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あのこから、お誕生日会への招待

 学校の帰り道、僕の心の中は嬉しさと不安とがせめぎ合って大いに混乱していた。

 実は、あのこから誕生日会への招待を受けたんだ。突然のことだったんでびっくりした。授業が終わって帰り支度をしていると、後ろから背中をぽんぽんと叩かれた。振り返るとあのこがにこにこしながら、『ねえ、あたし二十四日が誕生日なんだよ』と言ってきた。クリスマス・イブか、と思うより先に、僕より三か月近くも早いのかと感心して、そりゃよかった、おめでとう、とちょっと間抜けな返答をしてしまった。でもそんなことには頓着せずにあのこは、『だからその日にお誕生日会をすることになってるんだ。それにあんたも来てくれない?』と言うんだ。僕は喜ぶより先にたまげてしまった。いろんなことが頭の中を飛んでよぎって交錯し、それでも返事をしなければと声を絞り出し、ああいいよ、と言った。けれどせめて、喜んでとか一言付け加えておけばよかった。

 『じゃあ約束、ありがとね。それでお願いなんだけど、お誕生日会なんだから、きっとプレゼントを用意してくれるでしょ?』そりゃ勿論だ、とこたえる。すると『あんたからは音楽のプレゼントを貰えたらなあと思ってるのよ』えっ?僕は絶句してしまった。『あたしの家にもピアノがあるんだ。誰も弾かないんだけどね。だからあたしの誕生日のお祝いに、ピアノの演奏を披露して欲しいのよ。そういうプレゼントもありだと思わない?こないだの学校祭の催しで何とかいう人の曲を沢山弾いてくれたでしょ、すごく上手だったわ。きっと素敵なプレゼントになる。お願いね。』

 僕は多少慌てて、そういうことならどういう風に演奏するか考えなくてはならない。だから詳細は後日、と伝えた。あのこはにっこりした。『分かった。じっくり考えてね。期待してる。じゃあ約束、指きりよ』それで指きりげんまん。嘘ついたら針千本飲ます、指切った―――あのこは立ち上がりバイバイをすると待っていた友達を従えてさっさと行ってしまった。僕は呆然として暫くその場で固まっていた。周りでは悪友たちがやいのやいのと云ってくる。どうやら冷やかしているらしいんだけど、僕の耳には入らない。自慢じゃないけれど、僕は緊張したりしてもあまり表情には出ないんだ。だから外野はほっぽっとけばいい。そうしてその場で対策を考えた―――とは言え考えるまでもなかろう。そう、あれしかないじゃないか。あのこの誕生日会でプレゼントとしてピアノを一人で演奏するなんて出来っこない。僕の心臓はそんなに強靭にできてはいないんだから。選曲にしたって大問題だ。やっぱりあれしかない。大体学校祭でやらなきゃならなくなったピアノ演奏に関しても、その対策はあれだったんだから。ついでと言っては何だけど、その流れで今回も同様に。あれ、つまりお兄ちゃんに頼むしかない―――そうだ、それしかない!と思わずちょっと大きめに声に出してしまった。それまでわいわい騒いでいた悪友どもはびっくりしたようで、皆口を閉じきょとんとしている。僕は、ごめんごめん、さあ帰ろうか、みたいなことを言って、ランドセルを背負うと扉の方へ歩き出す。悪友連中は再びガヤガヤしながらついて来る。だから僕も待っていた友達を従えて帰ることになってしまった。

 今日は金曜日じゃない。お兄ちゃんは今夜家にいるはず。今日中にお兄ちゃんに話を付けよう。必ず、うんと言わせなければならない。今回のことは、これまでの問題とは比べものにならない。とてつもなく大きな問題なのだから。


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