表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(前編)
60/108

朝帰りのドライブは、思い出溢れる時間でした。

「えっと、もしもし、ゴエモンさん?」


 私は器用にスピーカーに切り替えると、みんなに聞こえるように、電話対応をすることにした。


『おー。タミコか。無事に任務は完了したか?』

「はい。リルドもメンコさんも。無事です」

『なら良かった。それと、お前らのおかげかもしれねーが、近くに彷徨いてた半グレ連中がいつの間にか消えていたぞ』

「おっ!」

「よっしゃ! これで俺は寝れ……」

「ありゃりゃ……」


 しかし、彼は余程疲れてしまったせいか、隣で私の肩を枕にするようにして眠ってしまったのだ。


『ったく。リルドのヤロー、疲れて寝ちまったのか』

「そうみたいです。あはは……」

「まぁ。人一倍頑張って倒していたみたいだし、かなり疲れたんだと思うよー」

「私、どうしよう……」


 結局一人しか倒してないんだけど!?

 しかも、メリケンもどきの鎖を巻き付けた右手でグーパンしただけだし。

 でも、メンコさんやリルドはやっぱり、凄いなぁ。私もバッタバタ人をなぎ倒せる程強くなりたいけど、これだと限界なのかな。うーん……。


「タミコちゃん?」

「え?」


 ふと、運転しているメンコさんが、ルームミラー越しから声をかけてきたのだ。


「強さって言うのはね。力だけ有り余っても、ダメな事があるのよね」

「……」

「力より大事なのはね、心なの」

「心。ですか……」

「そう。心の芯がブレずに、きちんとしている女の子の方が、私は強いと思うけどね~」

「メンコさん……」


 そういえば、ミオ君やカンナちゃんにも言われた様な。

 ふと、我に返った私は、赤く残った鎖の痕が付いた右手を見て、ふぅ。と一つ深呼吸をしたのだ。


『よく言ったな。メンコ』

「え!? もしかして、聞いちゃってました?」

『ったりめーだろ! 通話中だからな! 全部聞こえてたぞ!』

「あはは。そうでしたね。師匠」

『おいおい。ワシは師匠ではねーぞ』

「……」

『それと、タミコ』

「はい」

『ありがとうな。改めて礼を言う』

「いえ。私はそんな……」

『そんじゃ、帰ってきてから、報告頼むな』

「了解ですよ。師匠」

「分かりました。ゴエモンさん」



――ブツッ……。



 こうして通話は切れてしまったが、改めて私は、『心の強さ』を大事にしようと誓ったのだ。力だけじゃ解決できない物もある。と。


「それにしても、メンコさん、やっぱり強いですよね……」

「まぁーねぇー。でも、アタシが育った家はすーっごく厳しくてね」

「厳しい?」

「そそ。厳しい掟ばーっかりあったから、友達という友達が出来なかった時期があったのよ」

「そうなんですか……」

「で、その時にできた親友が、『アンナ』だったんだよね」

「えっ!?」


 思わず声をあげてしまったが、そういえば、前にリルドが言ってたなぁ。メンコさんの家、実は武闘系の生まれだとか。


「しかもねー。出会った場所もめーっちゃ驚くよー!」

「どこでその、アンナさんと……」

「実はねー。出会ったのは、『海横の溜まり場』って言われていた所なんだよね」

「えええっ!?」


 驚きのあまり、隣でリルドが熟睡している傍らで大声を発してしまった。


 実はキルマイ騒動後に、グソクさんから聞いた話になるが、この大都会 新海(しんかい)の中にある珊瑚町(さんごちょう)には、海浜(カイハマ)ホテルと呼ばれているホテルがあり、そこの横には、若者達が溜まりやすい空き地がある。と。


 なので、そこに『溜まり場』として、若者やら色んな界隈の人達が集まり、夜な夜な騒いでいるという。

 そして、海浜ホテルの横にある溜まり場。て事から『海横』と呼ばれているんですぞ。て聞いたけど、まさか、メンコさんが……。


「あははー。驚いちゃったでしょ? あそこでは夜な夜な、ODをやってる連中が、今でもいるほど、治安が悪い場所なのよね~」

「ですけど、何でそんな所で……」

「実は、あの時、親に反発して、家出したんだよねー。16歳の時。だね」

「16の時……」

「その時、勢い余って溜まり場に来ちゃってさー。勿論、知ってる顔もいないし、友達もいなくってね」

「えぇ……」

「その時に、声をかけてくれたのが、『アンナ』だったんだよね」

「……」


 彼女は運転しながらも淡々と出会った頃を語っていたが、本当は思い出すことも相当辛いはずなのに。


 だけど、隣ではリルドは楽しい夢を見ているのだろうか。すやすやと子供のように、微笑みながら眠っている顔が、どこか平和的で可愛らしい。おまけに私の左肩に頭を乗せて。だ。


 そういえば、私もまた、『秘密』を抱えているんだった。一部の『ナル計画』や『天海愛華』の事。そして、忘れかけていた『過去』の事など。ゴエモンさんには未だに口止めされているが、それらも何れ、言う時期が来ると思うと……。


「あの時お腹空いててさ、所持金もここに来るのに使い果たしちゃったから、食い凌ぐのにも大変だったなぁ……」

「そこまで!?」

「そーよー。それに私、珊瑚町の人間でも無かったからね」

「えっと、何処から!?」

「地方。とだけ言っておこうかしら。家もどこにあったのか、もう忘れちゃったけど」

「は、はぁ……」


 それにしても、メンコさん、元々は『家出少女』だったのは驚いたなぁ。

 だけど、今日に至るまで、よく生きてこれたよね。私だったら果たして生きていけたのだろうか。

 でも、家との確執。不思議と何だかわかる気がするのは何だろうか。


「だけど、ある日のこと、いつも通りに溜まり場に行っても、『アンナ』の姿を見かけなくてね」

「……」

「その時に溜まり場で出来た友達に聞いたら、『あの子ね、限界チャレンジをやったら死んじゃったよ』て、あっさりと言ってきてさ」

「……」

「聞いた途端、嘘でしょ!? て思ったよ。アンナには、溜まり場で暮らすための衣食住の事とか、色々教えて貰ってたからさ」

「そうだったんですか……」

「それに、あの時はどうやって生きていこうか。ものすごい葛藤したね。アンナの後を追って死にたいって思ってもいたし、『どうやったら死ねるか』とも模索していた事もあった」

「……」

「だけど、その時に声をかけてくれたのが、師匠である、『ゴエモン』さんだったの」

「ゴエモンさんが……」

「そう。実はゴエモンさん、『ドラックルームスープ』というサイトを追っていたみたいでね。『共に復讐をしないか?』て持ちかけてきたの。衣食住も提供してやる。とまで言ってきたのよ」

「凄い……」


 そんな展開があったなんて、心底驚いた私は、思わず目がまんまるくなったのだ。

 それにしても、ゴエモンさんも凄いなぁ。まるで『光の中の人』みたいな人だ。


「おまけに、影でアタシの両親にも『責任もって面倒を見るので、安心してください』とまで言ってたみたいなのよ」

「えぇ。そこまで!?」

「そーよー。だからアタシ、ここで色々と学校にも通わせて貰いながら、運転免許も持って……」

「……」

「そして、アンナの事、いつまでも忘れないように、この髪色で今日まで過ごしてきた。ていう訳よ」

「……そうだったんですね」

「そーよー」


 だけど、やっぱりメンコさんは強いなぁ。溜まり場にいたとしても、自分で道を見つけて突き進んでいるんだから。

 色々と惚れ惚れしてしまうけど、私はふと、今までどうやって過ごしてきたのか。窓越しに映る夜明けの空を眺めながらも、改めて見直すことにした。


 思い出した記憶を整理しながらになるが、今までの私は、人に言われるがまま、流され、流されまくっていたと思う。その結果、『天海愛華』に振り回され、身分証も未だに、行方知らずだ。


「ふぅ……」


 私は一つ、ため息をついた。

 そして、彼の頭に寄り掛かるように、そっと瞼を閉じる。


 この一日一日が、どれだけ貴重で幸せな事なのだろうか。


 このまま時間が止まればいいのに。




 気がついたら、私は夢を見ていた。

 何だろう。このライブハウスのような異様な空間は。しかも周りのみんなは英語やら様々な言語が飛んできているから、恐らく、今いる場所は日本じゃない。


 みんなとち狂って、炙る用のパイプやら、ネクターらしき薬を沢山持っては、吸ったり飲んだりと、ハイになっているのだ。



――ねね。多美子



「……」


 背後から女性の声が聞こえてきたので、不意に声をかけられ、振り向くと、私と同じ髪型で、同じ髪色、同じ緑色のドレスを着た愛華がいた。唯一違うとしたら、目の色だけだ。私は焦げ茶色だが、彼女の目はかなり茶色い。

 本当に、彼女は私の格好を、コピーのようにそっくりに真似したがるから、今思うと恐怖だが。この時の私は『普通』だと思っていたんだよね。


 そんな彼女は、私が口角を上げる角度そっくりに、ニンマリと不敵な笑みを浮かべながら、こう私に言ってきたのだ。



――みんなハイになってて楽しそーだよね。多美子もそー思うでしょ?



「……」


 今考えると、馬鹿馬鹿しいと思うけど、この時の私はただ、従うしかない『下僕』だったと思う。


「あはは。そう、だね」



――じゃあさ、一緒にハイになろうよ! ワタシさぁー、多美子と楽しみたくて、持ってきたからさぁー!



「……」


 そう言うと彼女は意気揚々と銀色の派手なショルダーバックから、大量の薬が入った箱を取り出してきたのだ。


 この時、あまりの量にぎょっ。としたけど、彼女はそんな心配をする私を無視するかのように、続けて言い放つ。



――大丈夫。飲んだら楽になれるよ。ぜーんぶ忘れちゃおう! ね!



「……」


 だから私は……。





「はっ!」


 いつの間にか、悪夢を見てしまった様で、咄嗟に目を開けて起きてしまった。


「ちょっと大丈夫!? タミコちゃん!」

「あ。め、メンコさん……」

「……」


 彼女はミラー越しから驚いた声を出していたが、彼は依然、眠り続けていた。


 ったく。まだ呑気に寝ているのか。

 私は内心、呆れ返っていたが、彼はむにゃむにゃと口を動かしながら、こう呟いてきたのだ。


「……たみこ……、泣かせる……やつ……ゆるさない」

「……」

「……いつか……、ころす……泣かせるやつ……全員」

「……」


 いや。どんな夢を見てるのよ。

 内容が物騒すぎるんですけど!

 だけど、あの悪夢を見たあとのせいか、何だか妙に安心してしまったのだ。


「っていうか、リルドこーわっ! それ、寝言だよね?」

「そうですね。えぇ……」


 ふと、運転席にいるメンコさんが半笑いしながらも聞いてきたので、気まずそうに相槌を打つが、いつまで寝てるつもりなのだろうか。


「さて。もうそろそろサーフェスに着くよー」

「はい! ほら! 起きて! リルドぉ!」

「……」


 だけど、余程疲れてしまったのだろうか。私が全力で揺すっても揺すっても、何故か起きないのだ。


「どーしよっか。おーい! リルド! 起きなさいよ!」

「いだっ!」


 すると、メンコさんが運転席から降りると、かなりの強さで、思いっきり頭を引っぱたいていたのだ。


「ったく。何だよ! 折角いい夢見てたのに……」

「あのさ。もう着いたのよー。夢の続きは自分の部屋の『ベット』で、寝てからにしてくれる?」

「あー。そっか。わりぃ……」

「えっと、リルド?」

「んあ? あー。悪かったな。タミコの肩借りちまって……」

「とりあえず、部屋に帰って寝よっか。私ももう眠たくて……。ふぁぁ」

「だねー。とりま、報告はアタシがちゃちゃっとやっとくわー」

「りょーかいでーす!」


 私達は夜明けと共に、寝ぼけ眼になりながらも、サーフェスの事務室へと戻る。


「おおお! おかえりなさいですぞ! メンコ氏に、タミコ氏、リルド氏!」


 すると、そこにはグソクさんが上下スウェット姿で、パソコンを打ちながら待っていたのだ。


「たーだいまぁ! グソクさーん! 実はものすっごい情報を収穫しちゃってねー!」

「なるほど! それはでかしましたな! ワイも実は気になる事を見つけましてね……」

「気になること?」

「まぁ、詳しくはゴエモン氏に聞いた方が早いかと!」

「なる、ほど……」


 だけど、帰ってきて早々、グソクさんが意味深な事を言い始めたので、かなり気になるが、何だろうか。徹夜でずっと外にいたせいか、早く部屋のベットで寝たいのだが。


「おー。帰ってきたか。わけーもんよ」

『ゴエモンさん!?』

「よっ。此度の任務、お疲れ様だったな」


 そして、タイミングよく、ゴエモンさんが白髪混じりの頭を掻きながら、事務室へと入ってきたのだ。

 服装も相変わらず、白黒のミリタリー柄で、胸ポケットには、愛用のニコチンゼロの電子タバコが入れられている。


「ほんっとだよもー! まぁ、ストレス解消として、アジトで大暴れしたからいいけどさー」

「そかそか。メンコは単純だから分かりやすくていいな」

「それ、褒めてます?」

「おー。褒めてるとも。ガハハハ!」

「えっと……」

「タミコに、リルド。今日はお疲れ様だったな」

「おー……」

「おい。リルドは寝てんのか?」

「えーっ。あ。ごめんなさい」

「どした!?」


 だけど、彼は寝起きなせいか、瞼は半分閉じた状態になっていたが、どうしたのだろう。それに、隣にいる私の左手を握ったまま、離さないのだ。


「ゴエモンさん」

「おー。どした? 突然改まっちまってよ」

「えっと……」


 すると、彼は目を開けたり閉じたり、左手で擦って眠気を覚ましながらも、ゴエモンさんに、こう問いかけたのだ。


「俺に『そっくりの人』がいるのは、本当ですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ