朝帰りのドライブは、思い出溢れる時間でした。
「えっと、もしもし、ゴエモンさん?」
私は器用にスピーカーに切り替えると、みんなに聞こえるように、電話対応をすることにした。
『おー。タミコか。無事に任務は完了したか?』
「はい。リルドもメンコさんも。無事です」
『なら良かった。それと、お前らのおかげかもしれねーが、近くに彷徨いてた半グレ連中がいつの間にか消えていたぞ』
「おっ!」
「よっしゃ! これで俺は寝れ……」
「ありゃりゃ……」
しかし、彼は余程疲れてしまったせいか、隣で私の肩を枕にするようにして眠ってしまったのだ。
『ったく。リルドのヤロー、疲れて寝ちまったのか』
「そうみたいです。あはは……」
「まぁ。人一倍頑張って倒していたみたいだし、かなり疲れたんだと思うよー」
「私、どうしよう……」
結局一人しか倒してないんだけど!?
しかも、メリケンもどきの鎖を巻き付けた右手でグーパンしただけだし。
でも、メンコさんやリルドはやっぱり、凄いなぁ。私もバッタバタ人をなぎ倒せる程強くなりたいけど、これだと限界なのかな。うーん……。
「タミコちゃん?」
「え?」
ふと、運転しているメンコさんが、ルームミラー越しから声をかけてきたのだ。
「強さって言うのはね。力だけ有り余っても、ダメな事があるのよね」
「……」
「力より大事なのはね、心なの」
「心。ですか……」
「そう。心の芯がブレずに、きちんとしている女の子の方が、私は強いと思うけどね~」
「メンコさん……」
そういえば、ミオ君やカンナちゃんにも言われた様な。
ふと、我に返った私は、赤く残った鎖の痕が付いた右手を見て、ふぅ。と一つ深呼吸をしたのだ。
『よく言ったな。メンコ』
「え!? もしかして、聞いちゃってました?」
『ったりめーだろ! 通話中だからな! 全部聞こえてたぞ!』
「あはは。そうでしたね。師匠」
『おいおい。ワシは師匠ではねーぞ』
「……」
『それと、タミコ』
「はい」
『ありがとうな。改めて礼を言う』
「いえ。私はそんな……」
『そんじゃ、帰ってきてから、報告頼むな』
「了解ですよ。師匠」
「分かりました。ゴエモンさん」
――ブツッ……。
こうして通話は切れてしまったが、改めて私は、『心の強さ』を大事にしようと誓ったのだ。力だけじゃ解決できない物もある。と。
「それにしても、メンコさん、やっぱり強いですよね……」
「まぁーねぇー。でも、アタシが育った家はすーっごく厳しくてね」
「厳しい?」
「そそ。厳しい掟ばーっかりあったから、友達という友達が出来なかった時期があったのよ」
「そうなんですか……」
「で、その時にできた親友が、『アンナ』だったんだよね」
「えっ!?」
思わず声をあげてしまったが、そういえば、前にリルドが言ってたなぁ。メンコさんの家、実は武闘系の生まれだとか。
「しかもねー。出会った場所もめーっちゃ驚くよー!」
「どこでその、アンナさんと……」
「実はねー。出会ったのは、『海横の溜まり場』って言われていた所なんだよね」
「えええっ!?」
驚きのあまり、隣でリルドが熟睡している傍らで大声を発してしまった。
実はキルマイ騒動後に、グソクさんから聞いた話になるが、この大都会 新海の中にある珊瑚町には、海浜ホテルと呼ばれているホテルがあり、そこの横には、若者達が溜まりやすい空き地がある。と。
なので、そこに『溜まり場』として、若者やら色んな界隈の人達が集まり、夜な夜な騒いでいるという。
そして、海浜ホテルの横にある溜まり場。て事から『海横』と呼ばれているんですぞ。て聞いたけど、まさか、メンコさんが……。
「あははー。驚いちゃったでしょ? あそこでは夜な夜な、ODをやってる連中が、今でもいるほど、治安が悪い場所なのよね~」
「ですけど、何でそんな所で……」
「実は、あの時、親に反発して、家出したんだよねー。16歳の時。だね」
「16の時……」
「その時、勢い余って溜まり場に来ちゃってさー。勿論、知ってる顔もいないし、友達もいなくってね」
「えぇ……」
「その時に、声をかけてくれたのが、『アンナ』だったんだよね」
「……」
彼女は運転しながらも淡々と出会った頃を語っていたが、本当は思い出すことも相当辛いはずなのに。
だけど、隣ではリルドは楽しい夢を見ているのだろうか。すやすやと子供のように、微笑みながら眠っている顔が、どこか平和的で可愛らしい。おまけに私の左肩に頭を乗せて。だ。
そういえば、私もまた、『秘密』を抱えているんだった。一部の『ナル計画』や『天海愛華』の事。そして、忘れかけていた『過去』の事など。ゴエモンさんには未だに口止めされているが、それらも何れ、言う時期が来ると思うと……。
「あの時お腹空いててさ、所持金もここに来るのに使い果たしちゃったから、食い凌ぐのにも大変だったなぁ……」
「そこまで!?」
「そーよー。それに私、珊瑚町の人間でも無かったからね」
「えっと、何処から!?」
「地方。とだけ言っておこうかしら。家もどこにあったのか、もう忘れちゃったけど」
「は、はぁ……」
それにしても、メンコさん、元々は『家出少女』だったのは驚いたなぁ。
だけど、今日に至るまで、よく生きてこれたよね。私だったら果たして生きていけたのだろうか。
でも、家との確執。不思議と何だかわかる気がするのは何だろうか。
「だけど、ある日のこと、いつも通りに溜まり場に行っても、『アンナ』の姿を見かけなくてね」
「……」
「その時に溜まり場で出来た友達に聞いたら、『あの子ね、限界チャレンジをやったら死んじゃったよ』て、あっさりと言ってきてさ」
「……」
「聞いた途端、嘘でしょ!? て思ったよ。アンナには、溜まり場で暮らすための衣食住の事とか、色々教えて貰ってたからさ」
「そうだったんですか……」
「それに、あの時はどうやって生きていこうか。ものすごい葛藤したね。アンナの後を追って死にたいって思ってもいたし、『どうやったら死ねるか』とも模索していた事もあった」
「……」
「だけど、その時に声をかけてくれたのが、師匠である、『ゴエモン』さんだったの」
「ゴエモンさんが……」
「そう。実はゴエモンさん、『ドラックルームスープ』というサイトを追っていたみたいでね。『共に復讐をしないか?』て持ちかけてきたの。衣食住も提供してやる。とまで言ってきたのよ」
「凄い……」
そんな展開があったなんて、心底驚いた私は、思わず目がまんまるくなったのだ。
それにしても、ゴエモンさんも凄いなぁ。まるで『光の中の人』みたいな人だ。
「おまけに、影でアタシの両親にも『責任もって面倒を見るので、安心してください』とまで言ってたみたいなのよ」
「えぇ。そこまで!?」
「そーよー。だからアタシ、ここで色々と学校にも通わせて貰いながら、運転免許も持って……」
「……」
「そして、アンナの事、いつまでも忘れないように、この髪色で今日まで過ごしてきた。ていう訳よ」
「……そうだったんですね」
「そーよー」
だけど、やっぱりメンコさんは強いなぁ。溜まり場にいたとしても、自分で道を見つけて突き進んでいるんだから。
色々と惚れ惚れしてしまうけど、私はふと、今までどうやって過ごしてきたのか。窓越しに映る夜明けの空を眺めながらも、改めて見直すことにした。
思い出した記憶を整理しながらになるが、今までの私は、人に言われるがまま、流され、流されまくっていたと思う。その結果、『天海愛華』に振り回され、身分証も未だに、行方知らずだ。
「ふぅ……」
私は一つ、ため息をついた。
そして、彼の頭に寄り掛かるように、そっと瞼を閉じる。
この一日一日が、どれだけ貴重で幸せな事なのだろうか。
このまま時間が止まればいいのに。
*
気がついたら、私は夢を見ていた。
何だろう。このライブハウスのような異様な空間は。しかも周りのみんなは英語やら様々な言語が飛んできているから、恐らく、今いる場所は日本じゃない。
みんなとち狂って、炙る用のパイプやら、ネクターらしき薬を沢山持っては、吸ったり飲んだりと、ハイになっているのだ。
――ねね。多美子
「……」
背後から女性の声が聞こえてきたので、不意に声をかけられ、振り向くと、私と同じ髪型で、同じ髪色、同じ緑色のドレスを着た愛華がいた。唯一違うとしたら、目の色だけだ。私は焦げ茶色だが、彼女の目はかなり茶色い。
本当に、彼女は私の格好を、コピーのようにそっくりに真似したがるから、今思うと恐怖だが。この時の私は『普通』だと思っていたんだよね。
そんな彼女は、私が口角を上げる角度そっくりに、ニンマリと不敵な笑みを浮かべながら、こう私に言ってきたのだ。
――みんなハイになってて楽しそーだよね。多美子もそー思うでしょ?
「……」
今考えると、馬鹿馬鹿しいと思うけど、この時の私はただ、従うしかない『下僕』だったと思う。
「あはは。そう、だね」
――じゃあさ、一緒にハイになろうよ! ワタシさぁー、多美子と楽しみたくて、持ってきたからさぁー!
「……」
そう言うと彼女は意気揚々と銀色の派手なショルダーバックから、大量の薬が入った箱を取り出してきたのだ。
この時、あまりの量にぎょっ。としたけど、彼女はそんな心配をする私を無視するかのように、続けて言い放つ。
――大丈夫。飲んだら楽になれるよ。ぜーんぶ忘れちゃおう! ね!
「……」
だから私は……。
*
「はっ!」
いつの間にか、悪夢を見てしまった様で、咄嗟に目を開けて起きてしまった。
「ちょっと大丈夫!? タミコちゃん!」
「あ。め、メンコさん……」
「……」
彼女はミラー越しから驚いた声を出していたが、彼は依然、眠り続けていた。
ったく。まだ呑気に寝ているのか。
私は内心、呆れ返っていたが、彼はむにゃむにゃと口を動かしながら、こう呟いてきたのだ。
「……たみこ……、泣かせる……やつ……ゆるさない」
「……」
「……いつか……、ころす……泣かせるやつ……全員」
「……」
いや。どんな夢を見てるのよ。
内容が物騒すぎるんですけど!
だけど、あの悪夢を見たあとのせいか、何だか妙に安心してしまったのだ。
「っていうか、リルドこーわっ! それ、寝言だよね?」
「そうですね。えぇ……」
ふと、運転席にいるメンコさんが半笑いしながらも聞いてきたので、気まずそうに相槌を打つが、いつまで寝てるつもりなのだろうか。
「さて。もうそろそろサーフェスに着くよー」
「はい! ほら! 起きて! リルドぉ!」
「……」
だけど、余程疲れてしまったのだろうか。私が全力で揺すっても揺すっても、何故か起きないのだ。
「どーしよっか。おーい! リルド! 起きなさいよ!」
「いだっ!」
すると、メンコさんが運転席から降りると、かなりの強さで、思いっきり頭を引っぱたいていたのだ。
「ったく。何だよ! 折角いい夢見てたのに……」
「あのさ。もう着いたのよー。夢の続きは自分の部屋の『ベット』で、寝てからにしてくれる?」
「あー。そっか。わりぃ……」
「えっと、リルド?」
「んあ? あー。悪かったな。タミコの肩借りちまって……」
「とりあえず、部屋に帰って寝よっか。私ももう眠たくて……。ふぁぁ」
「だねー。とりま、報告はアタシがちゃちゃっとやっとくわー」
「りょーかいでーす!」
私達は夜明けと共に、寝ぼけ眼になりながらも、サーフェスの事務室へと戻る。
「おおお! おかえりなさいですぞ! メンコ氏に、タミコ氏、リルド氏!」
すると、そこにはグソクさんが上下スウェット姿で、パソコンを打ちながら待っていたのだ。
「たーだいまぁ! グソクさーん! 実はものすっごい情報を収穫しちゃってねー!」
「なるほど! それはでかしましたな! ワイも実は気になる事を見つけましてね……」
「気になること?」
「まぁ、詳しくはゴエモン氏に聞いた方が早いかと!」
「なる、ほど……」
だけど、帰ってきて早々、グソクさんが意味深な事を言い始めたので、かなり気になるが、何だろうか。徹夜でずっと外にいたせいか、早く部屋のベットで寝たいのだが。
「おー。帰ってきたか。わけーもんよ」
『ゴエモンさん!?』
「よっ。此度の任務、お疲れ様だったな」
そして、タイミングよく、ゴエモンさんが白髪混じりの頭を掻きながら、事務室へと入ってきたのだ。
服装も相変わらず、白黒のミリタリー柄で、胸ポケットには、愛用のニコチンゼロの電子タバコが入れられている。
「ほんっとだよもー! まぁ、ストレス解消として、アジトで大暴れしたからいいけどさー」
「そかそか。メンコは単純だから分かりやすくていいな」
「それ、褒めてます?」
「おー。褒めてるとも。ガハハハ!」
「えっと……」
「タミコに、リルド。今日はお疲れ様だったな」
「おー……」
「おい。リルドは寝てんのか?」
「えーっ。あ。ごめんなさい」
「どした!?」
だけど、彼は寝起きなせいか、瞼は半分閉じた状態になっていたが、どうしたのだろう。それに、隣にいる私の左手を握ったまま、離さないのだ。
「ゴエモンさん」
「おー。どした? 突然改まっちまってよ」
「えっと……」
すると、彼は目を開けたり閉じたり、左手で擦って眠気を覚ましながらも、ゴエモンさんに、こう問いかけたのだ。
「俺に『そっくりの人』がいるのは、本当ですか?」




