺らも越智さんから『改良版ネクター』と『レシピ』の回収を頼まれてたんだよな」
「ほぉー。恐らく、『敢えて』私達に頼んでいたのでしょうね。サーフェスと、カラマリア、そしてデットプールにも」
「つまり、『同じ目的』で動いていた。という訳か」
「ま。そんな感じですね」
「へー。って事は、とっととレシピを見つけなきゃだよ!」
「それもあるけど、ナイトからの果たし状もやっとかねーと……」
「果たし状? 何それぇ?」
すると、事情を知らないシイラが割り込むかのように俺に訪ねてきたのだ。
そういや、よく考えたらコイツとナイト、雰囲気がやけに似ているんだよなぁ。
変にぶっ飛んでいるところや、やけにかっこいい所とか。
「あー。タミコを助けたければ、アジトにいる敵を全員一掃しろ。だとさ」
「面白そー! でも、『殺したらダメ』だっけ?」
「知らん。そこまでは書いてなかったが……」
「ふーん。あ。そーいや、緑色のパーカーを着ていた人なら、上に向かう所を見た気がするなぁ」
『ぇええ!?』
すると、彼が突拍子も無いことを言い始めたせいか、俺含む4人は驚いて大声を発してしまった。
「けど、雰囲気からして、かなりの『血を浴びてきた』様な感じがしたね。来日するまでの間に何人殺ったんだろー」
「いやいや。シイラさん、相変わらず発言一つ一つが、物騒すぎますって……」
「え? そう?」
「フグトラ、諦めろ。シイラはそーいう奴だ」
「へぇー……。リルドさんも、なかなか大変っすね」
「そーかぁ? もう俺やメンコは、コイツの扱いには慣れちまってるけど……」
「うん。シイラ、元々サーフェスの従業員だったけど、こんな発言とか、ぶっ飛んでたっけ?」
「あー。今のキャラになったのは、カラマリアに入ってからじゃね?」
「そう言われれば、そうかも! サーフェスにいた時は『記憶喪失』だったし……」
「ええっ!? ききき、記憶喪失だったんすか!?」
「そーだよ。フグトラ君。驚いたぁ?」
「ったく……」
それにしても、『改良版ネクター』のレシピが見当たらねぇな。どこにあるんだ?
「この扉、入ってみるか?」
なので、俺は躊躇って開けなかった扉を指さし、みんなに聞いてみる。
「あー。なら、僕が先に入るから、みんな待ってて」
「ありがとな。シイラ」
「ん? 良いってことよ!」
すると、彼が意気揚々と錆びた扉をこじ開け、様子を見るために、中へ入って行ったのだ。
でも、ライト機能を使ってなかったが、大丈夫なのか?
心配になった俺は、彼の後を追いかけるかのようにライトをつけながら入ろうとした。
「あ。ライト付けるの、やめた方がいいよー。特にリルド」
「は? 何でだ?」
「メンコさん、フグトラ君、ヒガンさん」
「どしたの?」
「何すか突然……」
「はいはい。何がありましたか?」
「とりま、リルドに見張りさせといて。その三人は入ってもいいけど……」
「お、おい!」
「まぁ。それって、さっきよりもかなり『悲惨』な状況なのね」
「そういう事。流石の僕でもキツイかもしれないしねー」
「……」
だけど。妙にモヤるなぁ。
あの事があったとはいえ、アイツがキツイと言って頑なに見せようとしないなんて。
それほど、部屋の中が恐ろしい事になっているのだろうな。
「あー。わかった。見張っとくわ」
なので、俺は一度、扉と反対側を向き、敵が来ないか見張ることにした。
それにしても静寂だ。構成員の奴らが何人かいても、可笑しくないだろうに。
「お待たせー」
すると、シイラが片手で黒い重箱みたいな物を抱えて戻ってきていた。
だけど、この静けさといい、まるで物語のご都合主義展開みたいで、ここまでサクサクと行き過ぎている様な。
「案外あっさりと見つかったんだな」
「まぁ。『黒マッシュの奴』がこの重箱、大事そうに抱えていたけどねー」
「……はぁあ!?」
今、なんて言った?
黒マッシュの奴って……、確か、リモート潜入の時に乱入してきて、タミコの事を煽ってた奴だよな?
何であいつがこんなところに?
「はい。画面越しから、龍樹君に扮していた、タミコさんを煽ってた奴に、間違いなかったっす!」
「信じられなかったわね。まさか、ここまで酷い状況になっていたなんて……」
「これは早く潰さないと、益々彼みたいな人達が増えていくことでしょう。現に彼の足元には、『錠剤版ゾンビタバコ』が転がっていたので……」
「……」
確かにシイラの言う通り、見ない方が良かったのかもしれねぇ。今の俺だとまた、崩壊しそうだったから。
「あまり長居しない方が良さそうね。行くよ。リルド」
「あ。あぁ……」
俺は妙に頼もしい顔をした彼女の背中を追うように、製造所から出ると、再び薬漬けで、コンクリートの廊下に横たわる老若男女を睨みつけた。
もう、二度と同じ過ちを犯さない。
あんな薬に手を出そうとした俺自身に叱りつけながらも、仲間と共に、来た道を引き返す事にした。
「それにしても、大丈夫っすか!? リルドさん。顔が青ざめて……」
「あぁ。何とか平気だ。心配かけて悪かったなフグトラ。それと、シイラ」
「ん?」
「さっきは、止めてくれて、ありがとな」
「いいって。でも、止められて、良かった」
「ほーん……」
「んだよ! メンコ! 突然変な顔すんなって!」
しかし、俺の前にいた彼女が突然振り向き、俺らの顔をじーっと見ると、こう言い始めたのだ。
「あー。なーんか、リルドとシイラって、似た者同士のせいか、仲良いなぁーって」
「え!? 僕がリルドに似てるって!?」
「似た者同士って何だ。こんなくっそサイコ野郎のどこが俺に似てんだ!? 1ミリも似てねーぞおい!」
「ちょっと待って!? 僕の事、今サイコ野郎って言ったぁ!?」
「あー! 言った! 盛大に言ってやった!」
「もー。リルドは相変わらず酷いなぁー! 折角こっちが良い事したって言うのに!」
「けどよ……、あの後に地獄のやり取りを見せようとしてきたのは、流石にナシだ!」
「何それ!? あれは僕達の『愛のやり取り』を見せようとしただけだよ!」
「はぁぁあ!? 向こうから一方的に80件ほど通知を寄越して来るのは、どー考えても、完全に束縛だろ。愛のやり取りの欠片もねーじゃねーか!」
「いやいや! 分かってないねぇ! リルド! それが『可愛い』じゃないか! こーんなにも僕の事を一方的に思ってくれるんだよ! 最高過ぎて発狂しそうだぁ!」
「えっと……。お二人共……」
俺達が言い合ってる間をフグトラが、申し訳なさそうになだめていたが、どうも俺とシイラでは『恋愛観』が違うらしい。
「でもさー。リルドもタミコちゃんに対しては、凄い嫉妬と束縛が激しいのよねー」
「はぁ!? おい! メンコ!」
「別に言って良くない? 現に人のスマホ弄ってライムの友達登録していたし、おまけにヒガンさんにも嫉妬してたみたいだしー」
「お、お前それ、今言うか!?」
「ついでに言うと、人の車でイチャコラし始めるわ、敵地でもタミコちゃんと二人きりになってはお熱い関係な様で……。ねぇ?」
しかし、このオレンジ頭の女 メンコが突然、不敵な笑みを浮かべながら、余計な事をベラベラと喋り始めたのだ。
「ちょっと待て。これ以上言ったら……」
「それは……、リルドさん。流石にヤバくないっすか!? 人のスマホを勝手に弄って自分のライムの友達登録しといたとか」
「あははぁ。まさか、私とタミコ様とのやり取りで嫉妬してたんですか? ご安心を。朝にやり取りしていましたが、全然返って来ませんでしたので、完全に脈ナシです」
「いやそれ、ヒガンさんが単純に文字を打つ速度が速すぎて、相手が返信できないだけっす」
「え!? そーなの? ていうかリルド。やってる事、僕とおんなじじゃーん!」
「あー! お前らうっせぇぇえ! 早くタミコを助けに行くぞ!」
俺は照れのあまり、大声で荒らげてしまったが、このクソ女はニヤニヤと笑いながら再度、こう煽ってきたのだ。
「あーらら! 照れちゃって!」
「メンコ! テメェ、後でヤキ入れてやるから覚悟しとけよ」
「あっそ。やれるもんならやってみなさいよ!」
「ちょっとちょっと! こんな所で喧嘩しないでくださいよぉ! お二人共!」
「やれやれ……。メンコさんとリルドは、相変わらず変わらないねぇ~」
『オメーには言われたくない!』
『アンタには言われたくないわ!』
最後は思わず、シイラに向かって、メンコと声を合わせて言ってしまったが、流石にお前には言われたくないって。
なので、呆れ気味にため息をつきながらも着々と進んでいく。
そして、最初の出入口に着いた時だった。
「あそこに敵がいるね」
「あー。ホントだ」
先程いた場所へと着くと、構成員らしき半グレが周囲を彷徨いていたのだ。人数は……、二人か。
「俺、行ってくるわ」
「了解」
なので、俺は息を潜めながらも、指の関節を鳴らしたりして、戦闘準備を始めたのだった。




