女子会は思ったよりも盛り上がりました。
「……それ、まじ? マスター」
それを聞いたメンコさんは、不思議な飲み物を一気飲みした後、怖い形相で静かに聞いていたのだ。
あんな顔をしたメンコさん、スープ事変で親友のことを思い出した時以来だ。
「えぇ。なので、デットプール側も調査をする事にしました。由々しき事態ですので……」
「流石だね。だから、フグトラ達も居ないわけか」
「あ。そう言われてみれば……」
確かにあの『俺は~っす!』みたいな癖のある喋りが聞こえてこないと思ったら、不在だったのか。
あのコンビニで売っていた『抹茶オレ』美味しいよ。と布教しようとしていたのに。
「そうです。なので、そのブログ名を聞いた途端、『これはミオの言っていたことと一致する』と思いましたから」
「なるほど……」
流石マスター。といった所だ。
何でもお見通しって事か。
それにしても、何であのブログは、今度はミオ君のクラスメイトにも、手を出してきたのだろうか。
まるで生きているみたいで、気味が悪いんですけど。
「そういえば……」
「……ん?」
ふと、先程から静かに話を聞いていたカンナちゃんが、メンコさんの飲み物を指でさし、こう言って来たのだ。
「メンコさんが飲んでいる飲み物って、何ですか? 会った時から、とても気になっていたのですが……」
「……えっ!? あー。これ、好きな人が新作として『勧めて』きたから、飲んでみたら思った以上に美味しくて。『ソカタ』て言うんだけど……」
すると、彼女の頬が、みるみると真っ赤に染まっていくのが見えたのだ。あー。もしかして……。
「ふぁっ!? めめめ、メンコさん、好きな人が居たんですか!? どうりで髪型も黒色で二色メッシュのショートボブだった訳で! うわぁぁぁ! 凄いかっこいいし、かわいいい!」
「あー。ええええっと……。あははぁ! かなり照れちゃうなぁ。もぉ!」
「はぁぁ……。メンコさん……」
「あー! 違うの! タミコちゃん! これはその……」
「カンナちゃん。好きな人ではなくて、正しくは『彼氏』です」
「……え。うそ。ちょっと! メンコさんを落とした人。えっと、彼氏さんって、どんな人なんですか!? そこんところ詳しく教えて下さいよぉ~!」
なので、私が軽く言ったらカンナちゃんが代わりに追撃してくれたのだ。
全く。その彼氏がナイトさん。というリルドの双子のお兄さんなのよ。
カンナちゃん、素顔は多分、見た事ないけどリルド、かなりかっこいいんだよね。でも、メンコさんの口から答えが出るまで黙っとこ。
なので、二人の乱痴気騒ぎを隣で聞きながら静かに抹茶ラテを口にした。はぁ。美味しい。
「ちょっとタミコちゃん! いきなりカンナちゃんに教えたら、シイラにまでこの情報が届くからダメだって!」
「あ。それに関しては別方向から『依頼』としてやってきてましたよ」
「……は? 依頼?」
「えぇ。『しょーもない依頼』の中に紛れてましたから。『車内で抱き合ってるカップルを見かけました。男性の方は外国の方でイケメンの方でした。どうしたら私もそんなイケメンな人とお付き合いができますか。教えて下さい』って」
なので、私は呆れ気味に依頼できていた内容をそのまんま彼女に伝えることにした。
ま。この話を聞いている人間は秘密厳守のマスター以外、誰もいないし平気だ。カンナちゃんもそんな、ベラベラと喋る人間でもないだろう。
「うそ。相手、外国人!? すごぉぉぉ!」
「ぇぇええええええ。ちょっと待って!? ままま、マスター!」
「はい。何でしょう」
「えっと、オレンジシャーベット追加で!」
「かしこまりました。おや? 新作メニューの『ソカタ』は良いのですか?」
しかも、マスターもなかなかだ。
不敵な笑みを浮かべながらしれっと『ソカタ』を勧めているし。絶対分かってやってるでしょ。
「あー。もぅ! マスターまで! もぅいいや! ソカタも追加で!」
「かしこまりました。お持ち致しますので少々お待ちを……」
そして、マスターがそそくさと去った後、彼女は熱があるような真っ赤な顔をしながらこう言ってきたのだ。
「はぁ。タミコちゃんさぁ。カンナちゃんの前でそれを言うのは恥ずかしいからやめてってば……」
「……でも、その依頼を出した人の気持ち、とても分かります」
『……え!?』
すると、私達が驚く中、カンナちゃんがブルーベリージュースを軽く飲みながら、こう語り出したのだ。
「わたしも、どうしたら、『理想の人』とお付き合いができるんだろう。て思うことがあります」
「そうなの?」
「はい。しかも、相手は日本人ではなくて、海外の人。文化も言葉も違うのに、互いに好き合って付き合っているなんて、わたしから見たら、とても理想的ですよ。羨ましい! わたしもそういう人と付き合えたら、どうなるんだろう。お兄ちゃんみたいに、性別の壁を超えて愛し合ったりとか……」
「ふーん……」
「メンコさん。他人事の様に相槌打たないでください。今、貴女は憧れの対象なのですよ」
「ええっ!? 憧れ!? そう言われると何だか照れちゃうって! あははぁ」
だけど、こういうやり取り、とても楽しくて、何だか懐かしいな。
私も昔、親友と呼ばれた人とこんなたわいのない話をしていたっけ。恋の話とか、付き合うならこんな人がいいとか。そんな理想像を楽しく描いていた気が。
今はその子とは、もう話せないけど。
あ。でも、カンナちゃん。純粋無垢な所申し訳ないけど、その地雷カップルは参考にしたらダメだって。色んな意味で周囲に影響があるから……。
「……タミコ、さん?」
「……え?」
ふと、色々と考え込んでいたら、彼女が心配そうに声をかけてきたのだ。
「大丈夫、ですか? 顔色があまり……」
「あ。いや。大丈夫」
「まぁ、タミコちゃんも明日、『彼氏』が退院するのに、任務があるから気が気じゃないんだよねー」
「ぅああっ! メンコさん! それはちょっと!」
「散々アタシを弄っといて、冷静なフリしてその場を凌ごうとするなんて、許さないんだからっ! 反撃よっ! あははははっ!」
「くぅぅ……」
しかし、彼女に形勢逆転された私は、照れを隠すために近くに置いた抹茶ラテを、グラス半分まで飲んでしまった。
「タミコさん!? だだだ、大丈夫ですか!? また顔が真っ赤になって……」
「ええっと……」
「いーねー。じゃーさー。リルドとどこまで行ったわけ?」
「……は? どこまで、て?」
「そりゃぁ、ここでは言えないけど、ねぇー。部屋ん中でイチャコラしてたんでしょ」
「えええっ!? もうそこまで行ったんですか!? 一体、部屋の中で何を……」
「いや! そこまでって!」
「お待たせしました」
『はっ!』
だけど、彼女らに追求されていた中、マスターがタイミング良く、オレンジシャーベットとソカタを持ってきてくれたのだ。
「ふぅ……」
やっと一安心できるが、メンコさんが不敵な笑みを浮かべながら、視線をこちらに向けているから、まだ油断できないのよ。
彼女に背中を向けたら最後だからね。冷静に。冷静に。
でも、明るくて淡いオレンジ色をしたシャーベットが、見るからに美味しそう。私も何か頼もうかな。
「ええっとマスター」
「はい。なんでしょう」
「私も抹茶パフェではなく、軽いアイスみたいな物が食べたいのですが、何かありますか?」
「ほぉー。おすすめですか。そうですねー。こちらはどうでしょう?」
「えーっと、ええっ!?」
すると、そこには新作メニュー『ツブヤキ特製抹茶アイス』と書かれていたのだ。
ちょっと待って。今度は店でアイスを売る気!?
「実はこれ、フグトラとナイトがタッグを組んで、レシピを『ルーマニア風』にしたらしいのですよ。なので、普通のアイスとは違いますね」
「へぇー……」
「ちなみに食材調達はヒガンが独断でやっていたらしいのですが、まぁ、彼の場合は『自由奔放』にやらせるのが一番なので……」
「あははぁ……」
デットプールの皆様、まさか新作レシピの開発にまで手を出していたのか。
みんな各々自由にやっている感じが楽しそうって言うか。ナイトさんも、新たな就職先がこんな愉快な所で良かったのかも。
「ちなみに抹茶の他、ストロベリー、ブルーベリー、パイナップル、オレンジ等、様々な味もご用意しております」
「そうなんですね。じゃあ、私は抹茶で」
「あ。わたしはブルーベリーで!」
「二人とも、了解しました。今からお持ち致しますね」
そう言うとマスターは、そそくさと注文を取って厨房へと消えてしまったのだ。
「で。結局はどーなの?」
すると、メンコさんは涼しい顔をしながらオレンジシャーベットを口にしていたのだ。
「どうって言われても、その……」
「ものすっごい気になります! タミコさんが、あの人とどこまでいったのか……」
「それは流石に……」
カンナちゃんはというと、隣で目をうるうるとさせながら、顔を覗かせている。
「えーーっと、確かに部屋の中でイチャコラしていたのは認める」
「おおっ!」
「だけど、まだ、シテはいない。だって、
付き合ってすぐヤるなんて、流石にしないから……」
「……」
「え?」
しかし、ある程度言ったのに、彼女らは何故か黙り込んでしまったのだ。
「ええっと、何か変なこと言った?」
「……いやいや。タミコちゃんの口から、とても健全な答えが出て来たから、ホッとしたとこよ」
「わたしもです。その『彼氏』さん、誠実で紳士的なんですね。ねっ! メンコさん!」
「そうね。良かった良かった」
「ちょ……、ちょっとどうした!?」
何故か二人共、しみじみとしながらも、各々飲んだり頬張ったりしていたけど、何があった?
妙に店内の空気が穏やかになったのが気になるけど。
「うん。だって、あの『リルド』がタミコちゃんを大事にしていたからホッとしたとこよ。男って、大抵はろくでもない奴が多いから……」
「凄い分かります。高校にも、猿みたいな男子生徒とかいますけど、相手にしたくないですもの。あ、熊野君とか龍樹は別ですけど……」
「へぇー……」
私は頑張って言ったのに、この反応だったせいか、顔の火照りが収まらないまま、抹茶ラテを軽く飲んだけど、正直恥ずかしい。
「でも、カンナちゃん」
「ん?」
「確か、『男嫌い』だったよね? ミオ君とか龍樹君は平気なの?」
「あー。熊野君に関しては、見た目が『中性的』だから、大丈夫ってだけです。鰒川君もですが。龍樹は幼馴染というのもあるけど……」
「あー。そっか」
「でも、不潔なおっさんとか、チャラい人は生理的に無理」
「なるほど……」
それは流石に、私も無理だよ。カンナちゃん。
でも、その前におっさん達が、リルドに半殺しにされる未来しか見えないから、ご愁傷さま。としか、言えないけど。
「お待たせしました。こちら、抹茶アイスとブルーベリーアイスです」
「わぁーい! ありがとうございます」
「美味しそう!」
するとマスターが、ガラス皿に盛られた抹茶アイスとブルーベリーアイスを持ってきてくれたのだ。
カンナちゃんが注文したブルーベリーアイスには、アイスの上にミントが乗っていて、美味しそう。
「まぁ、それは確かに……」
私は抹茶アイスを頬張りながらも相槌を打っていたが、こういう日もあってもいいよね。ずっと画面ばかり見つめていたせいか、茶葉の味が口の中いっぱいに広がって落ち着く。
それに、カンナちゃんも勉強詰めで辛かっただろうし。今日一日は、彼女にとっても、とても良い息抜きができていた気がする。
そういえば、学生時代の私は、どんなだったのだろう。
今思うと、あまりいい思い出が……、壊滅的に無いのよね。彼氏は出来たけど、悉く親友モドキに奪われて……。
でも、みんなに出逢えたおかげかもしれないが、昔の私はもう、ここには居ない。
仮に鉢会ったら、どう言葉を投げかけようか。
でもまず、第一声はこう言うかもしれない。『なんでこんな事をしたの?』と。
――ブーッ ブーッ
ふと、思考を遮るかのように、私のスマホにバイブ音が鳴った。
「どうしたの?」
「あ。えーっと、リルドからだ」
スマホの画面を見ると、どうやらライムの通知だったらしく、彼からだったのだ。
あ。ゴエモンさん、ごめんなさい。
つい、画面を見ちゃいました。
「ぅえええ!? 何何!? ちょっとアイツ、タイミング良すぎじゃない!?」
「内容は何て……」
二人はじーっと私を見ながら言ってきたが、今読んでる所だからちょっと待ってよ。
「ええっと……、え? メンコさん」
「どした?」
「何か……」
「どれどれ?」
すると、私は通知を彼女に見せてみたのだ。
内容はこう書かれている。
『わりぃ。急遽、今日退院になった。メンコに迎えに来てもらうよう、頼んでくれねぇか?』




