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検索と詮索をしたら、とんでもない情報が引っかかりました。

 部屋から出て、事務所に着いた私は、上下ジャージ姿のまま、自分のパソコンの前へと座った。

 隣にいるはずのグソクさんは、今日はいない。昨日の酒パーティとやらで、メンコさんと共に酔い潰れているらしい。時間は朝の8時頃。


 何だかこの状況、懐かしいな。2日前に、トーアを使って検索していた頃の私を思い出す。

 でも、今回はトーアを使わないで、どこまで情報を引っ張れるのか、ネットサーフィンをするだけ。


「さて、まずはどっから検索しようかな」


 昨日、接触してきた闇ブローカーの身辺調査から行こうか、組織から検索しようか、かなり悩んでいた。


「そういえば……」


 リルド、闇ブローカーの見た目の情報とか全く言ってなかった様な。単純に言い忘れただけか?


 でもいいや。まずは、とにかく怪しい情報や投稿から探さないと。

 なので、前回使ったアオハトを開き、『昨日、クリオネの周辺にいた怪しい人』と、検索バーに入力してみる。


「うーん」


 しかし、ヒットするのは半グレを20人ほど連れ歩いて、ネットカフェに入った標的を見た。という人の投稿のみ。


「次は……」


 なので、更に検索バーで『闇ブローカー』と検索をかけてみるが、全くヒットしない。


「次は『カラマリア』でかけてみるかなぁ」


 しかし、私は諦めずに、更に検索をかけてみる事にした。


「お?」


 すると、カラマリアには、様々な噂や陰謀論が書かれた投稿が見られたのだ。


 内容はこんな感じだ。


――――――――――――――――――――――――――


 陰謀論者M:カラマリアって、何処かで聞いた事あるけど、何をしている組織かまでは全く分かんねーんだよな。


 噂好きのタコスパ:自分も分からないですね。しかし、天涯孤独となったホームレスや無職の人を狙っている。という噂は耳にしたことがありますよ。


 ウツボ@DMで仕事受け付けます:私もです。私が聞いた噂では、更に、無職になった人を、闇ブローカーが見つけると、その場で取引を持ちかけてくるらしいのです。しかも、何千万単位の。


 陰謀論者M:何千万!? それ、完全な人身売買じゃないですか! 陰謀か何かなのだろうか!?


 ウツボ@DMで仕事受け付けます:陰謀かは分かりませんが、その、無職さんがその後、どうなったのかは分かりません。あくまでも『噂』でしかないので……


――――――――――――――――――――――――――



 もしかしたら、カラマリアと闇ブローカーは、グル?

 そうだとしたら、無職になったタイミングで接触して、取引を持ちかけてくる。というリルドのタイミングと合致する。


 だけど、これだけじゃ、まだ薄い。

 まだまだ調べないと。

 でも、アオハトだけじゃ、限界かもしれない。こうなったら、あ。あのサイト、また利用してみるかな。


 ふと、以前、パソコンの中に入れていたとあるサイトの存在を思い出した私は『ハムスタキロ』という写真投稿サイトに目をつけた。


 ハムスタキロとは、写真だけを投稿し、『イイネ』を増やしたり『シェア』で拡散したり、ハッシュタグを付けたり。機能はアオハタとかなり酷似している。

 しかし、決定的に違うのは、文字を打つ制限が無い事と、写真検索ができる事だ。


 という事は、前にグソクさんから教わった、『瞳に映る背景で特定が出来る方法』が使えそうだが、今回は身辺調査であり、顔が映っている写真が目的ではない。なので、また今度の機会にでもやってみようかな。


 なので、再度、『ネットカフェ クリオネ周辺』と検索をかけてみる。


「わぁおー」


 すると、オレンジジュースの写真と共に『外が騒がしかったけど、ゆっくり満喫できた!』と書かれた投稿を見つけた。

 恐らく、あの乱闘があった日に投稿された物だろう。だけど、この宣伝のイイネの数が多いおかげなのか、クリオネの利用者は、かなり多かった事が分かった。


 多分だが、あれだけ外は乱闘して騒いでいても、防音機能がしっかりしていたから、自分の時間が満喫できたとか。プラスの投稿もあったおかげで繁盛したなら、栗尾根さんも御の字だったのだろう。


 と、クリオネの今後の商売繁盛を願いつつ、更に検索をかけてみることにした。


「……ん?」


 すると、クリオネ周辺の道路に、白いパーカーらしき人物が映っていたのだ。

 ちなみにこの投稿は、クリオネ周辺の道路『限定』で撮っている、マニアックな人の投稿らしい。

 それで、依頼があった日の投稿には、全身白いパーカーと白いカーゴパンツを着た不審者らしき人物が映っていた。


「まさか、この人かな……。ぶはっ!」


 だけど、格好がまるで、リルドの白バージョンみたいで、思わず吹き出しそうになった。


 笑い、堪えなきゃいけないのに。


「まぁ。そこから更に絞ってみるかな」


 なので、更に拡大をし、写真検索にかけてみることにした。


「お!?」


 すると、白パーカーの人の正体が、すぐにわかってしまったのだ。しかも、奇遇な事に、ハムスタキロの利用者だったらしく、アカウント名がすぐに分かってしまった。アカウント名は『イルカ』と言い、ネットカフェでジュースの写真を投稿していた人と同一人物だったのだ。


 まさか、ここで繋がっていたとは。しかも、あの乱闘の日、イルカさんもネカフェの個室に居たとは思ってなかった私は、若干恐怖を覚える。


「なんか、凄いところで繋がっていたとは……」

「ただいまー」


 ふと、事務所の扉が開いたので、 振り向くと、リルドが両手に、レジ袋パンパンに引っさげて帰ってきたのだ。


 中身はなんだろう。かなり気になっていたが、時間を見ると、既に朝の10時頃になっていた。


「腹、減ったかと思って、沢山買っちまったけど、いるか?」

「うーん。さっき、サラダスパゲティ食べちゃったし……。て! あ! だめっ! もう! あはははははは!」

「おい! タミコ! 何俺の姿見て笑ってんだよ!」

「いや。ゴメンネ! その。悪気は全くなかったんだけどね! その……。あは。あはは。あはははは!」


 ふと、背格好がリルドそっくりの白パーカーの人の姿を思い出してしまったせいか、堪えきらず、大笑いしてしまった。


「その様子だと、悪気あり過ぎだろ。何があったんだよ……」

「いや。その。じゃあ、質問するけど、昨日会った闇ブローカーの格好って、白いパーカーを着ていた人だった?」

「大当たりだな! そそ! 俺と同じ格好だったんだよな……。て、まさか、正体が分かったのか!?」

「だから、ドッペルゲンガーみたいで笑っちゃった所なのに……」

「そういう意味か。あ。わりぃ。俺、腹減った」


 しかし、彼は話を逸らすかのように、コンビニで買ってきた物を取り出し、パソコンがあるテーブルに並べ始めた。


 それにしても、どんだけ買ってきたの……。

 その、『サラダスパゲティ』と『肉まん』の量は。

 軽く10を超える程に積まれたサラダスパゲティと肉まんの量を見て、思わず口があんぐりとしてしまった。


「ん? なーんか、食いたくなったから買ってきた」

「にしても、買いすぎでしょ。どんだけ食べるつもりなの」

「まぁ。残ったら残ったらで、メンコさんやグソクさんが朝飯で食べるだろーし」


 しかもそれ……。私が一昨日の夜と、今朝食べていた物じゃないか。なんでこのタイミングで、この量を買い占めた!?

 まさか、彼の正体は、至る所でよく爆買いしまくる中国人だったりする!?


 相変わらず読めない、リルドの突発的な行動に、若干頭を悩ましていた。


「うん。温かくて美味いな。肉まん」

「あ。美味しいの?」

「うん。一個食うか?」

「あ。ありがとう」


 だけど、隣から漂う肉まんの誘惑に負けた私は、思わず彼の手から渡された肉まんを1個手に取り、パクリと頬張った。

 あぁ。検索して使い続けたエネルギー切れかけの脳みそと眼球に、肉汁が染みてくる感覚がする。それ程に、肉まんが美味い。美味い。美味すぎる!


「お、美味しい!」


 思わず笑みが零れてしまった。

 と同時に、何処か懐かしい味がしたのだ。


「でもこの肉まん、何処かで食べたことがある気がするんだ。一昨日はただの肉まん。て思って食べていたのに……」

「ん? まさか思い出してきたのか?」

「多分……」


 恐らくだけど、親友と一緒によく、コンビニで肉まんを買って、フードスペースで頬張っていた。そんな淡い記憶が蘇ってきた。

 その親友っていうのは、未だに誰か思い出せない。

 だけど、私自身がちゃんと、タミコなのか、『愛華』なのか、ハッキリと分かれば、思い出せるのかもしれない。


「私って、本当に『竜宮多美子』なのかな」

「まだ、ハッキリしねぇって事か……」

「うん。そういえば、その。竜宮多美子さんと、リルドって、知り合いだったりする?」

「は? んな訳ねーだろ。知り合いではなく、それ以上と言ったら、驚くから言わねーだけだ」

「それ、以上!?」

「あぁ。だから俺は、お前の事を『天海愛華とは別人だ』て区別がついたわけで……」

「それで……」


 あの偽装マイナンバーカードを見破れたって訳か。だけど、リルドの高い洞察力には毎度驚くばかりだ。


「あ。や。これ以上言ったら、ゴエモンのじーさんに筋トレ追加の罰が来るから言わねーぞ!」

「そっか。うん。でも、色々と教えてくれて、ありがとう」

「え!? 別にお礼を言われる程じゃねーけど……」


 しかし、彼は何かを察知していたのか、これ以上は『天海愛華』の件には触れず、ひたすら肉まんを頬張っていた。


「それと、話が脱線しちゃったけど、白パーカーの人のアカウント名は分かったよ」

「まじか! それだけでも上出来だ! んで、なんて言うんだ?」

「アカウント名は『イルカ』で、昨日メンコさんと襲撃してきた半グレとの乱闘の場にも、『クリオネの客』として来ていたみたい」

「なるほどなぁ。てことは、あのチキン店長に聞けば、闇ブローカーの正体も分かるってことか!」

「そうかもしれない。だけど、あの店長さん、簡単に口、割らなさそう……」


 確かに、彼は依頼者を上手い具合に匿える程に口が達者だったのを思い出した。

 あの時メンコさんがいたから、上手く交渉できてたけど、今の私では、まだ無理だ。


「まぁなぁ。だけど、(いず)れまた、あの白パーカー野郎はどっかで現れるだろ。とりま、アカウント名は分かったってことでいいんじゃね?」

「野郎? うん。まぁ。今度会ったら、ちゃんと目的を聞かなきゃね」

「あぁ。そだな」


 なので、白パーカーの人の件は、一旦保留となった。また、何処かで会えるのかもしれないし、リルドも『野郎』と言っているってことは、性別も分かっている。だから、近いうちに、身元が分かるかもしれない。という理由だ。


「あと、『カラマリア』の件も噂程度なら分かってきた所かな」

「お! カラマリアって、どんな組織なんだ?」

「それは……。天涯孤独となったホームレスや、無職を狙っていたり、何千万単位の取引を持ちかけてくる噂があったり。かな」

「昨日のやり口と全く同じだな。組織的には何をしているのか、まだ、明確にはわかんねーってことか?」

「いんや。言い方的にぼかしてる感じだけど……。何千万単位かの取引をしているっていう時点で、何となく分かってしまったかな。だけど、これ、公に言っても平気かな?」

「それって、何か、危ねぇ情報も含まれているのか?」

「……」


 私はゴクリと唾を飲み込むと、呑気に肉まんを頬張る彼に一言、こう言ったのだ。


「……カラマリアは、その、『臓器売買』専門の組織。なのかもしれない」

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