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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(前編)
57/108

現教祖がまさかの○○○でした。

「ええっと、つまり……」


 先程ミオ君が言った、龍樹君の『変則的な飲み方』が攻略の鍵って事?

 彼の訳の分からない言い回しに戸惑いながら聞くと、こう続けざまに答えたのだ。


「実はこの『ドラックルームスープ』のアジトに入るためには、まず一層目の『匿名の語り場』で、暗号を手に入れる必要があるらしいのですよ」

「暗号?」

「そう。何気ない会話の中にもしれっと『数字を言っていた』らしいのです」

「はぁー。数字かぁ……」


 確か、龍樹君から聞いた話だと、エナドリの話をした際、相手は『5本飲んだ』とか、『250円で売ってるエナドリが好き』て言っていたような。


「もしかして、それを並べた数字が、鍵だったりするんですか?」

「そうですね。タミコ様と話すと、色々と手間が省けるので助かります」

「いやそれ……」


 喜んでくれるのは嬉しいけど、もしかして、利用する気満々だよね!?

 私は、はぁ。と呆れ気味にため息をつくと、こう話を切り出したのだ。


「つまり、最初のアジトに入るための暗証番号は、『5250』の可能性がある。と」

「若しくはそれらをごちゃごちゃにした数字ではないか。と推測してますね」

「あー。ぐちゃぐちゃね……」


 ってことは、結構パターンが多い気が。

 16通りはあるんじゃないかな多分。

 仮に一つずつやるとしたら、かなり時間かかるし、正直面倒くさそう。


「まぁ、片っ端からやるのも良いですが、バレたら厄介ですしね。まぁ、その暗証番号ぐらいなら形状次第では何とかなりそうですが……」

「ってことはつまり……」

「南京錠だったら、『壊せば』いいじゃないですか~。あはは!」

「いや。あははって……」


 ちょっと待ってヒガンさん。まさかあなたの口から『脳筋発言』が出てくるとは思ってなかったですよ。


 思わず手に持っていたナンの破片が滑って、カレースープの中へと落ちてしまったのだ。


「まぁ。冗談はさておき。実はタミコ様に謝らないといけないことがありまして」

「はぁ……」

「それは、貴女がどこまで頭が冴えているのか、『試していた』事です」

「試して、いた?」


 もしかして、事の今まで全部、試されていたって事!?

 驚きと戸惑いが隠せない中、右隣にいるリルドが睨みつけるかのようにこう言い放ったのだ。


「おいおい。最初っからタミコを試してどーするつもりだったんだ? まさか、引き入れようとしてるんじゃねーよな?」

「冗談を。そんな事は一切思っておりませんのでご安心を……」

「なんかその言い方、うさんくせーなぁ」

「まぁ。試していた。てことはさー」

「はい」


 すると、今度は左隣にいるメンコさんが、ハンバーグをもぐもぐと食べながらも、口の中を空にすると、彼にある言葉を言っていた。


「裏を返せば、『タミコ』ちゃんなら『ドラックルームスープ』という闇サイトを、潰せるかもしれない。て事でしょ?」

「ほぉ。なかなか鋭い事を……」

「何となくわかる気がするもの。こー見えて『アタシ達』の謀略家でもあるからねー」

「はぁぁ!? ちょっと待ってメンコさん! 私は謀略家なんて……!」


 しかも、なんでよりによって、通り名に『謀略家』がついた人の前で、そんな事を言うかなぁ!?

 困惑のあまり、思わず席に立って声を荒らげてしまったのだ。


「大丈夫か?」

「はぁ……。すみません。こんな取り乱してしまって……」

「いえいえ。こちらこそ、謝らないといけませんね。本当にすみませんでした」


 だけど、ヒガンさんは礼儀正しく私達に謝罪をすると、「お詫びにデザートをお持ち致しますので、少々お待ちください」と言い残し、厨房へと消えていってしまったのだ。


「何なんだあいつ。シイラ以上に動きが読めねぇんだけど……」

「まぁ。シイラは逆に分かりやすいからねー。でも、ヒガンさんは『読めない』んだよね……」

「それは、言えてるかも」


 私ですら、まさか今までの経緯で『試されていた』とは思わなかったもの。

 おまけに突然、IDを渡されて、戸惑っていたのも恥ずかしい。


 しかも、IDに入ってる数字の意味、分かりましたか? て。幾らなんでも答えが斜め上すぎるって!


 なので、勢いでナンとスープカレー、備えでつけられた彩り野菜や骨付き肉までも、スープに浸し、完食するまで頬張ったのだ。


 あー! 美味しい! やっぱりカレー最高!


「ふぅー」

「すげー勢いで食ったな」

「えっ!? 何か、美味しかったからつい……」

「いいねー! 食べっぷり良いの、見てて気持ちいいからねー!」

「えへ。ありがとう。とっても美味しかった!」


 お腹も心も満たされた所で、私は少し休むことにした。

 それと、ヒガンさんがデザートを持ってくる間。彼に粗方言いたいことを、頭の中で整理してみよう。


 まず一つ目は『生き残りのヴァルテ家』は誰なのか。リルドの他にもう一人いるとしたら、目的はなんなのだろうか。


 二つ目はドラックルームスープの背景にいるだろう。『鰒川家』の存在。越智さんですら嫌悪感を抱くほどの、危ない過激派の狂信者が集う家系だ。真生くんが生まれた家でもあるけど、シイラさんですら怒り心頭していると思うと、放ってはおけないかな。


 三つ目は『アビスの情報』だ。私的にはここが本丸なのだが、元信者が持ってたであろう、『アビス』に関する情報を知れれば、少しは記憶の手がかりも掴めるのだろうか。


「お待たせしました~! こちら、宇治抹茶アイスと、限定メニュー『黒ごまアイス』、それでこちらはオレンジシャーベットです!」

「うわぁー!」

「おっ。黒ごま!?」

「わぁーい!」


 考えているうちに、ヒガンさんが茶色いトレーを持ちながら、アイスを三種類、持ってきてくれたのだ。


「ちなみにこちらはお詫びでありますので、料金は取りません」

「えっ!?」

「なので、料金の代わりとして、貴女達が得た『情報』を頂きたい」

「そう来ましたか……」


 そして、私は不敵な笑みをするヒガンさんに対し、ある報告をすることにしたのだ。

 まぁ、この人は変な企みを浮かべたとしても、『悪い方には使わない』だろう。


「まぁ、知っての通りだと思いますが、ここに来た理由として、今回の『ドラックルームスープ』の件で、報告をしに来ました」

「なるほど。どんな報告かな」

「実は……」


 なので、私はここに至るまでの間、色々な事を赤裸々に報告することにしたのだ。


「生き残りのヴァルテ家って、もしかして、リルドの事ですか?」

「え? そうなの?」

「ふぅ。あんまり思い出したくないのですが、俺の本名は、『ルーク・ヴァルテ』らしいのです」


 右隣にいる彼も、覚悟をしたかのように、ヒガンさんに打ち明けていた。だけど、彼のスプーンを持つ手が、微かに震えている。


「なるほどー。そーだね。元信者の話によると、君にそっくりな『若い男の人』を見かけたとの情報が上がってたね」

「え? そっくりな、人!?」


 ちょっと待って。一体どういう事!?

 まさか、リルドは『双子』だったって事?


 あまりにも斜め上の答えに戸惑いが隠せない。


「それ、本当、なのか? あっ! あっぶねー……」


 これには流石の彼も、銀色のスプーンを落としかけていたが、流石に動揺はするよね。突然自分の血筋を引く人が現れたとなったら……。


「そうそう。その三本の傷さえなければ、まんまリルド君とそっくりな人を、海横近辺で見かけた。て元信者達から情報が入っててね」

「はえー……」

「もしかしたら、アジトで出くわすかもしれないから、入念な準備はした方がいいかと」

「分かりました。ありがとう、ございます! それと、『ドラックルームスープ』の背景には……」


 私は一度、呼吸を入れるかのように、抹茶アイスを口にすると、意を決して彼にこう告げたのだ。


「恐らく、『鰒川家』が大きく関わっている。という話を頂きました」

「鰒川家。ねぇ……」

「何か、ご存知なのでしょうか?」

「勿論。あの家は過激派で『狂信者』の者達が集っている家系だ。しかも……」

「しかも?」

「シイラさんのところにいる真生くんには、あまりにも内容が過激だから、ガッツリ伏せておいたが、彼の出生にまつわる事で、こんなのがあってな」

「それって……」


 そして、ヒガンさんは周囲を見渡し、人やミオ君がいない事を確認してから、こう耳元で告げてきたのだ。


「あぁ。実は彼、現教祖と信者の間にできた子供だと言われているんだ」

『ぅおえええ!?』

「それって……」


 つまり、ミオ君とは、血筋が繋がっている『親族』の可能性があるってこと!?

 確かに本人にはあまり言わなかったけど、ミオ君と真生くん、どれも『女の子らしい中性的な顔つき』をしていたから、まさか。とは思っていたけど……。


 そういえば、フグトラさんも似たような顔つきだった気が。でも、「兄弟かな?」て思う程度で、そこまで似ては無いんだよなぁ。

 そのせいか、こんなことを聞いた記憶を思い出したのだ。



『まぁ。末端の中にも、もしかしたら『教祖の血を引いた子供』がいるかもですが、教祖は認知しないやばい人なので、それは無いに等しいっす』



 もしかして、教祖の血を引いた子供ってまさか、真生くん以外にも……。


「そういえば、フグトラさんからこんな事を聞いたのですが……」

「ん? 気になるね。ぜひ聞かせて欲しいな」

「末端の中にも、『教祖の血を引いた子供』がいる。という話です」

「……!」


 すると、何故かヒガンさんの顔が、前よりもかなり驚いた表情をしていたのだ。


「まさか、フグトラがそう言ったのか?」

「……はい」

「そっかそっか……。ちょっと失礼する」


 そして、彼は神妙な面持ちで厨房へと消えると、喫茶店の空気は、先程よりもかなり重苦しい雰囲気となったのだ。


「ちょっと待て」

「ん? リルドどーした?」

「なんつーか、現教祖、色々とやばくねーか? 話聞いてるだけで、アイス食ってる時より背筋が凍るんだけど……」

「アタシも! 確かにミオ君の顔つきと、真生くんの顔つきが、ほぼ似ているなぁ。て感じてはいたんだよね。だけどまさか……」

「ほんとなぁ。思ったよりも敵側がやばくてな」

「うん……」


 確かに現教祖率いるベローエが、ここまで『イカれた』連中だったとは。言葉が出ず、銀色のスプーンで抹茶アイスをすくって食べても、全くお茶の味がしない。


 だってこれ、下手したら、真生くんとミオ君が『親族』の可能性が高いってことでしょ。

 今まで聞いた話よりも数倍怖すぎるんですけど。何。クローンか何かを作ろうとしているわけ?


 それに同意する信者も信者で、頭湧きすぎでしょ。もっと自分の体、大切にすればいいのに。


「ねぇ。リルド、メンコさん」

「どしたー?」

「おー。なんだ?」

「さっき言ったこと、秘密にしてくれるかな」

「なるほどね。確かにこの『現教祖』絡みのやつは、今回受け持つ案件とは関係ないし、変に関わって下手に手を出したら、逆にこっちが飲み込まれちゃう。その可能性も高いからね」

「そうだよな。俺はそれ以前の話で正直、驚いて何も聞いてなかったからな」

「それもあるかも! まっさかリルドが双子だったとかさ!」

「あー。俺、兄弟なんていた記憶が全くなかったから、余計に……」

「うん……」


 でも、正直怖いな。

 今の段階でも『鰒川家』と『ヴァルテ家』の目的が、全く見えないから。

 ひとまず、後はヒガンさんが戻ってから……。


「あー。突然離席してしまって、すみませんね」

「良いんです。それより……」

「実はですね。フグトラに事実確認を行っていた所でした」

「事実確認?」

「はい。私自身も、まさか『彼から』そんな秘密が暴露されるとは思ってなかったものですから……」

「ほーん……」


 つまり、ヒガンさんまでも、現教祖が『宦官モドキ』をしていたのを知らなかった。と。


「しかも、彼があの調子でポロ。と言った訳ですよね……、はぁ」

「あはは……」


 あれ? 何なんだろう。ヒガンさんのあの焦り様は。まさか、フグトラさん、そんな重要な事まで、ヒガンさんに伝えてなかったのかな。

 あの緑髪、大事な事までうっかり私に暴露してしまうとか。どこまでポンコツなのだろうか。


「でもこれで、私側は貴女達に、全面的に協力する理由が出来ましたので、どうかご安心を」

「え? それ、どういうこと?」


 私はただ、フグトラさんが言ったことをそのまま伝えただけなのに。


「仮にフグトラがそれを言った。て事は、そうですね。現教祖。ミオ様の祖父は……」


 そう言うと、再び周囲を見渡し、向かい側にいる私達に向かって、こう囁いたのだ。


「アビスの構成員である。という噂が、『本当かもしれない』になった事なので」

『ぅえええ!?』


 まさかの爆弾発言で、私やメンコ、リルドの三人はその場でフリーズしてしまったのだ。


 いや。嘘だろ。まさか、現教祖が……、アビスの構成員!?

 確かアビスって、『人体オークション』の管理人だったり、サーフェスが追っている組織でもあったよね。


「おい。それ、俺らに言ってもいい案件なのか!? ゴエモンのじーさんもこれ、知らないんだよな?」

「ほんと! ヒガンさん、正気!?」

「……」


 メンコさんやリルドは動揺を隠せなかった様だが、何故か私は言葉が出なかった。と言うより、ここで『アビス』が出てくるとは思ってなかった。というのもある。


「おや? タミコ様。何か黙っているようですが……」

「……ヒガンさん」

「はい」

「私も言いたいことがあったのですが、続きはここで、やり取りしませんか?」


 なので、私は彼から貰ったIDが書かれた紙を彼に見せ、約束をつけたのだ。

 

「なるほど。もしかして、タミコ様もまた、『二人に言えない何か』を抱えているのですね」

「細かく言うと、『上司』に止められているので……」

「それが懸命な判断でしょうね。この組織の話は、ここで話すには、流石に危険過ぎる」

「……」

「分かりました。今回の情報提供は、この辺までにしておきましょう」

「ありがとう、ございます!」

「ヒーーガーーンーーさーーん!」

「ほえっ!?」


 すると、先程のシリアスな空気が一変するかのように、彼の背後から、何故か殺気が漂っていた。


「また、何サボってるんですか! 仕事中ですよ! こっちはあくせく他のお客様の対応をしていたと言うのに!」


 というのも、先程以上に、鬼の形相をしたミオ君が、ヒガンさんを睨みつけながら怒鳴っていたのだ。


「いや。それはその……」

「タミコさん達、貴方がカウンターの方でずーっと張り付いてるから、困ってるじゃないですか!」

「あー! ミオ様それはすみません! まさかそこまで忙しくされていたとは……」

「はぁ……。注文来てるので、さっさと厨房へ行って作ってきてくださいよ」

「はは! 分かりましたぁー! では! タミコ様達! またぁ!」

「あ。ははは……」


 こうして、思わぬ伏兵に連れていかれるかのように、厨房へと消えていったのだった。


「さて。アタシ達も、お開きと致しましょうか!」

「そーだな。これ以上、面倒事を聞くのはごめんだしな」

「……うん」


 なので、私達も退店しようと、軽く席を立つと、レジ前へと向かう。


 だけど、美味しいスープカレーを堪能し、デザートも食べた後だというのに、心がスッキリしない。

 それはそうか。食べた後に衝撃的な情報が3つ、飛び込んできたのだから。


 一つ目はリルドは双子だった事。

 二つ目は真生くんとミオ君が『親族』だという事。

 そして、三つ目は、ベローエに歪んだ制度を作った現教祖が『アビスの構成員』という事。


 どうしよう。思ったよりも闇が深すぎて、一歩踏み込んだだけでも、底なし沼の様に、飲み込まれそう。


「大丈夫ですか?」

「え!?」

「顔色、悪そうですが、まさか、ヒガンさん、余計な事を!」

「いやいや。大丈夫」


 そのせいか、ミオ君に心配されてしまったが、そんな、切羽詰まった様な顔をしていたのかな。心配かけてごめんね。


「なら、いいですけど、あまり無理をなさらず……」

「待て。タミコ」

「え?」


 すると、現金で支払おうとした私と、レジ側にいるミオ君の間に割り込むように彼が入ると、黒い半袖パーカーのポケットから、さっ。と黒いスマートフォンを取り出したのだ。


「俺が払うからいい」

「お? めっずらしー。どーしたの急に。男出しちゃって!」

「メンコ。ガチで黙れ」

「えへへぇー!」


 そして、彼は背後で茶化すメンコに怒ると、慣れた手つきでペムペムを起動させ、画面に映るバーコードを差し出し、支払いをしたのだ。


 ペムペムっ。と音を鳴らしながら。


「またのご利用、お待ちしております!」

「おー。またなー」

「はい! 今度はランチの時にでも、お話ししましょーねっ!」

「ありがとう! ミオ君またねー!」

「まったねー! ハンバーグ美味しかったよぉー!」


 そして、私達は夜のツブヤキを後にし、彼女が停めた車に向かってネオン街へ歩いて行ったのだった。

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