帰ってきたらとんでもない事になっていました。
そして、帰り道の事だった。
私は念の為、黒いパーカーのフードを深く被ると、彼と共に歩いていた。ちなみにメンコさんは現在、別の任務に行っているらしい。
「やっと、共闘任務が来たね」
「まーなぁ。それに、追われてる気配も無いから、何事も無ければ、普通に帰れるだろ」
「そうだね。一先ずゴエモンさんやグソクさんに報告しなきゃ」
「あぁ。今回の収穫は色々とでかかったからな。それに、カンナちゃんも、見ないうちに立派になったもんだ」
「そう。だね……」
だけど、軽く嫉妬してしまったのは、気のせいだろうか。時たま、内心モヤがかかった様な気持ちになる事がある。
「おい」
「んえっ!?」
「まーた。何、変な声出してんだよバカ」
「バカって! またそうやって私の事……」
「バカになんてしてねぇよ」
「……」
「それと、俺はあんなガキは、そもそも好みのタイプじゃねぇ」
「なに急に!?」
「だから、その。えっと……」
「……」
しかし、彼はそれ以降黙ってしまったのだ。
自分から吹っかけておいて、突然黙るのは流石にやめて欲しい。
「はぁ。わかりましたよ。言いたい時にまとめて言えばいいので」
「……ま。ありがとな」
「う、うん……」
しかし、なんとも歯切れが悪い会話だ。
それに、先程、契約書にサインをし終えた時も、彼は隣でお冷を飲みながら、何か考え事をしていた様にも見えた。
「なぁ。タミコ」
「ん?」
ふと、彼から声をかけられたので、耳を傾けてみる。
「もし、この任務が終わったら、俺が誰にも言っていない、ゴエモンのじーさんにも隠している秘密を一つ、教えてやる」
「ええ!?」
まだ会って一週間も経ってないのに、何を突然言うんだ?
驚きのあまり、空いた口が塞がらなくなってしまった。
「かと言っても、この任務、一筋縄では解決できなさそうなんだよな」
「え? それって……」
「あぁ。今回は前回のネカフェみたいに、突撃して一日で終わり。では解決できねぇだろうな。かなりの長期戦になるかもしれねぇって事だ」
「なるほど……」
確かに冷静に考えると、まず一つ目は依頼主や被害者が未成年だと言うこと。それと、加害者も、もしかしたら、未成年の可能性が高いかもしれない。と言うことだ。
「つまり、龍樹君やミオさんが通っている学校側の出方次第で、結果が変わるかもしれないってこと?」
「その通りだ。オマケに、加害者が未成年の場合は、確実に親が出張ってくるだろうし。しかも、闇掲示板での投稿となると、警察もやってくるだろうな」
「警察……」
まさかの第三者が、大量にやってくるかもしれないってことか。
まだ新人である私にとっては、これは一人だと対処出来ない、超大型依頼なのかもしれない。
「だから、ゴエモンさんもあまり、タミコを無理矢理にでも出したくないんだろうな。ベローエに狙われている以上。な」
「そっかぁ……」
「と言うことで、暫くはサーフェスに身を隠す事になるかもしれねぇ。俺は幸い、服装さえ気をつければ、行動範囲は広いから、軽い任務は出来るだろうし」
「うん。そういう事なら分かったよ。私、明日からグソクさんの所でまた、軽い依頼を探してみる事にするね」
「あぁ。助かる」
そして、話している間に、あの雑居ビルに着いたのだった。
だけど、私はこの後、ベローエから狙われている以上、暫くは部屋に引きこもっていた方が安心かもしれない。それに、この裏何でも屋に入社してから、初日はネカフェのクリオネ。二日目はツブヤキ。三日目もツブヤキと、外にいる事が多かった気がする。
なので、私とリルドはゴエモンさんに報告をするために、エレベーターへ乗り込み、事務室へと帰還した。
「ただいまー」
「おぉ。リルド氏! 実はアイツらのことでわかったことがありましてな!」
「なんだ? タミコもいるから、手短に頼むぞ」
「おっ! 実は、タミコ氏にも実は関わることでしてね……」
「え!? 私にも関わること?」
「はい。そうですぞ!」
帰ってきて早々、グソクさんは意味深な事を言うと、おもむろに自身のデスクにあるパソコンの画面を見せてきたのだ。
「えっと……、え!?」
「おい。どうしたんだ?」
「この書き込み……、まさか!」
「はい。そのまさか。ですぞ」
すると、書き込みにはこう書かれていたのだ。しかも、昨日付きまとわれた時、お姫様抱っこされている写真と共に。だけど、どうやって真正面の写真を撮ったのだろうか。
――この女は俺のものだ。アイツのものではない。見つけ次第、保護をして欲しい。
「これ、『キルマイフレンド』でしょ!」
「ご名答ですぞ! ワイもまさか、タミコ氏も狙われていたとは思ってなくて、正直に驚いておりますぞ」
「それで、最初から盗聴器を付けられていたってこと!?」
だけど、それにしても『俺のもの』って何?
私は物でも無いんだけど。
呆れ気味にはぁ。とため息をつくが、私の隣では、パソコンを破壊しかねない勢いで、拳を握りしめていた人がいた。
「おいおい。聞き捨てならねぇな。この女は『俺のもの』だと? しかもアイツって、俺のことかよ!」
「ちょちょちょ! 待ってくださいリルド氏! ワイのパソコンなので、破壊だけはしないでくださいよぉ! これ、スペックが凄く良い奴なので、50万近くはするんですぞ!?」
「あぁ。分かっているが、すっげー許せねぇな。見つけ次第、ぶっ飛ばしてやる!」
彼は怒り気味に息巻くと、事務室の先にあるトレーニングルームへと向かってしまった。
「えっと、グソクさん、大丈夫ですか?」
「あはは。ワイは大丈夫ですぞ。それにしても、誰がこんな投稿をしたのでしょうな」
「さぁ。私も誰かは流石に……。ですが」
「ん?」
「ここに来る前から、私はどうやら、ベローエに狙われていたみたいです。何で狙われたり、尾行されたりと、ここのところ、訳が分からないことだらけですが」
「そりゃぁ、突然保護して欲しいって、殺人依頼用の掲示板に書かれている訳ですから、訳わかんなくなるのも当然ですぞ」
「ですよね……」
そして、グソクさんに正論を言われ、私は深いため息をついてしまった。色々と疲れたから、暫く引きこもろうかな。だけど、1個だけ何となく分かったことがある。
それは、龍樹君やミオさんを殺して欲しいと投稿した人と、私を保護して欲しいと投稿した人は、別人だ。ということ。
だけど、あくまでも『憶測』だ。もしかしたら、敢えて、人称を変えた同一人物という可能性すらある。ネットの世界はそれがあるからややこしいけど。
「グソクさん」
「何ですぞ? タミコ氏」
「この匿名掲示板から、IPアドレスって、割出せたりしますか?」
ふと、ネットで齧った程度だが、IPアドレスの存在を知っていたので聞いてみることにした。
確か、IPアドレスというのは、『インターネットで通信するための住所』で、通信相手を指定する際に使えるというのを見た程度だ。
二進数だとか十進数だとか、詳しいことは全く分からないが、それで割り出せれば……。
「なるほど。少しやってみましょうか?」
「え!? 出来るんですか!?」
「全く。ワイは単なる特定厨では無いですぞ。コツさえ掴めれば、こんなのは朝飯前ですぞ」
「凄っ!」
「ですが、タミコ氏。勘違いしてはなりませんぞ?」
「え!? か、勘違い?」
「IPアドレスが分かれば、発信元を完璧に特定出来る。ていう訳ではありませんぞ」
「そ、そうなの!?」
思わず聞き返してしまったが、どういう意味だろうか。ネットの事、齧った程度でしか知らなかった、にわかの私には、ただただ驚くしか無かった。
「簡単な話、プロバイダとの契約時に、名前や住所を登録するから、そこから個人を特定することができる。と言うだけですぞ。それに、プロバイダが持っている接続情報は、個人保護により、警察や検事による捜査照会や、裁判所の命令みたいな、余程の事が無い限りは無理。という事ですぞ」
「そんなぁー!」
つまり、結局は第三者の力を借りなければ特定できないってことか!
思わず大声を発してしまったが、そこから先は、どうすればいいのだろうか。不安でいっぱいだ。
「まぁ。投稿した人が、同一人物か、別人かの見分ける事ぐらいは、こっちでも出来るので、安心してくださいな。見分けた後は、ワイから報告致しますので。まずは心身ともに、休んでくださいな!」
「あ。ありがとう、ございます」
だけど、心強い事を言われた私は、少しだけ安堵したので、部屋に戻って休もうと、事務室を後にしたのであった。
「はぁ……」
それにしても、時間はいつの間にか、午後の三時を回っていた。
ため息をつきながら、部屋へ向かおうと、トレーニングルームに入ると、一人サンドバッグにパンチを入れまくっている人がいたのだ。
「え!?」
思わず声が出てしまったが、彼は自身の拳を思いっきりサンドバッグにぶつけまくって、ストレスを発散している。そのせいか、怒りに任せて物が壊れそうな勢いだ。
「よっ! タミコ!」
「ふぁっ! ゴエモンさん!?」
ふと、背後から声をかけられたので、振り向くと、ゴエモンさんが両腕を組みながら仁王立ちをしていたのだ。
「驚かして悪ぃな。リルドのヤロー、トレーニングルームに入ってから、ずっとあんな調子だ」
「そうだったんですか……」
「一体何があったんだ?」
「それは、グソクさんから、キルマイフレンドに、新たな投稿が入ってきたのですが……」
「あー。なるほどな。俺も今しがた、グソクから連絡が入ったから、お前らが帰ってくるまでの間に、粗方投稿内容を見ていたのさ」
「そうだったんですか!?」
「それにしても、タイミングが気味悪ぃなぁ。なんつーか、こっちの動きを粗方分かっているかの様な、付きまとっている感じがなぁ。それに、写真も真正面で明らかに盗撮だ。どうやって撮ったんだろうな」
そう言うと、彼は上下ミリタリー柄の作業着の胸ポケットから、愛用の電子タバコを取り出すと、ふぅ。と吹かしたのだ。
「あ。えっと、報告もした方が、よろしいでしょうか?」
「あー。それに関しては、リルドがイライラしながらワシに報告してきたぞ。シイラが昇から潜入調査を頼まれて女装しながら入ったんだって?」
「確かにそんなこと、言っていた様な……」
「ったく、相変わらず行動が行動だよなぁ。あのシイラが潜入調査とは。がはははは!」
しかし、彼は私の動揺もよそに、淡々と冷静に答えつつ、面白い所は豪快に笑い飛ばしていた。
だけど、今後の行動はどうすればいいのだろうか。
「それで、私は何をすれば……」
気になった私は恐る恐る、ゴエモンさんに聞いてみる事にした。
「そうだなぁ。一先ず、タミコは暫くの間、サーフェスでグソクと共に、ベローエの監視行動を続けてくれ」
「監視行動ですか!?」
「あぁ。もしかしたら、カラマリアの方で、新たな動きがあるのかもしれないしな。それに……」
「それに?」
「闇雲に動いて、変にアイツらに勘づかれたら、それこそ厄介だ。ここはカラマリアからの連絡待ちと、闇バイトに加担している、ベローエの信者の掃討が落ち着いたら。になりそうだ」
「そうですか……、えっと。掃討の方はどうなっていますか?」
「掃討の方は相変わらずだな。メンコの体力に気を遣いつつ、ワシも運動がてら、掃討に参加してるからな」
「ええええ!? ゴエモンさんまで、掃討に参加しているんですか!?」
「あぁ。ちなみにマスターも時間が合えば、掃討の方に参加しているぞ」
「そうだったんですか。えっと、その。あは、あははは……」
しかし、掃討の方は、血気盛んなメンコさんと、トレーニング感覚で参加しているゴエモンさんとマスターのおかげなのか、順調の様だ。
それと、今回の依頼は確か、投稿の削除と投稿主の特定だっけ。
投稿主の特定は、今のところ、グソクさんが同一人物かどうか、IPアドレスから特定すると言っていたけど、削除はどうするんだろう。
多分、特定が先だろうけど、私が出来ることはと言うと、依頼の受注(ベローエが関係しているであろう、闇バイト関連)をしながら掃討していくのがいいのかもしれない。
「まぁ。そういう事だ。くれぐれも危険な行動はしないように。例えば、独断で勝手にここを出ていく。とかな?」
「それは流石に……」
だけど、圧が強い彼に押されつつ、万が一彼女から、買い物のお誘いが来た時はどうしようかと悩んでいたが、それは流石にないかな。
「えっと、分かりました。暫くグソクさんと共に監視行動を続けることに……、します」
「おぉ。頼んだぞ。けど、カラマリアから連絡があったら、ワシにも一言相談せぇよ。わかったな?」
「は、はい……」
こうして、私はベローエの動きが落ち着くまでの暫くの間、グソクさんと共に監視行動を続ける事になったのでした。
*
「疲れたぁー」
部屋に帰ってきて早々、私は吸い込まれるかのように、ベットに向かってダイブする。
だけど、ベローエの動きが落ち着くまでの間は、暫く外出禁止かぁ。まるで前に起きた、コロナみたいな感染症を防ぐためのステイホームみたいだ。
「何しようかなぁ……。あ」
そういえば、リルドの部屋を見たことがなかった私は、どんな風になっているのか、かなり気になってしまった。それに、彼には私の部屋に、二回も無断で入って来ている。という前科付きだ。私だって、二、三回程侵入しても大丈夫だろう。多分。おあいこだ。
「よし。彼がコンビニに買いに出かけたら、決行だっ!」
そして、私は誰にもバレずに、彼の部屋へ侵入する作戦を、密かに行うことにしたのだった。




