表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(前編)
56/108

夜の喫茶店は、情報の塊でした。

「どうして、ここでアルバイトを!?」


 私は驚きのあまり、思わず声を漏らしてしまった。

 だって、あの『ミオ君』が今、目の前で、店員として働いているのに、かなり困惑したのだ。高校生でバイトして、大丈夫なの?


「あー。それは話が長くなってしまいますので、こちらへご案内致します」

「は、はぁ……」


 しかし、彼は店員モードになっていたので、言われるがまま、私達はついて行くが、何だか雰囲気が変わったような。


 ふと思ったけど、ミオ君って、こんなに男っぽかったっけ? 三ヶ月前の時のミオ君は、女の子みたいな顔つきで、焦げ茶色のショートボブだった気が。


 髪型は同じなのに、雰囲気が大人っぽいって言うか。制服姿とのギャップに、戸惑いが隠せない。


「あの子が、ミオ君?」

「そーだよ。龍樹君とカンナちゃんとよくつるんでる子」


 私の右隣には、メンコさんが背後で彼を凝視しながら聞いてきたのだが、相変わらず不敵な笑みを浮かべている。

 まさか、今度は学園モノでも手を出すつもりか?


「つるんでるって……。簡単に言うと友人だろ?」

「なるほどねー。それと、デットプールを立ち上げたきっかけの子だっけ?」

「あはは。それに関しては、ボクがきちんと答えますので、ご安心を」

「ほー」


 しかし、彼は終始、店員モードを貫いていたので、ひとまず薄暗いバーのような雰囲気の中、奥のカウンター席へと案内されたのだ。


「見ねーうちに、すっかり店員みたくなっちまったな」

「あはは! リルドさん。あの時はその、ありがとうございました!」

「いやー。三ヶ月前での話だろ? あの時はお互い大変だったな」

「ですね。カンナさんが来てくれて助かりましたもの」

「そーだな」

「えっと、リルドとミオ君、めちゃくちゃ仲良いけど、いつ頃から?」

「あー。タミコがフグトラと支部に潜入している間、カンナから連絡が入って、俺護衛の元、カスピまで迎えに行ったんだよ」

「そんな経緯が……」


 なるほど。私達が潜入している間に、リルドはミオ君の護衛をしていたのか。

 私は今までの出来事をアップデートをするかのように、話を聞きながらも、頭の中で出来事を更新していく。


「そそ。なのであの時、狂信者達も彷徨(うろつ)いてたんですけど、リルドさんが守ってくれたりしていたので、無事にツブヤキに着いたんです」

「そうだったんだ!」

「はい。なのでフグトラさんの事もその時、話したんですよ。敵の幹部だけど悪い人ではないから、攻撃は無しでお願いします。と」

「だからあの時……」


 ミオから直接聞いた。て言っていたのか。

 今までの出来事が絡み合っていくかのようにガッツリとハマっていく感じがしたのだ。

 

「まぁ。そんなところだな」

「うん。粗方分かったよ」

「あ。ところで、ご注文の方、お決まりになりましたら、気軽にお声掛けてください。では、失礼致します」

「は、はい……」


 そして、彼はディナーと書かれた黒いメニュー表を持って私達の所に置いておくと、颯爽とカウンター奥にある厨房へと行ってしまったのだ。


「さて……」


 車の中にサンドイッチ、置いてきてしまったけど、ここでのディナーメニューも食べたかった私は、徐にメニュー表を開いてみることにした。

 ちなみに席は私を挟むかのように右隣にはリルド。左隣にはメンコさんが覗き込んでいる。


「アタシはオレンジジュースと、ハンバーグでも注文するかな。お腹空いちゃったし!」

「俺はこの『限定メニュー』にしようかな」

「え? どこにあったの!?」

「あー。ここにちっちゃく……」

「え!?」


 確かにメンコさんがさっき、『ちなみにディナー限定メニューも存在するみたいだから、よくメニュー表を見ることだね!』て言ってたけど。まさかメニュー表の端にちっちゃく書かれているのは流石に気が付かないって!


「おっ! 流石ですね~。『限定メニュー』に気がつくとは! ははは!」

「えっ!?」


 ふと、カウンター越しから、銀髪の美麗な方が笑顔で声をかけてきたので、驚いて真っ直ぐ向いてしまった。札を見るに『鰒山』と書かれていたから、この人がまさか、鰒山家のうちの一人?


「初めまして。タミコ様。私はヒガンと申します。話はゴエモン様から色々と伺っておりますので、決して怪しいものではございません」

「は、はぁ……」


 すると、何故か彼から突然、自己紹介をしてきたのだ。


 まさかこの人が、リルドやシイラさんに、幹部権限のネックレスをホイホイと渡していた、『貢ぎ癖が酷い』ヒガンさんかぁ。


 確かに見た目は年齢不詳だけど、グソクさんと同級生と聞いて、内心驚いている。

 あの整い過ぎた見た目で40歳近いのは有り得ないでしょ。どんなアンチエイジングをしているのやら……。


「あ。それと、こちらは裏メニューで私特製の『抹茶オレ』です。好みはフグトラから伺っておりますので、ご遠慮なく……」

「は、はぁ……」


 すると、彼はニコニコ笑いながら一方的に言うと、即座にカウンターから『抹茶オレ』を渡してきたのだ。

 それにしても、私、この人とは初対面なんだけど、何で好みまで知っている訳?

 嬉しい反面、別の意味で怖いんですけど。


「ちょっとヒガンさん!」

「あっ! ミオ様! これはこれは!」


 すると、鬼の形相をしたミオ君がへらへらと笑うヒガンさんに、こう怒鳴りつけていたのだ。


「まさか、また経費度外視で『貢ぎ癖』を発動しているんですか!」

「いやいや~。これには訳がありまして~」

「あのね。ツブヤキの経費は無限じゃないんですよ! その辺ちゃんと考えてからやってくださいね!」

「まぁ。タミコ様を初めて見た時、ついつい裏メニューを、出したくなってしまったもので~。あははは!」

「全く。貴方という人は……」

「ええっと……」


 私は戸惑いながらも彼らを見ると、ミオ君はこう謝ってきたのだ。


「本当にごめんなさい! この、『ヒガン』という人は、男女問わず、『美形の人』を見ると、ついつい経費度外視で、裏メニューやら追加メニューやら作って経費を食い潰してるんですよ!」

「ええっ……」


 まさかそんな事をしていたとは。

 ていうか、経費度外視って色々と危ない気がするのだが、ツブヤキの経営、それで大丈夫!?


「いやいや。ちゃんと私なりに選別しているので、その辺は気になさらなくても~。あはは!」

「そういう問題じゃないんですって。はぁ……」

「ははは。ミオ君も大変そうだね」

「まぁ。ですが、ヒガンさんも、ベローエを抜けて、デットプールを作ってからは、こーんな感じで意気揚々としてますので、内心は良かったと思ってますね」

「そんな! ミオ様からそんなこと言われるなんて! 私はもう感激といいますか。えっと……」

「あ。お礼は結構です。それより、注文はお決まりになりましたか?」

「えっと……」


 すると、再び店員モードになったミオ君に勧められ、私達はそれぞれ、メニュー表を指してこう言ったのだ。

 

「飲み物はいいとして、この『限定メニュー』をお願いしようかな」

「俺も同じで」

「アタシはオレンジジュースと、ハンバーグとライスのセットで!」

「了解しました。では、ごゆっくりとどうぞ! ほら。ヒガンさん行きますよ!」

「あはは~! では、ごゆっくり~」

『えっと……』


 そして、二人はコントみたいなやり取りをした後、厨房へと消えていってしまった。


 まさかヒガンさんも、フグトラさんとはまた違う、『別ベクトルのポンコツ』だったとは。


 だけど、これ以上ポンコツが増えたら、ツブヤキの経営は傾かないのだろうか。少々心配ではある。


「てかさ……」

「ん?」

「ヒガンさん、あーんな感じで俺に先祖のネックレス渡してきてさ、軽くビビったんだよな」

「そりゃぁ、ビビるって……」

「だけど、その時は取引込みだったけど、今回はタミコに対して、何で裏メニューなんて出したんだろうな」

「うーん……」


 ふと、彼の変わった行動が気になった私は、おもむろに黒いシンプルなコースターの上に置かれた、抹茶オレを飲んでみることにした。


「……ん?」


 すると、何か隠し味らしき甘い味がしたのだ。もしかして、黒みつ? キャラメル? 特有の濃厚な甘みが、舌に絡みついていく。


「もしかして……」


 黒いコースターを取ってみると、なんと紙が隠されていたのだ。紙には『Higann_605』と書かれている。


 これって、もしかして、ライムのIDかな?

 試しにスマートフォンを起動し、ID検索をかけてみると、確かに『ヒガン』と書かれた名前を見つけたのだ。


「まじでIDだ……」

「はぁぁ!? あいつ何考えてんだ!?」

「ええっ! タミコちゃんすごっ!」

「えっ!? メンコさん、それってどういう……」

「ヒガンさんは自分から、しかも、そんな形でIDを渡すこと自体、滅多に無いんだよ!」

「え? ちょっとどう言う……」


 益々思考回路が分からなくなった私は、思わずパニクってしまったのだ。まさか私、狙われている?


「うーん……」


 暫く考えながら、抹茶オレを一口飲む。

 そーいや、今まで起きた出来事を軽く頭の中でまとめてみよっかな。


 ええっと確か、龍樹君の話によると、ネクターは1箱25錠。3箱を開けたら75錠だったっけ。だけど、65って何しても引っかからないしなぁ。


 もしかして、『ドラックルームスープ』に入るための暗号だったり? だけどそれをわざわざIDにして晒すかな。益々分からなくなったが、次来るメニューで分かるかな。


「お待たせしました。こちら、『限定メニュー』の『スープカレー』でございます! ナンとライス、どちらに致しますか?」

「俺はライスで」

「私はナンで」

「はい。こちらをどうぞ」


 すると、ヒガンが笑顔で私とリルドに、トレーに乗せられたスープカレーを持ってきたのだ。


「うわぁー! めっちゃ美味そぉ!」

「凄っ!」

「なんか、かなり豪勢だけど、大丈夫なのか?」


 しかも、スープカレーは魔法のランプみたいなオシャレな容器に入っており、スパイス特有の香りが嗅覚を支配していく。

 それに、別の白い容器には、鶏肉がこんがりと焼かれており、骨付きでドンッと出ているのだ。


 パプリカやブロッコリーのような彩り野菜も扇状に並べており、ナンの焦げ目がついた香ばしい匂いが鼻を刺激していく。


 ちなみにライスにしたリルドの皿には、ターメリックライスで、おしゃれに型抜きされており、ボリュームがあるように感じたのだ。


「えぇ。ちゃんとそこは計算に入っているので、ご安心を! それではごゆっくり~」

「うー! お腹すいたぁ!」


 左隣のメンコさんはというと、オレンジジュース以外、まだ来ていないせいか、腹を空かせた小鳥のようにピーピー騒いでいた。


「お待たせしました! こちら、ハンバーグとライスのセットです!」

「おっ! 来ましたかぁ!」


 そのほんの数分後、今度はミオ君がハンバーグとライスのセットを持って現れたのだ。

 ハンバーグもいいな。デミグラスソースがふんだんにかかっていて、とても美味しそうな匂いがする。


「えっとミオ君」

「どうしました?」

「さっき、ヒガンさんからライムのIDを貰ったんだけど……、この605って、何か意味がある?」

「ヒガンさんから!? あー。あの人、恐らくこう伝えたかったんですよ」

「え? なんて?」


 すると、考え込む仕草をし、彼の口からとんでもない事が告げられたのだ。


「実は、ギンコさんが持ち帰った、龍樹の家にあった空のネクターを調べたところ、何故か包装シートに、『5粒だけ』残した状態にしていた箱が2つあった。と」

『はぁ?』


 これには流石に私もメンコさん、リルドも驚いてしまったのだ。

 まさか、龍樹君、ネクターを全部飲みきって『なかった』って言うこと?


「まぁ。ボクは分かってましたよ。龍樹、薬の飲み方自体、かなり変な飲み方をするので、その報告をギンコさんから聞いた時は、かなり呆れ返りましたよ」

「はぁ……」


 だけど、どんな飲み方をしたら『5粒だけ』残して捨てられるのだろうか。普通は空になるまで、最後まで飲みきると思うんだけど。


「それにしても、変な飲み方だな。敢えて『5粒だけ残す』とかさ」

「うん。何で5粒だけ残すんだろう」

「あいつ、薬の飲み方まで拘りがありまして、前に1回、学校で聞いた事があったんです」

「へぇ……」


 もしかして、ヒガンさん、『彼が無事なのは、ネクターを飲みきらなかったから』というのを605。真ん中のゼロを抜いて65錠。と伝えたかったのかな。それにしても、変則的な伝え方だから、思わず笑っちゃうんだけど。


「どういう、飲み方を?」

「えっと、聞いた時は『この5粒は、他の人が咄嗟に頭痛くなった時とかに、渡せると思って』て本人が言ってたんですよ」

「はぇー」


 つまり、昼に頭痛くなったら、5人に鎮痛剤を1錠渡せるように『敢えて』とっておいてた。てこと?

 だけど、それを捨ててたら意味無いと思うんだけど。

 なので、私はその話を聞きながらも、ナンをちぎってスープに浸し、口に頬張っていた。


 んー! カレーなのに、あっさりしてて食べやすい! 特に香ばしいナンと一緒に食べると、格段と違う!


「だけど、彼、何故か5粒あるのを忘れて、薬を投げ捨てちゃう事があるんですよ」

「はぁ? なんつー飲み方してんだアイツ」


 しかし、その話を聞いたリルドが、かなり呆れ返った顔をしていたのだ。

 でも、今回はそれで命拾いしたから良かったけど、仮に全部飲みきってたと思うと、かなり鳥肌が立ってくる。

 

「まぁ、その変な飲み方のせいで、学校にいる収集癖のファンが集って、ゴミ箱を漁って薬だけ持ち去られた事がありましたよ。あの時本当にビビりましたけど」

「そりゃぁ、ビビるよね。あはは……」

 

 ていうか、ミオ君達が通ってる学校、怖すぎない!? 真生くんみたいなレベルの子が居るとか、どんだけ魔境な環境なのだろうか。

 気にはなるけど、私はもう成人済みだ。もう戻れないと思うと寂しいが。


「あ。それと、実は今さっき、苺カクテルで酔い潰れたシイラさんを迎えに、鰒川君がこのツブヤキに来たんですよ」

「ええっ!? そ、その、大丈夫だったの?」


 思わず心配してしまったが、過去の鰒川君。つまり、真生くんがやっていた事を考えると、かなりのトラウマレベルなのだが、大丈夫だったのだろうか。


「実は、彼から『熊野君、今まで酷いことをしてしまって、ごめんなさい』て謝ってきたのです」

「えっ!?」

「最初はかなり驚きました。だけど、『今がとても幸せなんだ』て語ってましたよ」

「へー……」

「恐らく、カンナさんのお兄さんが、傍でずっと彼を支えていたからだと思うんです。なので、逆にボクは、こう言いましたよ」

「なんて?」

「えっと『あんな薬の飲み方まで変人なやつの事を思うより、今、君だけを見てくれる人と一緒にいた方が絶対幸せだ!』て。思わずエールをかけちゃいました!」

「まじか……」


 まさか、そこまで言ってしまうミオ君もミオ君だけど、確かにわかる気がした。

 カレースープに浸しながら食べるナンや野菜の様に、愛に浸され、心が満たされる幸せの方が、彼にとっては幸せなのだろう。


 はぁ。恋っていいなぁ。て、何考えているんだ私!

 隣では黙々と、スープカレーを頬張っているリルドがいるが、ふと、色々とやり取りを思い出すうちに、思わず顔が真っ赤になってしまった。


「およぉ? どーしたのぉ? タミコちゃん!」

「ええっ!?」


 すると、左隣でメンコさんがニヤニヤとしながら、こっちを見ていたのだ。


「なーんか顔真っ赤っかだけどー」

「いや! これは! その……」


 ふと、隣が騒がしかったせいか、彼がふっ。と私を見て軽く笑っていたのだ。


「あー! 今笑ったでしょ!」

「別に。早く食わねーと冷めるぞ」

「はぁ。そーだった。食べなきゃ……」


 なので、私は渋々と食べることにしたが、今までの彼とのやり取りを考えてしまうと、カレーの味が分からなくなりそうだった。


 もう。美味しいのに!


「タミコ様」

「はい!?」


 急に声をかけられ、カウンター前へと視線を戻すと、何故かヒガンさんが微笑みながら、こう言ってきたのだ。


「605の意味、分かりましたか?」

「もしかして、真ん中のゼロを抜いたら、『龍樹君がネクターを飲んだ数』ですか?」

「ご名答。それともう一つ、意味がありましてね」

「はぁ……」


 しかし、彼は続けざまにこう恐ろしい事を言ってきたのだ。


「605は内部ページのエラーコード。つまり、『龍樹』というエラー要素があることにより、もしかしたら、ドラックルームスープを潰せる可能性が出てきた。ていう事です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ