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二人と交わした約束は、熟れた苺の様でした。

「えっと……」


 色々とどうしよう。

 サーフェスに戻っても、二人きりになるなんて。

 それに、サーフェスに着いてからも、リルドは一切手を離してくれないし、喫茶店でもシイラさんいたのに素っ気なかったし。おまけに任務中にフグトラさんといても、茶化したりしてたけど……。内心、嫉妬してる?


「どうしたの?」

「俺の部屋で詳しく話す」

「は、えぇ!?」


 だけど、突然言ってきたものだから、驚いて開いた口が塞がらなかった。

 俺の部屋って、まさか、リルドの部屋!?


 確か、グソクさんが『部屋に入ろうとしたら半殺しにされて追放された人がいた』ていう、あの部屋だよね。

 でも、何で今になって?

 かなり気になったが、私の左手は未だに彼に掴まれたままだし、逃げたら何されるか分からない。


 怯えながらも彼の指示に従うがまま、『リルドの部屋』へと着くと、彼は左手をカーゴパンツのポケットへ突っ込み、鍵を取り出すと扉を開けたのだ。


「えっ……」


 しかし、部屋の中は思ったよりも、綺麗に整頓されていて、左側にはシングルベットに反対側はテレビモニターと、最新のゲーム機が置かれていたのだ。


「リルドってゲームやるの?」

「あぁ。もしかして、タミコもやるのか?」

「うん。ここに来る前、よくゲームして遊んでたから」


 確か、よく生活シミュレーションゲームをやり込んでいた様な。懐かしい。よく親友だった『あの人』ともやっていたなぁ。


「ほー。それと、記憶はどんぐらい覚えてきたんだ?」

「うーん。多分私は……、『天海愛華』ではない。というのが、はっきりしてきた所かな」

「ふーん。あと少しってとこか」

「あと少し?」


 すると、彼は「座れよ」と言って、ベットの端に座ったので、私も彼の隣に座る事にした。


「あぁ。やっぱりお前、『竜宮多美子』だったんだな。て」

「どうしたの? 急に……」

「俺、小さい頃に1回、お前を見た事があるんだよ」

「え!?」


 思わず変な声が出てしまったけど、どういうことだろうか。小さい頃なんて、覚えてないのに。だけど、あの夢の中で見た『ありがとう』と向けていたのは、きっと……。


「微かだけど、あの時、動物か何かに襲われてたんだよな。お前」

「……」


 すると、彼は傷がついた右頬を指さし、こう言ったのだ。


「その時に庇ってできた傷が、これだ」

「そう……、なの……」

「あ。それと、お前にどうしても伝えたかった事が一つ、あってだな」

「……えっ!?」


 そして、彼は左手で私の茶色い髪に軽く触れると、傷跡が付いた私の右頬に向かって、軽く口付けをしたのだ。


「その傷、俺とも『お揃い』だしな」

「あ……、えっ……」

「あの時に言った台詞、絶対忘れねーからな。覚悟しとけよ」

「……うぅ。も、もう!」


 そのせいか、私の顔は熟れた苺のように真っ赤になってしまい、恥ずかしさのあまりに俯いてしまったのだ。


「何だよ。照れやがって」

「だって! あんなことされたらもう!」

「まぁ。シイラやフグトラに嫉妬していたのは、本当だからな。その……」

「ん?」

「だから、その、勢いで、つい、やってしまった。ごめんな……」

「……」


 いや。謝んなくていいって。

 だけど、突然の不意打ちの頬にキスは反則だって!

 心臓が持たない私は、未だに真っ赤になった顔を隠すのに必死だった。


「……いいよ。謝んなくて。その」

「そっか。それと、せっかくの機会だ。ゴエモンのじーさんにも秘密にしている事、言わねーと」

「え? このタイミングで言う!?」

「悪いかよ。帰って来てたら言えなくなるだろ」

「でも……」

「まぁいい。まずはこれを見て欲しい」


 そう言うと彼は、整頓された棚から、赤いアンティーク調の箱を取り出し、こっちに持ってきたのだ。


「なにこれ……」

「実は俺が18の時かな。ゴエモンのじーさんから突然渡された物なんだけど、開けたらこんなのが入っててさ」

「うん……」


 すると、箱の中には『翡翠色の剣』と剣の柄の真ん中に『赤い薔薇』が付いたブローチが入っていたのだ。かなり高そうな代物だけど、幾らするのだろうか。


「んで、中身はじーさん見てないんだけどさ、俺が部屋に行って単独で見た時、このブローチの裏側に『名前らしき物』が刻まれていてさ……」

「はぁ……」

「だが、俺は生憎、日本にいる方が長いから英語はからっきしだ。だから、何て書いてあるか見てほしいんだ」

「私に!? いいの?」

「あぁ。俺はタミコを信用してるからな」

「何かそれ、重いんだけど……」


 すると、彼は『ローマ字が読めないから、代わりに読んでくれ』との事だったのだ。

 ったく。今の時代、スマホで翻訳出来るんだから、それ使えばいいのに。


「わかった。読んでみるね」

 

 なので、恐る恐る読んでみると……、えぇ!?


「ルーク……『ヴァルテ』!?」


 私は思わず叫んでしまったが、彼は目をぱちくりさせて驚いていたのだ。


「へぇー。これが、もしかして、『俺の本名』てことか?」

「いやいや。普通に驚くところだよこれ!」

「え? 何で?」

「だって、『ヴァルテ』って、滅びたはずの『暗殺一家』て聞いたことが……」

「うっ!」


 すると、彼が突然、頭を痛み始めたらしく、両手で頭を抱えていたのだ。


「大丈夫!?」

「……ぁあ。ものすげー嫌な事を思い出していたのかもしれない」

「ごめん。その、トラウマを掘り起こすつもりは全くなかったんだけど……」

「分かってる。それは、分かってるから平気だ。タミコは全く悪くねぇ」

「そう……」

「あぁ。とりあえず、意味は分かったからしまうな」

「うん……」


 しかし、彼は箱を厳重にしまうと、何食わぬ顔で私の所に戻り、ふぅ。と深呼吸をしていた。だけど、どこか顔色が悪そう。


「ねぇ」

「んあ? どしたんだ急に」

「ベット、借りてもいい?」

「はぁ!? 何でだよ!」


 なので、まだ一緒にいたかった私は、一か八かで言ってみることにしたのだ。


「だって、リルド、体調悪そうだもの」

「勝手に決めんなって!」

「でもさ、私の初任務終了後にさ、人の部屋に転がり込んで寝てた事あったよね? しかも私の」

「うっ……。あれはその……」

「と、言うことで、ほら寝るよ!」

「クッソ。何で俺がこんなことに!」


 すると、嫌々言いながらも何故か一緒のベットに入って布団を被っていたのだ。


「何があったのか分かんないけど、もし、辛くなったら私に言って!」

「……」

「それに、今の事も、誰にも言わないから。ね」

「……あぁ。ありがとう」


 その後、何故か彼はすぐに寝てしまったのだが、どうも寝顔が幼い少年の様で可愛らしくもあった。

 なので、ふぅ。と一旦落ち着いて目を閉じたが……、


「……ぅえええ!?」


 何故か私に抱きついて眠っていたのだ。

 もうやだ。最後まで心臓が持ちそうにないや。


 そして、逃げるのを辞めた私はこのまま、彼と共に眠ることにしたのだった。





――ありが、とう。そういえば。あなたのおなまえは?





 ふと、夢の中で私が彼にこう言っていたのだ。

 まだ私が4つか5つぐらいの時だ。確か旅行で行った先で知り合ったんだっけ。


 現地語を話していた彼は、何を言ってるか分からなかったけど、両親から教わった現地語で、何とかお礼を言えた。確か、ムルツメスク。て言った様な。


 でも、それ以外は覚えていない。

 だけど、彼を救ったらまた、記憶が思い出していけるのだろうか。本当に、あと少し……。かもしれない。







「……はぁ」


 いつの間にか時計を見たら夜だった。

 長い昼寝をしてしまったかのような。

 だけど、こうして一緒に寝たの、初めてだ。


 私は眠る彼の赤髪を軽く触れると、右頬に付いた三本の傷跡に、軽くキスをした。


「ふっ。さっき言った言葉、そっくりそのまま返すからね」


 生憎、彼は気持ちよさそうに寝ていたが、これでいいんだ。


 なので、私は音を立てない様に、そっと彼のベットから降りると、部屋を後にしたのだった。

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