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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
キルマイフレンド編
20/106

上司との会話は、思ったよりも驚きの連続でした。


 私は久々にシークレットルームへと着くと、早速あの高そうな黒いソファに座り込んだ。

 ずっと歩いたり座って話を聞いたりしていたせいか、ふわふわで気持ちいい。


「大丈夫か?」

「はえぇ!?」


 ふと、中年特有の渋い声が聞こえてきたので、思わず変な声が出てしまった。


「腑抜けたツラしやがって。まぁ。今回、リルド経由で伝えてたと思うが、極秘任務の件、ありがとな。お陰で色々と動けそうだ」

「そう、ですか……」


 感謝の言葉を言いながら、彼の白黒ミリタリー柄の作業着の胸ポケットから、電子タバコを取りだしていた。


「さて。今回、リルドがあんなに怒りを表しているのには、訳があってだな」

「訳、ですか……」

「あぁ。物凄い過去に遡る訳だが、聞いてくれるか?」

「えぇ。分かり、ました」


 確かにあんな、コンクリート製の壁に穴を開けるほどの怒り様だ。きっと、過去に何かあったのだろう。もしかして……。


「さて」


 そして、彼はノンニコチン、ノンタール入りの甘い香りがする電子タバコを吸うと、ふぅ。と吐き、こう話を切り出した。


「そうだな。彼は小さい頃、実の親から虐待を受けていてな。なんて言うか。教育的な虐待と言っても良いだろうな。あれは」

「教育的な……、虐待?」

「あぁ。あそこはかなり特殊な一家でな。『暗殺』を生業とした所だった」

「暗殺を、生業!?」


 まるで、時代劇にあるような、依頼を受けて、人を殺す事で生計を立てていた。ということだろうか。

 それにしても、教育的な虐待、というのが引っかかる。彼が嫌がっていなければ、そのままにしておけば。とも思っていたが……。


「あぁ。しかも、人を沢山殺せば殺す程、立派な大人。だけど、一人も殺せなかったら、一族から追放。と言った掟を設けていたらしいんだよな」

「そんな家があるんですか!?」


 家庭には、様々な家庭事情があるのは知っていたが、まさか、彼の一家がそんな怖い掟に縛られた家だったなんて。

 じゃあ、あの背後からの不意打ちが出来たのも、昔からの名残が?


「なので、ワシはそんなクソ一族達から、大金を払ってまで引き離したんだ。本人が殺すのを嫌がっているのに、殺しを推奨する家にずっといたら、可哀想すぎるからな」

「そう。だったんですか……」

「あぁ。初めてワシを見た時の反応が、未だに忘れられねぇな。アイツは当時、5歳のガキでな。だけど、翡翠色の目には、全く光が無かったんだ」

「……」

「だからよ、ガキのくせにすげー勢いで俺に刃を向けてきたけど、その右手はかなり震えていて、しょっちゅうナイフを落としていたな。本当はきっと、ナイフを握ることすら、相当嫌だったのだろう」

「……」


 あの時、咄嗟に斧を投げ捨てたのも、DVする奴に社会的制裁する方法で私が殺す。と答えた時に大笑いしていたのも、過去に起因する事だったから。て事?


 何だか、最初に会った時の行動全てに、合点がいった気がした。つまり、彼は殺しを命令された事はあるが、完全に人を殺したことが『無い』んだ。多分、『半殺し』は沢山あるかもしれないけど。


「それで、恐らくだが、人の命を無下にしている連中を沢山、見てきたせいか、そいつらに対しては、かなりの憎悪を抱いているらしいんだよな」

「憎悪……」

「あぁ。それで、サーフェスに身を置くことによって、そいつらを殺しても『無意味だ』という事を、彼なりに頭の中に叩き込んで力を制御しているのだろう」

「力を、制御……」


 そこで、彼はサーフェスにいることによって、力を抑えて自分の生きた人生を否定し続けていた。ていう事だろうか。

 それプラス、ゴエモンさんによる筋トレで、力を別の使い方へと転換していた。ていう事だろうか。けど、ゴエモンさんの筋トレが、そこまで効果があるのは正直驚いた。


「そして、そこに『タミコ』という女性が現れた。そんで、アイツは何故か、その女性をどこかで見た事がある。としか言わず、今に至るわけだ」

「そういえば……」


 確かに今回は、リルドの発言と言い、行動といい、全てに対して『私主体』で動いている様に見えた。まさか……。


「んで、タミコに質問だが、ガキの頃、どっかでアイツに会ったこと、あるのか?」

「それは……」


 確信は無いけど、夢の中では、小さい頃に、誰かに守られた事があるのを思い出した。だけど、その夢も夢。と言うだけで、本当にあった事なのか。というのも分からない。


「夢の中では見た事があるのですが、どんな時期なのかは、全く思い出せなくて」

「そっか。そーいえば、まだここに来て二日目だよな。わりぃわりぃ。また、アイツに関して、何か思い出したら言ってくれ」

「は、はい……」


 しかし、彼は再度、電子タバコを吹かしながら、私にそう言ってきた。


「それと、残り二つほど、聞きたいことがあるけど、聞いてもいいか?」

「えぇ。大丈夫です」

「おう。まずはシイラに関して。だな」

「し、シイラさん、ですか!?」

「あぁ。アイツに関しては、どこまで知っているんだ?」

「えっと……。記憶喪失の状態で連れてこられたけど、前の事務所が特定されるほどの『ヘマ』を犯してクビになり、カラマリアに行った。みたいな事を聞かされました」


 すると、何故か先程会ったシイラさんに関して聞いてきたので、ありのまま、言うことにした。まぁ。万が一筋トレの刑を言われたら、彼とメンコさんの三人で一緒にやろう。


「がははは! なるほどなぁ! ぶっちゃけ言うがその話、半分は当たりで、半分は外れだな!」

「え!?」


 しかし、ゴエモンさんは豪快に笑うと、ストレートに訂正してきたのだ。


「確かにアイツは記憶喪失の状態で、リルドに連れられて来たが、クビになった理由は別なんだよな」

「え、別!?」

「あぁ。口外しないという事で守ってくれるか?」

「分かり、ました」

「よし。破ったらタミコも、筋トレの刑をすることになるからな? しかも、筋肉痛を伴う程のハードさだ。その辺、覚悟しとけよ!」

「は、はい!」


 そう言うと、彼はふっ。と鼻で笑いながら、こう語り始めた。


「よし。シイラがクビになった理由だが、ここは人生の殺し屋なのにな、何故かアイツ、唯一の掟であった『人を殺すな』というのを平然と破りやがったんだ」

「……え?」

「しかも、殺した人をわざわざハムスタキロに投稿して、見世物にしたんだ」

「えええええ!?」


 それはリルドも流石に『悪逆非道のサイコパス』って言うに決まってる!

 それに、ハムスタキロにまで投稿して見世物にするとは。まさかの理由で、暫く空いた口が塞がらなかった。


「それのせいで、シイラを追い回す奴が現れてな、旧事務所の場所まで特定されて、こっちは酷い目に遭ったんだ」

「そんな事が……」


 だけど、あのシイラさんなら、やりかねない。だって、リルドも言っていたけど、シイラさんは確かに、人を『モノ』としか見ていないからだ。

 ツブヤキにいた時、笑顔で『男性だけど値落ちしなくて良かった』や『君の血を血液型検査にかけたい』と言っていた時は、何を言ってるんだ? と感じたのよね。


「なのでな、ツブヤキのとこにいるマスターに相談したらよ、『越智の所に預けたら良いんじゃねーのか?』とアドバイスを貰ってな」

「それで!?」

「あぁ。越智の所だったら、そういう殺人衝動を抑えられる専門分野の人達が多いからな。警察に突き出すよりも、保護観察みたいな感じで診てもらった方が良いと思って、『カラマリア』に預けたんだ」

「そうなんだ……」


 まさか、ここでツブヤキのマスターが出てきたことに驚いた私は、思わず声を失っていた。


「お? もしや、あそこのマスターにも会ってきたのか?」

「はい。あそこの喫茶店をグソクさんが『メンコさんが常連になるほどオススメですぞ!』と薦めて下さっていたので、先程、私とリルドで行きました」

「ほぉ。グソク、やるなぁ。後でアイツにフィギュアをプレゼントしてやろうか」

「フィギュア? ですか?」

「あぁ。アイツ、ああ見えて生粋のフィギュアヲタでな。フィギュアをあげたらすげー喜んで作業テーブルに飾るんだよ。もう40近いんだけどなぁ……」

「えええ!?」


 そういえば、あの時ちゃんと見なかったけど、確かに彼の机には、沢山のアニメ系のフィギュアが並んでいた気が。

 

 色々と新事実を知ってしまった私は、口をポカンと開けていた。


「まぁ。それはさておき。だ」

「はい」

「二つ目は『ベローエ』がタミコの事も狙っているときた。その辺に対してはどうしようか正直悩んでいるところでな」

「悩んでいる。と言いますと……」

「タミコに休暇を取らせようと思っていた所だ。でも、明日はどうやらシイラと改めて契約をしたい。という話だったみたいでな。実はその事も、ツブヤキのマスターから直接聞いているのさ」

「そうだったんですか」

「それと、タミコがわざわざ相手の要求を飲んで、危ない橋を渡ろうとしていた事もな」

「えぇ……」


 やっぱりあのマスター、只者では無いと思っていたけど、まさか話の全部を聞いていたとは。あの場所に強力な伏兵が潜んでいた事に、思わず驚いてしまった。つまり、ツブヤキのマスターとゴエモンさんは、友人として、裏で繋がっていた。と言うことだ。


「ったく。何でタミコはそーやって、相手の無茶ぶりに簡単に応じて、自分を大切にしようとしないんだ。これじゃあ、リルドも内心焦っていただろうな」

「……」


 確かにあの時、血液型検査に応じて速攻カラマリアの本拠地へ行っていたのなら、私はもう、ここに帰って来れなかっただろう。もしかして、それも心配して?


「まぁ。実はマスターには、ワシから頼んでいたのさ。万が一シイラがツブヤキに来て、変な行動を起こそうとした時には、ワシの代わりに止めてくれ。てな」

「え!? そうだったんですか!?」


 だから、ハムスタキロにパフェを投稿しようとした時、あんな剣幕で注意していたんだ。前の事務所の二の舞になる事を想定して。

 まぁ。今考えるとそうだよね。取材拒否しているのに、お店に許可無く勝手に投稿しようとしていたのだから、怒られて当然だ。


「あぁ。任務を頑張る従業員の安全は、ワシが遠くにいても、ちゃんと守りたいのでな。だけど、過保護はかえって従業員の成長を妨げる。なので、程よく見守りたいわけよ」

「……」


 でも、ここでゴエモンさんの真意も聞けて良かった。とホッ。としている。あと、ツブヤキにいるマスターにも、後でお礼を言わなくては! 


「まぁ。話はそんなとこだ。あと、そっちから聞きたいことはあるのか?」

「あ。えっと……、二つほどあります」

「ほぉ。二つ?」

「はい……」


 私はかなり悩んだ末、こう切り出す事にした。だけど、黒いジャージの方に入っているUSBメモリの件は、まだ黙っておこう。


「ゴエモンさんは、どこまで知っているんですか?」

「どこまで、とは?」

「私が、『人体オークション』にかけられ、幾数多の殺し屋から狙われている真の理由。それと、リルドとの『本当の関係』。その他諸々です」

「おいおい。それを言うのはまだはえーからダメだ。と面接の時に言ったはずだ。しかも、二つあると言っておきながら、その他諸々ってよ……」


 しかし、彼は呆れた口調で言いながら、愛用のノンニコチンノンタールの電子タバコを吹かしていた。


「それはそうですけど……。今、この状況である程度、知りたいのも事実です。しかも、シイラさんは、『人体オークション』の利用者だったらしいので……」

「利用者。そう来たか」

「それと、あそこではあまり言わなかったのですが、『ナル計画』の首謀者が、『天海愛華』という事も、シイラさんは知っていました」

「……」

「彼がどこまで情報を握っているのか、全く知りませんが、下手したら、『アビス』の事も……」

「……」


 だけど、彼は黙ったまま電子タバコを吹かすばかりで、何も語らない。

 

「……まぁ。そこまで知っているなら、シイラも『アビス』の事、ある程度情報として握ってはいるだろうな。まさか、『天海愛華』が首謀者とはな……」

「えっ!?」

「でもな、入社してまだ2日目の新米に話すには、内容の荷が重すぎるのでな。だから、『一人前になったら』と言っているんだ」

「なるほど……。でしたら、もっと頑張って一人前として認めて貰えるよう、精進しないとですね」

「おぅ。その意気で明日の契約も、上手くやっておくれ。あ。ちなみにメンコやグソクには、ツブヤキ周辺を彷徨いている、厄介な『ベローエ』の掃討に動いてもらってるからな。後ろは気にせず、安心して契約に挑んで、アイツの息子を救ってこい!」

「は、はい!」


 こうして私と上司 ゴエモンさんによる話は終わりを迎えようとしていた。


「あ。言い忘れたが、『キルマイフレンド』のこと、メンコから聞いたか?」

「そういえば、メンコさんが言ってました。変な依頼が舞い込んできたから、詳しくはゴエモンさんから聞いてね。と」

「あぁ。そうだったな。その肝心の依頼内容だが……」

「はい……」


 私はゴクリと唾を飲み込むと、彼はこう、本題を切り出してきたのだ。


「どうやら、『キルマイフレンド』という掲示板に、越智龍樹を殺せ。と書かれていたので、それをした投稿主を特定するのと、内容自体を削除をして欲しい。と、来たんだよな」

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