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極秘情報は、かなり濃密なものでした。

「何、それ……」


 計画の内容を聴いた私は、思わずスプーンに掬った白玉が落ちそうになった。

 それと、確か、RHnull(アールエイチナル)型は、どんな血液型でも、輸血が可能になる万能の血の事で、別名は『黄金の血』と言われていたはず。

 その確率は世界中では43人程。日本では指で数える程の人しかいない。という。だけど、そんな希少な血液型を量産するって、一体を何を考えて……。


「それとさ、実はな、そのナル計画にて、サンプルになる予定の人が、今から1ヶ月程前に失踪したんだよね」

「失踪だと? それで、その計画はどうなった?」

「まだ、おじゃんにはなっていない。だけど、この計画、成功してしまうと、他の血液型のモノが要らなくなっちゃうんだ」

「と、言うことは……」

「つまり、今まで俺達が水面下でやってきた『アノ』商売が、成り立たなくなっちゃうんだよね」

「なるほど……」


 だから、ナル計画もろとも無くしたい。という意味かな。

 私はパフェの中にある抹茶アイスを、スプーンで掬って頬張りながら、静かに話を聞いていた。


「そこでね、『カラマリア』はその辺、全力で阻止をしたいのさ。なので、まずは逃げたサンプルの人と、ナル計画の首謀者をとっ捕まえようと動いている訳よ」

「はぁ。随分とめんどくせー事になってんな。ナル計画の首謀者とサンプルの人をとっ捕まえるって?」

「ナル計画の首謀者と、サンプルの人……」


 もしかして、この二つと『人体オークション』が繋がっているというのは……。考え過ぎだったり?


 今の現状だと、標的になった人は被検体にして、表社会から隔離させ、要らなくなったら、『人体オークション』で世界に売りとばせるから、主催しているアビス側は得をする。

 しかし、ナル計画の首謀者が『アビスの誰か』の場合は、それをしてしまうと、得をするのに、敢えて利益を潰している行動になる。

 そうなるとその線は無いか。という事は、ナル計画の首謀者は、『第三勢力の人間』か、組織には属していない『単独の人』、はたまた『裏切る予定の人』か。


 それに、ナル計画が実行してしまうと、『黄金の血』が量産され、『人体オークション』も一部は不要になってしまう。

 そうなると、アビスにも大打撃だし、カラマリアが秘密裏にしている『臓器売買』の仕事も、危機に陥る可能性は高い。

 だって、臓器は別だとしても、血液に関しては、『黄金の血』さえあれば、どんな人でも、助ける事は可能だから。


「そこでさ、タミコちゃんにお願いがあって、ここに来たって言うのもあるんだ。これはカラマリアのトップから、直々にお願いされた極秘任務なんだけどね」

「私に、お願い、ですか?」


 ふと、頭の中でグルグルと考えていると、彼が唐突に話しかけてきたので、思わず聞き返していた。


「そう。君の血を、血液型検査にかけたいんだけど、協力してくれるかな?」

「え? どういう……」


 だけど、シイラはイチゴパフェを食べながらも、顔色一つ変えず、私にこう言ってきたのだ。血液型検査。て、どういう意味だろうか。


 まさか私……。


「おい待て。それ、本当に『カラマリア』のトップが言ったのか?」

「そうだね。トップが直々にそう言ってきたからね」

「ふーん。仮にそうだとしたら、サーフェスを潰してまでも、その目的を果たすつもり。ていう事か?」


 しかし、隣で聞いていたリルドが、掬ったオムライスを乗せたスプーンを片手に、鋭く言い返したのだ。


「うん。その通りだよ。とは言わないでおくよ」

「随分変な含みが入ってんな?」

「まぁ。これ以上は言えないのでね。幾ら、元従業員としてのよしみでも……。さ」

「ふーん。そーかよ」


 だけど、呆れた口調で彼はそう言うと、その掬ったオムライスを、豪快に頬張っていた。


「あ。それと、実は僕自身も興味があってね。その血液型検査をしたら、『サンプルの人』か、『首謀者』なのか、はたまた別の無関係の人か、ハッキリと分かるんじゃないかな。て思った訳よ」

「まさかお前、タミコを『首謀者』か『サンプルの人』のどっちかで疑っているのか?」

「疑ってなんていない。だけど、君自身もさ、この検査を受ければ、自分はどっちかハッキリ分かると思うんだよねー」

「これってまさか……」


 私が『竜宮多美子』か『天海愛華』なのかが、その血液型検査でハッキリと分かるってこと?

 もしかして、あの時のメンコさんは、これが言いたかったのかな。だけど、メンコさんはこの事は極秘任務だし、全く知らないはず。

 私は静かに抹茶アイスを頬張ると、隣でヒートアップしかけている彼らの話の続きを聞くことにした。


「だけど、今すぐ血液型検査をしろ。とは言わない。僕のトップはかなりお忙しいお方でさ。何ヶ月後か先の話になると思うんだよ」

「あ。今すぐではない。のですね」

「そーそー。何れは『両方共』カラマリアがとっ捕まえる予定だ。ていうことだけは、予告程度で言っておくよ」

「おいおい。そっちのトップは、随分と欲張りなんだな」

「あんま越智さんの事悪く言わんといて。これでも越智さんは、表はスーパードクターとして、名が知れていて、超絶お忙しいお方なんだから」

「え? スーパードクター!?」

「うん。スーパードクター兼闇医者。これがカラマリアのトップの正体さ。越智昇。て言うんだけどね、そっちのトップである『ゴエモンさん』に聞いたら分かると思うよ。どんな関係かは、僕も知らないけど」

「越智さん。それに……」


 ゴエモンさんまでも、彼の名前を知っていたとは。

 それに、表の世界ではスーパードクター、裏の世界では闇医者とは。しかも、どちらの世界でも一貫して医者だけど、やってる事は似て非なる存在だ。

 そんな二面性を兼ね備えている越智さんの存在に、益々興味が湧いた私は、和パフェが半分に到達した時に、こう切り出してみた。


「ねぇ。シイラさん」

「なーに?」

「この血液型検査、受けたらどのぐらい、報酬出るの?」

「ん? えええっ!?」

「はぁ!? お前、何を言って……」

「だって、そっちのトップが直々にお願いをしてきたんでしょ? つまり、狙いは『私』ていう事でいいのかな?」

「君、本当にこの案に乗っかるつもりなのかい?」

「乗っかるも何も……、そちらのお偉いさんとお話が出来るなら、この方法でやった方が、確実かな。て思って」

「……」

「……」


 しかし、白黒パーカーのオセロコンビは、何故か無言になってしまったのだ。ちょっと、先程の白熱した言い合いはどうした!?


「それとね、リルド」

「……な、なんだよ!」

「これで、私達の方は成功した。と言えるかな?」

「え? 成功? だと?」

「うん。だって、こっちの当初の目的は、『カラマリア』と『闇ブローカー』の身辺調査だった訳で、この時点で報告したら、既にもう、ゴエモンさんから報酬が貰えそうと思って!」

「おいおい! 相手居んのに、正直に言いすぎだ! 馬鹿!」

「えへへ。という事で、ゴエモンさんからの追加報酬を貰うために、さらに先へと踏み込んでみようと思うんだ」

「ったく……」

「なので、引き続き、私の護衛を頼みます!」

「はぁぁぁ。そういう事か。まぁ。分かった」


 そして、私は笑顔でそう言うと、彼はため息混じりに呟き、残りのオムライスを、ペロリと完食してしまった。


「だがな、そこでヘマを犯したら、一緒にゴエモンさんに叱られようか」

「うん。了解。ついに私もゴエモンさんから追加の『筋トレの刑』が付けられるのかぁ」


 と、私が提案したことで、一先ずヒートアップした話し合いは、落ち着きを見せた。


「なんか随分と懐かしいね。『筋トレの刑』かぁ。リルドは律儀にまだやってんの?」

「昨日と一昨日、腕立てや腹筋は軽くしたが」

「ええええ!?」

「全く。リルドは相変わらずストイックだよねぇー」

「す、凄い……」


 だけど、彼が影で、こんなにもトレーニングを積んでいたのは、正直驚いてしまった。

 確かに、毎日筋トレなんてしていたら、私なんて、軽く持ち上げられるだろうなぁ。


「まぁ。僕には『守秘義務』がありますので、お構いなく。別に越智さんに言いふらす事もしませんので、その辺は安心してもいいっすよー」

「でもその台詞、オメーが言うと信用ゼロなんだよなぁ」

「はぁ!? 何でよ!?」

「テメェはいっつも、ヘラヘラ笑って軽口叩くイメージしかねーからよ。ちゃんと誠意ぐらい見せてくれよな?」

「うえー。なんか信用されてないとか、チャラい人扱いされて、すげーショックー!」


 それと、彼もリルドに信用されてないとかで拗ねながらも、イチゴパフェを完食していた。


「まぁ。だけど、一番驚いたのは、タミコちゃんが、素直に血液型検査に同意した事かな。拒否されるかと思ってたからさー」

「そうなんですか?」

「そうそう。あ。血液型検査の実施については越智さんと打ち合わせして、再度、こちらからリルド経由で連絡するよ。そして、その時の報酬は、200ml献血したら6250円はどうかな?」

「6250円……」


 単に血を抜いただけで、そんな高額な値段が貰えるのは何なのだろうか。

 普通なら、献血カーみたいな所で血液型検査をし、抜いてもらう量を選択して、常駐している看護婦さんが、点滴みたいにセットして、血を抜くっていうシステムだった気が。

 なので、こんな高額な報酬を出してくる。という事は、嬉しい反面、かなり変だし、怖い気がするが……。


「分かりましたが、実は、私もちゃんとした事が分からなくて、困っていたのです」

「ん? ちゃんとした事?」

「えっと……、その、『本当の私』はどっちか。ていうのが、未だに曖昧なままなんです」

「ふーん。本当の自分かぁ」

「リルドは一貫して『お前は天海愛華じゃない』て言っているのですが、どうも記憶が曖昧のままで……」


 私も和パフェを全部食べ終えたところで、パフェ用スプーンを置いて、ふぅ。とため息をついた。


「なるほど。自分は何者か、ハッキリと分からない軽い記憶喪失。それと、『天海愛華』かぁ」

「おい。それ、言っても良い奴か?」

「うん。相手の血液型検査に同意をする訳だから、こっちも誠意を見せなきゃ。『情報提供の一つ』と、『聞きたいことの一つ』として」

「まぁ。そう言われるとぐうの音も出ないが……」

「あー。そういう事!? 僕達のを同意をする代わりに、そっちも聞きたいことがあった。という訳か」

「そうですね。このナル計画、私の記憶喪失の事も関わってるのかな。て思ったので」

「そっかそっか。じゃあ、今度は僕、お口チャックして聞くから、話してみせてよ。そちらが得た『良い情報』を」

「分かりました」


 なので、私も意を決して、『天海愛華』について聞くことにした。そう。本当の私の目的は、『自分は何者なのか』だから。


「確か、サーフェスは、とあるサイトの主催者から、『天海愛華を半殺しにしろ』ていう依頼があって、私を殺ろうとしていたんだよね?」

「そーいやそうだった」

「ん? サイトの主催者ってまさか、『人体オークション』の?」

「え? 何でそれを知って……」

「やっぱり。僕、前までよくそのサイト、利用してたんだよね。メインの取引所として」

「ええ!?」


 しかし、まさかの利用者が現れ、驚きを隠せない私であった。


「ちょっと待って。それってさ、つまり、カラマリアとこっちの目的は共通って事だよな!?」

「おわぁー! そう考えたらすげー!」


 そして、共通の目的が同じだった事に気がついてしまった白黒パーカー達は、驚きのあまり、店内で大声を発していた。


「えっ!? つまり、どういう事?」

「だって……」


 すると、シイラがまた、しれっと恐ろしい事を口にしたのだ。


「天海愛華こそ、ナル計画の首謀者なんだよ! こんな偶然ってある?」

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