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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(リモート潜入)
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リモート潜入は、思ったより難航しました。

「さてと……」


 アプリをタップすると、何故か突然、こんな画面が出てきたのだ。



『パキりルームへようこそ』



 まさか初めから、パキりルームへ入れると思ってなかった私は、恐る恐る派手なバナーをタップする。


『うひょぉー!』

『キマッテテサイコォぉぉ!』

「……」


 すると、いきなり目の焦点が合ってない人達の画面が、10分割ほど現れ、お互いに飲み合っていたのだ。


『エナドリ何本飲んだ?』

『あたちぃ? うーん。実は今飲んでるの、チューハイなんだよね~』

『チューハイか! いいよな!』

『うんうん! それと、ネクター30錠飲んだから、チョーゼツパキリ中なんだぁぁ!』

「……」


 30錠。と。もしかしたら暗号に使えるかな。頭の中でインプットしながらも動画を見続けることにした。


『あっ! ドラゴン君じゃん! おひさぁ!』

『やっほー! 久しぶりぃ!』

「……お久しぶり、です!」


 すると、私の方に気がついた人達が、馴れ馴れしく声をかけてきたので、低い声を出しながら対応してみた。


 ていうか、ここでは『ドラゴン君』って言われていたんだ。龍樹君。


『暫く音沙汰なかったけど、元気だった?』

「まぁ。受験で忙しかったんだ」

『そっか! じゃあ、今は終わってホッ。としているところなんだね!』

「うん。だから僕は今、エナドリを飲んで、補給しているところだよ」

『さすがぁ! じゃあ、今日は大いに楽しもうね!』

「うん!」


 実際は『パスワード』をもらいに潜入しているだけだし、私自身は24歳だから、受験でも何でもない。肝心の本人は現在入院中だ。


 そう思うと、この子らを軽く騙しているよね。私。でも、『パスワード』さえ拾えれば、このサイトとはおさらばだ。


 リモート越しから見えてくるが、外にいる何人かは、道路で薬を飲みながらハイになってキスをし始めたりと、かなり異常な空気になっていたのは確かだ。

 まるで、お互いに自分の世界を見せつけ合う様に。


 だから、ヒガンさんの言う通り、『無駄な情報』は要らない。『数字だけ』を頼りに見るんだ。


『そーいえば、エナドリ何本飲んだの?』

「今は、6本目かな」

『すごっ! めっちゃ耐性あるじゃん!』

「そっかなぁ……」

『うんうん! この調子でいければ、『限界チャレンジ』できそうだね!』

「なるほど。頑張ってみるよ」

『応援してるね! ドラゴン君!』

「はははっ! ありがとう」


 よし。今のところ、バレてないかな。低めの裏声が功を奏しているみたい。

 でも、気を抜くとすぐ話を振られて矢継ぎ早に質問してくる。まるで真生くんと話しているみたいだ。


 しかも、6本も飲んでないのに“飲んでる風”を見せる必要があるのが難しいところ。

……よし、数字を探しつつ、表情は演技をして隠す。やってみよう。


「ところで、そっちはどのぐらい飲んだの?」

『あたしらぁ? んーと、忘れちゃったァ!』

『俺はぁー、最高にパキってるから教えちゃうけど~、今、エナドリ12本目だよー』

「12本!? それまたすごいな!」

『だろぉ~。最っ高に気分がいいんだ! ヒャァホォー!』

「……」


 確かに龍樹君が即座に退出したのも分かる気がする。これはものの数分で閉じたくなる勢いだ。

 12本なんて、軽く致死量を超えているじゃないか。



――ブーッ。ブーッ



「……ん?」


 ふと、ソファに伏せた状態にしていた、私の方のスマートフォンが鳴っていた。

 なので、バレないように横目で操作すると、通知はリルドからだった。



『今さっき、画面を見ていたら、こんなのが映ってたけど、使えそうか?』



「これって……」


 すると、ライムに送られてきた画像を見ると、それぞれ部屋でパキっていた子の背景に、数字が書かれた紙が貼られていたのだ。


 あれ? 雑談の中にある数字じゃないのか?


 だけど、気になった私は


『ありがとう。引き続き、気になった数字があったら送って欲しい』


 と返信し、リモートへと戻った。


 さて。次はどうやって、限界チャレンジへ進めようか。

 今のところ、雑談の中で見つけた数字は『30』と『12』だ。自分が言った6は、恐らく含まれてないだろう。

 だけど、リルドが見つけた『部屋の背景に貼られた紙』が、かなり気になるなぁ。



――ブーッ。ブーッ。



 まただ。横目で見ながら私のスマートフォンの画面を見ると、彼がこんなメッセージを送ってきたのだ。



『にしてもよ、画面の中、あのバカップルみてーだな。カヲスな空間ばっかで変に気を取られそうだ。とにかく気をつけろよ』



 あはは。

 思わず吹き出しそうになったが、確かにリモートの画面を見ると、青白い舌を出して見せあっていたり、はしゃいでいたり。


 中にはとち狂って、首をブンブンと振り回してハイになっている人もいるぐらいだ。

 私は手汗を握りしめながらも、紫色の偽エナドリを手にし、片手で震えを演出すると、軽く飲んでみた。


 うん。味は普通の『グレープサイダー』だ。

 エナドリ特有の甘ったるい味はしなくて、無駄に爽快感が強い訳でもないから、これなら何杯でも飲めそう。


 それと、いよいよ『偽ネクター』と、普通のも出してみようかな。

 実はドラックストアに立ち寄った際、リルドに内緒で、試しに一箱買ってみたんだよね。

 これと偽ネクターを併用して混ぜれば、何とか大丈夫そう。


『ねーねー。ドラゴン君!』

「は、はい!?」


 突然、呼ばれたので思わず裏声で返事すると、画面越しから、地雷系の服を着た黒髪の女の子が、ニコニコ笑いながらこう言ってきたのだ。


『あたしとぉ、限界まで、飲んでみる?』

「限界まで?」


 まさか、ここから『限界チャレンジ』に行けるのか?

 それにしても、この子の目、焦点が合ってないなぁ。笑ってはいるけど、水槽の奥底みたいに冷たい。

 真生くんみたいな無邪気な感じでは無く、死に場所を求めているような、乾いた笑い方にも見えてしまった。


「いいですよ。何でチャレンジする?」

『どうしよっかな。エナドリとネクター『併用』で、どこまでイケるかやってみる?』

「面白そうだね。いいよ」

『やった! じゃあ、あたしから行っくね~!』

「……」


 私は軽く頷くと、画面越しにいる少女は、一心不乱に包装シートからネクターを取り出すと、まとめて口に放り投げたのだ。


 は、はぁぁ!?

 真生くんの時も驚いたけど、何この子。躊躇なく10錠を口に放り込んだとか、正気!?


「じゃあ、僕も……」


 だけど、私も『ドラゴン君』を演じながら、偽ネクターと通常のネクターを5つずつ空けると、何故か、手の震えが止まらなくなっていた。


 大丈夫。大丈夫。半分はただの『ラムネ』だから、沢山飲んでも平気。うん。


 そして、自分に言い聞かせるように、覚悟を決めると、それらを一気に飲み込み、無理矢理偽エナドリで、体内へと流し込んだのだ。

 だけど鎮痛剤を、こんな変な飲み方で飲むとは思ってなかったなぁ。本来なら痛みの緩和とかに使ったりするのに。


『うぉおおお! そっちもやるじゃねーか!』

『しかも、薬をエナドリで飲んだよ! こえええ!』

『でもまだ初めだよな? まだまだいけるって!』

『そーだよね! このままどんどん行っちゃおっ!』


 一方、画面越しにいるオーディエンスはというと、見た目はゾンビの様な、パキッた人達の熱狂の渦に包まれていた。


「……ふぅ」

『あはは! やるねぇ! 次も行くよぉ!』

『おおおお! いけいけ!』

『いっき! いっき!』


 そしてまた、彼女は10錠、一気飲みをし始めると、オーディエンスの歓声もまた、異様な物になっていたのだ。


『おおおー! いったぁ!』

『いけいけ! ドラゴン君も行けるだろ?』

「あ。うん……」


 なので、私もまた、偽ネクターと併用する様に、敢えて本物のネクターを5錠程にし、偽ネクターを20錠にして噛み砕くように飲み込んだ。

 実はこれ、龍樹君の飲み方を真似して、自分なりにアレンジしてみたんだよね。


 彼の場合は『5錠残して』いたけど、私の場合は『5錠飲んで』他は偽ネクターで誤魔化す。ていう形でね。


『おおっ! 砕いた! 舌はどーなってる!?』

「……」


 すると、一人のオーディエンスが興味津々で声をかけてきたが、噛んだ瞬間、砂を口に入れた様な感覚がして、気持ち悪くなってしまった。

 だけど、偽エナドリで一気に流し込むと、少し黙った後に、画面に向かって舌を出して、相手に確認させた。


『おおお! すげーなぁ!』

『なかなかやるじゃーん! でもね、あたしもまだまだイけるんだぁ~!』

「……」


 対戦相手の女の子はというと、飲んだネクターの他に、机の下から見たことの無い電子タバコみたいなものを、取り出してきたのだ。


 おいおい。まさか……。


『えへへぇ! まだまだパキっちゃうんだぁ!』


 そう言い残すと、彼女は突然、電子タバコにネクターを何錠か詰め込み、それをスイッチで押すと一気に吸い込んだのだ。


 まさか、こんなところで錠剤版ゾンビタバコが出てくると思ってなかった私は、唖然としてしまった。

 もうこれ、単純な飲み比べではなくなっている気がするんだけど。


 これじゃあ『如何にパキれるか』のパキりチャレンジになっている気がして……。


『うひょひょひょ! コレコレ! あーーっ!』

「……」


 彼女はそのタバコを吸った途端、突然奇声をあげて発狂し始めたのだ。


 何だろう。怖すぎるんだけど。

 この後どうすればいいんだ?

 まさかの展開に、戸惑いが隠せない。


 もしかしてアンナさんもまた、こんな状態になるまで、飲んでいたのかな。


 なので、再度、本物のネクターを出そうとした時だった。



――ブーッ。ブーッ。



「はっ!」


 ソファに置いた私のスマートフォンが鳴り、画面越しの人間にバレないように通知を見ると、こう書かれていたのだ。



『無茶だけはするなよ。万が一、危なくなったらリモートを切れ。いいな?』



「あぁ……」


 思わず泣きそうになったが、画面越しの人にバレないよう、私は唇をかみしめながらも、フード越しから画面を凝視する。


 そうだ。この雰囲気に呑まれて、危うくネクターを手にするところだった。


 でも。数字って、何処に……、ん?


 ふと、流れてくるチャットの中に『ネクターの箱の中に入っている錠剤の数』と『エナドリの種類』と書かれた内容のが見つかったが、意味、あるのかな。一応メモアプリに記入してみるかな。


 なので、相手に悟られないように、机の下に忍ばせた私のスマートフォンのメモアプリを起動し、書き込んでみた。


 何かしら、ヒントになればいいけども。



――ブーッ。ブーッ。



 ふと、再度通知が来たので、横目で見てみると……。



『おい! タミコと相手していた女、様子がおかしいぞ!』



 何故か、『ミラーリング』で見ていたリルドから不穏な連絡が入ったのだ。


「えっ!?」


 なので、急いで画面を見てみると……。


「何これ……」

『わぁぁ! 相手、ぶっ倒れたぞ!』

『やべぇぇ! おーい。生きてるか?』


 彼女は青白く、全身を震わせながらも白目を向き、画面からフェードアウトしてしまったのだ。


 あれ。一瞬みんな動揺してる。

 そのせいか、対戦相手の部屋の壁に書かれた数字がはっきりと見えたのだ。『12』と『25』が。


 よし。後は離脱するだけ。そう思ってリモートを切ろうとした時だった。


『おい。ドラゴン君。まさか、逃げる気か?』

「はっ!」


 今度は口元は黒いマスクをしていて、黒いマッシュ頭の男性が、私の方へ凝視しながら、続けてこう言い放ってきたのだ。


『自分が勝ったからって、相手を置いて逃げんのか? ぁああ?』

「それは無いです! はい!」

『ならいい。もっと楽しもうぜ。ドラゴン君』

「……」


 まずい。リモートから抜けれなくなってしまった私は、慌ててリルドへ連絡しようとした。


『さぁ。今度は君の番だよー。幾つ飲む?』

「……」


 しかし、連絡する隙も得られず、仕方なくある提案をする事にした。


「エナドリとネクター、併用で」


 かなり緊張したが、とりあえず、目の前にいる黒マッシュを潰せば、今度こそ、この地獄のリモートからおさらばだ。


『おー。おっけー。さっきの女、飲み比べより『快楽重視』だったからな。あれじゃあ勝負にならねぇよな』

「あはは……」


 確かにそうだ。まさか相手が『錠剤版ゾンビタバコ』を持ち出すとは思ってなかったのもあるが。


「まず、先にどうぞ」

『おー。さて、いくか』

「……」


 すると、黒マッシュ男は、いきなりネクターを20錠取り出すと、それを口に含んでラムネ感覚でボリボリと食べ始めたのだ。


 もうヤダ。何この地雷の進化系は。ラムネ感覚で薬を食べる人、初めて見たんだけど。

 唖然としていたが、今度は自分がやらなければ……。


 なので、私は意を決し、ネクターに手を出そうとした時だった。



――バンッ



「……えっ!?」


 ふと、スマホの画面が、強制的にガラスのテーブルに伏せた状態になっていたのだ。しかも、私の目の前には、別部屋にいたはずの、リルドが恐ろしい顔をしながらスマホを睨みつけていた。


「どうした……、の!?」


 そして、彼はそのまま、龍樹君のスマートフォンの電源ボタンを長押しし、シャットダウンさせると、私にこう言ってきたのだ。


「これ以上はダメだ。数字は十分、集まっただろ?」

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