ようやく『本当の』契約を行う事が出来ました。
「ったく。相変わらず、随分と急だね。リルド」
「おめーも一緒だろ。てなわけで、契約内容はどんな感じだ?」
「えっと……」
私がパフェを食べ終えた後、何故かリルドとシイラで契約内容を確認していたのだ。
「あ。タミコちゃんもいたんだ! 蚊帳の外みたいになっちゃって、ごめんね!」
「あ、いいんです。それよりも、契約内容は……」
「そうだね。まずはこの書類に目を通して貰おうか」
すると、彼は自分用で持参したであろう、スクールバッグから一枚のクリアファイルを取りだし、その中から一枚の紙を渡してきたのだ。
「この任務の報酬は、犯人を特定出来たら、カラマリアのトップと会える権限と、僕の貸出料無料ってとこかな! あと、削除依頼を達成出来たら、何千万かの報酬も上乗せにしとこうか」
「えっ!? 貸出料無料って!?」
まさか、シイラさんがレンタル出来るってこと?
つまりそれって、ゲームで言うと『笛を吹いたら何時でもどこでも駆けつける、アッシー的な味方モンスター』という解釈でいいのかな。
「ん? タミコちゃんが一人で外に出る時に、僕が専属のボディガードになるよーって意味で言っただけだよ! その、別にタミコちゃんとパフェ巡りのデートをしようとかは……」
「おい。その貸出料無料とか、専属ボディガードはいらねぇ。無しだ!」
しかし、独占欲が人一倍強いリルドが許す訳もなく、直ぐに却下されたのであった。
「えー! リルドのバカ! リルドだけいつもタミコちゃんとベタベタ一緒で羨ましすぎるんだけど!」
「一々うるせぇな。テメェは子供かよ! 少しはカンナに兄らしいところ見せろよ!」
「何だよそれ! ぶー! ぶー!」
「もー! お兄ちゃんのバカ! そんな事やってるから、いつまで経っても、お兄ちゃんはまともなお友達が一人も出来ないんだよ!」
「んな! カンナ!? 何でそんな事言うわけ!? それは流石に悲しいよぉぉ!」
「あは、あはは……」
「はぁ。ごめんなさい。タミコさん。僕のところの兄妹共々、ご迷惑をおかけしまして……」
「いやいや。大丈夫だよ!」
その後、カンナさんまでも話に割り込んできたので、私と龍樹君は呆れつつも静観していた。だけどやっぱり、発言もまた、シイラ兄妹は所々、似ているなぁ。まぁ、そんなこんなで、ようやく契約をとることが出来たので、内心ホッとはしているが。
それと、報酬はカラマリアのトップ 越智昇さんとの面会権と数千万の渋沢栄一かぁ。かなり大きいのもあって、失敗したらどうなっちゃうんだろう。それと万が一、『ベローエ』に計画がバレたら……。
「おい」
「え!?」
「とりま、そこの契約内容をよく読んで、サインをするかしないか、判断をするんだ」
「あ。えっと。うん」
そして、私は隅から隅まで契約書を読むと、彼が用意してくれた黒いボールペンで、契約書にサインをしたのだった。ちなみに契約内容はこんな感じだ。
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・本任務……闇掲示板『キルマイフレンド』に載られた越智龍樹に関するスレの削除命令と、その投稿主の特定。
・尚、これは裏何でも屋 サーフェスとの合同任務である。
・サブ任務……熊野澪に関するスレの削除命令と、投稿主の特定。
・報酬一覧
・カラマリア→サーフェス
越智昇と面会する権限
サブ任務達成の場合は、値段は不安定だが、数千万の渋沢栄一を手に入れられる事を保証しよう。
・サーフェス→カラマリア
ゴエモンと面会する権限
サーフェス所属の謎の新人 タミコの血液100ml
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「なんか、ちゃっかりサブ任務まで追加されてる……」
「そう。これが報酬が数千万になるからくりだよ!」
そして、意気揚々に語る彼のテーブルには、いつの間にか苺増し増しパフェが置かれていたことに気がついた。
「おいおい。カラマリアからの任務はえぐいなぁ。しれっとミオさんに関する任務までも契約書に書いてあるし」
「そりゃーね。こーでもしないと、龍樹君がまた危ない事しちゃうからねー。そーなると、連鎖的に護衛をしている妹のカンナまでも危ない事になる。だから『サブ任務』ていう訳」
「なるほど。でも待って?」
ふと、私は読み返すと、報酬の欄もえぐい事になっていた事を気づいてしまった。
「どうした?」
「報酬の欄が……。あ。やっぱ私、血を抜く前提なのね」
「まぁ。今回だけは100mlで手を打ったってことかな。やっぱり、膨大な任務の報酬が6250円だけだと割に合わないと思ってさ」
「それで追加のサブ任務って訳か。自己中サイコパス野郎にしてはよー考えたな」
「でしょ! って、最後の自己中何とかは余計だけど!」
彼は不貞腐れながらも、パフェのいちご部分を豪快に頬張っていた。
「まさか、シイラさん。そこまで考えて下さっていたとは……」
近くでこの契約書を見ていた龍樹君も、思わず目からは大粒の涙が零れていた。
「ま。この契約書作ってんの、君の父さんだけどね!」
『え、ぇえええええ!?』
だけど、まさかの契約書を書いた人は、龍樹君の父さんである昇さんかぁ。
私含めた4人は驚きのあまり、開いた口が塞がらなかった。し、龍樹君は泣いていたはずなのに、何故か涙が引っ込んでいた。
「そっか。だから『ゴエモンと面会する権限』が報酬にあるのね」
「うわ! ほんとだ! ったく……。父さん達は時間さえ合えば、何時でも会える連絡手段があるって言うのに……」
「って事は、やっぱり、知っているんだ」
「はい。よくえびっ……。あ。いや! ゴエモンさんの事は、父さんから聞かされてましたから」
「そうなんだ!」
あれ? またマスターと同様、えび、と言いかけていた様な。
もしかして、ゴエモンさんとマスター、昇さんの三人は、お互いの『本名』が分かるほど、親密な仲なのだろうか。
「はい。初めて会った時は、かなり屈強な方っていうイメージでした」
「なるほどなぁ。確かにゴエモンのじーさんは毎回筋トレして、体を鍛えまくってるからな。まるで、特技と趣味が筋トレって言うほどにな!」
「あはは! みんなに言わず、隠れて筋肉番組にでも出演したりして!」
「それやったら流石にヤベーだろ!」
「ま。そーですけどね! あははは!」
そして、リルドと龍樹君のコンビは波長が合うせいか、かなり上機嫌に話していた。
「さてと。パフェはもうごちそーさまだぁ! 相変わらず、この苺増し増しパフェは最高だなぁ!」
「あ。そういえば……」
「あ。そだそだ。ちょっと4人共待っててね」
「ん?」
ふと、全部食べ終えた彼は、おもむろに席を立つと、マスターがいるレジ前のカウンターまで歩こうとしている。
「どこ行くんだシイラ」
「んあ? まとめて精算してくるんだー」
「あー。そーいや昨日言ってたな。とりま、ありがとな」
「そんな! シイラさん、ご馳走様です!」
「お兄ちゃん、奢ってくれてありがとう!」
「ご馳走様です」
「いいんよいいんよ。気にしなさんな!」
彼はスマートフォンを取りだし、慣れた手つきで操作をすると、画面をマスターが持つ、バーコードリーダーにかざしていた。
すると、『ペルカリッ!』と音が鳴ったのだ。
なるほど。リルドはペムペム。シイラさんはペルカリの利用者って事か。
ちなみにペムペムやペルカリは、電子マネーアプリの一種であり、これのどちらかを持っていれば、お金をわざわざ現金で持ち歩く必要が無い。超絶便利アプリなのだ。
実は密かに、私も入れようとしたが、身分証やら審査がかなり厳しいみたいなので、身分証が無い私は打つ手が無く、未登録だ。
と言うのも、こういう奴は強引に登録しようとすると、不正登録ということで、運営からバンをくらう可能性が高い。
だから、なるべく早く、身分証は手に入れたいのだが、一体どこにあるんだ。私の本物の身分証は。
「おーい」
「え!?」
「もう帰るぞ。契約も終わってるからな」
「あー! ごめん! リルド!」
色々と考えていたら、いつの間にか、私以外の4人は既に席から立って、出入口の所でたむろっていたのだ。
「あ。そーだ! ねーねー! タミコさん!」
「ん? カンナちゃん? どうしたの?」
ふと、声をかけられたので、彼女の元に行くと、スマートフォンを持ちながら、こういってきたのだ。
「えっと、ライムのID、教えて貰ってもよろしいでしょうか?」
「え!?」
しかも、彼女のスマートフォンは、紫色のパステルカラーで、可愛らしいお花のデコレーションがあしらわれている。私が持ってるシンプル過ぎる中古のスマートフォンに比べたら、かなりの最新モデルだ。カメラが3つも付いている。
「はい。わたしも知っておけば、何かあった時にお兄ちゃん達に連絡が取れると思ったので……」
「あー。なるほどね。えっと、ちょっと待っててね」
なので、私は新品の黒いパーカーのポケットから、自身のスマートフォンを取り出すと、ぎこちない手つきでライムの画面を開いた。オマケにフリック入力も、全く慣れない。
そういえば、自分だけでこうして、スマートフォンを弄るの、かなり久しぶりな気がする。
ゴエモンさんとの連絡を登録する時は、操作の仕方は、なぜかゴエモンさんに教わりながら、QRコードを読み込んで、登録をしていたような。
それと、何で中古なのかと言うと、かつての親友との連絡以外、全く使っていなかったし、トーアで調べていた時なんかはほぼ、お気に入りのジャージのポケットに眠らせたままだ。だけど、ジャージを洗濯をする際は、取り出して、枕元に放置していたけどね。
「これで、どうかな?」
なので、恐る恐るQRコード画面を出し、彼女に見せると、かなり慣れた手つきでスマートフォンを画面にかざし、ピッ。と登録していた。
「うんうん! タミコさん、今日はありがとう!」
すると、彼女は私の耳元で、こうヒソヒソと言ってきたのだ。
「今度、男達抜きで、一緒に買い物とか、行ったりしよっ!」
「えっ!?」
まさかのお誘いで驚きのあまり、変な声が出てしまった。
「だって、その、野郎達といると、色々と、うるさいし、女子会が出来なくなっちゃうからね! えへへ!」
でも、彼女は天真爛漫な笑みでそう答えると、背後で首を傾げるシイラのところに行っていた。
「では、僕達はこれで。今日一日ありがとうございました」
「いえいえ。龍樹君、何かあったらツブヤキにでも駆け込むんだよ」
「お気遣い、感謝致します!」
「そうだね。僕もカンナも、龍樹君のボディガードを強化しながら、投稿主を探してみるね!」
「おー。それは有難い。二人ともありがとな」
「いえいえ。そんじゃあ、何か進展があったら、僕は速攻リルドに連絡しとくね!」
「おー。頼むなシイラ」
「わたしも、何か進展がありましたら、タミコさんにも連絡しますし、リルド兄ちゃんにも連絡するね」
「ありがとう。カンナさん!」
「それじゃあ、またね!」
「おー」
「またね! 三人とも!」
こうして、依頼主含めた、カラマリアとサーフェスとの共闘任務が発生したのだった。




