掲示板の投稿内容よりも、恐ろしい事が発覚しました。
「かなり儲けられる。だと?」
一瞬、妙な空気が席一帯に充満した気がした。リルドも珍しく、口元が苦虫を噛んだかのような表情をしている。
「はい。確かにシイラさんは、ハッキリとそう言っていました。僕たち未成年は、臓器も血も穢れが無い。なので、売人である彼らにとっては、『レア』だそうで、『かなり儲かる』って……」
「それってつまり、闇サイトに投稿した投稿主が誰か、目星がついたってこと?」
「それもあるが、アイツのことだ。投稿主さえも特定したら、『星にする』気満々なんだよ」
『えっ。ええええええ!?』
そして、まさかの展開に、私と彼女は動揺を隠せないでいた。
星にする。つまりそれは、人として販売するのではなく、死体という『商品』にし、違法のサイトに売り捌く。という事だ。
「それ、ヤバいって! 早くお兄ちゃんを止めないと!」
「待って。カンナさん。えっと、リルドさん」
「おー。何だ?」
「シイラさんは、投稿主は誰だか、本当に特定しているのでしょうか? それにしては、早すぎるって言うか……」
だけど、淡々と質問していたのは、依頼主の龍樹君だった。しかも、優雅にカフェオレを飲みながら、冷静に言葉の一つ一つを分析している様に見える。
「いんや。誰。とまではまだ、行ってはないだろうな。ある程度的が絞れた程度で。そうでないと、龍樹君とカンナちゃんをここに向かわせて、こんなお茶会みたいな事しねぇだろーし」
「ですよね。あ。もしかして……」
「ん? どうしたんだ? 龍樹君」
「いんや。何となく。ですがこれ、見てもらってもよろしいでしょうか?」
すると、彼は手慣れた様子でスマートフォンを起動すると、とある掲示板を私達に見せてくれたのだ。その内容は……。
――どうか、私の邪魔をする友人を殺して下さい。
「何? この投稿。私の、邪魔?」
「はい。この文を添えた形で、僕の写真がこんな風に……」
確かにこの文と共に、どこで撮られたのか分からないが、その写真に映っていたのは、龍樹君本人だったのだ。
「おいおい。これ、盗撮じゃねーか!」
「うーわっ! しかもこの背景、学校だし! 何でこんな風に晒されてんのよ。怖すぎぃ!」
しかも、覗き込む様に見ていたリルドと彼女は、その投稿にかなり引いていた。
何故なら撮られた写真が、教室の窓側で景色を楽しみながら、学校内の売店で買ったであろう、卵とハムのサンドイッチを齧る彼の姿だったからだ。
「これは、確かに削除依頼を出されてもおかしくねーな」
「そうだよね。しかも学校名が載ってる売店とか。情報ダダ漏れだもの」
「これ、今日、龍樹君はここに来て正解かもな。他にもこの投稿主やら掲示板を運営してる奴ら、余罪が大量にありそうだ」
「そうでしたか。それと、この他には……。うそっ!」
「どうしたの? 龍樹君」
「あ。えっ……」
だけど、掲示板を遡っていた彼が突然、青ざめてしまったのだ。
「龍樹君どうしたの!?」
「えっと、その。続きを遡っていたら、先程の投稿の、前の投稿で……」
そう言うと、震えた手でスマートフォンを握り、私達に見せてきたのだ。
――どうか、裏切り者を殺して下さい。
と共に、そこには綺麗な女性(?)の写真がハッキリと映し出されていたのだ。格好は女子生徒なのかな。制服までも、今着ているカンナさんと全く同じで、バッチリと撮られていたのだ。
しかも、その写真に映る人物は長髪で、髪を下ろしており、両手でタピオカミルクティーを持って微笑みながら、優雅に飲んでいる姿だ。
背景も何処かのお洒落な喫茶店だろうか。ツブヤキみたいなレトロな感じではなく、今時ある、街と自然が調和した様なお店だ。
それと、見た感じ、黒髪の美女って感じでお淑やかに見えるけど、カメラ目線では無く、これも本人に許可無く、無断で撮影された画像かもしれない。
「これ! ミオさんじゃん!」
「はぁ!? おいおい。嘘だろ!?」
「えっと確か……」
シイラさんが言っていた、あの時助けた人は『少年』と言っていた様な。だけど、この写真に写っている人は見た限り、女性……。だよね?
余りにも想像とかけ離れていたので、思わず空いた口が塞がらなかった。
「……」
「あっ! ちょっと待って! 今はダメだよ! 龍樹君! って! 痛っ!」
すると、彼は無言で席を立つと、彼女の制止を振り切ろうと、隣にいた彼女を席から突き飛ばし、ツブヤキから出ようとしたのだ。
「駄目です。早くミオに知らせなきゃ! あのままにしていたら!」
「コラコラ。勝手に喫茶店を出ようとしたら、駄目だよ。越智くん」
『えっ!?』
しかし、凄いタイミングで、ツブヤキに入ろうとしていたシイラさんと、鉢合わせになる形で会ってしまったのだ。
構図的には出入口の扉の前にシイラさん、カウンターの所に龍樹君。その奥には私達だ。
「なーんか嫌な予感がしたからねー。それに、このまんま出たら、君は無銭飲食にもなるし、僕の妹も突き飛ばしたんだ。下手したら、傷害罪にもなるよー。さぁどーする?」
「えっ……。あっ……」
しかし、流石シイラさん。
彼の威圧な言い方のおかげか、龍樹君は驚きつつも、目は魚のように右往左往していた。
「と言ってもよ。シイラ」
「なーにぃ?」
「その格好で説得しても、かっこよくもねーんだが」
「え? えええええぇ!? 今ちょーぜつにかっこいい台詞言ったつもりなのにぃぃ!」
だけど、彼の格好が余りにも変わりすぎていて、私は一瞬、女かと思ってしまった。
ボブショートの黒髪に、目元は目尻のところがアイラインでどす黒くしているが、タレ目のカンナさんとほぼ似ている。
それと、首元は黒革のチョーカーをしていて、胸は勿論無いが、見た目がカンナさんのお姉さん。と言われても、全くと言って良いほど、違和感が無い。流石、美男美女兄妹と言うべきだろうか。
「おいおい。何だその格好は。どっかのゲイバーでもやるつもりなのか?」
「はぁぁ!? 違ぅ違ぅぅう! これは、別の任務でやってるやつなのぉー!」
「あぁ? 別の任務?」
「そそ! それでねぇぇ、この格好で他の人からぁぁ、いぃーっぱい、色々な情報を貰ってきちゃったんだぁぁ! うぇーい! バッチリ盛れたから、背景デコってハムスタにあーげちゃおぉっと!」
しかし、制服なんて、一体どこで手に入れてきたのやら。
妹のカンナさんと全く同じ制服を身につけているせいか、何故か口調もギャルっぽくなっている。
そのせいか、スマホを装着した白い自撮り棒を何処からか取り出しては、舌出してギャルピースして……。て、何だこの、一人だけカヲスな状況は。
「つーか、シイラさ、別の任務だからって、その変なキャラ設定、勝手に付けて良いのかよ」
「変なキャラって失礼な! 今の僕は『おとこのこ』っていう設定でやってんだからあーだこーだ言うのやめてって!」
「おとこの、こぉ?」
まさか、シイラさん、おとこの娘になろうとしている?
だけど、写真で見る限り、このシイラさんは、流石にミオさん程、お淑やかっぽくないっていうか。
逆に最初は猫被って、後から本性現して、襲いかかっては、ハイエナの様に食い散らかす、肉食系女子に近い雰囲気だ。
オマケに厚化粧でバッチリしているせいか、見た目が地下ライブで推しのために、ヘドバンやら逆ダイブをキメる『バンギャ』そのものだ。
「ふざけんな! わざわざそんなクソ設定作ってまで、俺らを巻き込むのやめろって! 紛らわしいから!」
「何よそれぇ!」
「オマケに口調も変わりすぎてるしよ。早くふつーに戻れ! このどアホ!」
「ふつーって何よもぉ! この! リルドのアンポンタァァァン!」
しかも、龍樹君がいる前で、頭チョップをかます程の喧嘩までしちゃっているし。この、『元』白黒パーカーコンビめ。後でゴエモンさん達にチクッとこっと。
「まぁまぁ。その! リルドさん! 落ち着いてください!」
「はっ! 龍樹君ごめんね! 実はこの格好をしているのには深ーい事情がありまして……」
「それは分かっているので、良いんです。その。シイラさんの件に関しては、僕から軽く、説明致しますんで!」
「あぁ。説明頼む。本当に何から何まで悪ぃな。龍樹君」
「いえいえ!」
すると、彼は席へ戻り、カフェオレを勢いよく飲んだ後、こう、語り始めたのだ。
「実は別の任務というのは……、大まかな任務は被ってはいたけど、父さんから下された命令はまた別物でして」
「別物?」
「はい。確か、女子高生に成りすまし、入信者として、近くの団体施設へ忍び込んで情報収集をして貰っていたのです」
「まじか!?」
「ええええ!?」
それって、つまり、『潜入調査』って事か!
だけど、何で女装する必要があったのだろうか。趣味なのか、はたまた本来の目的があってなのか。
「それで分かったことはあったのか?」
「龍樹君ナイスアシスト! そこからは僕、シイラから説明させて貰うね!」
そう言うと、彼は近くにあった椅子をパクって自分の物の様に座り、こう語り始めたのだ。
「実はベローエを調査するにあたり、なるべく僕自身を、『か弱い女の子』に近い形で格好とかメイクとか、色々と心掛けたわけよ。わざとね」
「わざと?」
「そう! そうすれば、すんなりと入信できるかなぁ。って思った訳よ。現に『ミオ』さんも、見た目が女子っぽかったからメンバーとしていた訳で」
「はぁ!?」
ふと、彼はしれっと爆弾発言をしたみたいで、私は再度、スプーンに掬ったわらび餅を落としかけていた。
ミオさんが、『元』ベローエのメンバー!?
だけど、ミオさんは何で、ベローエから脱会しようとしたのだろうか。
「龍樹君、もしかして、ミオさんが元メンバーだって事、知ってたのか?」
「まぁ。救出した際、直接聞きましたから……」
「それで……」
ボロボロになりながらも、抱き抱えて帰ってきたって言うのか。それは確かに、父側の昇さんも、突然の事で驚くかもしれない。
私は静かに、わらび餅と、抹茶アイスを同時に頬張った。
「まぁー、その結果、何とか入信は出来たかな。でもやる気ねーけど!」
「お兄ちゃん、そーいうのめーっちゃ嫌いだもんね」
「おー。カンナもいたか。そーなんだよぉ!」
しかし、この二人は本当に兄妹揃って、雰囲気がかなり似ているなぁ。身長以外はほぼ、双子に近い程そっくりな二人に、私は驚きながらも、少量になった抹茶アイスと、最下層のフレークを混ぜ、軽く口にする。
「てなわけで、かるーく説明するとね、僕は『ミオさん』サイドの情報を集めていたって言うわけ。それ程ベローエからは、黒い情報がわんさかと出てきたのさ」
「ほー。んで、龍樹君は、どう思う?」
「え!? ていうか、リルドさん、さっきから僕に話振りすぎです!」
「まぁ。俺らも今回の件に関しては、他人事とは思ってないからさ。現に俺のとこのタミコも、何故か理由が分からず、ベローエに狙われているわけだし」
「まぁ。確かにそうですけど……」
だけど、こうして話している間、シイラはというと、「マスター! 僕も注文いいかな? 昨日と同じ苺増し増しパフェで!」と、何食わぬ顔で追加注文をしていた。
ほんっと、この人は自由人っていうか……。
「僕的にはそうですね。ミオは、とても悩んでいました」
「悩んでいた?」
「えぇ。メンバーに入っているのも、親が熱心な信者だったみたいで、その二世なんです。ミオは」
「なるほどなぁ。信者の二世も大変なんだよな。俺もそれに近い事、経験してるからなんて言うか、他人事じゃないっていうか……」
「あーいうのって、努力も信心が足りないとかで片付けられるって聞いたことならあります。それに、ミオは……、僕が匿うまでの間、かなり苦しそうでした」
「苦しそう?」
「はい。多分、ベローエで辛くて嫌な事が沢山あったと思うんです。だから……」
そう言うと、彼は最後のカフェオレを一気飲みし、ふぅ。と深いため息をついた。
「そうか。龍樹君、かなり辛かっただろ。後は俺らに任せてくれればいいさ」
「リルドさん……」
「てなわけで、シイラ」
「えっ!?」
そして、リルドは一口だけ残したナポリタンを強引に頬張ると、注文待ちのシイラにこう言ったのだ。
「改めて、契約を結ばせてもらおうか。仮じゃなくて、『本当の』契約を。な」




