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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(前編)
51/106

彼女の親友が亡くなった理由が、あまりにも悲惨なものでした。

「何だって……」

「それほど、この『ドラックルームスープ』というサイトは、何層にも部屋が作られているのよ」

「それって……」


 まるで『深層ウェブ』みたいな、下に潜れば潜るほど、階層が危ないサイトへと繋がる仕組みと同じじゃないか。


 これは確かに面倒臭い案件になってきた、と感じた私は。ごくりと唾を飲みながら、彼女の話に耳を傾ける。


「その時のアンナは、『楽しいよ! メンコもやろ!』て言ってきたけど、アタイ、あまりにも怖すぎて断ったんだよね。だって、周りの奴らは舌を青くしながらも、飲み遊んでいたね。あれは今でも思い出すけど、異常でしょ」

「こおぉ、わっ!」

「俺も無理だな。そこまでネジがぶっ飛んじまってたら……」

「でしょ? これ、グソクさんやゴエモンさんが聞いたらと思うと怖くて。逆に激怒して恐ろしいことになりそうと思って、敢えて事務室から離れた私の車で話すことにした。てことよ!」

「だから……」


 あの時、メンコさんの表情が恐ろしい冷酷な顔になっていたんだ。

 確かにこんな危ないサイトだと聞かされたら、ゴエモンさんやグソクさんは黙ってないだろうな。しかも、その調査となれば……。


「それにね、アンナは真面目で、とても明るい女の子だったんだよね。アタシ、何度もあの子の明るさに救われた。それなのに……」

「……」

「それなのに、最後ああなるなんて! 何年経っても信じられないって! ぅわぁああああ!」

「メンコさん!」

「おい。メンコ!」


 だけど、彼女は突然、思い出したかのように、両手にハンドルを持った状態で頭をハンドルに乗せる形で泣いてしまっていた。

 こんなに感情爆発して泣くメンコさん、初めて見た気がする。


「あぁ……、ああ。アンナに会いたいよ。それなのに……、何で先に……、アタシを置いて居なくなっちゃうの! ぁああ……」

『……』


 私は何も言えなかった。リルドも同じだ。彼も泣きそうな顔で彼女の悲痛な叫びを聞いていた。


 だから、どんな形であれ、その闇サイトは絶対に潰そう。うん。


 それと、龍樹君にもちゃんと、『伝え』ないと。その行為をしたら、メンコさんみたく、『悲しむ人』がいる。ていう事を。


「……メンコさん」

「うぅっ。ぐすっ。ご、ごめんね。タミコちゃん」

「いやいや。謝んないでください」

「こんなに感情爆発して泣く事なんて、無かったんだけど、今回だけはどうしても、アンナの事が頭の中にチラついちゃってね」

「それは、分かります。私も同じ立場になってたら、助けたくても『巻き込まれるかもしれない』という恐怖の方が強かったりしますし」

「……でも。リルドも、話を聞いてくれて、ありがとう」

「……俺も、色々と言いすぎた。まさかお前がそんなに辛い過去を背負っていたなんて、知らなかったから……」

「まぁ。アタシもこれ、正直に言うと、グソクさんにもゴエモンさんにも、秘密にしてたからさ」

「え!? そうだったんですか!?」

「そーよぉ! アハハ!」


 そして、話し終えると、いつもの明るいメンコさんに戻っていたのだが、笑っても何しても、親友は帰って来ない。その絶望を抱えながらも、今日を生きていかないといけない。そう改めて思うと、彼女は本当に、心の底から強い人なんだな。て。


「さて。病院に行こっか」

「えと。その前にエイトレイブンに寄って、何か買いましょうか?」

「賛成だな。俺腹減ってきちまってよ」

「はぁ!? 普通、人の悲しい話聞いて腹減る人いる!?」

「いや、悲しいから飯食わねーとかは無いだろ。まぁ。そういう人はいるかもだが」

「全く。先にエイトレイブン寄ってから行こっか」

「了解」


 明るさを取り戻したメンコさんは、改めて車のエンジンをかけると、いい感じのスピードで飛ばし、エイトレイブンに着いたのだ。


「そんじゃ、一緒に降りる?」

「そーですね。何か良いの無いかなぁ」

「おい。急にどしたんだ?」


 ふと、私は何かを思いついた様に、車から降りてコンビニへと向かうと、こう話を切り出してみたのだ。


「ん? 何か『書き残せる物』とか、『メッセージが書ける物』が売っていればいいなぁ。なんて思ってて……」

「なるほど。まぁ。書き込んで吐き出すのも、ありかもな」

「それと、もしかしたら、秘密裏に私達に『メッセージ』を出してくるかもだし……」

「ふっ。流石タミコだな。変なところで頭が回る所とか」

「え? それ、褒めてんの?」

「あぁ。一応、な」

「なーんかムカつく!」


 だけど、彼の一個一個の発言が、からかいレベルでうるさいと感じていた私は、ムキーッとなりながらも文房具コーナーを横切ろうとしていた。


「お。これいいかも!」


 すると、一冊の小さな青いメモ帳を見つけたので、思わず手に取ってしまった。

 そのついでに黒いボールペンもあったので、それらをメンコさんが持つカゴの中に投入したら、彼女は驚いた顔でこう聞いてきたのだ。


「ん? タミコちゃんこれって……」

「あー。彼にプレゼントする用です」

「え!? 龍樹君に!?」

「そーですよ。これで何かしら思いを『吐き出してくれたら』ていう期待とか思いも兼ねて。です。逆に私達からのメッセージを、ここに書き込むっていう手もありますが……」

「おー! それ、ナイスアイディアじゃないの!」

「えっ!?」

「これなら口下手なリルドもちゃーんと『思い』を伝えることが出来るかもね~。イヒヒヒ!」

「ったく、その笑い方やめろって。グソクさんかよ」

「いやいや。グソクさんはこうだって。『デュフフフフ!』て笑うんだよ」

「ちょっ!」


 だけど、メンコさんのモノマネが、あまりにも似ていたので、隣にいた私は思わず吹き出しそうになってしまったのだ。


「ここ、コンビニの中ですって! 笑いが……」

「あはは! ごめんごめん! それじゃあ、とっとと買っちゃおっか」

「賛成!」


 そして、私達はコンビニである程度買い終えると、車の中に入り、軽い昼食を摂ることにしたのだ。

 ちなみに今日の私の昼食は、『肉まん』と『ベーコンレタスサンドイッチ』だ。リルドはというと、肉まんは同じなのだが、なぜか『卵サンド』を選んでいたのだ。


「え? 珍しい。卵サンドって……」

「んあ? これ、龍樹君が好きだったのを思い出してな」

「あー。そーいえば……」


 初めて喫茶店で会った時、卵サンドの話をしていた様な。

 そういうの、事細かに覚えているんだ。リルドは凄いなぁ。


「へー。奇遇だね。実はアンナも、卵サンドが好きだったんだよね」

「え!? そうだったんですか?」

「そーそー。なーんか好みまでリンクしてるのは、珍しいって言うか……」

「たまたまっていう可能性もありそう……。って、熱っ!」


 だけど、私はこの時、勢い余って肉まんを食べていたせいか、肉汁が口の中を攻撃するように暴れていたのだ。


「ったく。何勢いよくがっついてんだよ」

「しょーがないでしょ! たまたま肉汁が口の中を攻撃してきたんだから!」

「肉汁が攻撃って……。ほんっとタミコって、例えがいちいちおもしれーよな!」

「え!? それ褒めてんの?」

「どーだかな。ふっ」

「何その笑い方! もー! いちいちムカつくんだけど!」

「あははは。お二人さん、運転するから酔わないように気をつけてねー」

「は、はーい!」

「お、おう……」


 こうして、私と彼はメンコさんの運転に身を任せながら昼食を終えると、いつの間にか病院に着いていた。しかも、『海横総合医療センター』と書かれた、白くて大きくて立派な建物だ。


「ここが……」

「そう。しかも、たまたまここに龍樹君のお父さんが働いているみたいでね……」

「えっ!? あの越智さんが!?」

「うん。昼はここで医者として働いていて、夜はカラマリアの方で闇医者として、だけど、ほぼ昼の方が活動は長いみたいだけどね」

「へー」

「しかも、暗部の仕事はシイラが請け負ってるみたい」

「なるほどな。あいつだったらそーいうのノリノリで受けるだろーしな」

「あはは……」


 確かに、暗部の仕事はシイラに任せてるって、何かと想像がつくんだよなぁ。

 あの悪逆非道のサイコパスなら「分かったよ~」と言いながら、笑顔で任務を遂行しそうだもの。軽く想像がついてしまった私はふふっ。と笑いながらも最後のひと口の肉まんを頬張った。ベーコンレタスサンドイッチは後で食べるかな。


「ということで、準備は出来たかな? 二人とも」

「はい!」

「おー。できてる。もう降りてええか?」

「うん。よし。少しだけ歩くよー」

「リョーかいっ!」


 そして、駐車場を降りると、少し歩いて病院の入口へと向かう事にした。

 道中、暑い夏の日差しが襲ってくるが、天気は快晴。外に出歩くのにはうってつけの天気だ。



――ウィーーン



 病院へ入ると、白と薄いグレーで統一された清潔感ある空間が広がっていたのだ。

 だけど、植物も置かれていたせいか、少しホテルのロビーにも似ている。本当に大きい病院だな。


 待合スペースを見ると、椅子が沢山並んでいて、新聞を読む人や、スマホとにらめっこする人、本を読んだり眠っていたりする人もいた。


「すげーなぁ……」

「ここ、海横の中でも一番大きい病院なんだって」

「そうなんですか!?」

「そそ。だから、越智さんはかなり忙しいと思うんだよねー」

「まぁ。そうです、よね……」


 しかも、沢山の患者を治療しつつ、その裏では秘密裏で『臓器売買』をしているというのがなぁ。信じられない一方、ガチで有り得そう。ていうのが本音だ。

 本当にカラマリアのトップの越智昇さんって、『都市伝説』並の伝説を残している気がするんだが。


 私達は光沢のある白タイルの床を歩きながら、受付へと向かう。

 道中、周囲を見渡すと、天井は蛍光灯に近いが、光は温かく、静かで落ち着いた雰囲気だ。

 だけど時計の秒針や遠くで響くアナウンス音が、時たま緊張を駆り立ててくる。


「こんにちは。今日はどのようなご要件で……」


 受付には病院専用の制服を着た職員が座り、書類を整理したり、患者と応対したりと忙しそうだ。


「あ。えっと、越智龍樹さんがこちらに入院しているとお聞きしましたが……」

「あー! ええ。確か、院長からお聞きしております」

「院長から!?」


 思わず驚いてしまったが、昇さん、どこまで見越しているんだ?

 近くにいたリルドやメンコさんですら、驚いた顔をしていた。

 

「はぁ。確か……、505号室に入院しておりますね」

「ありがとうございます!」

「もしかして、ご友人の方でしょうか?」

「あ。ま、そ、そうです。えへへ」


 なので、私は照れながらも受け答えると、受付の方もふふ。と笑いながら、


「そうですか。では、エレベーターを使えば5階まで行けますので、ご利用ください」


 と言い残し、再び作業へと戻ってしまったのだ。


「ていうか、昇さん、何者なんだろう……」

「あぁ。ゴエモンのじーさんよりもやばい人かもしれねぇな」

「うん。もしかしたら、シイラさんが事前に伝えてた。ていう説はない?」

「あー。カンナ経由で聞いている可能性はあるかもな」

「はぁー。結局私らはまた、カラマリアの手のひらの上で踊っている状態。ていう事かしら……」

「それは流石に……」


 凄い人と言っても『人間』なのには変わらないんだから、伝達スピードがやたらと早いだけだと思うよ。うん。


 それと、エレベーターに向かう廊下には、点滴スタンドを押す看護師や、ストレッチャーで運ばれる患者の姿もあって、生活感と病院特有の緊張感が混ざっていた。


「それにしても、5階かぁ……」

「どしたの? リルド」

「んあ? 正直言うと、あんま高いところ、好きじゃねーからさ……」

「なら、扉の方をじーっと見てるといいかも!」

「でも安心して! ほら!」


 すると、メンコさんが壁一面に覆われたエレベーターの中を指さし、こう言ったのだ。


「一面壁だから、外、丸見えじゃないよ!」

「まぁ、そーだけど……」

「あはは……」


 私は相変わらずのやり取りに軽く笑いながらも、龍樹君がいる5階を目指していた。


 エレベーター内では、私とリルド、メンコさんがいて、静寂な空気が流れている。


 その壁には、健康情報のポスターや注意書きが貼られている。と言っても、こんなの守る人いる人もいれば、いない人もいるしで、貼る意味あるのかな?


 と、内心、疑問に思いながらも5階へと着いてしまったのだ。


 目の前の窓から入る光で影が落ち、日常と非日常の境界が、微妙に感じていたが、やっぱり高いなぁ。


 流石、大きい病院だからスケールがでかいって言うか、まるで医療ドラマの現場に迷い込んだ様な感覚だ。


 ふと、リルドを見ると、窓から遠ざけるかのように、私の背後をびっちりとついて行くように歩いていた。高いところ、相当苦手なんだな。


 彼女の方を見ると、顔は笑っていたが緊張していたせいか、両手が微かに震えていた気が……


「あ。ここだ」

「ほんとだ。やっと来たか……」

「そーね。さて、タミコちゃん! リルドっ!」

「えっ!?」

「何だ!?」

「先に行って、確かめてきてよ!」

「なんでですか!?」

「ちょっと待て! なんで俺を巻き込むんだ! メンコ! テメェー!」

「ままっ! ほらっ!」

『わぁっ!?』


 しかし、何故か笑うメンコさんに背中を押された勢いで、私とリルドは505号室の病室へと入ると……


「あっ。悪ぃ……」

「えっと、ごめんね。病院なのに、うるさかったかな……」

「いえ。えっと、タミコさんに……、リルドさん!?」


 そこには動揺しながらも驚く、水色の病衣姿を纏った龍樹君が、ベット越しから声を発していたのだ。


「何だよ。そんなに驚くことかよ」

「いや! その……、初めてその、フードを外した姿を見たので……」

「あー。驚かせて悪かったな」

「いえ。やっぱり、『サーフェスの方』だったんだな。と思っただけです」

「そーかよ」


 しかし、彼は愛想良く笑っていたのだが、私からは、何処か貼り付けた様な笑みな気がした。

 と同時に、前に会った時より、目には光が全く無くて笑ってないし、薬の影響なのだろうか。虚ろな目をしていて、疲弊しているように見えたのだ。


 それに、左腕には、点滴が繋がれていて、今は『絶食』中なんだろう。


「えっと、実は私達……」


 そして、私は本題を切り出そうとしたら、彼が「こちらへ」と言い、ベットの近くにあった丸いパイプ椅子に指をさし、座るように促してきたのだ。


「はい。率直に言いますと、実は、ここにサーフェスの皆さんを呼んだのは、僕です」

「やっぱり……」


 どうも受付の人の対応が、あまりにも早かったと思ったんだ。

 まさか父親とカンナちゃん経由で伝えていたとは思ってなくて、驚いてしまった。


 だけど、その辺頭が回るのに、キルマイ騒動の時は肝心なことを言い忘れたり、余計な一言を言って、相手を刺激させてしまったりするのは、彼らしいっていうか……。


「ですが、今回は僕のせいで、多大な迷惑を掛けてしまい、すみませんでした」

「えっと、龍樹君?」

「はい」

「カンナちゃんには、誠意を込めて、謝ったの?」

「意識を取り戻した時、直ぐに謝りました。それと、三姉妹の皆さんがその、作ったという薬を、カンナが飲んだ事も、全部聞きました」

「そっか……」

「……」


 謝ったのであれば、良いんだけど、今回の件は本当に腑に落ちないっていうか……。

 それに、今回はリルドも珍しく、私の隣で両腕を組んで彼を睨むかの様に見ている。

 恐らく今までのことも兼ねて、内心、相当怒っているのだろう。


「それと、もう、タミコさんは気がついたと思いますが……」

「もしかして、あの『エナドリ』と『ネクター』の量の事かな」


 確かにあの量は尋常じゃなかった気がする。何処で手に入れてきたのかも含めて問いたださないと。

 通院中で常時薬を飲む真生くんですら『致死量、超えてるって!』て驚いていた程だし。


「……はい。その事に関して、僕が体験した事をそのまま、話そうかと、思います」

「うん……」


 すると、彼は覚悟を決める様にふぅー。と深呼吸をし、腹部まで掛かっていた布団を両手でぎゅ。と握ると、こう語り始めたのだ。


「実は……」

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