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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(前編)
48/108

優等生の家に着くと、恐ろしい事が発覚しました。


 私達は、急いでラボから駐車場へ向かうが、周囲は既に夜になっていた。

 ハンドバックからスマホを取り出し、時間を確認したら、夜の8時半。恐らく例の教育ママは、龍樹の苦悩も知らず、優雅に夕食を作っているのだろう。


「タミコちゃん、ギンコ」

「はい」

「はいいっ!」

「さっき、シイラと話してたけど、今回はアタシ、彼と一緒に教育ママの、足止めをするね」

「はい」

「だから、その間、タミコちゃんとギンコは、真生くんと共に、裏口から入って、彼を助けて欲しいんだ」

「なるほど……」


 私は相槌を打ちながらも、ギンコさんと共に、彼女が運転する黒い軽自動車の後部座席に乗り込むと、早速バックの中身を確認した。

 今持っているのは、ユニコーンの角みたいな形をした、タクティカルスティックと、小型のスタンガン。


 前回のキルマイフレンド騒動の時は、この小型のスタンガンに助けられたなぁ。

 それと。このハンドバッグ、肩にかけられるショルダーにもなるらしく、両手を自由にするために、運転に揺られながらも、紐の長さを調整していた。


「そんで、(ワタクシ)は、彼が『中毒』に陥った原因と、ネクターがあれば、それの回収。と」

「そだねー。だから、頼んだよ」

「は、はぃぃ!」


 ギンコさんは相変わらずの勢いある返事をした後、「えっと、ネクターが無くてもオルフェウスの効果を発揮するには……」とブツブツ独り言を発していた。


「えっと、メンコさん」

「ん?」

「夜だから、あまり声出さない方が良いかも。ですよね?」

「あー。そうだね。だから、他の任務よりは少し難易度高めだけど、キルマイ騒動の時も夜だったから大丈夫でしょ!」

「まぁ。そーですけど……」


 あの時は何故か信者が誰もいなかったから、上手くいっただけであって、もし誰かいたら確実に詰みますって。

 しかも、今回はぶっ倒れてる龍樹君を車に運ばなきゃだから……。でも、変だなぁ。


「だけど、今回は何で、救急車を呼んじゃダメなんですかね?」


 ふと、気になった私は運転する彼女に聞いてみた。


「それは確かに気になりましたね。カンナさんも気にせずに、救急へ通報すれば安全なはずですが……」


 しかも、ギンコさんも同じ事を思っていたらしく、考える仕草をしながら不思議そうに言っていた。


「あー。二人とも、それに関してはね、シイラがこう言ってたんだよね」

「なんて?」


 すると、彼女も苦虫を噛んだような苦い表情をしながら、ため息混じりにこう言ったのだ。


「確か、『あのババー、前に救急車を呼んだら、更にめんどくさい事になったから嫌』なんだと」

「めんどくさい事?」

「うん。実は前回も、龍樹君がぶっ倒れてしまって、救急車を呼んだみたいなんだ」

「うん。え?」


 ちょっと待って。前回も龍樹君、倒れたの?

 まさかの話に驚いてしまった私は、更に彼女の話を聞くことにした。


「そしたら、近所の人に広がって、その教育ママ、虐待したと思われて、白い目で見られたらしいのよ」

「ありゃぁ……」

「しかも、その、トラブルがあった時に、カンナちゃんが家の中にいて、龍樹君を看病してたんだけど、その教育ママ、何故かカンナちゃんに手を挙げたみたいなんだ」

『うわぁ……』


 それで、電話口であんなに怖がっていたんだ。カンナちゃん。


 だけど、彼女はただ看病していただけなのに、何でわざわざ手を挙げたんだろうか。あまりにも理不尽すぎる話に、私とギンコさんは思わず引いてしまったのだ。


「さて。着いたけど……」


 すると、二階建ての大きな家の近くに、白い乗用車が停められていたのだ。見るからに高そうだ。運転席を見ると、シイラさんが周囲を見渡しながら人差し指で合図を送っていた。


「ここに停めろって事ね」


 そして、メンコさんが家とは少し離れた所に車を停めると、私とギンコさんは降り、周囲を見渡してみた。


 目の前には、深緑色の生け垣が、ぐるっと家の周囲を囲んでいる。


「お。ここならいけそう」


 だけど幸い、一箇所だけ人が入れる程の隙間があったため、私とギンコさんは草まみれになりながらも通り抜ける事にした。


「あれかな。あそこだけ明るいね」

「ほんとだ」


 すると、懐中電灯のライトが、私に向かって、チカチカと光らせていたのだ。


「この光を辿ればいいのかな」


 暗闇の中、光を辿ると、微笑みながら手を振る、白衣姿の彼が見えたのだ。


「あっ! タミコさん!」

「真生くん!?」

「しーっ!」

「あ。ごめん……」


 しかし、彼に人差し指で「静かにして」と合図されたので、咄嗟に小声で謝った。


「実は既に、シイラさんとメンコ姉さんが、玄関で足止めをして貰ってます」

「……」

「なので、ぼくは前回使った方法で、彼を助けます。ですが……」

「うん」


 そう言うと、彼は腰に着いてるウェストポーチから、アイマスクを取り出すと、私に渡してこう言ったのだ。


「彼に見られないよう、これを着用させてください」

「なるほど」


 確かにその方が、お互いに安心するだろう。と思ったが、まぁ、いいか。邪推はよそう。


「前回の方法って?」

「それはですね……」


 すると、彼は慣れた手つきで、近くにあった物置から、折りたたまれたハシゴを取り出し、器用に伸ばすと、かなりの長さになっていた。


「おぉ……」


 どうやら、屋根施行用のハシゴみたいで、登るとしたら。かなり怖そうな。


 でも、どうやって龍樹君を外に出すんだ?

 これだったら行きは良いけど、帰りが危険過ぎる。それに、体重次第で危険度はさらに増してしまうだろうし。


「さて、と」


 しかし、彼は何食わぬ顔でポーチから黄色い薬を取り出すと、躊躇いなく一錠、口に放り投げて飲んでいたのだ。


「え!? 今何飲んだの?」

「タミコさん。今飲んだのは、『オルフェウス』です」

「確か……」


 感覚をはね上げる薬だっけ。ギンコさんが熱弁していたような。


「試しに、飲んでみますか?」

「うぇぇ!?」

「一錠だけなら、大した副作用はないですよ。その辺は、ぼくが保証しますんで」

「は、はぁ……」


 しかし、まさか真生くんから薬を勧められると思ってなくて、思わず手に取ってしまったが、これって確か、一番『副作用』が強いんじゃなかったっけ?

 いきなり強めの薬を勧めてくる彼が怖く感じたが、その反面、興味もあったのは事実だ。


 一錠飲んだら、どのぐらいの感覚が、上がるのだろうか。と。


「あ。それでしたら、これも良かったら!」

「え!?」


 すると、ギンコさんが何故か包装シートに包まれたままの『アスカロン』を取り出し、私に差し出してきたのだ。しかも一錠。


「本来でしたら、ネクターが必須なのですが、一錠だけでしたら、オルフェウスと併用しても平気なんですよ」

「えっ。つまり……」


 筋肉増強と感覚強化の二つを摂取できる。ということか。


「ですが、軽い『幻覚作用がある』と聞いたので……」

「それなら大丈夫だよ~! あっ! 鍵が呼んでるぅ!」


 すると、先程オルフェウスを飲んだ真生くんが、満面の笑みで言うと、軽やかにハシゴを使い、二階の龍樹君の部屋の窓まで昇っていたのだ。


「ぇぇぇえ……」


 あまりにも颯爽とやるものだから、驚いて空いた口が塞がらなかったが、副作用、なかなか強くないか?


「うん。聞こえてくる。いいね!」


 そして、彼は笑顔でウェストポーチから、二本の針金を取り出すと、器用に鍵を開け始めたのだ。


「まじかぁ……」


 私は二つの薬(片方は丸裸)を右手の平に置いて呆然としていたが、飲むべきだろうか、否か、悩んでいた。


 でも、待てよ。私は丸裸になっている『オルフェウス』を飲んで、シートに包まれている『アスカロン』を、ある人に飲ませれば……!


「ギンコさん」

「ん?」

「ここで、被検体を増やす事になりそうですが、よろしいでしょうか?」

「お? その被検体さんには、なにを飲ませるつもりなんですぅ?」


 すると、彼女は目をキラキラさせながら聞いてきたので、敢えて名前は出さず、こう提案したのだ。


「一番、副作用が少なめの『アスカロン』ですね」

「ほー。飲ませる理由としては?」

「それは、ぶっ倒れている彼をおぶって下まで降ろすのは危険すぎるので、『アスカロン』で身体強化させれば、少しリスクは減るかな。と」

「良い使い方ですね。タミコさんが一緒で(ワタクシ)も安心しましたっ!」

「ほぉ……」



――ガチャッ。ガラガラ……



 話しているうちに、真生くんの方も終わったみたいで、二階の窓が開いたのだ。


「行きましょう!」

「えぇ!」


 そして、私は『オルフェウス』を口にして飲むと、アスカロンは、ショルダーにした茶色いバックの中にしまい、ハシゴを登ったのだった。


「よし。って……」

「うわぁ。タミコさぁぁぁん!」

「カンナちゃん!? はっ!」


 部屋に着いたが、カンナちゃんは私を見るや、泣きじゃくるように私の胸に飛び込んできたのだ。


「龍樹君は?」

「ここに……」

「……え?」


 しかし、震える彼女が指を指した先には、横に倒れて動かなくなった彼がいたのだ。


「大丈夫? ちょっと! 龍樹君!」

「……」


 声をかけても反応が無い。

 手首を触ってみても、微かに脈があるぐらい。心音は幸いはっきりと聞こえているが、バクバクと動いている様だ。


 だけど、急に起きて暴れられても困るので、ひとまず、真生くんから渡されたアイマスクを彼の目元へかけることにした。


 これで一応は、大丈夫かな。

 あと、オルフェウスを飲んだことにより、周辺の音がクリアに聞こえてくる様になったのだ。


 確かにこの薬はピッキングとか、探知する人向けだ。その反面、酔ってる様な感覚にもなり、立つ足が少し覚束なくなる。これが副作用が強い故に。かな。


 おまけに玄関の方かな。シイラさんやメンコさんが、教育ママを、口調のみで足止めしている声まで聞こえてくる。




「そーいやさシイラ」

「どーしました?」

「あのババー、いくらで売れるの?」

「ぅええ!? メンコさん。リルドみたいなこと言うね。驚いたよ~」

「ひ、ひぃぃぃいい……」




 って、おいおいおいおい。ちょっと待って。何で物騒な言葉が出てきてるんだ。

 対峙している教育ママさん、めちゃくちゃ怯えた声を出してるじゃないか。まぁ。私からは歪んだ声で聞こえてくるが。




「あー。単純に気になったからねー。例えば血液は幾ら? とか」

「んー。年齢からして、廃棄かな。だって、このババー、病気持ってそーだもん。頭の」

「ぃやぁぁぁああ!」



 ありゃぁ。シイラさんの発言が、教育ママさんの精神にクリティカルヒットしてしまった様で、情緒が可笑しくなっていた。


 という事で、ご愁傷さまです。


 だけど、これ以上聞いていたら、副作用で吐き気が催しそうなので、一旦龍樹君の方へ意識を向けることにした。


「タミコさん。ごめんなさい。わたし……」

「大丈夫。それとね、カンナちゃんにしか出来ない仕事をお願いしたいんだ」

「え? わたしにしか出来ない、お仕事?」

「うん」


 そして、私は一か八かかけて、バックから『アスカロン』を取り出すと、彼女に渡すことにしたのだ。


「これって?」

「カラマリアの『Venom(ベノム)』っていう所にいる三姉妹のお姉さん達が、作ったお薬なんだ」

「すごっ!」

「これを飲むと、力がめちゃくちゃ強くなって、龍樹君ぐらいなら、軽々とおぶれるようになるのよ」

「なるほど……。飲んでみる!」


 すると、受け取った彼女は、即座に包装シートに包まれたアスカロンを押して取り出し、一錠、勢いよく飲んだのだ。


「実は、この薬の存在、知ってたんだよね」

「うそっ!?」

「うん。お兄ちゃんが副作用の事まで話してたから」

「なるほど……」


 それですんなりと飲んでいたのか。

 だけど、副作用も低いと言いながらも、勢いで飲めるのは凄いっていうか、度胸がある。というか。

 流石、その辺はお兄ちゃんのシイラさんみたいで、かっこいいな。


「それじゃあ、私はこの『アホ生徒会長』をおぶって下に降りるね」

「うん」

「よし。早速おぶってみるけど……、おっ! 腕に力を入れて……、何これっ! めっちゃ軽っ! わたし力持ちになったみたい!」

「あはは……。えっと一応、シイラさんに伝えておくね」

「それは、わたしから伝えるから大丈夫!」

「え?」


 そして、彼女はふぅ。と深呼吸をすると、私に向かってこう言ってきたのだ。


「タミコさんには、この、アホ龍樹が何でこうなったのか。その原因を、見つけてきて欲しいの」

「なるほど……」

「わたし、龍樹がこんなになるまで、追い詰めちゃったのかな。て。かなり不安だったから……」

「それは無いって。大丈夫。カンナちゃんは頑張ってる! ねっ!」

「ぅうう……」


 だけど、彼女はボロボロと泣きながら話していたので、私なりに一生懸命励ました。


 もしかしたら、私もあの時、彼の異変に、気がついていれば……。


「それとね。鰒川君」

「……んえ? ぼくのこと呼んだ?」

「うん。窓を開けて、助けてくれて、ありがとう」

「……あ。別に。気にしないで下さい」

「鰒川君?」


 それと、真生くんもまた、深呼吸をすると、覚悟を決めた様な表情で、彼女にこう告げたのだ。


「ぼくはもう、カンナさんとも、『住む世界』が違うので」

『……』

「だから、ぼくの代わりに、楽しく学校生活を送ってくれれば、あとは何も要らないです」

「真生くん……」

「先に行って、シイラさんの車に乗って、待ってて下さい」


 彼は笑顔で車のキーをカンナちゃんに渡すと、再び部屋を調べ始めていた。


「分かった。ありがとう!」


 そして、彼女はお礼を言うと、彼をおぶって窓から外に出たのだった。





 真生くんと共に、感覚が研ぎ澄まされる中、龍樹君の部屋を隈なく探していると、彼がある物を見つけたと言ってきたのだ。


 ちなみに1階にいるであろう、教育ママの声が聞こえてこない。あまりのうるささに、メンコさんが気絶させたのだろう。


「やっぱり……! ギンコさん!」

「お? 何かありましたか!?」


 すると、彼は何かを見つけたらしく、勉強机の下に隠されていた小さな冷蔵庫を見つけたのだ。


 ちょっと待って。こんなのどこにあった訳!?

 私は驚いた顔をしていたが、まさかそんなところに、ミニ冷蔵庫を隠すとは思ってないし、カンナちゃんが見たら、驚いていただろうに。


「とりあえず、中身、開けてみよっか」

「うん。なんだか嫌な予感しかしないんだけど」

「これは、かなりやばそうな雰囲気ですな!」


 なので、恐る恐る開けてみると……



――ガラガラガラガラガラガラ



『はぁ!?』


 中には、尋常ではない程の量のエナジードリンクと、扉側の棚には『ネクター』が何箱かささっていたのだ。

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