物思いに耽っていたら、何故か攫われました。
「……はぁぁああ!?」
思わず大声を出してしまったが、まさかここで『ナイト』さんが出てくるとは。
まるで斜め上から乱入してくるどころか、異次元から情報がやってきたような感覚だ。
『なので、今回私も行こうと思った理由はそこなんですよね~』
「はぃぃい?」
しかし、相変わらず、ヒガンさんの言ってる意味がわからないのですが。
唖然としながらも、スマートフォンからバイブ音が鳴ると、直ぐさま通知を見てみる。
『だって、あのリルドさんと見た目がそっくりな方ですよ!? これはもう、ツブヤキにスカウトしなくては! と思いましてね!』
「あー……」
そうだ。そういえばこの人、『美形好き』の『貢ぎ魔』だった気が。
しかも、好みのタイプがリルドみたいな『異国から来た様な美青年』だった様な。
呆れ気味に溜息をつきつつ、さらに文を追いかけながらもやり取りをしていくが、何でアジトでスカウトをするのだろうか。
純粋に店員の募集なら、タウンワークみたいな冊子に載せればいいのに。
『ちなみにマスターからも、『人手が足りないからスカウトしてきていいぞ』と言われておりまして!』
「わーお」
『もし、スカウトに成功しましたら、私が知っている限りの『アビスに関する情報』を、追加でお伝え致しますので』
「……はぁぁあああ!?」
まさかの爆弾発言に、朝から大声を発してしまったのだ。
もしかしてヒガンさん、現教祖がアビスの構成員という噂以外にも、何か知っているのだろうか。仮に知っていたとしたら、もの凄く知りたいけど……。
その前に、ナイトさんをスカウトする。という無理難題をやらないと。
『なので、アジトで合流した際、是非ともご助力願います! ではっ!』
「……」
そして、嵐が去った後の様に、部屋中が静寂に包まれていた。
「はぁ……」
朝からどっ。と疲労感が倍増している気がする。
しかも、改めて見ると、ライムのトーク画面が、ヒガンさんからの一方通行に近い通知で埋められていたのだ。
さて。この後どうしようか。
一旦、スマホをテーブルに伏せ、色々と考える事にした。
まずはリモート潜入で手に入れたパスワードを、メモアプリに書いておこうかな。
なので、パキりルームで見つけた『30』と『12』、それと、ネクターの箱の中に入っている錠剤の数 『25錠』と、エナドリの種類『12種類』を打ってみる。
「もしかして、これが……」
すると、『3012』と『2512』という数字が導き出されたのだ。
という事は、パキりルームで得た数字が、中規模アジトに入るための『パスワード』になるのね。
それと、この『2512』こそ、限界チャレンジで得た『パスワード』なのだが、まさか、管理人がいるかもしれない、大規模アジトの『パスワード』だったりして……。
「だけど、リルドから送られてきた、この数字も気になるんだよね」
それは、リモート潜入している際、彼が『気になったから送った』と言った、『部屋の背景に貼られた紙』の画像を凝視してみる。
「……ん? 6362?」
すると、微かに文字が映し出されていたが、どこの番号だろう。
まさか、どのパスワードも、16通りの中から一つを選べ。じゃないよね?
だけど、考えても埒が明かないから、リルドに聞いてみよっと。
なので、私はいつもの黒いジャージ上下に着替え、護身用セットとスマートフォンを、ジッパー付きのポケットにしまいつつ、彼の部屋へと尋ねてみた。
――トントン。
「……、あー。タミコか」
すると、リルドが寝ぼけ眼で、頭がボサボサの状態のまま、部屋から出てきたのだ。上半身には西洋物の城が書かれた黒いプリントTシャツを着ていた。
「おはよー。なんか、眠そうな顔してるね」
「うっせー。こっちは深夜まで起きてたから、寝みーに決まってんだろーが。何時だと思ってんだ?」
「え? 朝の9時か10時頃」
「……、まだ寝ていいか?」
「えっと、その前にちょっと、借りたい物があるんだけど……」
「んあぁ!? 急になんだよ! 用があるならさっさと言えって!」
しかし、彼は寝起きで機嫌が悪いせいか、変に声を荒らげてきたのだ。
「えっと、『アレ』を貸してほしい」
「……、まさか、前に言ってた『囮』を二つにする奴か?」
「当たり」
「ったく。朝から何言い出すかと思えば。お前少し時間を考え……」
「……ねね。りるどぉ。だめぇ?」
なので、姑息な策だが、上目遣いをしながら、真生くんの真似をする事にした。
しかも、わざと甘えたような、可愛い声を出しながらやってみたけど、リルドに効くのだろうか。
いや。ちょっと待て。
私、何やってんだろう。恥ずかし過ぎるあまり、早く部屋に引きこもりたくなったんだけど。
「……」
「……」
「……」
「……はぁ」
暫く沈黙が続いた後、彼は片手で顔を隠しながら、軽くため息をつくと、呆れ気味にこう言ってきたのだ。
「……今から持ってくるから、その間、中で待ってろ」
「……え?」
「だから、中で待ってろ。いいな?」
「……あ。うん」
とりあえず、これでいいのかな?
なので、恐る恐る彼の部屋へと入ると、彼は棚から例のブローチが入った箱を取り出し、私に渡してきたのだ。
「これ。囮とは言ったけど、どー使うかは、お前に任せる」
「あ。ありがとう……」
しかし、彼はベットの端に座ると突然、隣へ来い。と合図をしてきたのだ。
「それと……」
「……!」
そして、隣に座った途端、彼が私の肩を抱き寄せ、頭に軽く口付けを交わすと、こう耳元で囁いてきた。
「さっきの顔、俺以外に見せんじゃねーよ。分かったか?」
「……は。えっ!?」
突然だったせいか、何が何だか分からないまま、私はその場で固まってしまったのだ。
「さて。俺は寝る。あと何か伝えることがあれば……」
「じゃあ、これ」
なので、私は近くにあったガラスのテーブルに、自分のスマートフォンを置いてみることにした。
「……は? 何の冗談だ?」
「この中に、中規模と大規模のアジトに入れる『パスワード』を書き込んであるの」
「それ、なんで俺に?」
「でも、そのパスワードは、『16通りのうちの一つ』だから、一々回してたらキリがないと思うの。そこでね……」
そして、私は耳元で囁くように、戸惑う彼にある事を伝えたのだ。
「……は?」
「それと、スマホのロックは全部解除してあるから、いつでも弄れるよ。あと……」
「……あと、何だ?」
「私が居なくなっても、越智さんから頼まれた任務だけは、メンコさんと共に、きちんと遂行してね。じゃあ……」
と一言残し、驚く彼を置いていくかのように部屋を後にしたのだ。
本当は心苦しいけど、ゴエモンさんからの任務を遂行するためにも、心を鬼にしなければ……。
*
「さて。コンビニに行って、抹茶ラテでも買って、飲もうかな」
なので、私は部屋に行ってジャージの胸元にブローチを装着したのだ。
これで、囮は『二つ』になった。
あとは普通にコンビニに行けばいいだけ。
なので、黒い長財布を持っていくと、サーフェスから出て地上へ上がり、物思いに耽りながら、エイトレイブンで抹茶ラテを手に取っていた。
それにしても、朝のコンビニは、とても賑やかだ。
仕事に向かう途中のサラリーマンやOLが多くいて、私みたいな、高そうなブローチを付けたジャージ上下のアンバランスな格好の人はいなかった。
でも、『囮』だから格好はどうでもいいだろう。そして、現金で抹茶ラテを購入し、少し歩いていた時だった。
「わっ!」
突然、何者かに口元をハンカチで押さえつけられ、目の前が真っ暗になってしまったのだ。
薬品特有の匂いが鼻についたが、大丈夫。ここまでは『計算通り』だから。




