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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
キルマイフレンド編
37/108

sideシイラ 狂気に堕ちてしまったのは、彼ではなく、僕でした。

――フグトラ君が来る30分ほど前。





「さて。居なくなったけど、僕と何して遊ぼっか!」

「……」


 僕はニッコニコの笑顔で、目が虚ろな彼に話しかけてみるが、彼は呆然と扉の方をじっと見ている。


「もしかして、悲しいの?」

「……」


 きっと、本命の大事な『彼』が、三階にいる。てタミコちゃん達に言っちゃったから、大事なものを売ってしまった。て、内心ショックなのかもしれないね。

 それに、勢い余って深く抉っちゃったせいか、彼の左手の甲から流れる血は、ダラダラと川のように止まらなくなっちゃってる。


「ちょっとまっててね。止血しなきゃ!」


 なので、僕は慣れた手つきで、持ってきた黒い肩掛けのショルダーバッグから、包帯とガーゼ、消毒液を取り出すと、彼の左手の甲に巻き、応急処置を施した。

 これはカラマリアに入った時、リーダーのドクター越智から言われたんだ。


『君は血を見ると欲情してしまうからね。だから、それを抑えるために、応急処置を覚えようか』と。


 すると、不思議と血の欲求が収まったんだ。

 僕だって、何で血を見ると興奮してしまうのか、全く分からなかったけど、やってしまった後に処置をすれば、吸血鬼みたいな衝動は抑えられる。と頭で覚えたんだ。


 あと、出先でどうしても血が欲しくなったら、『代替品で補う』とかね。例えばブラッドオレンジジュースや、イチゴ。とかね。特にイチゴが一番お気に入りなんだ。


 それからどんな任務になったとしても、相手に怪我をさせてしまったら、応急処置をしたり、イチゴを食べたりする。というルーティンを入れて、僕なりに力を抑えていたのさ。


「……え?」


 すると、彼は驚いた顔で俺を見ては、包帯を見て、の繰り返しをしていた。


 もしかして、驚かせちゃったかな?

 でも、僕は何だかこの、『マフ』っていう子を見ると、どうも昔、密かに飼っていたペットを思い出してしまう。


 茶色くて短いストレートヘアの髪に、中性的な顔立ち。肌白くて、目は黒くて光がない。それに、龍樹君と同じ歳の子で、同じ制服を着ている。まるで子犬みたいで、可愛いんだ。


「大丈夫だよ~。ちゃんと止血したから、安心してね!」

「……」

「どうした?」


 すると、彼は寝っ転がった床からムクリと起き、床にぺたりと座って僕を見ると、しどろもどろにこう言い出したんだ。


「何で、何で貴方は……、ぼくを、助けるの……、ですか?」

「え?」

「あぁ……、うぅ……」


 何でって言われても。

 単なるルーティンで織り込んでいるだけなんだけどなぁ。

 しかも、彼は泣きながらだが、癇癪をおこす子供っぽい声で、こう言い始めたんだ。


「だってぼくは! 何をしても……、何をしても……、何しても何しても何しても! 大事な人ですら、ぼくのこと! 何も見てくれなかったのに!」 

「……」

「だからもう! ぼくには死ぬしか価値がもう! ないんです! ぼくは!」

「え?」

「だって……、大事な人やその大事な人までを、たくさん、たくさん……、傷つけて……、盗って、壊してしまったから。だから……、もう、死ぬしかないって……」

「だからって、何ですぐ『死にたがる』のさ!」

「えっ……」


 だけど、僕は思わず、彼の包帯を取ろうとした手を握ってこう言い返しちゃったんだ。


「だめだよ。簡単に『死なせない』からね!」

「えっ……」

「当たり前だよ。罪は償うもの。でも、あまりにも罪が多すぎる君には辛いだろうけど……」

「……」


 それはそうだよね。

 だって君、妹のカンナから聞いたけど、まさか、大事な彼の家に盗聴器まで仕掛けといて、いるタイミング狙ってピッキングして入ったんでしょ?


 オマケに僕が来る前のあの惨状だってそうだ。

 まさか、ナル計画の重要人物のタミコちゃんの頬にまで、傷を作らせちゃったもんねぇ。


 あーあー。未成年なのに、たくさん罪を作っちゃったね。


「だけど、多すぎる罪に疲れて、殺して欲しかったら、いつでも僕に言って欲しいなぁ」

「……え?」

「そしたら……、僕が『君の血の全て、残らず』に飲み干してから、一息に殺してあげるから」

「……」


 思わず笑顔で本音を言ってしまった。

 まぁ。他人が殺そうとするなら、『僕』が血を浴びるように、一滴残らず隅々まで、舐めて吸って完飲してから、一思いに殺ってあげた方がいいもんね。


 うん。その方が君だって、いい。


「それと、嫉妬で狂いそうになって、自殺したくなったら、いつでも『僕』を呼んで。そしたら、ぎゅーって抱きしめて、キスしてあげる」

「……」

「それに君、好きな人が他の人といるのを目の前にすると、嫉妬に狂っちゃって、相手を攻撃しちゃうんでしょ?」

「何でそれを……」

「僕もそうだから、君、昔の『僕』にそっくりなんだ」

「……」


 そう。あの時だってそうだ。

 僕は元々リルドの事を、『親友以上』の存在。そうだね。『一筋の希望』と思っていた時期があったんだ。


 でも、僕は全てを思い出してしまって、『血の快楽』を知ってしまった。そして、リルドと離れないといけなくなっちゃって、今に至るんだ。


 あの時、ハムスタキロにあげていた標的は、確実にリルドを狙っていた。勿論。性的な意味で。だと思う。


 だって、彼の美貌は硝子のように脆くて、綺麗過ぎるからね。

 だから、リルドがこの真相を知る前に、僕が先に、アイツの息の根を『止めた』んだ。

 それで、『これ以上はやめろ』という警告に近い感じで、ハムスタキロにあげたんだよね。


 だけど、逆効果だった。

 どんどん拡散されてしまって、取り返しがつかないところまで行ってしまった。


 本当に。今のマフ君。昔の僕みたいなんだよね。


 だから、君の闇を孕んだ様な瞳が、僕にとっては美しい反面、どうも目が離せないんだよね。不思議だなぁ。


「だからね、僕はそんな君の事、大好きだよ!」

「……!」

「だから、本当の名前、僕に教えてくれる?」

「……」


 貼り付けた笑顔でそう言いながら、凄いチープな言い方で告白してしまったけど、この構図、まるで地雷女子を口説くホストみたいだなぁ。

 まぁ。今の僕の服装は、女子高生の格好をしているから、見た目的には逆だけど。


「……まお」

「まお君っていうの?」

「……うん。鰒川(ふぐかわ)……、真生(まお)

「いい名前だねぇ。よしよし!」


 でも、不思議と嫌じゃなかった。

 だって、真生くんの笑った顔、可愛いじゃん!

 犬のように頭を撫でると、彼はニコッと僕に微笑みかけるんだ。何だろうなぁ。


「……ねぇ」

「ん?」

「ぼくのこと……、本当に、好き?」


 すると、今度は真生が無邪気な声で、上目遣いをしながら僕に話しかけてきたのだ。


「ん?? 急にどうしたの?」


 一瞬、僕の頭の中に疑問が生まれていたが、そんなこと、どうでもいいや。


「本当に好きなのか。て、聞いているの!」

「うん。とっても好きだよ? でも、どうして怒るのさぁ~」

「うぅ。だってぇー!」


 すると、先程の無気力な発言が、嘘のように切り替わって、今度は積極的に話してきたのだ。

 何だこのジェットコースターに乗ったような感情の起伏は。まるで女の子みたいに癇癪起こしたり、不貞腐れたり、子供のようにぐずったり……。


 あーりゃりゃ。まさかこのテンションで、ミオ君をいじめてたり、龍樹君の家まで押しかけたり、ネックレス奪ってすり替えたり、学校で嫌がらせしまくったり、欲情してたりしたのかな。まるで、男の子版の地雷女子みたいだ。


「本当に、好き?」

「うん。大好きだよ」

「じゃあ、チューして!」

「えっと、どこに!?」

「ここっ!」

「なるほどねぇ~」


 すると、彼は笑顔で自分の首元を指さしてきたが、可愛さの余り、言われた通りに首筋を吸ってしまった。


 本当に、僕は、蜜を吸いに来た蝶みたいだ。

 だけど、その蜜は、依存する程の『猛毒』を孕んでいた。ただそれだけの事さ。


「そういえば、名前は?」

「僕はシイラだよ~」

「えっと、本当の名前は?」

「本当のぉ?」


 参ったなぁ。まさか、あの流れで本名を聞かれるとは。でも、しゃーないかぁ。


「言ったらびっくりしちゃうと思うけど、いいのぉ?」

「……うん。別に、いい」

「ふーん。分かったよ~」


 そして、僕は誰にも言ってなかった、本名を言うことにした。まぁ。妹のカンナだけは、知ってるけどね。


椎羅海斗(しいらかいと)だよ~」

「!」


 やっぱり驚いちゃったか。でもいいや。

 この驚く姿もまるで、前に飼ってた柴犬に似てるんだよなぁ。


「驚いてるね! そりゃぁびっくりしちゃうか! ごめんね。まぁ~、カンナのお兄ちゃんから告白されたらそりゃぁ。びっくりしちゃうかぁ~」

「でも、カンナさんは……、悪くない。とても、いい人」

「そう?」

「うん。だけど、ぼくは……、女の子はムリ」

「そうなの!?」


 そうコクリと頷くと、今度は両腕で僕の首元に手を回すと、首筋に軽く、キスをしてきたのだ。


「ぼくも……、シイラさん、大好き!」

「えっ!?」

「シイラさん、優しいし、かっこいい! だからその……」

「うん」

「ぼくもたくさん、シイラさんに、チューしてあげる!」

「はは……、ははは……」


 本当に参ったなぁ。まさかの展開に戸惑っていたが、まぁ。それもいいっか。だって、この子、イチゴの様に甘酸っぱい声で言ってくるんだもん。


「あ、あのぉ……」

「ん? どうしたぁ?」


 ふと、背後から声がしたので振り向くと、フグトラ君が申し訳なさそうにこう言ってきたのだ。


「え、えっと……その……、リルドさんが……。呼んでますよ」

「あーそうか。わかったよぉ~」

「えぇー! ぼくを置いてくの?」

「ううん。ほら。一緒に行くよ~」

「わぁーい! ありがとう! 大好き! シイラさん!」


 まぁ。こんな感じで僕はどうやら、彼のリミッターを全開にまでこじ開けてしまった様で、マフとのこと、真生くんは、見事に地雷系男子になってしまったんだ。


 いやぁ。本当にごめんね。フグトラ君には申し訳ないことをしてしまったぁ。


 でも、まぁいいや。後でツブヤキにでも連れていかなきゃね。勿論、真生くんも可愛いから、連れてっちゃおっと!


 うん。これでいい。

 それに、狂気に堕ちてしまったのは、君ではなくて、僕だったから。

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