検索してみたら何故か取り込まれそうになりました。
*
――AM8:00
「……んんっ」
スマホのアラームが大音量で鳴る。
もう、朝を迎えてしまったか。
重たい瞼を擦り、私はむくりとベッドから起き上がる。
「今日は、調べないと……」
確認として、自身のスマートフォンの通知を見ると、彼からで
『俺、明日退院が決まったから』
と、一件だけメッセージが送られてきた。
『良かった。迎えは誰が来るの?』
なので、返信し返すと、数秒でピコン。と通知音が鳴った。
『メンコが来るってよ。オマケにナイトまでも付き添いで来るってさ』
『そっか。何だかんだ言ってさ、あの二人やっぱりデキてるよね!』
そう返してみると、再度数秒でピコン。と通知音が響いた。
『俺も思ってた』
『やっぱり』
なので、ここから無言だが、彼とのやり取りが続いていく。
『ま。ナイトがあそこまで、あのゴリラ女の事を好きになるとは、思ってなかったけどな』
『ゴリラ女って……。失礼でしょ』
『あはは。ナイトが聞いたらグーパン飛んできそうだな』
『で、退院したら、〝真夏のナイトメア〟という変なサイトの調査をするみたい』
『あー。何かこっちでも噂になってたな。その真夏のなんとかーって言うやつ』
『それ、本当!?』
すると、入院先の病院で例のサイトに関する情報が入ってきたのだ。
『あぁ。確か〝一定の条件を満たせば、異世界に渡ることができる〟だっけか?』
『でも、物理的には有り得ない。てグソクさんが言ってたよ』
『物理が無理なら、もしかしたら、〝幽霊〟的な何かが現れて、連れ去られるとか。神隠しに逢うとか、そういう類か?』
『うーん。ていうか、リルドって、幽霊信じる方?』
『まぁ……。ていうのも、ガキん時に叔父から聞いた話があってな。それが、〝ホイア・バチュの森〟ていう、めちゃくちゃ幽霊が出まくる心霊スポットがあるらしいんだ』
『え!?』
つまり、幽霊が大発生する森がルーマニアにあるって事?
気になるけど、正直行きたくないな。
だって、悪霊みたいな霊に取り憑かれそうだと思うと、気軽に行きたいだなんて、言えないのよ。
『そんな、幽霊てんこ盛りみたいな森が存在するの? ルーマニアに?』
『あぁ。ナイトが言うには〝あそこは見える人が立ち寄ったら、呪われるから行かない〟て言ってたんだよな』
『……は? え?』
ちょっと待って。
今、〝行かない〟て言った?
ふと、気になり過ぎて引っかかった言葉があったので、再度彼に聞いてみることにした。
『もしかして、ナイトさんって、〝見える〟の?』
『そういや、廃墟のラブホテル、ソロモンに一緒に入った時あっただろ?』
『うん。確か、ヒガンさんとフグトラさんと一緒に乗り込んだ時よね』
『あぁ。実はその時、ヒジリの野郎の背後にな、女の人と男の人の霊が、背後にべたりと纏わりついてこっちを見つめていた。てナイトが教えてくれたんだよな』
「えっ……。ちょ! はぁぁあああ!?」
驚きのあまり、思わずスマホを床に落としそうになったが、あの51番部屋、かなり曰く付きだったって事でしょ!
まとわりつきながら見てくるのは怖すぎるって!
ナイトさん、あれでよく顔色一つ変えずに冷静と、淡々とこなしていたよね。
正常でいられてるの、逆に怖いんですけど!?
『まぁ、それをお見舞いに来た時に、あの軽口で言ってきたのは、流石の俺もビビったけどな』
『それは驚くって……』
しかも当の本人はいつもの軽口で『ヒジリノ背中、人ガ沢山、付イテタ。アハハハ!』て片言で言ってた訳でしょ?
正直、シイラさんより恐ろしくない?
あなたの双子のお兄さん。
私は呆れ気味に返信をしながらも、彼から情報を集めていく。
ま。ナイトさんの軽口は、あくまでも想像上だけどね。彼ならこんな風に言うかもね。て感じで。
『そういえば、依頼を整理していたら、リルドの病室に、看護婦さんが頻繁に出入りしていた。て言うのが届いたんだけど……』
『……は? あー。あれは向こうから、相談がある。みたいな感じで言われたんだ』
『ふーん……』
『はっきり言うが、ナイトメア関連だ。だから、その、別に浮気とかしてねーから!』
『いや。分かってたけど、どういう事?』
その、浮気どーこーと言うより、ナイトメア関連というのが、一番気になるんだけど。
返答次第では、ゴスロリの服着た写真は『送らない』という選択で、没になる可能性があるけどね。
――ピコンッ
どんな風に返信してくるのだろうか。
恐る恐る見てみると……
『話によると、自分の子供が〝真夏のナイトメア〟というサイトを見た途端、何故か倒れたり、画面に夢中になって何度声をかけても無視されたり、オマケに取り上げようとしたら、襲われた。ていう相談があったんだ』
『なな、何それ!?』
思ったよりも危険な展開になって驚いてしまったが、そのサイト自体に〝暗示〟みたいのがかけられている。という事かな。
かなり気になった私は、更に彼から情報を集めていく。
『それで、原因が〝幽霊〟じゃないか。と思ってるわけ?』
『ま。そんな所だな。それを聞いた越智さんも〝科学的に説明できないな〟て言ってたぐらいだしな』
『なるほど……』
まさかの越智さんも今回の件に関しては〝説明できない〟て事ね。
つまり、何らかの条件を満たせば、異世界転移ができるが、その代償として、様々な精神疾患を持ってしまう。という訳か。
『で、本題に戻るが、何か分かったら知らせてくれ。こっちでも何かあったら、連絡する』
『あ。ありがとう。私もできる範囲で調べてみるね』
『おぉ。頼んだ』
そして、私は安堵すると、一旦スマホをお気に入りの黒ジャージのポケットにしまい込んだ。
それにしても、そのサイトを読んだだけで精神疾患を来たすって。聞いただけでも随分と恐ろしいんだけど。
下手したら調べている私達も取り込まれる可能性が高い訳でしょ。
とても恐ろしい案件を持ってきやがったな。と思いつつ、仕方なくパソコンがある自分の席へ着くと、座って真っ黒い画面をぼーっと眺めていた。
「そういえば……」
読んだだけで異世界転移ができるなんて、本当に可能なのか?
よくある嘘じゃないか。と思いつつも、かなり気になった私は、何となくパソコンを起動し、検索バナーにこう打ち込んでみる。
【真夏のナイトメア】
まずは普通に検索してみる事にする。
「ええっと……、あー。これの事かな」
すると、何件か引っかかったが、その中の一つに、奇妙なブログらしきモノを見つけてしまったのだ。
「えっと……、8月30日。明後日から学校で、とても憂鬱だ。でも、俺はいい現実逃避の仕方を思いついてしまった!」
以下、こんな文面だ。
―――――――――――――――――――――――
なので、『俺』が夢を見る事に、ここに書き込んで記録しようと思う。
俗に言う『夢日記』というやつだ。
現実逃避をするのに、これが一番良い。
さて、今朝見た夢は『俺』が異世界へ行って、女神に出会った夢だ。
これがまたとても美人でさ。
金髪で蒼色の透き通った瞳をしていて、『俺』、思わず惚れちまったさ。
で、女神はこう『俺』に言ったのさ。
『異世界』と『現実』、どちらを落としましたか? てな。
そこで夢は途切れてしまったけど、なんだろうな。
―――――――――――――――――――――――
「……は?」
なんとも不気味だ。
しかも、現実逃避がしたいから、ブログみたいに夢日記を書き始めたとは。何とも、はた迷惑な奴よね。書くなら鍵かけて個人でひっそりと書けばいいのに。
だけど、どちらを落としましたか。て、奇妙よね。
かなり続きが気になった私は、更に読み進めることにした。
―――――――――――――――――――――――
8月31日
明日から学校が始まる。
嫌だ。いつまでも夏休みとして過ごしたかった『俺』は、再度夢を見ることにした。
すると、女神に問われる所からスタートしていたので、迷わず『異世界』と答えた。
そしたら、そこから素晴らしい世界に入り込むことができたんだ。
澄み切った青空に、広大な草原。
そして、初めて遭遇する敵がスライムだった事も。『ぼく』は腰に身につけていた剣を手に取り、スライムを薙ぎ倒した。
『イトウさんはレベルアップしました』
『イトウさんはレベルアップしました』
『イトウさんはレベルアップしました』
『イトウさんはレベルアップしました』
『イトウさんはレベルアップしました』
『イトウさんはレベルアップしました』
『イトウさんはレベルアップしました』
『イトウさんはレベルアップしました』
何故か『ぼく』の耳元から、アナウンスが流れてきたのだが、『ぼく』って、イトウさんなのか?
いや。『ぼく』の本名は確か、『サトウ』のはずだ。何で『イトウ』なんだ?
そこで夢は途切れてしまったのだ。
―――――――――――――――――――――――
「えっと……」
人称がややこしくて難しいけど、上手く整理すると、現実ではサトウさんだけど、異世界ではイトウさんになっていたと。
そして、8月31日は確か、学校では『夏休み最終日』だったはずよね。地方によっては様々かもしれないけど、大体は31日に終わる事が多いのよ。
だけど、この人の文章構成が上手いせいか、何故か引き込まれるんだよね。
なので、更にスクロールしてみることにする。
―――――――――――――――――――――――
8月32日
『現実』だと9月1日らしい。でも、『俺』は異世界を選んだから、32日なんだ。
ふーん。いっそこのまま、留まろうか。『俺』は、夢の中に再び入ったら、いつの間にか草原からリスタートされていた。
また、スライムを狩って狩って狩りまくっていたけど、レベルアップしていく事にスキルもどんどん増えていったんだ。
『イトウさんは炎魔法を習得しました』
『イトウさんは水魔法を習得しました』
『イトウさんは雷魔法を習得しました』
『イトウさんは土魔法を習得しました』
『イトウさんは光魔法を習得しました』
『イトウさんは闇魔法を習得しました』
『イトウさんは『⬛︎⬛︎⬛︎』を習得しました』
とね。こんなにあっさりとスキルが手に入れるのであれば、『現実』に帰らなくてもいいんじゃないか?
と思っていたら、突然学校のチャイムが鳴ってきてさ。そこで夢が強制的に切れちゃったんだ。
つまり、とうとう『現実』に邪魔が入った。て事だよ。どうしてくれようか。はぁ……。
―――――――――――――――――――――――
「うーん。これ……」
傍から見たら、単なる『現実逃避したい人』が書いたブログにしか見えないのよ。だけど、最後の『⬛︎⬛︎⬛︎』て何だろう。そこだけエラーがかかっていて読めなかったのよ。
なので、更に深く読み進めてみることにした。
―――――――――――――――――――――――
8月33日(現実だと9月⬛︎日)
やっとこれで『俺』は『異世界』へ浸れる。
なので、『俺』は『現実』とサヨナラした。
バイ⬛︎イ。バ⬛︎バイ。
今書いてる頃には、『俺』はいないでしょう。多分ね。
つまり、これ以降、書いているのは『俺』ではなくて、『ぼく』です。初めまして。
『ぼく』はサトウです。
あれ? イトウだっけ?
『俺』はイトウで、『ぼく』はサトウだっけ?
いや。『逆』かな?
でも、そんな事はどうでもいいんだよ。
もう『ぼく』は『異世界人』だからさ。だから、改めまして。サトウです。よろしくね。サトウです。よろしくね。
あ。そうそう。見ているみんなは『現実』と『異世界』、どっちを『落としてきた』のかなななななななな七七?
―――――――――――――――――――――――
「……なに、これ」
突然、混乱し始めたので、急遽シャットダウンをしようと電源ボタンを押そうとするが、画面を閉じることができない。
ちょっと待って。ここで『ウィルス』が介入してきたってこと!?
大慌てで席を立とうとしたが、何故か『続きが読みたい』という気持ちが邪魔をしてきた。
もしかして、これが『現実』か『異世界』かの選択って事?
なので、私はそのまま席に座って画面を見ようとしたら……
「タミコ氏ぃぃ!」
すると、グソクさんが何故か、叫びながら大慌てで大きい青い布を持ってきては、パソコンの画面を覆い被せてきたのだ。
「え? グソクさんどうしたの? 突然大声を出して……」
「はぁ……。はぁ……。タミコ氏! かなり危なかったですぞ!」
「えっと、何が?」
「それはですな……!」
そして、彼の口から、こんな言葉が飛び出てきたのだった。
「危うく、『真夏のナイトメア』に取り込まれる所でしたぞ!」




