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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
キルマイフレンド編
34/108

波乱の後の静けさは、狂気と共にやって来ました。

 私は一瞬、恐怖を感じたが、心配するな。相手は高校生だ。少し私より背は高いが、最初にリルドに会った時よりは、全然怖くない。


 だけど、残念ながら、もう彼はこの教団の考えに染まりまくっていて、まともな思考回路は持っていないだろうな。


 だから平然と同級生を、功徳と称して、こんな危ない闇サイトへと晒す事が出来てしまうんだ。


 ふと、リルドが前に言った通り、『話が通じないアンポンタンだったら、理性が飛ぶぐらいに半殺しにするしかない』との言葉が頭の中に響いてくる。


 でも、この時点で理性を飛ばしてしまったら、龍樹君の居場所が聞けなくなってしまう。


 さてどうすれば……。


「……、やだ。と言ったら?」

    

 私は恐る恐る、冷静に、慎重に答えた。

 まぁ。これで素直に応じることは無いけど、ほんの少しの善性が残っているのなら、ナイフを放り投げる事ぐらいは出来ると思うけど……。


「は? テメェナメてんのか!?」


 でしょうね。はい。無理でした。

 もうここまで半グレ化していたら、あとはこの護身用の可愛いスタンガンで、相手の脇腹付近を狙うしか……。


「どけって言ってんだろーがクソアマぁぁ!」


 すると、彼は痺れを切らしたようで、突然私に襲いかかってきたのだ。


「危なっ!」


 なので、パーカーの右ポケットから、勢いよくピンクのスタンガンを取り出し、素早く彼の脇腹に当てて電流を流した。


「うがっ!」


 だけど、相手はよろけている程度で、この時、スタンガンは敵を足止めする威力しか、発揮出来ないんだ、ということがわかった。


「いったっ……」


 それに、相手の方が早かったかな。運悪く私の左頬には、ナイフの刃が当たったらしく、一本のかすり傷ができてしまったのだ。でも大丈夫。血は少量だし、これで正当防衛だ。



 って、あれ? 一瞬、空気が変わった様な……。



 ふと、背後からただならぬ殺気を感じてしまったのは気のせいだろうか。その殺気はリルドやシイラさんとはまた違う。


 だけど、今の段階では、シイラさんが怒ってるところは見たことないから、なんとも言えないけど、この背後から感じる尋常ではない殺気は、何なんだろうか。まさか……。



――ドガァァーン



「……え?」


 すると、対峙していたはずの彼の頭が、何者かの大きな手に掴まれ、ボールのように、床に叩きつけられていたのだ。

 しかも圧倒的なパワーで彼をねじ伏せた形で、暫く動かなくなっていた。


 なので、私は恐る恐るチラッと隣を見ると……、はぁ!?


「フグ……、トラ……、さん!?」

「……。あー。タミコさん、驚かせてしまって、ごめんなさいっす。神に誓うって言っておきながら、こんな恐怖を味わせてしまい……。おい!」

「ひぃぃ!」


 すると、彼は人が変わったかの様に、仰向けに倒れたマフの髪を強引に掴み、こう言い放ったのだ。


「床に伸びてねーで答えろ! おめーか? 教祖直属の血筋の人間のペンダントを、偽物とすり替えたのは!」

「はぁ……。はぁ……」


 え? そこ??  私は一瞬驚いたが、彼は怒ると今までのおちゃらけた口調が、ガラッと変わって怖さが倍増するようだ。まるでどこの任侠者だろうか。

 そのせいか、続けざまにこう言い始めたのだ。


「その高そーな十字架のネックレスを見た時から分かってたんだよ! あー。これ。テメェが『盗った物』か。てなぁ!」

「それは……」

「お前、ミオさんが付けていたネックレスを、すり替えただろ」

「いや。ミオさんから『貰った』物……、です」

「嘘つくなぁぁ!」

「いだぁぁぁ!」


 すると、彼はまた、マフの頭をガシッと鷲掴みにし、再度床に叩き伏せていた。


 もう、フグトラさんやめて!

 彼の頭が脳震盪起こしちゃいますって!


「ミオさんは、正真正銘、『熊野家』という、教祖直属の血筋が入った人間なんだ!」

「えぇ……」

「それに、ミオさんはそもそも、オメェみてーな『クズ』な末端の奴に、『ゴッツイ装飾』が付いたネックレスをあげる訳がねーんすわ。あれ、両親の形見だし!」

「ゴッツイ彫刻って……、しかも、形見ぃ!?」


 確かに改めてよく見てみると、フグトラさんの十字架のネックレスの真ん中には、一本一本、毛の線がキメ細かに入っていた。一方、初めてミオさんを見た時の熊のネックレスは、マスコットキャラみたいな装飾だった気が。


 それに、『幹部』のフグトラさんには、虎が威嚇している時の顔が付いていて、ネックレスだけでも迫力が十分あった。

 きっと、職人さんが真心込めて、丁寧に作ったんだろうなぁ。


 ん? もしかして、これが、フグトラさんが言う『ゴッツイ彫刻』って事?

 そういう意味か。ようやっと、あの十字架の意味がわかった気がした。


 つまりベローエの階級は、十字架の真ん中に付いている動物の顔の装飾が、リアルに近ければ近いほど、幹部か上の者。という意味だったのか。

 リアルだったら、幹部か教祖直属の人間。それに、熊野家が上って事は、ミオさんは、幹部より……、上。ってことぉ!?


 ということは、マフさん、もうこの時点で、かなりの地雷を踏みまくっているのか。


 ミオさんを虐めて、大事な両親の形見である十字架のネックレスを、自身の安モンにすり替えた、窃盗罪。

 殺してください。と、殺人の依頼をした。殺人罪の教唆。

 現に私の頬に、傷をつけたのも傷害罪。

 そして、イジメの内容にもよるけど、器物破損や強制わいせつ罪なんかも絡んでくるのか。もしかして……。

 それと、『仮に』今の段階で、龍樹君を痛めつけていたら、それも、傷害罪。


 あーりゃりゃ。未成年なのに、もう犯罪者の役満じゃないか。これは、単に『いじめ』だけでは済まされない問題だし、警察が介入しなきゃヤバい案件だって。


「あと、俺の隣にいる『供物』は、俺のもんだけどなぁー。それなのに、テメェは傷モノにしやがって!」

「それは……、その……」

「どう落とし前つけるんだぁぁ? ぁぁあ?」

「ごごご、ごめんなさぁぁぁい!」

「うるせー! 泣きながら謝んな! クソが!」

「あぁぁぁぁぁぁ!」


 しかし、彼は泣き叫ぶマフを、軽蔑するかのような目で睨みつけていた。


「それとよ。お前、まさか、間違った『供物』を、教祖様に献上する気じゃねーだろーな?」

「そそ、それは! その……」

「とっとと言え。でないと……」


 そう言いかけた時だった。


「すみませ~ん。そのぉ~、間違った『供物』、僕達に返して貰えませんかぁ~?」


 すると、何故か開かないはずの扉が独りでに開き、そこから見覚えのある人がノコノコと呑気にやってきたのだ。しかも、あの喫茶店の時の女子高生の制服着て、バリバリに女装して。


「え? シイラさん!?」

「ふぁ!? まさか貴方は!」


 彼も驚いてしまったせいか、一瞬で怒りが消えた様で、唖然とした顔で彼を見ていたのだ。


「お? お初の人もいるねぇ~。君、名前はなんて言うの?」

「ええっ!? 俺っすか!? ええっと、その、俺はフグトラっす。ミオさんに頼まれて、タミコさんと共に、教団で依頼をこなしていたのですが……」

「ほえ~。あ! タミコちゃん、頬大丈夫!? 怪我してんじゃん! ちょっと待ってね! 今さ、絆創膏つけてあげるからさ!」

「え!?」


 すると、何故か彼は素手で、私の傷んだ頬を優しく触り、その触った指に付着した血を、微笑みながら、ペロッと一口舐めたのだ。


 いや。ええええええええええええええ!?

 なぜ舐めたぁぁ!?


 予想斜め上の行動に、思わず体が硬直してしまった。


「ごちそうさま。とっても甘くて美味しかったよ。まるで僕の好きな、イチゴの味みたいだね!」

「えっと……」


 その後、ポケットから絆創膏を取り出し、私の頬にペタッと貼り付けたのだ。

 しかも、血の味を楽しんだ後も、ニッコニコで太陽みたいに眩しい笑みだったから、もしかして、これが本性!?


「それにしても、すっごい展開になってるねぇ~。てかフグトラ君。君さぁ、敵組織なのにいいの? 僕達の仲間になっちゃって~」

「いいんすよ。ミオさんが味方と言うなら、俺は信じるまでっす。それに、このクソ舎弟は大事な供物に傷をつけたっすから、〆るのは幹部の役目っす」

「ほぉー。だってぇ~」

「は。えっ……」


 あ。うん。マフさん、敵ながらも、ご愁傷さま。既に彼のおでこからは血が出ているが、まさかの白い悪魔 シイラさんの登場に、顔面蒼白になっていた。  

 まぁ、それはそっかぁ。龍樹君も高校生だけど、あれでも一応、『別組織のリーダーのご子息』だもんなぁ。

 だから、マフさんの発言次第で、シイラはどのように、彼に制裁を加えていくのだろうか……。


「ってことは、僕やりたい放題? 君、やっばいねぇ! 味方だーれも居なくなっちゃったよ! たいへぇぇん!」

「えっ……」

「え? じゃないよ? だけど君、運が良かったねぇ! ここに来たのがリルドだったら、君、タミコちゃんを傷つけたとして、半殺しになってたよ?」

「ははは、半殺しぃ!?」


 あーあー。シイラさんがノリノリで精神攻撃をし始めている。

 こりゃぁ……、来てくれたのが僕でよかったね。と言いつつ、閲覧注意みたいな事を、ニコニコ笑顔でやる気なんだろうなぁ。

 私は適度に距離を置きながら、フグトラさんの背後に隠れて静観していた。やっぱり自分より高身長の方の背後に隠れるのは、何故か安心する。


「うん。僕の場合は、ちゃんと場所さえ教えてくれれば、あとはいらないからさ!」

「えっ……」

「この日本語の意味、分かるよね? 君、日本人だからさ。わ・か・る・よ・ねぇ?」

「ひぃぃぃ!」

「僕の大事な『供物』、君が持ってるんでしょぉ? 今どんな状態なのさ。まさか、『ズタボロ』のボロ雑巾みたいになってるぅ?」

「あ……、うわぁ……、ぁああああああああ!」


 あ。これ、図星か?

 私は一切言葉を出さず、静かに見ていたが、時たま、シイラさんって、得体の知れない人間モドキに見える事があるんだよね。


 本当に、リルドの言う通りのサイコ……。


「あー。動いてたら喉乾いちゃったよぉ。あ。丁度いいや。君の血、若そうだね。ちょーだい!」


 すると、ニコニコと笑いながら、彼が持っていたであろう、ナイフを取り上げ、怯える彼の手の甲に深く切りつけたのだ。


「いだぁぁああああああああああ!」

「おー! 美味しそうな血だァ! いっただきまーす!」


 そして、彼は幸せそうな表情を浮かべながらも、マフの手の甲から溢れる血を、床に一滴も零さず、舌で舐めて味わっていた。


「……タミコさん」

「どうしたの? フグトラさん」


 しかし、彼も青ざめながら、私にこう言ってきたのだ。


「あの方が、俺が言ってた方。そう。通り名……、『白亜の標本屋』っす」

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