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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(前編)
55/106

用があって電話したのに、何故か地獄でした。

 車に揺られながらも、喫茶店ツブヤキに向かう途中、私はジャージのポケットからスマートフォンを取り出し、ライムを起動させた。


 車の外から映る景色は、すっかネオン街が彩る夜の繁華街へと入っていた。ツブヤキって確か、看板も無い隠れ家みたいな所だから、私一人で行くのは昼間しか行けないんだよね。

 だから、夜のツブヤキってどんな感じなのか、とても気になるけど。


「えっと、ここで電話しても大丈夫でしょうか?」

「まぁ。リモートするなら言ってねー。こっちで電気つけるからー」

「はい! メンコさん、ありがとうございます!」

「ったく。思ったんだけどよ。タミコ」

「何? 突然どーしたのよ」


 ふと、隣にいたリルドが、何故か不貞腐れたような顔でこう言ってきたのだ。


「何でわざわざ、アイツに電話する必要があるのさ」

「いや。用があるのはシイラさんじゃないんだよ。『同居人』の方なのよ」

「へー。同居人か。アイツも変わったなぁ」

「突然どしたの?」

「んー?」


 すると、彼は両腕を組みながら、考え込むように、話を切り出したのだ。


「アイツ、自分から人に関わろーというのが一切無くてさ……」

「へー。カンナちゃんと同じ事言うんだね」

「やっぱりか!?」

「って、急にどーしたのよ。まさか、『アイツ、血にしか興味が無い』から人に執着だなんて珍しいって事が言いたい訳?」

「げっ。分かってたんかよ。チッ」

「何でそんな、嫌そーに言ってんのよ!」

「ははは! 相変わらず二人の会話は若くて熱いねぇ~」

『メンコさん!』


 しかし、何故か運転席にいるメンコさんに茶化され、私とリルドはお互いに顔真っ赤になりながらも、反論した。


「それに、リルドも見た事あると思うんだけど……」

「え? 同居人か?」

「そそ。ほら、あの時……」


 そして、私はリルドが迎えに来たあの昼間のツブヤキでの出来事を話すことにしたのだ。

 嫉妬心満載の彼を信用するには、ここから話すのが早いと判断したからだ。


「もしかして、シイラと一緒にいた、白ワンピースの子か?」

「そそ! 覚えてる? 龍樹君が監禁されていた時、シイラさんの傍をベッタリと離れなかった……」

「確か……、あぁ! いたな! え? 待って。あの子と白ワンピースの子、同一人物だったのか!?」

「そーだって……」


 おいおい。リルド。白ワンピースの子と、あの時シイラさんにベッタリしてた男子高校生、同一人物なのよ。二人とも、『真生』という人物なの。

 中性的なせいかもしれないけど、見ただけじゃ、性別の判断がつかない、不明の子なのよ。


「ぎゃははははは! リルド、ちょーウケんだけど!」

「おい! 何笑ってんだ! メンコテメェー!」

「だって! アタシだってラボで初めて同居人の子に会ったけど、素直で可愛い男の子だったよー! あははは!」


 流石メンコさん。昼はBL作家のせいか、彼が男の子だというのを、分かっていたか。といっても、彼も自分から『男なので』て言ってたもんね。


 いや。それよりもシイラさんに電話かけなきゃ……。


 我に返った私は彼に電話をかける為に起動したライムから、手繋ぎしている地雷アイコンを見つけると、直ぐ様に人差し指でタップした。


 私だって本当は自分から、地獄の門みたいなトーク画面を潜りたくないんだけど。


 そして、トーク画面から右上の電話マークを押すと、プルルルルっと発信音が鳴ったのだ。


『はいっ!』

「えっと、真生くん!?」


 すると、電話に出たのは何故か真生くんだったのだ。だけど、電話越しに聞こえてくる声が戸惑っている様な感じだ。


「シイラさんは、いる?」

『えーっと、いるはいるんですけど……』

「何かあったの?」

『えっと、リモートにした方が、説明の手間が省けるかと……』

「わ、分かった」


 なので、彼に言われるがまま、ビデオ通話に切り替えると……。


「は、はぁぁ!?」

「どした? タミコ」

「何があった訳!?」


 すると、メンコさんは何かを察したのか、電気をつけてくれたのだが……。


『あはは。実はシイラさん。今酔ってまして……』

「……はい?」


 その画面には、何故かクマ耳が付いたピンクの半袖フードを被って困惑気味の真生くんと、ぬいぐるみのように、彼の背後に抱きついているシイラさんが映っていたのだ。

 しかも、顔を真っ赤にしており、猫耳付きの白いパーカーを着ている。


 おいおいおいおいおい。何なんだこの状況は。ビデオ通話越しからでも、薔薇が咲き乱れているんだけど。

 私は単に『桃毒の鍵師』について聞きたかっただけなのに、何なのこの巻き込まれ様は。


 しかも、隣で覗いているリルドでさえ、言葉が出ずに固まっているのだ。

 運転席に居るメンコさんはというと、その光景をミラー越しでニヤニヤしながら見ているし。


「えええっと、これは一体どういう……」

『あの、詳しく言いますと、彼、ツブヤキにある『苺カクテル』を何杯か飲んだらしく、帰って猫耳のパーカーに着替えたら、こんな感じになりまして……』

「あー……、なるほど」


 状況は粗方わかったけど、こいつらまじで何してんだ?

 まぁ、部屋は部屋でクーラーをガンガン効かせてるだろうから、熱中症にはならないだろうが。っていや。今はそんな心配をしている暇じゃない。


「おい。クソシイラ」

『んんん~? あー! リルドじゃ~ん! やっほー!』

「やっほー。じゃねーよ。どーいう状況だそれは」

『あ~。あんまりにも美味すぎて、つい飲みすぎちゃったぁ~』

「んで、シイラが抱きついているのが、真生くんか?」

『そ、そうです。まさか、名前で呼ばれるのはちょっと……』

「まぁ。タミコが用があって電話したらしい。てことで、あとは頼むわ」

「えっ。て、ちょっとリルド!」


 しかし、彼は呆れ気味にビデオ通話から離脱すると、私に丸投げしてきたのだ。


 後で覚えてろよ!

 私は内心怒りに震えながらも一度深呼吸をし、本題を切り出すことにしたのだ。


「ってことでごめんね。実は、ある事を確認したくて電話したんだよね」

『確認、ですか?』

「うん。率直に言うね。真生くんって……」

『うん』

「もしかして、『桃毒の鍵師』だったりする?」

『お? 美味しそうな通り名だね~』

「シイラさん。こっちは真面目に聞いてるんですけど……」


 何なんだろう。この酔っ払いに絡まれているかのような会話は。

 一刻も早く切りたい気持ちはあったが、真生くんが本当に『桃毒の鍵師』かどうか、きちんと確かめなくては。


『大丈夫大丈夫! 分かってるよ~。だって僕、それで最初っから、真生くん狙ってたんだから~!』

「は、はぁぁぁぁ!?」

『えええっ!?』


 それに関しては何故か真生くんも驚いていたのだ。

 おいおい。このサイコ野郎。最初っから真生くんを『捕獲』するために動いていたって事か。


「おいちょっと待て! シイラ!」

『んん? うるさいなぁ。なになにぃ?』

「最初からそいつ狙いだったって事か?」

『そうだよ~。僕は嘘なんかつかないし~』

「えっと、まさか、真生くんが『桃毒の鍵師』だと言うこと、いつから分かってたの!?」

『うーんと、潜入調査した時があってね。その時に、末端の信者達がね~。こぞって『桃毒の鍵師』の通り名を貰った、高校生がいるって噂してたの。偶然聞いちゃったんだよね~』

「それで……」

『うん。気になった僕は、信者のフリをして情報を貰ってね。その時、コードネームさえも貰った。との話も聞いちゃってさぁ~』

「……」


 この時のシイラさん、酔っ払っているのか、シラフで言ってるのか、全く分からないが、今までのキルマイ騒動の時を考えたら、何もかも腑に落ちてしまうのだ。

 確かにあの一連の流れ、本任務をこなすついでで『何かを狙っていた』かのような、計画的な行動だったし。

 それに、幹部権限のネックレスをつけてまで、悠々と管理室に入ってきた時は、唖然としてしまったが。


『そうだったんですね。凄く納得しちゃった!』

「え?」


 すると、彼は腑に落ちたかのような安堵な表情をすると、こう語り始めたのだ。


『確かに、ぼくは通り名では、『桃毒の鍵師』で、コードネームでは『マフ』と呼ばれていました』

「やっぱり……」

『だけど、通り名やコードネームで呼ばず、『名前』で呼んでくれたのが、シイラさんだけでした』

「……」

『だから、とても嬉しかったんです。なので、ぼくは永遠にシイラさんしか好きになれないし、シイラしか勝たん! ですね。えへへ!』

「そっか!」


 うん。何なんだろう。彼もまたやっと幸せを見つけて、前を向いて生きている。

 まぁ、永久に爆発してろ。と内心思いながらも、軽く質問を投げかけてみる事にした。


「ふと思ったんだけど、いつ頃通り名で呼ばれるようになった訳?」

『それは、ぼくが功徳と称したバイトで、ハッキングやピッキングばっかりやってたら、いつの間にか通り名が付いちゃった感じです。えへへ!』

「えっと、えへへって……」


 そう軽く済ますことではないと思うんだけど!?

 しかも、未成年で通り名やらコードネームを貰っていたなんて聞いたら、越智さん卒倒だなぁ。改めて思うが、末恐ろしい子だわこりゃ。


『そーなんだぁ。でも、僕も真生の事、色々知れてよかったかも。ありがとね。タミコちゃん』

「え!? いや。お礼を言われるほどじゃ……」

『ううん。さぁーて……、これでビデオ通話の方は、失礼するかな。真生』

『えっ……』


 すると、彼は恍惚な笑みを浮かべながら、真生くんのフードを優しく外すと、突然、背後から軽く、耳たぶを噛み始めたのだ。


『ひゃぁっ! シイラさん! 耳は食べちゃ、ダメですって!』

「……」


 どうしよう。続きが聞きたい反面、このままビデオ通話を切ろうか悩んでいたが、続きが気になった私は、敢えて繋げてみることにした。


『永遠にシイラしか勝たん! だってぇ~?』

『えっ!? まさか、全部聞いてたんですか!?』

『当ったり前だよ~。一言一句、ぜーんぶ僕の頭の中に入ってるからね~。続きはベットで語ろっか!』

『えっ!? あっ! もう! シイラさん! そこはちょっと……!』



――ブツッ。



 後は二人だけで楽しんでくださいね。

 私は静かにビデオ通話を切ると、ふぅ。と深呼吸をし、スマホをポケットの中へ入れたのだ。


「おい」

「ん?」

「速攻切ってたけど、大丈夫か?」

「うん。熱ーい夜を過ごすそうです」

「まじか……」

「うんうん。これであの三姉妹を悶絶させられそうなネタが揃ったわ! タミコちゃん、ナイス電話だったよ!」

「え!?」


 いやいやいや。メンコさん? 単純にシイラさんに電話しただけで、何でそこまで笑顔で褒めてくるんですか!?


 逆に裏がありそうで怖いんですけど!


「おいおい。まさか……」

「その、まさかよ! さーて。ツブヤキに着いたら原稿書き上げなきゃ!」

「あはは……」


 もうここまで来たら、あとは『薔薇本』が出来上がるのを待つだけってことか。

 だけど、ビデオ通話で見た衝撃が忘れられなかった私は、気を紛らわすかの様に、車の窓から景色を眺めることにした。


 あぁ。眩い派手な光を放つネオン街だ。夜のツブヤキって初めて行くから、とても楽しみだ。


「着いたよー」

「やっとか」

「うん。そういえばメンコさん」

「ん? どしたぁ?」

「そういえば、夜のツブヤキって、何かメニューが違ったりするんですか?」

「メニューねぇ。確か『ランチ』メニューは無くて『ディナー』メニューならあるかな」

「ほー」

「ディナーだと、お酒も注文出来るんだけど、私は車を運転してるから、毎度オレンジジュースを頼んだりしてるのよ」

「そうなんですか!」


 てことは、夜では『お酒』の注文も可能。てことか。何飲もうかな。お酒は飲まないからなぁ。うーん……。


「そうなのよ~。ちなみにディナー限定メニューも存在するみたいだから、よくメニュー表を見ることだね! アハハハ!」

「なるほど……」


 もし、見かけたら注文してみよっかな。


 そう思いながら、ツブヤキの扉の取っ手に手をかけた。



――カラン。カラン……



「いらっしゃいませー!」


 すると、レジ近くには、ツブヤキの店員の格好をした銀髪の美麗な男性と……


「いらっしゃいませ……、って、タミコさん!?」

「えっ!? 嘘っ! ミオ君!?」


 何故か白いYシャツに、ツブヤキのロゴが入った黒いエプロンの様な制服を着たミオ君がいたのだ。

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