真相を聞いた途端、涙が止まらなくなりました。
「これが、僕が体験した出来事であり、事実です。今まで隠してきて、本当にすみませんでした」
「……」
私は彼から話を聞いた途端、思わず泣いてしまった。あの時から、龍樹君は、一人で孤独と戦っていたなんて。
なんで私は責めようとしてしまったのだろうか。監禁事件以降、彼はずっと一人で抵抗していた。それなのに……。
「……」
隣にいたリルドさえも、目からは大粒の涙が零れていた。
「だから僕は……」
そう言いかけた途端、彼は立ち上がると、咄嗟に弱っている龍樹君を、優しく抱きしめたのだ。
「もう、無理して言わなくても、いい」
「……リルド……さん!」
「今はただ、泣け」
「うぅ……」
「お前はたった一人で頑張っていた。凄いな」
「そんなこと……、無いです。僕はただ、弱かっただけで……」
「そんな事ねーよ」
「ううぅ……」
「そして、その頑張りは、必ず誰かが、きちんと見ているからな。だから、今は泣け。いいな」
「ううううぅ……、リルド、さん……、ぅわぁああああ!」
そして、彼はリルドの胸の中で、子供のように大声で泣きじゃくりながら、しがみついて泣いていた。
それはまるで、今まで我慢し、蓋してきた想いが、溢れるかのようで、私も思わず立ち上がり、彼と共に龍樹君を抱きしめていた。
「私も……、いるからね!」
「タミコさん……」
「よく頑張ったね。今はちゃんと、体を治して、退院したら、またツブヤキで話そう。焦らなくていい。少しずつ。ね!」
「あぁ……、ぁああああ!」
もう、505号室は、三人の泣く声でいっぱいだった気がする。
「あのー」
『メンコさん!』
私とリルドはわんわん泣きながらも、気まずそうにそっと病室に入ってくる彼女を見ていたのだ。
「あっ!」
すると、彼は驚いた顔でぱっ。と目を見開いて、パチパチと瞬きをすると、彼女に向かってこう言ったのだ。
「あの時助けてくれた、少女さん、ですか?」
「少女って……」
「えっと、僕と同い年位の女の子でした。貴女と同じ、オレンジ色の髪で……」
「……!」
すると、その言葉を聞いた瞬間、メンコさんは突然、泣き崩れてしまったのだ。
「メンコさん!?」
「ううん。違う。これはね……、その……」
「えっと。ごめんなさい! その……」
「謝らなくていいのよ。龍樹君。だっけ?」
「は、はい……」
すると、彼女は泣き笑いの表情で彼に、こう質問していたのだ。
「その少女、アンナは、なんて言ってたの?」
「えっ!?」
私は驚いて開いた口が塞がらなかった。
まさか、龍樹君を助けた少女が、亡くなったアンナさんだったとは。
「それは、『アタシの分まで、生きていて欲しい』ていう事と、『アタシは大丈夫。だから、自分を大事にして欲しい』て。確かに言っていました」
「そうだったんだ。アンナ……」
そして、彼女は大粒の涙を零しながらも、彼を優しく抱きしめ、こう言ったのだ。
「龍樹君、生きていてくれて、ありがとう」
「えっ!?」
「こうして、アンナの言葉が聞けたんだ。それだけでも、アタシはとても嬉しいの」
「そう、なんですか……」
「そう。死人に口なし。とは言ったものだけど、アンナは死んでも尚、一人の人間を助けた凄い人だよ。もう……」
「メンコさん……」
そして、彼女は抱きしめるのをやめ、涙を拭うと、彼女は語り始める。
「実はね、この格好、髪色は生前、アンナがしていた格好だったんだ」
「そうだったんですか!?」
「うん。なんて言うか、『アタシ』自身が『アンナ』になりたかったのかもしれない」
「はぁ……」
「それぐらい、彼女は明るくて、真面目で。それこそ、龍樹君と似ていたんだよね」
「そうだったんですか!」
「そそ! そういえば、好みも卵サンドだったのよね!」
「えっ!? その、そこまで、僕と似ていたんですか!?」
これには彼も驚いていたみたいで、ベットの上からでも、彼女の話に耳を傾けていた。
「そーなんだよ! だからさ……、アンナの分まで、生きていて欲しいんだ」
「は、はい!」
「そんで、話変わるけど……」
「あー。えっと、『ドラックルームスープ』の件ですか?」
「そそ。タミコちゃん。リルド」
「はい!」
「何だ?」
「龍樹君の話を聞いてて、何か気になることとか、あった?」
「そーいえば……」
あの『匿名の語り場』って確か、グソクさんがそういうモノがあって、そこからパキりルームへ行くことが多かったと言っていたような。
「グソクさんが言っていた事と、メンコさんが車の中で話していた事が、かなり一致している気がするんです」
「あー。そう言われてみれば。ってことは、10年前とやり口は全く変わってねーって事か?」
「恐らく。だけど、様々な媒体。例えば携帯からスマートフォンになったり、パソコンからタブレット型に進化していっても、アプリやサイト自体は根強く残っていた。ていう感じかな」
「て言うことは……」
そのサイトを管理している人は、キルマイフレンドの管理人だったフグトラさんみたく、上からの指示で突発的に作った訳ではない。て事か。
私は様々な視点で考えながらも、『ドラックルームスープ』の謎を解いていく。と同時に、どうやって潰そうか。という事も模索していった。そう。これ以上、龍樹君やアンナさんみたいな人を増やさないためにも。
「もしかして、お困りの様かな?」
『越智さん!?』
すると、メンコさんの背後から、白衣姿で黒縁眼鏡をかけた、50代位の男性が両手を後ろにし、笑顔で立っていたのだ。
確かこの人が、カラマリアの現トップであり、スーパードクター兼闇医者で、この病院の院長……
「あ。お父さん……」
「龍樹。あとはお父さんに任せなさいな」
「でも……」
だけど、越智さんは太陽の様な笑顔で、彼の頭を優しく撫でると、語りかけるように優しく励ましていたのだ。
「まずは、体をしっかり休めること。これは医師として。一人の父として言っている。いいね?」
「……うん!」
「それと、退院したら、高校生らしく、変にストレスなんて貯めず、カンナやミオ君と思いっきり遊んで来なさいな」
「え!? いいの?」
「当ったり前だろ! お前はまだ、17歳のガキだからな! 大いに遊べ! いいな?」
「お父さん。相変わらず豪快だって!」
「がははは! それぐらい元気なら、退院も近いかもな! さて……」
しかし、彼は息子に向けた優しさとは別に、私達には真剣な眼差しを向けると、突然お辞儀をし、こう言ってきたのだ。
「サーフェスの皆様。この度は息子の事を助けて下さり、ありがとうございました!」
「越智さん!?」
「あの、頭を上げてください! 私はただ……」
「タミコさん、リルド君、そして、メンコさん。本当にありがとう」
「……」
私は正直驚いていた。この人が、あのシイラですら頭を上げられないほどの偉い人だとは思えないほど、とても謙虚な人だ。
しかし、本心が見えず、どこまでも深く心が読めないような。そんな気もした。
「さて、それに関して話したいことがあるので、お時間はあるかね?」
「時間は、あります」
「なら、ついてくるがいい」
「は、はい……。じゃあ、私達はこれで!」
「はい! タミコさん、リルドさん、メンコさん、えっと、今日はその、ありがとうございました!」
「おー。退院したら、また話そーな」
「はい!」
「まったね~!」
なので、私達は席を立つと、505号室にいる彼に別れを告げ、越智さんの後をついて行くことにしたのだ。
長い廊下を歩いている道中、リルドが私にこう小声で言ってきたのだ。
「ふと、思ったんだけどよ」
「どしたの? 急に」
「今回の件さ、なーんか腑に落ちねぇ事ばっかりだよな」
「そう言われてみれば……」
何だろう。確かに今回は、龍樹君をピンポイントに狙っているかのような。
それに、執拗に『パキりルーム』に誘ったり『限界チャレンジ』を勧めてきたり。その手口自体が、まるでホストクラブの営業トークみたいで、胡散臭さが目立つんだよなぁ。
普通の思考回路だったら、パキりルームに誘われる時点で怪しいと思うけど。
今回の龍樹君みたいに、『孤独』『人に言うのは恥』を感じていたのであれば、騙されやすい構造になっているのかもしれない。
匿名という『フィルター』付きで会話をするのだから……。
「何だろう。前のキルマイフレンドの時はね、『フグトラ』さんが管理人だったんだけど、上から作れ。と言われて仕方なく作ったサイトだったらしいのよ」
「へー。まさか、アイツがキルマイフレンドの管理人だったとは」
「そう。だから、あの時はすんなりと消してくれて、解決したんだけど、今回はどうだろう……」
「なかなか一筋縄ではいかない案件だろう。とは思ってるがな」
「そーだね。メンコさんはどう思いますか?」
「お? そーだねぇー」
と言いかけたところで、院長室へと着いてしまったのだ。
「では、こちらへ……」
「あ。ありがとう、ございます」
そして、越智さんに案内され、院長室へと入ると、そこには高級そうな家具が所狭しと並べられていた。
ふわふわの革張りソファに、磨き上げられたガラスのテーブル。床は冷たい大理石で、壁際の棚にはヴィンテージものと見られる調度品が恐ろしい程に整然と並んでいる。
家具一式だけでも、相当な額になるのに。
そういえば、彼の家もかなり大きかったけど……、ここも負けず劣らずな気がする。
だけど、何でだろう。
この空間は確かに豪華なのに、不思議と居心地が悪い。まるで、見えない圧を感じるような……。
「ほえー。すっごぉ……」
メンコさんはというと、あまりにも多い高級品の多さに、驚きながらも周囲を見渡していた。
「こちらにどうぞ」
「は、はぁ……」
私達は彼に促されるがまま、革張りの黒いソファに座るが、何だろう。深く沈み込んで気持ちよさそうなのに、触るのすら躊躇ってしまうほどの清潔さは。
それに、院長室のせいか、家具全部が整いすぎて、生活感が全く感じられないのだ。
「さて、ここに呼んだ理由だが……」
「……」
低く落ち着いた声に、空気が一瞬で張り詰める。
まるでこの豪奢な部屋全体が、彼の言葉に耳を傾けているかのように。
「……」
すると、彼は一度、深呼吸をすると、開口一番、こう私達に伝えてきたのだ。
「あの『ドラックルームスープ』についてだが、恐らく『鰒川家』も大きく関わっているらしい」




