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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(前編)
52/108

side龍樹 聖君になれず、毒に溺れかけたのは、僕でした。


 僕が初めて、毒を口にしたのは、学校で飲んだ紙パックの『カフェオレ』だった。

 初めは軽い気持ちで飲んでいた。ジュース感覚で。

 でも、飲む度に『飲みたい』という衝動と、『自分の身は自分で守らなければ』という、自己防衛の毒が、無意識に僕を蝕んでいた。


 それに、立場上、『頼る』という行為が出来なかったのも本当だ。副会長だった真生、近くにいたカンナやミオにすら、『弱い姿』は見せられない。し、見せたくなかった。

 それに、学校では常に『優等生』でいないといけなかったからね。


 そう。弱い部分を見せることが、僕にとっては『恥』でもあったから。


 だから、その『恥』や『頼る』、『弱い姿』を見せられなかった僕は、それらを全て、無理矢理『カフェイン』に入れて流し込んだんだ。


 まるでスープの様に。


 それと、『スーパードクター 越智昇の息子』という強すぎる父の肩書きが、更に僕の両肩に乗っかった。

 そのせいか、『肩書き』という圧に潰れてしまい、どうしていいか、分からなくなってしまったんだ。


 その影響で、幾ら勉強をしても、全く身につかなくなっていたのは本当だ。

 ノートを開く手は、重りのように重く、頭は霞み、まるで自分の存在そのものが、父の影に飲み込まれていくようなものだった。


 しかも、更に追い討ちをかけたのが、4月5日のあの日。真生が突然、僕を攫って監禁し始めたのだ。丸一日。


 初め、狙っているのはミオだと思っていた。

 だけど、好意を抱いていたのは彼ではなく、『僕』だったという驚きは、今でも忘れられない。

 それに、まさか、その向けられた感情が『恋愛』だと思っていなかった。と、彼に言ってしまい、傷付けてしまった事も、深く後悔している。


 なんであんな言い方をしたんだよ。もっと違う言い方があっただろ。と自分を責めていた時だった。


 ……誰?


 すると、拘束された自分の真向かいには、もう一人の黒い自分が突っ立っていたのだ。


『ふふふっ……』


 ……え?

 しかも、ソイツは不敵な笑みを浮かべながらも、意識が遠のく僕に言い放ってきたのだ。




『お前は、聖人君子になれる訳が無い。既に自身の体内に、毒を入れた時点でな』




 と言うと、ソイツは不気味な笑みでこっちを見ながら煙の様に消えてしまった。


 だから拘束されていた時、痛みも何もかも、感じなかったんだ。寧ろ衝撃で『麻痺』している様な。

 根性焼きみたいに、煙草の火を当てられても、殴られても、動物みたいに首筋にマーキングをされても、何も。だ。


 そのせいか、彼も諦めてしまったみたいで、グズグズと泣きながら部屋を出て行ったところを、呆然と見ていた。


 そしたら、また黒い自分が出てきて、こう言い放ったんだ。




『ほら。言っただろ? 君が言葉を放つだけで、他人を大いに傷つけてしまうんだよ。だからさ、その辺自覚しなよ』と。




 確かにそうだ。その結果、タミコさんや多くの人を傷付けてしまった。シイラさんにさえも、『暫くは真生に会うな』と怒られる始末だ。

 だからこの時僕は、こう決めていたのかもしれない。



『自分の事は、自分で消化して、解決するべきだ』て。



 そのせいか、拘束から開放されたあの日から、僕は無我夢中で、カフェオレを買い込んでいた気がする。


 最初は良かった。一本飲んだらもうスッキリして、ありとあらゆるストレスも消してくれるから、異世界モノである『万能ポーション』を手に入れた気分だった。


 でも、ある日から、カフェオレでも満たされなくなってしまったんだ。

 恐らく、『耐性』がついてしまったんだと思う。


 すると、今度はもっと、カフェオレよりも、『強い物』が欲しくなってきてしまったんだ。


 例えば、『カフェイン』が沢山入った飲み物とか。一回飲むだけで、全てのストレスが消え失せられる程に強い『なんでもなおし』みたいな物を。


 なので、学校を終えた帰り、ミオやカンナの目を盗んで、コンビニやドラッグストアで、1本250円のエナジードリンクを、大量に買い込んでいた。

 レジ対応していた店員さんは、僕が持ってきたカゴの中を見て、何故か青ざめた顔をしていたが、大丈夫。


「あはは。僕が飲む訳じゃないし、両親が飲むので大丈夫です」


 と、息を吸うように嘘を吐きながら、貼り付けた笑顔で対応し、上手くやり過ごせれば、すんなりと購入できたんだ。


 こればかりは助かった。僕が『優等生』という仮面を持って。

 だけど、内心は怖かった。いつか、この仮面がみんなにバレてしまうと分かっていたから。


「……ん?」


 そして、家に帰って部屋に籠って、エナドリを飲んでいた時だった。何故かあの時の黒い自分が、こちらを覗き込みながらニンマリと笑うと、こう言ってきたんだ。




『おいおい。嘘をついてまで、そのチンケな飲み物を飲みたかったのか? ばっかだなぁ~』て。




 うるさい。あぁ! うるさいな!

 別に何飲もうが、お前には関係ないじゃないか!


 僕は震える両手で両耳を塞ぎながらも、何も変わらずに過ごそうとしたが、背後では壁の隙間からガタガタと、這い出る様な声が響いてきて、到底無理だった。


 しかも、その声はどれも『自分を否定』してくる様な声ばかりだ。例えば、


『やーい。偽善者!』

『完璧すぎとか……、クッソ気持ち悪い』

『お前……、一回死んだ方がいいんじゃね?』『善人のフリをした化け物』

『その貼り付いた笑顔……、きっも!』

『人間として終わってんな。お前』


 とか。多種多様だ。

 だから、頭の中では幻聴だと分かっていても、振り払えなかった。

 ただただ、受け入れて、『否定』をエナドリに乗せて、体内に流し込むしか無かったんだ。


 飲んだら『否定し、叩きのめしてくる』幻聴も消え失せてくれるから。






 それから25日程経った時だった。

 4月30日。昼の12時25分。僕は学校で聞いたある噂を耳にした。


『そういえば、ストレスやら悩みを投稿して、共感し合う事ができる匿名のサイトがある』と。


 なので、興味本位で検索してみると、引っかかったのが一つあったのだ。


 それが、『匿名の語り場』と呼ばれる匿名相談用アプリだった。

 確かに匿名なら、僕が呟いたことも『匿名』というフィルターで隠すことが可能だ。

 なので、僕は密かにそのアプリをインストールすると、早速『匿名』という仮面を使って、スマホの画面上で会話を始めたのだ。


 確か、その時に書いた投稿は……



『最近、ストレスが酷すぎて、四六時中、エナドリばっかり飲んでます。他にも自分みたいに、たくさんエナドリを飲んでしまうっていう人、いますかね?』と。


 そうすれば、一人は興味を惹いてくれるだろう。



――ピコンッ



 すると、僕の元にはたくさんのコメントが集まっていたのだ。


『分かる! 実は今も、エナドリ5本飲んでハイになってるんだよね!』

『まじ? 私もー! 中でも250円で売ってるエナドリが一番好きかも!』

『あれさ、色あるけど何色が好き?』

「あっ……」


 そういえばあの時買ったエナドリって確か……。


『紫と緑だっけ。僕は紫かな。味が好き』

『分かるー! あれ、グレープ味だったよね!』

『そだそだ! 緑は確か、メロン味だったな』

『へぇー。今度飲んでみよっかな』

『おー。飲んでみ! 紫より強めだから、少しは飛ぶかもな!』


 すごい。こんなにも共感してくれる人が多いんだ。

 この投稿がきっかけで、僕は頻繁に『匿名の語り場』に顔を出し、逐一エナドリを何本飲んだ。とか、些細なことまで投稿するようになったのだ。例えば……



『今日は紫と緑の2本を飲んでしまったけど、思ったよりストレスが消え失せてくるので、今はめっちゃ楽しい気持ちです!』って書いてしまったり。



 だけど、匿名で何もかも語れるのは、とても楽しいかも。匿名だったら、重圧も肩書きも要らないし、ここだったら『素の自分』でいられる気がしたのだ。

 まるで、『一人の一般ユーザー』として、紛れ込んだ気分で。





 それから更に25日進んだある日のこと。

 5月25日の事だった。深夜0時25分。


 僕は250円のエナドリでさえも、満たされなくなっていた。

 更に強い刺激が欲しかった僕は、『もっと強い物がないか』と、匿名の語り場で質問をしてみたのだ。


 この時の僕はもう、体の5割ほど、エナドリに満たされていたんだと思う。

 最初は日頃のストレスをかき消す目的のために飲んでいたのに、今はいつの間にか『自身を満たすためのツール』として、エナドリが手放せなくなっていたのだ。


 なので、足元に密かに置かれたミニ冷蔵庫の中には、沢山エナドリを補充しといた。コイツさえあれば、不安定な気持ちをかき消して、満たされる。まるでエナドリのスープに溺れるみたいに……。


『くくくくっ』

「誰だっ!」


 すると再び、黒い自分が現れ、背後から甘い声で囁いてきたのだ。


『僕だよ。もう一人のね』

「……」


 僕は僕だ。もう一人の僕なんて存在しない。

 そういう事を言うの、本当にやめてくれ!


 僕は再び、震える両手で耳を塞ごうとしたが、黒い自分は、続け様に煽る様に、こう言い放ってきたのだ。


『とうとう毒に溺れたな。本当に馬鹿だお前は』

「……!」

『だけど、このまんま溺れればいいさ。いずれ、エナドリだけでは満たされなくなって、もーっと強い物を求め始めるからさ』

「くっ!」

『仕方ないだろ。人間は誰しも『欲』があるんだからさぁ。それがたまたまエナドリにすり替わっただけ。あの時、友達が付けたペンダントを、自分が付けていた物とすり替えた少年とやってる事、同じだよ』

「……真生と、同じ?」

『だからさぁ。そのまんま『溺れて』しまえよ。聖人君子のフリをした優等生くん』

「……」


 そう煽り散らかすと、また消えてしまったのだ。


 聖人君子のフリをした優等生。かぁ。

 確かにそうかもしれない。

 だけど、そうじゃないと否定しなければ、否定しなければ!



――ピコンっ。



「はっ!」


 すると、匿名の語り場から、ある通知が届いたのだ。


『君さ、面白いね。もっと強いのが欲しいんだって?』

「あっ……」


 確かに強いものが欲しいとは投稿したが、まさか、こんな早くに返信が来るとは思ってなかったんだ。


『そうです。今飲んでいるエナドリでは、満たされなくなっているので……』


 と返信した。



――ピコンっ。



 すると、今度はこう書いてあったのだ。


『なら、『ネクター』はどうだ?』

「ネクター?」


 初めて見る単語に驚いてしまったが、更に返信コメントには、こう綴られていたのだ。


『パキりルームへのご招待……』


 その下には、長そうなURLが貼られており、僕は興味本位で、ポチっとそのボタンを、震える人差し指で押したのだ。

 だけど、押したら僕の人生は、どうなるのかな。もう、戻れるかどうか分からないけど。


「ええっ!?」


 すると、そこにはリアルタイムで『今こんぐらい飲んだぁ』て言いながら、薬をラムネ感覚で食べていた人たちの映像が沢山映っていたのだ。しかもどれもみんな、舌が青いし、目は虚ろだし、まるでゾンビ同士でパーティをしている様な。


 画面の向こうで広がる光景が、かなり異様だった。僕が全く知らなかった世界が、そこにあったのだ。そんな感覚で呆然と見ていたが、もしかして、これって、リモートか?


『驚いただろ? ここはパキりルーム。ネクターを何錠飲んだとか、エナドリを何本飲んだとか、語りながらもストレスを吐く場所でもあるんだ』

「えっと……」


 この時どう返せば良いか分からなかった僕は、『そうなんですか。えっとこれ……』と初心者のフリをして質問してみたのだ。


『簡単だ。カメラマークをタップすれば、自分の顔が映るから、そこで嫌なことを語って、エナドリやネクターでパキろう! て事だ!』


 と、匿名はそう答えていた。

 それに、まだ押せないけど『限界チャレンジ』という項目もそこにあった気が……。


『なるほど。ありがとうございます』


 この時はあまりにも恐ろしい光景に戸惑ってしまったせいか、直ぐさまに画面を閉じたが、ネクターってなんだ?


 僕は気になって、検索でググって調べてみると、『鎮痛剤の亜種』と書かれていた。


 鎮痛剤なんだ。だけど、鎮痛剤って頭痛やら熱が酷い時に飲んだりする物だね。それが何で、『パーティで飲むのに最適』なんだろうか。


 だけど、今日はもう、寝なくては。

 僕は再度、ミニ冷蔵庫からエナドリを取り出すと、慣れた手つきで一本飲み干し、ベットに眠ったのだった。





 更に25日後の6月19日。中間テストが終わり、一息ついた頃だった。


「そういえば……」


 忙しさのあまり、すっかり忘れていたが、あの時の投稿が気になった僕は早速、ドラッグストアに行って買ってみることにした。

 大量買いは制限されていたせいか、無理だったけど、一箱試しに飲む程度では、大丈夫だろう。

 店員さんには薬の説明をされそうになったけど、分かっていたから『説明不要』の札を店員さんに渡して会計を済ませたんだ。


 だけど、周囲の目が怖くて、会計を済ませたあとは颯爽と家へ帰ったんだ。


 そして、試しにネクターを一錠だけ飲んでみることにした。

 大丈夫。試すだけだ。でもこの一錠を飲んだら、もうあの頃に戻れないのだろうか。いや。大丈夫。まだ戻れる余裕がある。大丈夫だ。


「……ふぅ」


 僕はネクターを一錠、エナドリで流し込むかのように飲むと、一息ついたのだ。


 でも、飲んだ途端、不思議な感覚がしたのだ。心臓の鼓動がいつもより静かに聞こえるし、眠たくもなってくる。


 落ち着くのに何故か不安定になってしまう。なんだろう。このふわふわとした感覚は。雲の上にいるかのように、足に地がつかない浮遊感を感じるんだ。


 怖いけど、気持ちがいい。噛んでも粉の味しかしないのに、エナドリと一緒に飲んだせいか、少しだけ、エナドリの味になったりもした。


 だけど、鎮痛剤って、一錠飲んだだけでは、あまり効果は無いんだっけ。

 ドラッグストアに売ってる物では、やっぱり無理なのかな。


「あっ……」


 しかし、ふと思い出した僕は、あの匿名の語り場に戻ると、こう質問してみたのだ。


『みんなが飲んでるネクターって、どこで買ったの?』と



――ピコンッ。



 すると、25通ほど、何故か通知が来たので、改めて見てみると……


『あー。もっと刺激が欲しかったら、海横で改良版が売ってるよー』

『それはね、いくら飲んでもハイの状態が続くし、ふつーのドラストで買ったものじゃ効かないね~!』

『それな! 飲むならさ、ドラストより海横産のネクターの方が最高にハイになるよ!』

『ハイに……、なる?』

『そーそー! 良かったらさ、『限界チャレンジ』に挑戦してみない?』

「……は?」


 何だろう。これをしたらもう、普通に戻れなくなるような、警告音が鳴っている気がした。


 だけど、その警告音ですら、子守唄に聞こえてくる様な。でも、このままやってしまったら、それこそもう戻れなくなる。


 なので、この時の僕は買ったネクターを一箱、空になったらまた、別を考えよう。と思っていたんだ。


『ふふふふ』

「……また、お前か」


 しかも、今度は呆然と立っていた僕の真向かいには、何故か黒いTシャツに、十字架のペンダントを着けた、黒い自分が不敵な笑みを浮かべていたのだ。

 格好からして、海横の溜まり場に居そうな、半グレの格好をした自分が。


『お前さ、どこまで堕ちてんのさ。まさか、改良版に手を出すつもりなのか?』

「はっ!」

『それこそ、あんなのに手をつけたら、人生詰んじゃうよぉ~。どーするぅ?』

「はぁ……」


 しかし、相変わらず煽り散らかす黒い自分が心底ムカつく。僕の隠したかった事を平然と言って罵ってくる黒い自分に、殺意すら感じるほどだ。


 だけど、この時の僕は、辞められなかった。

 辞めたくても、辞めたくても。


『あははぁー! 悩んでいるみたいだねー。まぁ。せいぜい悩みまくって溺れてろー! ぎゃははははは!』


 と言い残し、また消えたのだった。

 そして、僕は……。



 7月5日。監禁されたあの日から3ヶ月経っていた。

 この時の僕は既に感覚が『麻痺』していたんだ。

 行く前にラムネ感覚でネクターを食べ、エナドリを何本かで軽く流し込み、何食わぬ顔で喫茶店でサンドイッチとカフェオレを飲み込んで。


 その時、喫茶店では、二人に怒られまくったが、カンナと共に家に帰ったのだ。と言っても、実は彼女にこう心配されてしまった。


「最近の龍樹、様子がおかしいよ」

「え?」

「だって、そんなやつれた顔してなかったじゃん」

「そ、そっかなぁ……」


 隠すのに精一杯だった僕は、何とか誤魔化そうとした。


 この時の僕は、喫茶店に行く前に、既にドラストで買ったネクターを、3箱近く空けていたのだ。一箱25個入っているとしたら、三箱で75個。


 だけど、中毒になった僕を見て、カンナやミオとの関係が崩れてしまうことの方が怖かった。


『あーあ。化けの皮が剥がれちゃうね~。どーすんのさぁ。『聖人君子モドキ』くん!』

「……」


 相変わらず、うるさいなぁ。

 そんなに聖人君子言わなくても良いじゃないか。今の僕はその『聖人君子』ですら無い、ただの『中毒少年』なんだから。


『いっその事、改良版に手ぇ出しちゃえよ! ほらほら! いっき! いっき!』

「……」


 しかし、近くにカンナがいてもお構い無しに発言してくる『黒い自分』がうるさくて、一度殺してやろうか。と思っていた。


『……ねぇ』



 ……え?



『ソイツの言う通りにしちゃ、駄目』



 貴方は……。



 すると、今度は女の人の声が聞こえて来たので、背後を振り向くと、オレンジ髪の少女が、僕にこう言ってきたのだ。


『アタシはね、ソイツの誘惑に負けて、限界チャレンジをやって、死んだの』



 そんな……。



『だからね、あなたには、生きていて欲しいの。アタシの分まで……』



 貴方の分まで? 僕が?



『それと、生きていたら、生きている、親友に伝えて欲しいの。『アタシは大丈夫。だから、自分を大事にして欲しい』て』


 突然聞こえてきた言葉に僕はぎょ。としたけど、幻聴かな。近くにいたカンナは不思議そうにこっちを見ていたけど。


 だけど、その声のおかげで、僕が助かったのは事実だ。

 それに、何だか向日葵の様に、温かくて、優しかった声だった気がする。その時、僕は泣きそうになったけど、カンナがいたから堪えてしまった。


 しかし、あの後、部屋に入って暫くした、夜の7時50分頃、意識が無くなって、ぶっ倒れてしまった。でも、改良版ネクターに手を出さずに済んだのは本当だ。


 もし、黒い自分の誘惑に負けて、手を出していたら……。今、僕はここにいなかったのかも、しれない。


 あの少女、何者だったんだろう。

 もしかして、幻聴だったのだろうか。


 入院している今でも、その答えは全く分からなかったけど。



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