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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(リモート潜入)
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潜入終了後は、かなりの脱力感がありました。

「はぁ……、もう、演技しなくても、良いんだよね?」


 やっと現実に戻れた気がした私は、思わずフードを脱いで、一安心してしまった。


 強制的だったけど、かなり助かったかも知れない。あのままネクターに手を出していたかと思うと、背筋が凍ってしまう。


「ったく、何処まで無茶するつもりだったんだ。お前まで病院送りになる所だったぞ」

「ごめん。リルド。なかなかリモート……、切れなくて……」


 私は何とか答えながら、床から立ち上がったのだが、立った際、立ちくらみをしてしまって、ソファに座り込む形になってしまった。


「まぁ。変なとこで引き止めた黒マッシュが悪いから気にすんな」

「だだだ、大丈夫っすか!? 二人とも!」

「フグトラさん!」

「わりぃ。フグトラ。お前の制止を無視して部屋、飛び出しちまって……」

「もーっ! ビックリしましたっす! まだ相手と繋がってる。と言うのに、リルドさんったら、即座に部屋を出て行っちゃって、大変だったんすよ!?」

「あはは……」

「でも、あれはやばかったな。タミコの手も震えていたから、余計、見ていられなくてな」

「リルド……」


 だけど、あの時彼が遮断してくれなかったら、私は今頃、イカれた熱狂の中に飲み込まれていたのかもしれない。


 そんな『もしも』を考えるだけでも、胸や頭が痛くなってくる。


「だけど、限界チャレンジを見てて分かったことが、一つだけある」

「え?」

「あれ、一度乗っかったら、どちらかがぶっ倒れるまで、『永遠とチャレンジを繰り返す』様になっているみたいだな」

「ええ!?」


 何、その嫌な永久機関みたいなシステム。

 もしかして、あの最初に出てきた地雷女子も、私と対戦する前に、既に別の人とも対戦していたって事だよね!?


 って事は、リルドみたいに、現実世界で止める人がいないと、あの地雷女子みたいな末路になってしまう。っていう事も有り得た。と。


「それって、つまり、『大元のサイト自体』を潰さない限りは、この『匿名の語り場』『パキりルーム』『限界チャレンジ』は消えないって事っすか!?」

「恐らく、その3つの『付属コンテンツ』を含めて、『ドラックルームスープ』というサイト名なのだろうな」

「なるほど……」


 私はリルドの話を朧気ながら聞き、エナドリ(中身はメロンサイダー)で乾いた喉を潤していたが、これも『偽』で良かったのかもしれない。


「さて、一旦私達もゴエモンさんに報告しとかないとね」

「そーだな。じーさんも心配してるだろうよ」

「ま。そーっすね。だけど、早いところ中規模のアジト倒しておかないと、益々、珊瑚町がゾンビタウンになるっす!」

「フグトラ、それは分かるが、早とちりしてもダメだ。慎重に対応していくぞ」

「うん。今日は二人とも、ありがとう。特にフグトラさん、レンタルルームやらミラーリングやら、サポートありがとう」

「いえいえ。何かあったら、また俺らを呼んでくださいっす!」

「あぁ。頼りにしてんぞ」

「はいっす! では! ヒガンさんに報告して来まっす!」


 そして、フグトラさんはレンタルルームを後にすると、私とリルドの2人きりとなってしまった。


「さて、俺らも帰るか」

「……」


 だけど、先程の事があってか、私は妙にぎこちなさを感じてしまった。

 あの、彼の狼みたいに、スマートフォンを睨みつけていた翡翠色の眼と、伏せた右手の圧を。


 なので、彼にパーカーを返しながら、預かっていた自身のジャージを着ようとしたけど、それをソファに置いた私は……


「……は? どーしたんだ急に」

「……」


 咄嗟に彼の黒いTシャツの裾を握ってしまったのだ。しかも、背の高い彼を見上げる形で、こう言ってしまった。


「……今、ものすごく不安なの。色々あったからね」

「……」

「だから、少しだけの間でいいから、私を抱いて」

「……!」


 言った手前、驚いてしまったが、あの地獄のリモートから生還できたのも、彼のパーカーのおかげでもあるんだ。


 だから、ほんの少しだけでもいい。彼の事を……


「……こっちに来い」

「え!?」


 すると、何故かパーカーを全開にした状態で、私に手招きをしてきたのだ。


「ったく。何言い出すかと思えば。まさか、フグトラがいない隙を狙って言ってみたのか?」

「いや! そういう訳じゃ……」

「ふっ。まぁいい。特別な」

「……うん!」


 なので、暫くの間、私達は暗いレンタルルームの中で、互いに抱きしめ合っていたのだ。


 何だろう。心音を聞くだけでも、生きてる。て、安心する。






「……はっ!」

「もう、気が済んだか?」

「あ。うん。早く戻らなきゃ……」

「そ、そう、だな」


 お互い気まずくなりながらも、一旦距離をとると、私はソファに放り投げたジャージを手に取り、チャックを上まで閉める。


 そのついでに、ガラステーブルの隅に置かれた中規模アジトの地図も拾い、小さく折りたたむとジャージのポケットの中へとしまった。


 何だろう。ここ最近、リルドと距離がやたらと近い様な気がするけど、ひとまず帰らなきゃ。


 なので、私と彼はレンタルルームの延長分だけ、窓口で支払うと部屋を後にし、サーフェスがある雑居ビルへと戻る。


「……」

「……」


 道中、かなり気まずかったせいか、無言で事務室へ帰還すると、グソクさんがじーっと私らを見るや、こう訪ねてきたのだ。


「お? お二人共。何かありましたかな?」

『うぁあっ!?』


 二人揃って変な声を出してしまったが、彼は黒縁メガネをクイっとかけ直しながらも続けて言い始めた。


「そんなに驚くこと、ないですぞ? ワイはお化けではないのですからな! デュフフフフ!」

「いやもう……」


 怖いというより、今、深夜ですよ。

 こんな夜遅くまで何をしていたんですか。

 しかも、電気真っ暗にしながらもグソクさんはパソコンに齧り付いてたのに、突然声をかけてきたら、流石に驚くって……。


 内心戸惑いながらも、彼と話してみることにした。


「そーいや、リモート潜入で何か分かったことがありましたかな?」

「あー。あのサイト、『匿名の語り場』や『パキりルーム』『限界チャレンジ』の3つは『付属コンテンツ』だということが分かった所だな」

「ふむふむ。それなら確かに、語り場の方を新規停止にしても、残り2つさえ起動していれば、運営に支障はないですな」

「そうそう。そこでよ、グソクさん」

「何だね? 改めて」

「この前、メンコに『大元のサイトが潰せない』と言っていたのって、この『クソコンテンツ』が邪魔してたのが原因だった。てことか?」

「流石ですな。その通りですぞ」

「なるほど……」


 つまり、あの2つを潰せば『大元のサイト』が潰れる仕組みになっている。という事か。


 グソクさんが前に話していた



『いやいや。ワイのハッキングでもなかなか入れないほど匿名性が強くてですな。下手したらこっちがウィルスで壊れて動けなくなる状態になるんですぞ』



 この意味が分かってきたのかもしれない。


 それにしてもこのサイトを作った管理人、匿名性を強くしたり、ハッキングされないようにウィルスをばらまいたり。


 相当面倒臭いことをしているよね。どんだけ潰されないように、必死になっている事やら……。


 って、もしかして!


「あの。グソクさん!」

「んお? どーしましたかな? タミコ氏?」

「この匿名性の高さ、邪魔されないようにコンピューターウィルスを撒き散らすのって、『営利目的』だったりしますかね?」

「おいおい。まさか、あのサイト自体が『鰒川家の資金源』って事か!?」

「そうなると、確かにここまでセキュリティをガチガチに高くしているのも、納得ですがな」


 グソクさんは再び、黒縁メガネをクイッと上げると、こう説明をし始める。


「まぁ、大まかに説明しますぞ。ヨーチューブみたいな大手動画サイトでは、チャンネル登録や視聴数に応じて『広告収入』が付くのですぞ」

「広告収入?」


 私は思わず首を傾げた。

 それって、パキりルームみたいに、動画を上げれば上げるほど、管理人に収入が入る仕組みなのかな。


「いわゆるテレビのCMと同じで、管理人が何もしなくても、簡単に儲かる仕組みになっていましてな」

「へぇー……」

「おや? 知らなかったのですかな?」

「……あんまり」

「要するに、奴らも同じ手法を使い、闇サイトを『シノギ』にしているのですな。まぁ、頭が薬でいっぱいの人間を、『稼ぎの駒』として扱うには、うってつけでしょうな」

「そういえば、画面を開いたら派手な『バナー』があって、指でタップしたら入れたんです」

「実は、バナー経由でのアクセスこそ、『広告料』として、あっちに金が入る算段なのですぞ!」

「そうか!」


 匿名の語り場が新規停止しても、『2つ』だけあれば、十分に儲けられる。て事ね。


 まるで悪徳商人みたいな、敵の策の巧妙さに、思わず頭を抱えてしまった。


「ねぇ。グソクさん」

「何だね? タミコ氏」

「恐らく鰒川家の『シノギ』は、それだけではないと思う」

「もしや、広告収入以外にも、何かあるということですかな!?」

「はい……」


 なので、私は今まで経験してきた事も踏まえて、導き出した答えを言ってみることにした。


「薬って『儲かる』から、それを元に、溜まり場の人に、安値で売りつけているんだと思うの」

「なるほどですな」

「それに、カラマリアは『臓器売買』の組織でもあるでしょ。だから、『薬漬け』にして『人間』という商品そのものを、ダメにしてしまえば、カラマリアの『裏』利益を落とすことができる」

「それで鰒川家はカラマリアを狙ったと!?」

「そう、なります。私の推測の範囲。ですけど……」

「おいおい。タミコ」

「ん? どうしたの? リルド」


 ふと、彼が翡翠色の目でこちらを見ながら、驚いた表情でこう言い始めたのだ。


「お前、そこまで考えていたのかよ。怖すぎて引くんだが……」

「いやいや!? 怯えなくていいからね!」

「はは。冗談だ。気にすんな」

「はぁ!?」

「まぁ。単純に言えば『お前が敵に回らなくて良かった』てとこだな」

「何それ。褒めてんの? 貶してんの?」

「褒めてんだよ。ばーか」

「もうっ!」

「ハハハ。相変わらず仲がいいですな~。羨ましい限りですぞ!」

『グソクさん!』


 再び声まで揃って言ってしまったが、メンコさんに続いて、グソクさんまで茶化さないでよ。もう……。


 私は呆れ気味にため息をつきながら、焦げ茶色になった髪を掻き、視線を床に落としたのだ。


「さて、もう寝た方がいいな」

「そーですな。あ。それと、タミコ氏」

「はい?」


 すると、グソクさんが私に手招きをすると、こう伝えてきた。


「ゴエモン氏がお呼びですぞ」

「え!?」

「実は、タミコ氏と二人きりで話がしたい。と言ってましてな」

「わ、分かりました」

「まぁ、手短になると思うので、安心していいですぞ」

「は、はい……」


 時刻をみたら、深夜の2時を回っていたが、何だろう。二人きりでの話って。


 かなり気になった私はグソクさんとの話を終えると、リルドと別れ、シークレットルームへと入った。


「失礼します」

「おー。よく来たな。おかえり。タミコ」

「あ。えっと……」

「急に呼び出してすまなかったな。実はな、今回の一連の狙いは、確実に『カラマリア』が大きく絡んでいる事が分かったのでな。そこで、だ」


 すると、彼は眉間に皺を寄せながら、愛用の電子タバコを加え、ふぅーと吹くと、こう切り出してきたのだ。


「方法は何してもいい。敵味方を『全員』騙せるか?」


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