第9話
「ねえ、修斗。この教室なんか空気重くない?」
重苦しかった昼休みの教室に放たれた衝撃の一言。うちのクラスに居た人間の大多数の背筋がまっすぐになった。
言い放ったのは修斗の彼女『西川杏』。別のクラスのため昨日の騒動を知らなかったようだ。
俺と修斗、勝がぶっこんだ杏に呆気にとられていると他の連中の視線は、誰が見ても怒っているようにしか見えない岩田ともう一人の当事者愛子に向いていた。
「あのさぁ!」
視線に気付きイライラした岩田が怒鳴り始めた。
このままだとクラスの問題に杏を巻き込み、より大きな爆発(既に一度岩田と杏は揉めている)が起きる。彼氏である修斗は未だに横で固まっているので、俺が何かをするしかない。
「しょーがないだろ。昨日、バカ共が騒ぎを起こしたんだから」
「え、なになに。なんかあったの?」
岩田の声をかき消すように被せながら杏に向かって喋る。
今の発言のポイントは、岩田たちも愛子も両方叩くこと。こうすることで両者のヘイトを俺に向けて、尚且つどちら側にも立ってない事をアピールする。
「俺はその場には居なかったから、詳しいことは修斗に聞いてくれ。俺、自販機行くけどお前らも行く?」
自分たちがバカ扱いされたことに憤る岩田達と自分も殴られたことに驚いている愛子を横目に杏と修斗と勝を連れて教室を出た。
「お前、あんな両面叩きして大丈夫か?」
修斗が杏に昨日のことを説明している最中、勝が聞いてきた。
「別にホントのことしか言ってないし良いだろ」
「いや、そうだけど。岩田達とか愛子達とバチバチにならないか?」
「岩田達とは既に軋轢が生まれているし、愛子はお灸を据えるつもりで言ったからな」
「すごいなお前」
苦笑いをする勝に出てきた飲み物を渡す。
実際、ヘイトが俺に向くのは別にどうでもいい。勝にも言ったように、岩田達とは既に修復不可能な溝がある。ただ、愛子は話した感じ「ちょっと面倒だ」と過去に人間関係で色々あった俺の勘が危険信号を出していた。
でも、それ以上に愛子が杏にヘイトを向ける方がまずい気がする。愛子は、杏に限らず修斗や勝と喋る時にも敵意ではないがあまりよろしくない感情が滲み出ている。
これは俺の想像だけど、愛子はクラスの王様・支配者になりたいんだと思う。だから、クラスの中心になり得る修斗・勝・岩田達には敵意みたいな感じが見え隠れしている。真田になにもないのが謎だが。中学一緒だからか?
ただ、いくら修斗の彼女とはいえ別のクラスの杏にまで対抗心を抱く理由が分からん。そこは、女同士の何かがあるのかもしれん。
とにかく、愛子のヘイトが俺に向く分には無問題ってこと。
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