彼から極秘の情報を貰いました。
私は頭の回転が回らない中、悩みに悩みまくっていた。
「えー。どうしよう……」
扉の前にリルドがいる、この状況が全く飲み込めず、訳が分からなかった。まさか私、部屋の鍵、閉め忘れた!?
「んんんんん!」
そして、この騒動の元凶となった彼はというと、呑気に起きて開口一番、こう言ってきた。
「あー。おはよぉ~」
「おはよぉ~。て。ここ、私の部屋だけど……」
「んー……。ん!? ぁぁああああああ!?」
すると、彼は勢いよくバッ。と起きて周囲を見渡すと、大声を発しながら、かなり取り乱していた。
そのせいか、何故か黒パーカーのフードが脱げて、顔全体が顕になっている。
真正面から見ると、血のように赤黒く染まった、深紅色でくせっ毛がある短髪。白い肌に右頬には三本の傷と、狼の様な鋭い目付きで、翡翠色の瞳。目鼻立ちは整っているせいか、美青年なのは、間違いないかもしれない。
「あ。やべー……」
「リルド?」
だけど、彼はあまり人に顔を見られたくなかったらしく、直ぐさまフードを深く被って、ボソッとこう言ってきたのだ。
「これ……。内緒。な」
「え?」
「実はさ、その。フードを外してる姿、人に見られたく、ないんだ」
「そう、なの!?」
「あぁ。ゴエモンのじーさんは知ってるけど、メンコさんやグソクさんには、その。あんまり見せてないんだ。メンコさんには特にその。色々とうるせーから」
「そうだったんだ。じゃあ、内緒にしとく。ね」
「あぁ。ありがとう」
でも、勿体ないなぁ。
だって、あんなに綺麗な顔つきで、背後から不意打ちされたら、別の意味で気絶する人が多いんじゃ……。と、内心思っていた。
「でも、さっきは悪かったな。どーやら、昨日、かなり飲みすぎたみてーで。俺もサーフェスのみんなも、かなり酔い潰れたんだ」
「えー……。そんな事があったんだ」
「あー。だから俺、間違ってタミコの部屋で寝てたっぽい。えっと。その。本当にごめん」
「いやいや。もう、謝んなくていいって……」
まさか、私が寝てる間に、サーフェスの皆さんは、密かに酒パーティでもしていたのか。何だか自由な職場だな。まぁ。私は、お酒もタバコも無理だから、良いんだけど。
「それより、水、飲みますか?」
なので、自身の部屋にあるミニ冷蔵庫から、水を取りだし、二日酔いが酷そうな彼に渡した。
「あ。ありがとう」
彼はお礼を言うと、その場で一気飲みをしていた。
「本当に悪ぃな。ちと、お願いがあるんだけど……」
「えっと、何?」
「ベット、借りたい」
「はぁ!?」
しかし、会ってまだ二日目の彼に言われてしまったので、思わず大声で驚いてしまった。
えっと、一体何を考えて……。
「その代わりに、すげーいい情報を手に入れたからさ。それ、教える。メンコさんやグソクさんにも言ってない、二人だけが知る、匿名情報。てとこかな」
「でも、そんなの、私に教えてもいい訳?」
「あぁ。メンコさんやグソクさんに話すと、色々とかなり面倒くさいからな。二人共、揃いに揃って、あーだこーだ、詮索してくるし、『どっからその情報を貰ってきたんですか!? リルド氏ぃぃぃ!』みたいな感じで騒がれるのも面倒だし」
「それも大変そうだね。でも、ゴエモンさんはこの事、知ってるの?」
「知ってるっていうか。二人きりの時に言われたんだよな」
「えっ!? って事は、今回はゴエモンさんからの依頼って事!?」
「ま。そんなとこだな」
と、会話しながらも、何故か人のベッドに躊躇無く入って横になっている彼。
まぁ。どんな内容なのかが気になる私は、ミニ冷蔵庫からサラダスパゲティを取り出し、木製の小さなテーブルに置いて、聞く準備をした。
「今回の依頼は、俺に昨日、取引を持ちかけてきた闇ブローカーの身辺調査と、『カラマリア』という組織を調査してきて欲しい」
「闇ブローカー? カラマリア?」
「あぁ。カラマリアは組織の名前だが、闇ブローカーの奴曰く、聞き出そうとしたら、『これ以上は深追いをするな』と、向こうから釘を刺してきたんだよな」
「えっ!?」
驚いて声が出てしまったが、闇ブローカーとは何なのだろうか。それに、『カラマリア』という組織の名前も知らない。最近出来たばかりなのだろうか。
それと、ブローカーって事は、取引する際に間を取ってくれる仲介人の事だろうけど、『これ以上は深追いをするな』っていうのは、どういう意味?
「実は、その闇ブローカーが現れなかったら、あの標的は今頃、恥を晒されながらも、社会的制裁を受けられ、ちゃんと反省していたのにな。運が悪かったとしか言えねぇ」
「もしかして、あの標的はもう……」
「あぁ。恐らくだが、あの大金と引き換えに、彼はもうお陀仏だろうな」
「そんな……」
まさか、本当にダークな取引がされていたのかと思うと背筋がゾッとする。でも、あの大金を見た時からは、何となく予想は付いていたのは事実だ。
「でも、私はある程度、分かってはいました」
「と言うと?」
「報酬が『父親丸ごと』というのが、ずーっと頭の中に引っかかっていたので」
「なるほどな。確かに言葉の通りだな」
「本当に『父親の臓器丸ごと』ていう意味でもあったんですね」
「そういう解釈も出来るな。そう思うと日本語ってすげーや」
彼は日本語の奥深さに関心しながらも、上半身だけ起こし、ブランケットのように掛け布団を腰まで掛けて話していた。だいぶ酔いが覚めてきたようで、少しだけホッとしている。
「え? リルドは日本の生まれじゃないの?」
「俺? 生まれはちげーよ。でも、日本で育ったから、日本語が話せるだけ。しかも、俺がガキの頃、ゴエモンのじーさんに引き取られてるんだよな」
「えっ!? ゴエモンさんが!?」
「俺だけじゃねぇ。メンコやグソクさんもだ。どういう経緯で俺たちを引き取ったのかは知らねーけど、俺が来た時は、既に彼女らはいたんだ」
「へぇー……」
私はというと、マヨネーズ風のドレッシングに絡まれたサラダスパゲティを、半分程食べ進めながらも、彼の興味深い話に耳を傾けていた。
「だけど、ゴエモンさん、何で私達にだけ、こんな依頼を?」
「それは分かんねーけど。そーいや、グソクさんから聞いたが、タミコはさ、パソコンの操作、得意な方か?」
「うーん。グソクさんみたいに、特定まではできないけど、Torで弄れる程度なら……」
「あー。今回の依頼はトーア使わなくても大丈夫らしい」
「え? 闇ブローカーを探るんじゃ……」
「逆にトーアを使って、ここを特定されたら、それこそ厄介だからな。事務所移転を余儀なくされるぞ」
「それは……」
確かにめんどくさいし、逆にヘマをしたら、ゴエモンさん、更に『腕立て伏せ、毎日1000回な』と真顔で言ってきそうだ。
「だから、トーアを特定されずに、相手にハッキングをかましながらも使えるのは、グソクさんだけなんだ」
「流石……」
ネットの掃除屋。と言うべきなのだろうか。
だけど、ゴエモンさん、リルド達を引き取ったりもしていたなんて、優しい方なんだろうな。
私は更に彼の話を聞きながら、サラダスパゲティを頬張った。
「ま。雑談はここまでだ。とりま、俺はコンビニで何かしら買って行きながら情報を探るから、タミコはパソコンを使って、闇ブローカーとカラマリアの情報を探してくれ。噂でも何でもいい。とにかく手がかりが欲しいからな」
「そうなんだ。了解」
「ま。何か分かったら、報告頼むな。ちなみに報酬も、何かしら考えてあるから、安心しろ」
「うん。でも、リルドも気をつけて」
「あぁ。それと、ベット、ありがとうな」
そして、彼はベットからバッ。と勢いよく起き上がると、飛び降りて部屋から颯爽と立ち去ったのだ。
「さて。私も極秘の仕事、やらなきゃ……」
私もサラダスパゲティを完食すると、空になった容器を近くのゴミ箱へ捨て、彼の後を追うように部屋を飛び出した。