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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラックルームスープ編(前編)
44/106

彼のトラウマが、あまりにも根深いものでした。

「何これ……」


 しかも、『ヴァルテ家』の動向に気をつけながら任務を遂行しろ。だと?


 まさかの任務内容に驚いてしまったが、なんでまた、ここでも『ヴァルテ家』が絡んできてる訳?


 あまりにも怖すぎて抹茶味のコーヒーを持つ手が微かに震えていた。


「おー。タミコか」

「ゴエモンさん!? これって……」

「おー来たか。新たな依頼だ」

「え!? これが?」

「おぉ。新しい依頼。『ドラックルームスープ』というサイトの調査だな」

「ドラックルームスープ……」


 如何にも危険なサイト名だが、薬、部屋、スープ? 三ヶ月前にあった『キルマイフレンド』とはまた違っていたが、これもまた不穏なサイトなのは間違いない。


「だけど、ヴァルテ家って……」

「あぁ。もしかして、リルドから直接聞いたのか?」

「……はい。ずっとゴエモンさんにも、秘密にしていたみたいなので、私からはあまり、言いたくないのですが……」

「まぁ。そういうのは本来、本人の口から言うべきだしな。だけど。あの一家は一言で言うと、『異常』だぞ」

「異常?」

「あぁ。頭のネジが何本抜けてるんだろうな。ていうぐらい、思考回路が可笑しい連中だ。くれぐれも気をつけるように……」

「は、はい……」


 なので、私は手に持つ抹茶味のコーヒーを飲み干すと、ふぅ。とため息を一つ吐いた。

 だけど、頭がおかしい連中というのは、もう増やさないで、シイラさんだけにして欲しい所だ。


「まぁ。そんなに緊張する事はないぞ」

「え?」

「実はな……」


 すると、彼のミリタリー柄の作業服の胸ポケットから、愛用の電子タバコを取り出し、フゥーっと吸うと、こう話を切り出してきたのだ。


「今回の任務は、総力戦で行こうと思う」

「総力戦ですか!?」

「あぁ。ここでは遠隔サポートはグソク。現場特攻はメンコ、リルド、そして、タミコだ」

「……」

「まぁ。安心しろ。それと、カラマリアの特攻メンバーとサポートメンバー、それとデットプールも一緒だ」

「デットプールって……」


 初めて聞く組織だけど、新たな裏組織だろうか。

 呆然と聴きながらも近くにある席に座り、彼の話に耳を傾けた。


「フグトラとヒガンが結成した新組織の事だが、知らなかったのか?」

「まぁ。って、えええ!?」


 まさか、フグトラさんが在籍している組織だったとは。ということは、今回は正に総力戦という事か。


「それほど、今回の任務が、キルマイフレンド以上の闇があると思ってもいいかもな」

「そんな……」


 あれ以上に、難しい任務になるって言うことか。気を引き締めて行かなくては。


「それと、この『ドラックルームスープ』と言うのはな……」

「はい……」

「やっほ~。ゴエモンさん。タミコちゃん!」

「おぉ。丁度いい所に来たな。メンコにグソク」


 すると、食料という大荷物を抱え、事務室へと帰ってきたグソクさんとメンコさんが来た。

 なので、彼はフランクに声をかけると、早速本題へと切り出そうとしていた。


「お? 今度はなになに?」

「ゴエモン氏。もしや、新たな任務ですかな?」

「……大当たりだ。しかも、今まで以上に難しい案件だ。いけるか?」

「なるほど。もしかして、ヒガン氏からの任務ですかな?」

「おぉ。そうだが、なんでグソクが知ってんだ?」

「え? あー。そりゃぁ、ヒガン氏とワイは同級生ですぞ?」

「え? 嘘ぉぉ!?」


 すると、グソクさんがしれっととんでもない事を言ってきたので、ゴエモンさんも思わず空いた口が塞がらなかったのだ。


 嘘だろ。グソクさんとヒガンさん、同級生なの!?

 私は見た事ないから、何とも言えないけど、リルドから聞いた話だと、見た目は年齢不詳と言っていた様な。


「でも、ゴエモンさん」

「お? どしたメンコ。そんな深刻そうな顔をして……」

「今、『ドラックルームスープ』て、言いました?」

「言ったが、どうした?」

「あのサイトのせいで……。私の親友は、『死んだ』というのに……」

「ええ!?」


 すると、彼女の口から『死んだ』という発言が飛んでくるとは思ってなかったので、身体が固まってしまった。


「あぁ。タミコちゃんごめんね。ちょっと、今回ばかりは許せない思いが強いのよね」

「メンコさん……」

「あれは、思い出すだけでも辛かったから、なるべく思い出さないようにしていたけど、そのサイト名を聞くだけで、吐き気がするほどよ」

「そんなにやばいんですか……」

「うん。内容としては、それぞれどんな事に『依存』しているのかを、語る場でもあるんだけど、リモートで語ったりと、色々な形態でチャットルームが残ってるから、厄介なのよね」

「そんなことが……」

「そうですな。あれは最初、『匿名の語り場』みたいな感じでしたが、それが今になっては単なる、薬の乱用を披露する『パキりルーム』みたくなってますな」

「パキりルーム!?」

「えぇ。なので、『承認欲求が強い』人があれにハマると、恐ろしい事になるのですぞ」

「それは確かにまずいですよね……」


 つまり、『承認欲求』の方が勝って、取り返しのつかない事になりかねない。てことか。

 確かに今回の案件は、キルマイフレンドよりも厄介になる上、難しくなりそうだ。


「えぇ。正に『依存』ていう言葉が似合う程の(おぞ)ましい部屋。という事ね」

「……」


 でも、キルマイフレンドの時よりも、怒りが今まで以上に増幅しているのは、何でだろう。手には不思議と握り拳が出来ていたのだ。

 きっと、メンコさんの親友がこのパキりルームで亡くなったりしていたのを聞いたから?

 だけど、もし、そこにヴァルテ家やアビスの連中、ベローエの残党も居るとしたら、私は冷静でいられるのだろうか。


「そーだ。メンコ」

「はい」

「カラマリアに『薬物専門』の奴がいただろ?」

「あー。『ベノム』の三姉妹の事かな」

「三姉妹!?」


 初めて聞く名前だ。しかも、カラマリアに薬物専門の部署もあったとは。だけど、シイラさん一言も言ってなかったような。


「うん。確かにあそこの協力を得た方が今回はいいのかもしれないね。下手したらドーピング薬も作ってるだろうし」

「え!? どどど、ドーピング薬!?」

「まぁ。安心してよ。ちゃんと『合法』に作られてあるやつだからさ~」

「は、はぁ……」


 そう彼女に言われ、少しは安心はしたが、『ドーピング薬』というワードが怖い気が……。


「……よぉ。もう帰ってきてたのか」


 すると、事務室へ現れた彼は、バサついた赤髪にやつれた様な顔をしていたのだ。


「おー。リルド氏。大丈夫ですかな? 何か顔色が悪いようだが……」

「何とか。それと、サーフェスのみんなにも言わないといけないことがあって……」

「リルド……」


 しかし、彼はそう言うと、二人きりの時に見せたアンティークの箱を、パソコンがあるテーブルの上に置き、そっと蓋を開けたのだ。


「これって!?」

「おいおい。そのブローチ、『ヴァルテ家』に伝わる『家宝』じゃねーか!」

「凄っ! 『都市伝説』かと思ってたけど、実際にあったのね!」

「ほぉー。これまた貴重な物ですな!」

「えっ?!」


 私は思わず驚いてしまったが、このブローチという『家宝』、そんなに凄いのか。

 私以外のサーフェスのみんなが驚く中、彼はこう切り出したのだ。


「恐らく、『ヴァルテ家』の狙いは、『これ』だ。しかもこのブローチ、『俺の本名』が刻まれていたようだ」

「やっぱりな……」

「でも、19年も音沙汰無しだったよね? なんでこのタイミングでまた?」

「それは、俺も分からない。だけど、もしかしたら……」

「……」

「ブローチと……、タミコも狙ってる可能性も高いって事だ」

「ぇぇぇえ!?」


 ちょっと待って。なんでまたそこでも私が狙われる訳!?

 狙うなら不祥事ばかり起こす政治家でも狙ってよ。頼むから!

 と思ったけど、正直今回は、そんな冗談も言えないほどの深刻な案件だろうな。私は冷静になりつつ、彼らの話に耳を傾けることにした。


「そーいえば、越智から聞いたぞ。やっぱりタミコ。お前は『サンプルの人』だってさ」

「そうですか……」

「あぁ。だから、相手も既に、気がついているのだろうな。でも、なんでそのブローチまでも狙われているんだ?」

「俺にも分かりませんが、恐らく『ヴァルテ家』のアジトのどこかを開ける『鍵』みたいな役割があるのかと」

「あー。それだったら19年経っても『そーいやあの扉どーやって開けるんだ?』となって、躍起になってブローチを探したりするのはありかもね」

「なので、今回、その囮として、この『ブローチ』を、タミコに持たせようと思う」

「……え!?」


 しかし、ここでリルドが大胆な作戦を言ってきたのだ。

 もしかして、囮を『二つ』にして一気に敵を叩くって事?


「おいおい。随分と危ねぇ事を言い出したなお前。それと同時に、タミコを危険に晒すことになるんだぞ?」

「えぇ。だけど、これだったらヴァルテ家と今回の『黒幕』を、芋づる式に引き上げる事が可能かと」

「あー。そう来たか。こりゃぁ、警察も大仕事できそうな展開だな! がははは!」

「ですが、囮だとしても、安心して下さい。タミコは命に変えてでも、俺が守るので……」

「……えっ!?」


 すると、彼の口から驚く事を言ってきたので、思わず空いた口が塞がらなくなってしまった。


 えっと、ちょっと待って。言ってる事が全く理解できないんだけど。囮なのに『全力で守ります』てどういう事!?


 あまりにも矛盾すぎる回答に驚く私を他所に、ゴエモンさんは愛用の電子タバコを吸ってニヤケながらこう言ってきたのだ。


「ったく。おめーらはいつの間にか、できてたんだ? なぁ? メンコよ」

「ほんっとねー。でも~、熱いのは若い証拠で良い事じゃない?」

「はぁぁ!? てめぇーー!」

「まぁまぁ。落ち着いてくださいなお二人共」

「あはは……」


 だけど、サーフェスの雰囲気は相変わらず賑やかで楽しいな。何事もなく、笑って楽しく過ごしていけたら……。


「……なぁ。タミコ」

「……えっ!? どした?」

「実はさっき、小さい頃の事、思い出しちまって、事の今まで、自分の部屋で取り乱してたんだ」

「そんな……」

「だから、こんなみっともねぇ格好で、みんなの前に現れてしまったけどな」

「だけど、大丈夫? 無理なら寝てていいのに……」

「いや。寝てたら逆に夢で思い出しちまうから、起きてた方が良いと思ってる」

「そんな……」

「正直、『あの光景』が忘れれば、どれ程良かった事だろうか。て思う事があった」

「……」

「それと、シイラの事だってそうだ。あの時俺が、あいつの身体に染った『真っ赤な血』から突き放して逃げなければ! ぁあああああ!」


 すると、彼は両手で赤髪を強く掴んでテーブルに突っ伏し、子供の様にわんわんと泣き出したのだ。

 でも、こんなボロボロになったリルド、初めて見てしまった。


「まさか、リルドって……」

「あぁ。タミコはもう分かってたか」

「何となく……」

「タミコちゃん。実は私も分かってたんだよね。あぁ見えて、彼は『かなり繊細』なの。それなのに、そんな自分を殺してまで、事の今まで任務をやっていたんだから……」

「リルド氏。本当に無理だけはしないでくださいな。貴方がボロボロになっていくのを、ただ見ているだけ。というのは、ワイも流石に辛いものがありますからな」

「……」


 私は泣きじゃくる彼の背中を優しくさする事しか出来ず、静かに時間だけが過ぎていった。


 彼は本当に『繊細』な人だ。

 恐らく小さい頃から『殺しの教育』をずっと受け続けてしまい、『真っ赤な生き血』を見ること自体が、トラウマになってしまったんだ。

 だから、シイラさんが血の衝動に駆られてしまった時も、そのトラウマで逃げてしまい、彼を助けることが出来なくて後悔していたんだ。


 あの時『小さい頃の記憶』も、『シイラの記憶自体』も、『思い出さなければ』と。


「……ねぇ」

「……?」

「リルドは、一人じゃないからね。みんながいる。サーフェスのみんなが!」

「……!」

「辛い時はね、いっぱい泣いて、良いんだよ! 辛いことは、泣いて泣いて、流せばいいんだから! ねっ!」

「……」

「今度は私がリルドの事、トラウマから、『守って』あげる! だから……、もうこれ以上、何もかも、一人で抱え込まないで!」

「……ぁ。え。ぁ、ぅわぁぁあああ!」


 私はいつの間にか、大粒の涙を流しながら大泣きする彼の事を強く、抱きしめていたのだ。


『うぅ……!』


 しかし、何故か私らの反対側にいたサーフェスのみんなも、わんわんと泣きながら、ティッシュで鼻をかんだり、タオルで涙を拭ったりしていたのだ。






 そのせいか、いつの間にか時間は2時間ほど過ぎていた。

 サーフェスのメンバーはと言うと、各自部屋に戻ったらしく、事務室には、私とリルドの二人きりになっていたのだ。


「……はぁ。はぁ」

「なんだか、泣き疲れちゃったね」

「……ふっ。久しぶりに泣いた気がするな」

「そうなの?」

「あぁ。あいつがサーフェスから居なくなっちまった以降かな。こんなにも泣かなくなったのは」

「え? じゃあ……」

「事の今まで、こんなにも泣いた事は無かったな。改めて感謝する」

「いや。そんなお礼を言われるほどの事は……」

「じゃあ……」

「!?」


 すると、彼はそっと席から立ち上がり、私の背後へ立つと、優しく抱きしめ、耳元でこう囁いてきたのだ。


「もし、お前が辛くなった時は、遠慮なく俺に言ってくれ」

「えっ!?」

「お前も俺と同じで、色々抱えてんだろ? 一緒だな」

「うぅ。それは……、えっ!?」


 しかも、その流れで、傷がある私の頬に再度、キスをしてきたのだ。


「お互いに抱え合うのも、悪くねぇな」

「あー! ちょっとリルド!」

「ははは。さっき、タミコは俺が寝たフリしてた時に、密かにチューしてきたからな。これは、そのお返しだ」

「えー! あれ、寝たフリだったの!? 知らなかったんだけど……。あーもぅ! リルドのばかぁ……」


 まさかあの時、三本傷のある頬に口付けをしたのを覚えていたのは、彼が寝たフリをしていたからだったのか。

 思わず顔が真っ赤になった私は暫くの間、恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠して悶えてしまった。あぁ。恥ずかしい。出来るのならば、布団の中に入って忘れたいんだけど!


「もしもーし」

『うぇっ!?』


 すると、アンティークの扉を少し開けた隙間から、メンコさんがニヤニヤしながらも、声をかけてきたのだ。


「お熱いところ、ごめんだけどー、今から研究所に行くから、一緒に来てくれるー?」

「あ。はい!」

「……」

「リルド?」


 しかし、彼は黙りこくったまま、真面目に考えると、こう言い出したのだ。


「あー。俺は遠慮しとくかな。行くならタミコとメンコで行った方がいいと思う」

「えっ!? めっずらし! どーしたの突然!?」

「あー。ちと、俺はゴエモンのじーさんに隠していた事とか、今後の事で話しておきたい事があってさ」

「あ。そー……」

「だから、タミコ」

「何? リルド」

「もし、そっちでシイラに会ったら、こう伝えてくれるか?」

「ん? なんて?」

「えっと、『あの時逃げて、ごめんな。俺はもう、二度と置いて逃げないから』て」

「あー。う、うん。会ったら、伝えておくね」 

「あぁ。ありがとう」

「ほぉー。なーるほどぉー。お熱い様で!」

「めめ、メンコさん!」

「まぁー、後で車の中で、詳しく聞かせてもらうから、覚悟してね~!」

「そんなぁ~!」


 そして、私とメンコさんで、今後の薬物対策を練るために、カラマリアの研究所へ行くことになったのだった。

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