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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(前編)
59/108

小規模のアジトは、思ったよりも人がいました。


 ゴエモンさんから連絡を受けてから30分後。私達は少し離れた場所に車を停め、隠れながらも例のアジトへと、向かった。


 建物は使われなくなった工業地帯の一角にある大きな倉庫の様だ。小規模と言っても建物自体、巨大な為、中に入らないと内部まで分からなさそう。


「ここだね」

「入口はどこだろう……」


 そういえば、ヒガンさんがこんな事を言っていたなぁ。


『まぁ、片っ端からやるのも良いですが、バレたら厄介ですしね。まぁ、その暗証番号ぐらいなら形状次第では何とかなりそうですが……』て。


 なので、まず私達は手始めに、巨大コンテナに隠れながらも、入口を探す事にした。

 形状次第では壊せると言っていたけど、仮にオートロックだったらどうしよう。不安でいっぱいだったが、外は思ったよりも人が居なかったのだ。


「なーんか不気味よね」

「あぁ。前に行った教団の支部の時みたいに、敵が誰一人いねぇ」

「もしかしたら、あの建物の中にいるんじゃ……」

「そうね。身を引き締めて行かなきゃ」


 私もふぅ。と深呼吸をすると、改めて周囲を見渡す。


「そーいえば、三姉妹から貰った薬、ここで使ってみる?」

「え? ここで、ですか!?」

「そそ。アタシ達、テスター、頼まれてたっしょ?」

「そういえば!」


 すっかり忘れていたけど、確かに三姉妹が『薬のテスター』を私達にお願いしていたような。


「実はアタイ、あの時エボシから頼まれて3種類、貰ってきたのよね」


 メンコさんはそう言って、ポケットから3種類の包装シートに包まれた薬を取り出したのだ。


「へー。どんな効力があんの?」

「確か、『オルフェウス』は感覚強化で、『アスカロン』は筋力強化。『セレーヌ』はトラウマ軽減として。て言ってたね」

「ふーん。俺、『セレーヌ』使ってみるかな」

「そうだね。じゃあ、私は……」

「タミコちゃんは前回、オルフェウス単体で副作用が強すぎて倒れてしまったから、飲む時はこれと併用して!」

「メンコさん……」


 すると、彼女はなんと、『ネクター』を取り出し、オルフェウスと共に一粒ずつ渡してきたのだ。オマケに小さな200mlのお茶までも3本、ちゃっかり持っているし。


「タミコちゃんには、この感覚強化を使って、真生くんの時みたいに、鍵を開けたり、敵の位置を把握できれば使えると思ったのよね」

「そう来たか……」

「まぁ。アタシも手始めに『アスカロン』を飲んで身体強化を図るから。それと、リルド」

「んあ? 何だ? メンコ」

「貴方は『アスカロン』と『セレーヌ』、二つを同時に飲んでみて」

「ほぉー。身体強化と精神安定ってことか?」

「ご名答。これで、タミコちゃんもリルドも『2種類』試し飲みが出来るって事で!」

「まじか……」


 つまり、この小規模アジトで、テスターとして、効果を体験しながら敵を潰すって解釈でいいんだよね?

 メンコさんからのまさかの提案に驚いて開いた口が塞がらなかったのだ。


「まぁ。アタシも試しに『アスカロン』の他に、『オルフェウス』と『ネクター』を飲むから安心して」

「え!? いきなり3種類もですか!?」

「まぁ。アタシ、こー見えて薬の耐性、かなり強い方なのよねー」

「はぁ……」

「真生くんも言ってたっしょ。『全種類+ネクターを飲まなければ比較的安全だ』て」

「まぁ。確かに言ってましたが……」


 それにしても、メンコさん凄いなぁ。セレーヌを抜いた三種類をいきなり飲むだなんて。

 私はそこまでの度量がないって言うか、ギンコさんに勧められた時でさえ、結局はオルフェウスだけしか飲まなかった訳だし。


「おい。あれじゃね?」

「ほんとだ!」


 何だかんだ話していくうちに、いつの間にかアジトの入口に着いた私達は、咄嗟に息を潜めたのだ。錆びた大きな扉で、取っ手部分には鎖に巻かれた南京錠がかけられていたのだ。


「よし、飲んでみよっか」

「了解」

「わかった」


 私達はメンコさんからお茶を貰うと、それぞれ薬を体内に取り込むかの様に、お茶に乗せて流し込んだ。


 リルドは『セレーヌ』と『アスカロン』。私は『オルフェウス』と『ネクター』。そして、メンコさんは『アスカロン』と『オルフェウス』『ネクター』の三種類。


 これで、三姉妹からの依頼も達成できそう。

 あとはどんな効力かを、肌身で体験するだけ。


「ふぅー」


 ふと、集中すると、建物の内部から、早速声が響いてきたのだ。



『……あの……は……首尾よく……いるか』



 途切れ途切れだけど、建物の中には明らかに敵がいるのがわかった。それと、複数の足音もする。2階にも人がいるみたい。

 匂いは扉で分からなかったけど、海岸近くのせいか、磯の匂いが強烈に鼻に刺激してくる。


 それと、南京錠に触れると、何故か、鍵の構造までも透明のように透けて見えていたのだ。

 もしかして、真生くんが言っていた『鍵が呼んでいる』て、こういう意味?


 これで凹んだ部分の番号を合わせれば……。



――ガチャッ



 やった!

 解除ができた私は咄嗟に南京錠をとると、ぐるぐるに巻かれた太い鎖も剥ぎ取ったが、この鎖、なんか使えそう。


 例えば手に巻き付けてぶん殴るとか。

 なので、南京錠と共にポケットの中に忍ばせておくと、建物の中へ入ることが出来たのだ。


 ちなみに暗号は『5025』と、変則的な番号だった。

 オルフェウス、飲んで良かったかもしれない。飲まなかったら、16パターンを永遠とやるか、鍵を壊すかの2択しか無かった事に恐怖を覚えてしまったのは本当だ。


「先に私が様子を見てきます」

「おー。俺は敵が背中を見せたら、奇襲をかける」

「流石だね。頼みにしてる」

「おー。俺も、タミコの索敵、信じてるからよ」

「ありがとう」


 そして、私は恐る恐る扉を開け、中へ入ると、早速、自分の数倍程の大きさがある巨大コンテナが、目の前へ立ち塞がっていたのだ。左側はコンテナで埋め尽くされており、右側を進むしかない状態だ。


「ふっ。二人とも仲良いね~。アタシも今、とっても気分がいいわ!」

「敵さんいますから、静かに……」

「はーい!」


 彼女も薬のせいか、とても高揚感を感じているみたいで、終始ウキウキしている。でも、本当に大丈夫なのだろうか。少し心配でもある。


「いた!」


 そっと耳をすましながら、私は小声で彼達を呼ぶと、巨大コンテナに向かって指を指してみた。つまり、このコンテナの反対側に、敵らしき、野太い声が聞こえてくるのだ。


『あぁ。大丈夫だ。それにしても、あの溜まり場にいる連中は良いカモっすね~。薬さえあれば『ヤラして』くれるのでね~』

『だろぉ~。しかも、どれも上物だしなぁ~。おかげで収益はうなぎ登りで、性も金も充実だァ~。ぐへへへへ!』

「……」


 あぁ。何て気味が悪い連中だ。聞いてて吐き気がしてくる。

 今すぐにでも鎖をぐるぐるに巻いた拳でぶん殴りたかったが、今は我慢だ。


「……」

「……わかった。タイミング見て行ってくる」


 なので、私は目で彼に合図をすると、彼は私より先に行き、奇襲の準備をし始めたのだ。


『にしても、今日は暇っすね~。何してんすかね。ラブホ街にいる連中は』

『さぁなぁ~。溜まり場の女の子を食い散らかしてんじゃね?』

『ちぇっ。俺も混ざりたかったなぁ~』

「……」


 ラブホ街。なるほど、もう一つのアジトは、『ラブホ街のどこか』てことね。更に情報を引っ張るためにコンテナに耳を付け、話の続きを聞こうとした。


『まぁ、時期に……。って、ぐわっ!』

『どうした!? って。ぎゃぁぁ!』

「……」


 しかし、突然声が聞こえなくなったのだ。

 だけど、これでいい。奇襲が上手く行ったのだろう。でも、オルフェウスを飲んでも、彼の足音すら聞こえなかったのが驚いた。流石暗殺一家の生まれっていうか……。


「メンコさん、行きましょうか」

「流石だね~。リルド。絶好調だ」

「だけど、まだ二人だけしか倒してないですね。感覚的には、まだ30人ほどはいるかもです」

「まぁ。この倉庫に30人はいるってことね。おっけ~」


 すると、彼女はスキップしながらも私より先に行ってしまった。


 ちょっと待ってよ! 私も早く行かないと!

 なので、私は彼らの後を追いかけながらもどんどんと倉庫の奥へと入って行く。


『ぐわぁ!』

『何だ何だ!? 何が起こって……、うがぁぁ!』

『やべぇ! なんなんだあいつ! ボスに知らせな……。あぎゃぁぁ!』


 道中、前では敵が次々となぎ倒されていく声が聞こえてくる。

 あーあー。リルド、かなり盛大に暴れているなこりゃ。


「もしかして、タミコちゃん、何かした?」

「いえ……」


 何もしてません。ただ、彼の手の甲に『すき』と書いて告白しただけです。はい。


「ふーん。じゃあ、私も暴れてくるねー! ちなみに前の方で10人ほど待ち構えてるっぽいから、ここで待ってね」

「じゃあ、私は背後に気を配っておきますね」

「ありがとう。とても頼りになるわ」

「あ。はい!」


 そして、彼女は10人ほどいるだろう。広い場所へと足を進めると、私は今いる位置から、入口に誰か来ていないか、静かに目を閉じて耳を澄ませてみる。


 幸い、ネクターのおかげか、今のところ副作用が強く出てこない。併用するとこんなにも効果が違うのか。

 だけど、真生くんはネクター無しでもあんなにピンピンとしていたから、本当に個人差なんだろうなぁ。


「あー。暇人のおっさん達。こんばんは~」

『誰だテメェ!』

「ん? 誰と言われても……。まぁ、どーせそこにいるみんな、お巡りさん行きなんだから、とっととしっぽ巻いて逃げ帰ったら?」

『んだと! このクソアマァ!』


 なので、そっと彼女がいる広場の方へと耳を傾けると、既に戦闘モードに入っていたのだ。


『ぐおっ!』


 まずは襲いかかってきた中年の男に、渾身のストレートパンチを一発。


『あぎゃぁ!』


 次は殴りかかってくる男の腕を掴んで捻ると、へし折る様に片膝を上げ、相手の腕を使用不可に。


『うがぁっ!』


 極めつけは彼女の肘が、背後から襲いかかる男の顔に直撃。ガキッ、と音を立てながらも、崩れ落ちたのだ。


「ふぅ。まだやるわけ? いいよ。いっくらでも相手してあげる!」


 彼女はというと、周囲を見渡しながらも、何故か余裕の笑みを浮かべている。

 もし、彼女に通り名が付くとしたら、なんて言われるのだろうか。『橙の豪胆者』なんてどうだろう。ゴエモンさんみたい。て言って笑いそうだなぁ。


『何だこのクソアマ。つぇえええ!?』

「一々うっさいわね。こんな所でくっさい息吐かないでくれるかな?」


 そう吐き捨てると、次に彼女は、真正面から向かってきた男のベタついた髪を掴むと、巨大コンテナの方へ向かって、相手の頭をぶつけたのだ。

 ガゴン。と、激しく鈍い音が聞こえてきたが、力を込めて、勢いよくぶつけたのだろう。


「うわぁ……」


 もしかして、初めて研修で見た時よりも、かなり強くなっている?

 まさかこれ、本気のメンコさん、じゃないよね?


 いや。それよりも、背後に集中しなきゃ。

 私は呼吸を整えながら集中すると、一人の半グレがこっちに向かって歩いてきているのが、音で分かってしまったのだ。


 まずい。だけど、前はまだメンコさんが戦闘中だ。どうしよう。

 戦う準備をするため、ジャージの右ポケットから太い鎖を取り出し、わざと右手に巻き付けてみる。


 まるでメリケンみたいで、かっこいい。

 そういえば、鎖を使って攻撃するレスラーがいた気がしたなぁ。でもいいや。

 私は両手をポケットに突っ込みながら、待っていると、背の高い男が鼻の下を伸ばしながら、こちらへ近づいてきたのだ。


『ぐへへへへ! すっごい可愛い子がいるねぇ~。おくちゅり、いるかい?』

「……」


 うわぁ。きっも。

 言い方に反吐が出そうになった私は、無言で鎖で巻き付けた右手を、相手の脇腹へ向かって力強く、怒りを込めてぶん殴ってみる事にした。


『んがぁぁ!』


 相当痛かったのだろうか。相手は即座によろけて戦闘不能になったのだ。


 もしかしてこれ、メリケン以上に力ある!?

 だけど、後々めんどくさいから、こいつの首に鎖でも巻いておいて、放置しとこうかな。


 悩むけど、『鎖の重さ』で軽くパンチをするだけでもこの威力だ。凄い。

 なので、ひとまず、このアジトが壊滅するまでこの鎖は、右手に巻いておこう。重たいけど、かなり効きそうだ。


 それに、まるで包帯を巻いた厨二病みたいで、力を封印している感じがして、ワクワクしてくる。


 まぁ。これもサーフェスにある、トレーニングルームやVRシミュレーターで鍛えたお陰かも。

 実は、何も出来なかったキルマイ騒動後の3カ月の間、私は護身やトレーニングを密かに行っていたんだよね。リルドやメンコさんにも内緒で。

 それは、あの時の二の舞にならないように。て。


 そのせいか、右手に巻いた鎖がガシャリと音を立て、握りしめるだけでも力が入っているんだ。と、身体全体に伝わってくる。

 それが私を『奮い立たせてくれる存在』である。と。


「終わったよー」

「よし! リルドを探しに行こ!」

「賛成。ていうか、アイツどこいった訳?」


 私は目の前で殲滅を終えたメンコさんと合流すると、リルドを探すことにした。


 だけど一体、どこに行ったのだろうか。倉庫内にいるのは分かってはいるけど、足音が無いのが不気味だ。

 まさか、何か危ない目にあってしまっているのだろうか。それなら早く行かなきゃ……。


「……え?」


 ふと、何故か背後から左手を捕まれ、隅にあるコンテナの影まで引っ張られると、何故か私の目の前には、リルドがいたのだ。


「どういう……」

「実は頑張って、上の敵まで倒しといた」

「そっか……」

「だから、後は箱を見つけて回収するだけだ。思ったより楽できたな」

「それなら、良かった……」


 すると、彼は突然、私を抱きしめると、耳元でこう囁いてきたのだ。


「それと、先程の返事だが、俺も好きだ」

「……ええ!?」


 ちょっと待って。ここ、小規模のアジトだよね? レンタルルームとかラブホの一室じゃないんだけど!


 突然すぎる告白に、私は思わず頭の中が真っ白になってしまったのだ。


「つまりそれって、『付き合ってほしい』てこと?」

「……」


 なので、思わず本音を言ってしまったが、彼は私から少し距離をとると、顔を赤らめながら、コクリと静かに頷いていた。


「……わ、わかった。ひとまず、メンコさんと合流して、箱、探そっか」

「……」


 そう言うと、彼は子供のように首を縦に振って何故か私のジャージの裾を掴んでいたのだ。


 えっと、どういう状況よ。これ。


「実はあの『セレーヌ』を飲んでから、少し気持ちが安定しているんだ」

「そうだったの?」

「あぁ。相手を殴った後に出る多少の血を見ても、今は平気。だけど、沢山だったら、セレーヌでも無理かもしれねーけどな」

「なるほど……」


 つまり、『セレーヌ』のおかげでトラウマも少しはマシになってきている。て事かな。

 ひとまず、この事はメンコさん経由で伝えなきゃ。


 なので、そんな彼を連れて歩いている時だった。


「あれれぇ? どうしたのさ?!」

「あ。メンコさん、実は……」

「ほーん。まーさか、アタシがこれを探している時に、お二人は敵地のど真ん中でイチャついてたって訳ぇ? 青春してるねぇ。イヒヒヒ!」

「ったく……」

「メンコさん、その箱って……」


 何故か私らを見た途端に茶化し始めたのだが、彼女が持っている黒い箱が気になった私は、指さして聞いてみる事にしたのだ。


 大きさは重箱ぐらいで、このまま持ち帰っても大丈夫そう。

 それに、鍵がかかっているって事は、もしかして、越智さんが言っていた、『桃毒の鍵師』しか開けられない箱。というのが、これなのだろうか。


「なーんか、タミコちゃん探しに2階に行ったらさ、敵さん伸びててさー。あったから回収してきたって訳」

「なるほど……」


 流石メンコさん。私の代わりに見つけてくれて、ありがとう。感謝しつつも、次への手がかりも見つけられたので、今回はかなりの収穫が得られたのも大きいかも。


「さて、これ、持ち帰って、明日開けて貰おっか」

「そうですね。それに、今回の件もゴエモンさんに報告しとかなきゃ……」

「おぉ。そーだな。それに、突然動いたもんだから、急に眠くなってきたんだが。ふぁぁぁ……」


 なので、私達は夜明けの空を見ながらも、小規模アジトから車へ向かって歩き始めたのだ。


 今回は色々と回りすぎて疲れたなぁ。

 そういえば、鎖も南京錠も持ったままだけど、次に使えるなら良いかな。

 鎖と南京錠なら、幾らでも使いようがあるし。オマケに、副作用も大した事が無かったのも大きいかも。


「……あれ?」


 ふと、メンコさんの車近辺に、緑色のパーカーを着た人がいた気が……。 


 だけど、気のせいかな。その人は何も言わず、私達を見た途端、巨大コンテナの奥へと消えていったんだよね。誰だったのだろう。


「どした?」

「あ。なんでもない……」


 なので、違和感も残りながらだが、私達は彼女の車に乗り込むと、ポケットからスマートフォンを取り出し、早速報告することにしたのだ。

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