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喫茶店までの道のりは大変でした。


「……」

「……」


 エレベーターに入ると、お互い、暫く沈黙が続いていた。


 まさか、私自身がこんな格好をするだなんて!

 緊張で、両手に持つ黒い鞄が少し震える。


「……あのさ。タミコ」

「……え?」


 最初に口を開いたのは、リルドだった。


「何であの時、俺と取引した人が、白パーカーの人間だ。て分かった?」

「それはね、実は、クリオネ周辺の道路だけを撮影して、ハムスタキロに投稿している人がいるんだ。アカウント名までは覚えてないんだけど……」

「そんなマニアックな人がいるのか。すげーな!」

「そう。私も驚いちゃった。だけど、ちゃんと毎日、クリオネ周辺の道路だけを、写真に収めていて、一日も外さずに投稿してる人だから、逆に信頼あるな。て思っちゃって」

「なるほどなぁ。確かに、どんな事であれ、毎日、ルーティンを作って継続している人は、感心するな。俺だったら3日で終わっちまう」

「三日坊主だね! それで、そこにリルドみたいな白パーカーの人が、微かに映っていたから、もしかして。て思ったの」

「まさか、そういう経緯で見つけたのか。タミコすげーなぁ!」

「あ。うん」


 彼は驚くと共に、検索して見つけた経緯に関心を抱いていた。し、口元はいつもと違う、ニコニコと口角が上がっていた。


「その、何か良いことあった?」

「え!? いや。別に、良いことっていうか……」


 なので、敢えて聞いてみたが、何故かはぐらかされてしまった。


「リルド。さっきから、変だよ?」

「どこが!?」

「私がこの格好になってから、突然人が変わったみたいに会話は無くなるし、動揺してるしで。その……」

「動揺は断じてしてない。だけど、その格好、かなり似合うなぁ。て思っていただけだ」

「えええっ!?」


 そしたら、突然褒め始めたので、益々緊張と照れで、鞄を持つ手が震えてしまった。


 べ、別に褒めても何も出ないのに!


「つーか、お前こそ顔真っ赤じゃねーか」

「いや! これはその! 熱があるとかそういう訳じゃ……」


 言いかけた途端、エレベーターの扉が開いた。もう、一階に着いてしまった様で、私達は即座に降りる。


「ここから喫茶店まで、けっこー距離あるとか言ってたからな。気をつけて行くぞ」

「あ。ちょっと!」


 しかし、彼は相変わらずのつんけんな態度で雑居ビルから出ると、私より一歩先に歩き始めた。


 もう! まだ話は終わってないのに!

 私はと言うと、感情がぐちゃぐちゃのまま、グソクさんからプリントアウトして貰った地図を開きながら、必死に彼の後ろを歩いていく。


「そうだ。はぐれたら何あるか分かんねーから。ほら」


 すると、彼は急に立ち止まって、自身の左手を、私に差し出してきたのだ。


「えっ!?」

「驚くことか? 居なくなったら探すの面倒だからな。だから、この方が良いって言うか……」

「いや。その……」


 会って二日目でこの展開になるとは全く思ってなかった私は、かなり戸惑いながら周辺を見渡す。

 確かに人通りはある程度あるけど、物凄い渋滞という訳では無い。前に韓国であった雑踏事故みたいな密集度は無いのに、急にどうしたのだろうか。


「とにかく、何かあったら面倒くせーから、行くぞ!」

「えっ!? ちょっ。ちょっと!」


 しかし、彼は何かと強引に言うと、素早く私の右手を繋いできたのだ。それに、パンプス風の靴も、あまり履き慣れてないせいか、歩き方も少しぎこちないのに!


「ごめんな。実は何か、誰かに尾行されている気配を感じるんだ」

「ええっ!?」

「気のせいかもしれないと思ったけどな。だけど、この感じ、妙に変なんだ」

「リルド……」

「とにかく、後ろは振り返らない方が、いいかもしれない」

「わ。分かった」


 だけど、彼から囁かれるように言われた言葉に、かなり困惑した。


 まさか、『殺し屋が私を狙っている』と言っていたゴエモンさんの言う通りになっている!?

 でも私達、雑踏ビルから出てきて、ほんの5分程しか歩いていないのに!


「俺らを尾行している奴は、殺し屋かどうかは分かんねーけど、気味が悪いのは本当だ。タミコは決して後ろを振り向くな」

「わ、分かったけど、どんな人が追ってきているの?」

「……」


 彼はさっ。と後ろを振り返ると、少しだけ考え込んで、こう言ってきたのだ。


「……少なくとも、白パーカーの人じゃねぇ。あの不気味な十字架のペンダント、何なんだ?」

「不気味な十字架の、ペンダント?」

「あぁ。そいつらがどうやら、複数人で俺らを追ってるみたいでな」

「複数人って……」


 思わず青ざめてしまったが、つまり、今の状況は、変なペンダントをしている人が何人かいて、その人らが私達の後を付け回している。という事だ。同じ物をつけているという事は、新興宗教の団体か何かだろうか。どちらにしろ、今の状況では関わりたくない。


「とりあえず、撒くぞ」

「分かった……。て、ええっ!?」


 すると、彼は突然また、私をお姫様抱っこするかのように抱え、颯爽と歩き始めたのだ。


 で、何なんだ、またこの展開は!?

 そういえば、一番初めもこんな状況で、二階のベランダから降りたんだっけ。驚く私をよそに、彼は顔色変えずに、前だけを向いて歩いている。


「えっと、場所はわかるの?」

「さっき、タミコが開いていた地図で、粗方分かった」

「えっ!?」

「流石、グソクさんだな。すげー分かり易い場所に、シールでピンポイント付けているし、ルートも複数ある道路から、マーカーで最適化されてるしで見やすいな」

「そ、そうだね」


 確かにここまでルートも正確に、シールで貼られて分かり易く書かれている地図は、初めてかもしれない。


 私も、改めて地図を開いて確認しながら、話を続けた。


「だから、ここで敢えて、小路に入ってアイツらを撒こうと思う」

「わ、わかったよ」

「後ろ、見てねーよな?」

「見てないよ。不気味な十字架のペンダントと聞いて、何かゾワッとしてるし。しかもここ、知らない場所でもあるから、怖くて後ろなんて、向けないよ」

「なら安心した。いいよ。と言うまでの間、俺だけを見てろ。分かったか?」

「えっ!? あ。うん」


 すると、彼が何故か、恋愛漫画にありがちな発言をしてきたので、一瞬ドキッとしてしまった。


 だけど、不気味な十字架のペンダントかぁ。

 今、連絡を取る白パーカーの人に聞けば、どこの組織か、分かるのかな。

 少なくとも、私達が会おうとしている『カラマリア』以外の組織だったら、また、ややこしくなりそうだし。


 なので、声を出さずに、しばらくの間、彼に抱かれたままでいよう。


 でも、何なんだろう。この懐かしさは。

 こうやってお姫様抱っこされるのは、今で二回目のはずだが、その前にも、こんな展開があった気がする。


 いつだったのだろうか。かなり昔、小さい頃かもしれない。だけど、朧気に覚えている程度で、未だにハッキリとは分からない。

 でも、『シイラ』という人に会えば、私の記憶も、少しは鮮明になっていくのかな。


「……」


 だけど、私は本当に一体、何者なのだろうか。それと、なんでこんな複数人に、ストーカーされる状態になっているのだろうか。


 あの時、『人体オークション』というサイトを、故意に閲覧してしまったから?

 だけど、親友を助けたい一心で検索して探していたのに。結局はアビスという連中に騙されて、身分を搾取され、記憶までもこんなあやふやにされて……。


「おい」

「えっ!?」


 ふと、深く考え込んでいると、彼が心配そうに声をかけてきてのだ。


「さっきから、すげー深刻そうな顔をしてたぞ」

「えっ? そ、そんな、深刻そうだった?」

「なんて言うか……、もしかしてさ、メンコさんから、変な事吹き込まれたか?」

「いやっ! めめめ、メンコさんはそんな、変な事は言ってなかった。と、思う!」

「そっか。ま。粗方は検討ついてるから、そんな、身構えなくていい」

「え?」


 そして、彼は小路に入り、狭い道を蛇のように、ウネウネと曲がりながら進めると、気配が先程よりも、薄くなってきた。


「まだ、振り向くんじゃねーよ。分かったか?」

「うん。でも、両腕は大丈夫?」

「まぁ。ゴエモンのじーさんに鍛えてもらってるから、このぐらいは大した事ねぇ。平気だ」

「そう……」


 だけど、未だに後ろを尾けられている気配は、微かに感じる。2、3人程だが、彼がいいよ。と言ってくるまでの間、私はフードの奥から見える彼の横顔と、翡翠色の瞳を見ていた。


 その道中、私は色々と考察をしていた。

 何故、あのペンダントの連中は、私らを付け回しているのか。それと、『カラマリア』という組織を調べて欲しいという、ゴエモンさんからの極秘任務も気になるが。


 だけど、一つだけ言えることは、あの集団ストーカー連中は『カラマリア』では無い事。

 もし、カラマリアだったなら、こんな事をしなくても、今から会う白パーカーのブローカーに通して会えばいい話。


 まさか、『アビス』では無いよね?

 そういえば、画面上であの覆面パーカーと会った時は、不気味な十字架のペンダントなんて付けていなかった。だけど、もしかしたら……。


「リルド」

「どした?」

「あのペンダントの人、何となく分かったかも」

「え? どういう事だ?」

「もしかしたら、私らをブローカーに会わせない様にしようとしている、第三勢力の連中なのかもしれない」

「まじか!」

「だから、この事、ブローカーさんにも聞いてみよう。それで、その人の反応を見て、ブローカーさんが指示した連中かどうか、見極めようと思う」

「まぁ。そうだな。臓器提供をしているということは、何かしらの団体から反感を買っていてもおかしくは無いしな」

「やっぱそう思う?」

「あぁ。例えば、自然死を望む団体とかはその類だろうな」

「そんな団体あるの?」

「名前は、グソクさんに聞けば、どの団体かは絞れそうだな。あの特徴的な十字架のペンダントは、なかなか見かけないしな。どれも一個一個、オーダーメイドしてそうな代物だったぞ」

「なるほど……」

「ま。一先ず大丈夫かもしれんな。おろすぞ」

「えっ!? あ。うん」


 すると、いつの間にか目的地に着いてしまったみたいで、私は言われるがまま、彼から降りて立つ事にした。


 彼はと言うと、軽く両腕をぷらぷらさせながらも周囲の警戒を怠っていない。

 もしかして、『シイラ』のヘマにも関与していたり……。


 ふと、建物を見ると、至って普通の雑居ビルだ。だけど、目的地は、どうやら地下にあるらしいが、看板が無い。


「ねぇ。リルド」

「んあ? どしたんだ急に」

「ここで合ってるのかな?」

「あぁ。そこの喫茶店、隠れた有名店らしく、取材も断ってるってグソクさん言ってたしなぁ」

「じゃあ、ここの地下で当たりってことで良いのかな?」

「とりあえず、さっさと入ろうか。今ならアイツらの姿見えねーし」

「そうだね。ここまで追われたら、流石に怖いけど……」


 そして、私達は無事に目的地である喫茶店『ツブヤキ』に到着したのであった。

 表看板は案の定、立てられてなかったけど、雰囲気からして、薄暗い地下にあるスナックみたいな、こじんまりとした雰囲気だ。黒い木製のドアに、銀色のドアノブがついており、扉だけでも高級感がありそうな。


「あ。そういえば、ここで連絡をとれば、逆探知されても大丈夫じゃない?」

「そうだな。電話してみるか」

「うん」

「それに、俺からアイツと通話すんの何年ぶりだろう」

「えっ!? アイツ?」


 しかも、何年ぶりときた。

 やっぱり白パーカーの人と彼は、何かしら繋がっていたっていう事か。

 だけど、何でグソクさんやメンコさんには内緒なのだろうか。そこの所はかなり気になったのだが、もしかして……。


「あぁ。昨日会ったけど、軽く取引をした程度でさ。こうやってガンと真向かいに見合って話すのも久しぶり。て感じなんだ」

「へぇ……」


 すると、彼の口から出てきた言葉で、全てが繋がった気がした。


「実は、今から連絡をとる、白パーカーの闇ブローカーはな、ここにいた元従業員だった、『シイラ』っていう奴なんだよ」

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