休みの半日が消えたが、代わりに新たな任務が発生しました。
「え? はぁぁ!?」
「なんですと! こんなにもタイミングが悪い時に限って、なぜ二人が!?」
私とグソクさんは思わず大声を発してしまったが、緊急事態だ。
しかも、半グレと化したベローエが周囲を未だに彷徨いている。ていう時だ。あの二人は何を考えて……。
「どうしよう。リルドが別の任務に行ってる間に、こんな事になるなんて!」
「まま。一先ず、落ち着きましょう。こういう時に冷静にならないと、ダメですぞ!」
「そうだけど……」
それに、守りを強化するって言っていたのに、シイラさんは何してんの!?
私はため息をつきながら、再度ライムでこう返答をする事にした。
――いつ頃居なくなってしまったの? あと、居なくなった時の状況を、詳しく教えて欲しいな。
とりあえず、冷静に次の事を考えないと。
まずはいつ、どこで、誰が、どう居なくなったのか。きちんと状況を把握しないと。
文面でやり取りする際は、これが一番最重要課題。短い文だけで、全てを把握しようとするのは、流石に難しいからね。
――ピコンッ
「きた!」
その間に、次々と文面が、私のスマホの画面に届いて行ったのだ。
――昨日の夜には一緒に過ごしていたので、確実に居たのですが、朝になって、呼ぼうとしたら、部屋に誰も居なかったのです。隠れているかと思って、隅々まで探したのですが、二階の窓が開いていた事以外は何も……。
「なるほど」
二階の窓が開いていた。か。ここで二択に可能性が絞られてきた。
一つ目は自分から窓を開けて飛び出して行ったか。二つ目は、何者かが侵入してきて、二人を攫ったか。
一つ目の場合は、あの思春期二人組を確実に説教しないといけないレベルだ。しかし、二つ目の場合は、説教の矛先は、攫った人かベローエになりそうだ。
――ありがとう。窓が開いていたっていうことは、普段から開けてないの? それと、何か、足跡とかある? 若しくは窓ガラスが割られたとか……。些細な事でも良いんだ。色々と教えて欲しい。
これで更に詳しく聞ければ、誘拐か、家出かはっきりと分かるだろう。だけど、開いていたって事は、鍵をピッキングしたか、龍樹君か家の誰かが、開けて中に入れたのか。状況さえはっきりと分かれば。そう。あの子からの依頼の時みたいに。
――ピコンッ
また来た。
再度、確認で開いてみると、ライムにはこう書かれていたのだ。
――普段は閉めていたと思う。龍樹君や澪さんも、普段はあんまり窓を開けない人だよ。それに、澪さんを匿っている。となると、流石に窓は換気をする時以外は……。それと、窓ガラスは綺麗なままです。
ん? 換気以外は窓を開けない?
もしかして、狙われたのは、換気する時間って事!?
――カンナちゃん。声、今は出さない方がいいかもしれない!
嫌な予感がした私は、即座に彼女に送った。
「どうしましたかね? タミコ氏!」
「グソクさん。部屋の空気を換気する時間って、本人と同居している人以外は、分からないですよね? 普通は……」
「換気をする時間ですか? そうですなぁ。部屋の換気だなんて、本人の好きな時にするものだから、時間は不規則で分からんはずですぞ?」
「だけど、換気の時間をピンポイントで当てているって事は……、もしかしたら、盗聴器が仕掛けられていたか、張りこまれていたのかもしれない」
ふと、隣にいた彼が心配そうに、声をかけてきたので、事の詳細を話すことにした。
「まさか、龍樹君の部屋にも盗聴器が仕掛けられていたかも。ですと!?」
「うん。これ、初めてリルドに会った時、私が前にいた部屋に、盗聴器が仕掛けられていたんだ。あの時はリルドが気づいて潰してくれたんだけど、その時と、シチュエーションがほぼ似ているなぁって」
「となると……」
「夜から朝方にかけて、早くに起きて窓を開けたタイミングで、二人は攫われた。と見ても良いかもしれない。何か嫌な予感がする」
「これは早急に、他の任務を切り上げる必要がありそうですな。ちなみに張り込まれている場合は、前者よりも、もっと最悪な展開になるかもしれませんな」
「えぇ!? それってつまり……」
「よく考えてみてくださいな。もしかしたら相手方、カラマリアのリーダーさんの家は、既に『特定済み』っていうことですからな」
「あぁ! 確かに……」
言われてみればそうだ。龍樹君の家が知られる。という事は、それと同時にリーダーである昇さんの家も知られてしまうって言うことになるのか。まさかの展開に戸惑いが隠せない。
「ですが、すみませんタミコ氏。リルド氏の任務だけは、どーしても、切り上げられないんですぞ」
「ぇぇえっ!?」
しかし、思った以上に深刻な事態となったのに、彼の任務が早々に切り上げられないってどういう事?
「それはどういうこ……」
私は言いかけた時、アンティーク調の扉が開き、屈強な体つきをしたゴエモンさんがやってきて、こう言い出したのだ。
「あぁ。あいつも現在進行形で、新興宗教団体『ベローエ教団』の潜入調査をしてもらってるからな」
「ぇぇえーっ!?」
「と言っても、シイラみたいに、女装して堂々と入れる訳では無いがな」
「って事は……」
こっちは変装をしない、『潜入調査』って事か。某アクションゲームみたいに、ダンボールを使いながら侵入するのかな。と、適当に納得した私は再度、彼の話に耳を傾けた。
「まぁ。あいつに依頼した内容は『闇バイトの名簿』を盗みに行くことなんだよな」
「えっ? 名簿ぉ!?」
「あぁ。まずは近くの団体施設にあるだろう、この近辺に住む、闇バイトに登録している奴。まぁ。ベローエで言えば信者かな。そいつらの名簿を盗んじまえば、一先ずは大丈夫だろう」
「大丈夫とは? 盗むってそもそも窃盗になってしまうのでは?」
「まぁ。それをシイラ経由で、第三者に売れば、ワシらが罰を受けずとも、手を下さずとも、自然と壊滅はするだろうな」
「第三者って……、まさか!?」
私らが決して会ってはいけない『警察』という表の組織の事だろうか。
確かに前にリルドが『今回の件は警察やら親やら出張ってくるかもしれない』と言っていたけど、この事があるからだろう。
闇バイトやら闇サイトは深刻な問題であり、未成年も気軽に手を出してしまう事から、警察も目を光らせて捜査をしている。てことかもしれない。あくまでも、私の憶測かもしれないけど。
「しかし、何がともあれ、名簿が無ければ、第三者にも情報提供として渡せないし、こっちもアイツらより、先に手に入れて利用しないといけないからな」
「利用って事は……」
「なるほど。そこでワイの出番ですな」
「そう。だから、お前らには『敢えて』残ってもらったんだ。リルドが手に入れてくるであろう、名簿を先に『利用』する為にな」
「はぁ……」
思わず呆れ気味にため息が漏れてしまったが、ゴエモンさんはどこまで、先の事を見据えて私らを動かしているのだろうか。
リーダーとしては一番頼もしい反面、逆にどこまで知っているのか、怖い部分もある。
だけど、名簿を売るのは私らでは無く、カラマリアのシイラが売りに行くというのが、『共闘』にサインをした理由だろう。まさかベローエ側も、信者が裏切るなんて思ってもないだろうし。でも、カラマリアはそれで大丈夫なのだろうか。カンナちゃんもいるから心配になるけど、今は自分の事を考えないと。
「さて。何はともあれ、タミコ。折角の休暇を潰した形になってしまってごめんな」
「いえいえ! 私はトレーニングルームで運動できただけでも、良いリフレッシュでしたし……」
「まぁ。その補填はこの任務が終わってからでも、考えているから安心しろ。こっちも決して、ブラック企業みたいに24時間365日こき使う訳じゃねーからな」
「あはは……」
「そりゃぁそーですよ。ワイも四六時中働いてたら疲れて過労死してしまいますしな」
「グソクはそれ、ある意味趣味に近いしな。だけど、無理だけはすんじゃねーよ。中には24時間以上ぶっ通しでゲームしてたら死んじまったケースがあるからよ」
「まぁ。ワイはゲームしてる訳では無いですがな」
「だけど……」
そう言うと、彼はポケットから買ったばかりであろう、目薬とアイマスクを、目をまん丸くして驚いているグソクさんに渡していたのだ。
「えっと!? これは?」
「少しは目や脳みそを休めろよな? 特定作業に関しては、グソク。てめぇが頼りではあるからな」
「あ、あああ、ありがとうございますです! ゴエモン氏ぃ!」
そして、喜んで受け取っていたグソクさんは、子供のように喜んで眼鏡を外すと、早速目薬を使っていたのだ。
しかも、かなり効き目が良い奴みたいで、「くぅー! きたぁぁ!」と終始叫んでいた。
「それと、私は何を……」
だけど、結局私は何をすればいいんだろうか。このままじゃあ私、またみんなの足を引っ張って……。
「あっ。悪ぃな。休みが半日になっちまったタミコにもちと、ひと仕事をしてもらおーかと思ってな」
「と、言いますと?」
「グソク、例のもの、出してくれ」
「は、はいぃぃ! 了解致しましたぞ!」
しかし、ゴエモンさんは、目薬でガンギマリになったグソクさんに指示を出すと、彼は自身のテーブルの引き出しから、小型の黒い名刺ケースに入った薄い何かを、ゴエモンさんに渡していた。
「そそ。これこれ。ありがとな!」
「えっと、それは?」
「タミコ。これを誰にもバレない所に付けるんだ」
「えっ!? 誰にもって……」
「勿論、リルドにも分からねー場所に。だ。それはグソクが開発した、シールタイプの『GPS発信機』だ」
「ええっ? はぁぁぁ!?」
私は思わず変な声が出てしまったが、シール式のGPSだなんて聞いたことがない。しかも、グソクさんが『開発した』って?
ゴエモンさんもそうだが、彼らは一体、何者なんだ。こんなのをいとも簡単に作れる人ってなかなかいない気がするんだけど。特定以外にも、もう一つ特技があった彼に困惑しながらも、私は言われるがまま、手に取って眺めてみた。
小さな丸型のシールで、真ん中に黒い磁気みたいのが仕込まれている。まるでピッ○エレ○バンみたいな形をしているのが、中々面白い。
「それさえ付けておけば、シールタイプだから誰にも悟られることはないだろう。しかも、見たとしても、どっか筋肉痛やら肩こりで痛めた。とでも思われるかもな。ガッハッハ!」
「えっ……」
だけど、突然豪快に笑い出す上司には、正直戸惑うし、今の私には、驚きと困惑が混雑している。
「まぁ。安心しろ。グソクがきっちりと場所を特定して、俺らが叩ける様にバックアップしてやるってことだ」
「えっと。それってつまり……」
そして、私は恐る恐る、こう発言してみたのだ。
「私に、『囮』になれ。て事ですか?」




