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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
キルマイフレンド編
35/108

この世の理は、弱肉強食でした。

「って、うぇえええええ!?」


 私は思わず変な声を出してしまったが、まさかのシイラさんが『白亜の標本屋』ぁ!?

 あー。どうりで吸血鬼の如く、美味しそうに血を飲んでいる訳か。


 確か、中世で650人程の女の人をぶち殺し、生き血を啜った女『エリザベート・バートリー』だっけ?


 それが罪を終えて転生し、性転換した姿が、シイラさんでした。と言われても、納得の狂気感だ。こりゃぁ。


 あ。でも、シイラさんはどーやってこの部屋に入ったんだろうか。

 遠目ながらも、よくよく観察してみると、彼の首元には何故か、十字架のネックレスが付けられており、その装飾もかなりリアルだ。しかも、フグ!?


「ねぇ。フグトラさん」

「ふぁっ!? 突然、何すか? それに、標本屋、凄く子供のように楽しそうですが、彼は一体……」


 しかし、聞こうとしても、彼は思考が飛んだように、呆然と突っ立ってた。

 どうやら、目の前で広がる、凄惨な狂気にやられているようだ。


 そりゃ、そっか。

 自然死と謳ってる団体の拠点に、シイラさんという、狂気の権化が突っ込んでいる状態だから、困惑するのは当たり前か。


「あれが、彼の本性かもしれない。実は私も、初めて、見たんだ」

「あ。そうだったんすか!?」

「うん。それと、真ん中の装飾が、リアル彫刻のフグだったんだけど、あれ幹部の?」

「フグ? って、まさかヒガンさんのか!?」

「え!?」

「支部長のヒガンさん、確か真ん中の装飾、フグなんだよ」

「えええええ!?」


 ちょっと待って。まさかシイラさん、ヒガンさんのネックレスを『盗んだ』ってこと!?

 思わぬ衝撃に、頭がバグりそうになったが、いや。私に会う道中で、何かがあったのかもしれない。


「あの、お楽しみのところ……、ごめんだけど……」


 私は恐る恐る聞いてみると、シイラさんに手首を握られていた彼は「助けてくれ」と言わんばかりの恐怖顔になっていた。


 まぁ。うん。何だろう。

 この、マフっていう人、『自分だけ良ければいい』て感じの雰囲気を出しているせいか、助けたくても助けたくない、謎の拒絶感があるんだよなぁ。

 おでこからは軽く血が流れているけど、目は相変わらず虚ろだし。まるで壊れたおもちゃの様に、横になっていて、硬直している。


「ん? なーにぃ? タミコちゃん?」


 そして、そう言いながらシイラさんはニッコニコで、手の甲から流れる血を、愛しい眼差しでチューチュー吸ってるし。


 ってか、何だ。この、また一人だけカヲスな状況は。


「ごめんね。えっと、そのネックレス、何処で……」

「あー。うーんと、実はタミコちゃん達より前にさ、ヒガンさんっていう人に会ってね、その人が僕のネックレスと交換してきたんだよね~」

「え!? そーなの!?」


 まさか先に支部長と接触し、しかもネックレスを交換していた、だと!?

 でも普通、敵キャラに大事なものを交換する幹部なんているのか?


 私は冷静になって考えていたが、近くにいるせいか、血特有の鉄混じりな匂いがしていて、早くこの場を離脱したい方が勝っていた。


「うん。でも不思議だよね~。普通は戦闘中になるんじゃないかなぁって、僕も身構えてたんだけどさ~」

「……、もしかして、リルドが既に接触しているって事は?」

「それ! 大いにあるかも! リルドってさ、無差別に殺傷するイメージ強いけど、話聞けば分かるやつだったら、ちゃんと冷静になるからねぇ」

「へぇー」

「特に、フグトラ君みたいな、敵サイドなのに、タミコちゃんを守ってる人には、感謝するのかもしれんね」

「え!? そなの!?」

「うん。ま。僕はこの辺見張ってるし、このおもちゃから『供物』がいる場所、ちゃんと聞き出しておくから安心してね!」

「あ。うん……」


 そして、一連のやり取りが終わった私は、静かにその場から離れ、パソコンの近くから動物のように震えているフグトラさんの元へと歩いたのだ。


「とりあえず、先程の検索の……、続き、やりましょうか?」

「ふぁっ!? この凄惨な状態のままで。っすか!?」

「うん。そこの標本屋さんが、敵来たら殲滅しとく。て戦闘モードだったし」

「なるほど……、つまり、標本屋は俺達側。って事なんすね」

「うん。マフさんが連れてきた『供物』が、彼が所属するトップのご子息さんである可能性が高くなっているからかも」

「それは……、確かに厄介っすね。もし、仮に手を出したとしたら、その標本屋率いる組織と全面戦争になる案件ですし……」

「そうだね」


 それだけは任務からは外れているから、何とか先に救出しないと。そりゃぁ、ベローエ側も、『冒涜者の集団』と言われているカラマリアとの全面戦争は避けたいはずだし。

 あと、もう一つの任務『投稿主の特定とその投稿の消去』も同時進行で行わないとなぁ。


 ちょっと待って。初めての囮なのに、何だこのハードモードな展開は。


「それと、そーじゃないと、結局、あの投稿をしたの、誰だか分かんないし……」

「はぁ。タミコさん、なーんか変に肝が座ってるっていうか……」

「え?」


 まさか、先程ボール感覚で人の頭をはっ倒した人から、変に肝が座ってると言われるとは。

 いやいやいやいや。私は単に任務をこなそうとしているだけだ。フグトラさん。この凄惨な状況を見て倒れないだけでも、誇っていいからね!


「マフさんである可能性は90パーぐらいって事かな。でも、100パーになるのは、ちゃんと投稿した痕跡を見つけてから。になると思うの」

「そうっすね。了解っす」


 だけど、何でマフさんがこんなにも壊れてしまったのだろうか。龍樹君と同じ制服を着ているってことは、同じ学校の人って事だよね。


 学校で何かあったのだろうか。

 でも、喫茶店の時からの会話と、レンタルルームでの会話。かなり気になってたんだよね。


 二人とも何で『マフさんの事』を話していなかったのだろう。あんなにも半グレ化していたら、普通、気がつくのに。


 まるであの時の……。ん?

 何で私がこんな事を思っているのだろう。

 あ。そうだ。これは私が丁度、彼らと同じ、高校生の時だったかな。


 常に私の傍らには、愛華という親友がいたけど、その子は常に『私だけを見て!』ていう子だった。


 私が他の友達と話していると、常にまとわりついてきて、『あの子と話さないで!』と凄く嫉妬された事を思い出した。

 愛華の高校生時代は正に、今のマフ。そのものだったんだ。


「……はぁ」


 深く溜息をついた後、フグトラさんが操作するパソコンの時刻を見ると、夜の7時頃だった。

 窓を見ると、月明かりに照らされていたせいか、丁度そこに居る、シイラさんとマフの異常空間が、スポットライトの様に照らされていた。


 正に弱肉強食。無知で弱い者は、この様に、知的な強き者に食われてしまう。そんな縮図を見ている感覚だ。


「大丈夫っすか!? タミコさん!」

「あ。フグトラさん!」


 ふと、声をかけられ、パソコンの画面を再度拝見すると、やっぱり。

 画面には、マフが二つとも、龍樹君とミオさんを『殺して欲しい』と投稿されていた事が分かった。


「ありがとう。これ、スクショしたりで、何かしら記録することはできる?」

「それなら、俺のスマホに直接、媒体として入れておくっすよ」

「ありがとう!」


 すると、彼は再度、慣れた手つきで、オフィスデスクの引き出しから、フグの絵がついたカバー付きのスマートフォンを取り出すと、近くにあった装置に嵌め込んで記録を取り込んでいた。


「そうなんですよね……、ってあれ!?」

「どうしたの?」

「おっかしいっすね……」


 ふと、フグトラさんは取り込む最中に妙な違和感を感じていた様で、私に聞いてきたのだ。


「ここに、海横支部に所属しているベローエの信者リストが入っていたはずなんすが……」

「無くなっているって事?」

「そうっすね。もし、俺達の他に誰かが来たとするなら……」

「あー……」


 そういえば、リルドは『潜入捜査』として、『闇バイトに参加している人のリスト』を手に入れてこいって言われていたような。


「まぁ。大丈夫ですよ。それに関してはもう……」


 そう言いかけた時だった。



――ブツッ!



『えっ!?』


 すると、画面が突然、暗転したと思ったら、画面には……。


「大丈夫ですかぁ~! タミコ氏ぃ~!」

「ふぁっ!? 顔!? うわぁぁぁ!」

「えええっ!? グソクさん!?」


 何故かグソクさんの顔がドアップで映されていたのだ。そのせいか、画面を注視していたフグトラさんは驚きすぎて椅子からひっくり返りそうになっていた。


 いやいや。画面近すぎるって!


 だけどもしかして、このパソコンをハッキングしてまでも伝えたかった事があるのでは?


 なので、私は冷静を取り戻しつつ、こう話を切り出してみた。


「あの、グソクさん、画面丸々、グソクさんの顔になってますが……」

「は! あああ! いやぁぁぁ! ごめんなさいですぞ! そちらの黄色いパーカーのお方ぁ! 無断でハッキングしてしまって!」


 いや。そこじゃないんだって!

 思わず突っ込みそうになったが、まぁ。いいっか。丁度狂気に塗れた中での唯一の癒しが来た訳だから、内心、ホッとしている。


「は、はぁ……。それは別に……、大丈夫っすが……」


 フグトラさんはその光景に呆気にとられたせいか、また驚きすぎて固まっていたのだ。


「実はですね、タミコさんのお陰で無事、ミオさんが見つかりまして、今、カンナさんと共に、安全な場所でお待ちしておりますぞ!」

「あ。良かったぁ!」

「ホントっすか! 良かったぁ……」


 彼もまた、ミオさんの無事を聞いて、ホッとひと安堵している。

 恐らく、カンナちゃんが影で連絡を受けて、レンタルルームにいるミオさんを迎えに行ったのだろう。


「それと、実はもう一個、携帯ですかね。GPSの反応が教団内にあったのですが、タミコさんのスマホですかな?」

「いや。私は確か……」


 そっちの事務所に置いてきたはず。でも何で、わたしのスマートフォンが、この海横支部の中に?


「恐らく、そこから動きもなんも無いので、そこに何かがある。と伝えたいのでしょうな」

「えっと、場所はその、どの辺とかって、分かりますか?」

「うーん。三階にあるんですが、なんていう部屋でしょうなぁ……。かなり狭いスペースですし……」

「……そ、こ……」

『えっ!?』


 ふと、背後から声がしたので、私と彼は咄嗟に振り向くと、シイラに手を掴まれているマフが、震えた声でこう言ってきたのだ。


「三階の……、隠し部屋……、そこに……、ぼくの……大事な人……いる」

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