1
のんびり続きます。
ハァ………………………………………。
俺は、心の中で大きな溜息をついた。陽が傾き始めた、放課後の、学校、廊下。
廊下に落ちる影を見つめながら、俺は歩き続ける。今、自分が向かっている先のことを考えると、自然に足取りが重たくなるのを感じた。どんどん、どんどん、考えれば、考えるほど、不安は大きくなっていく。
行かなくて済むなら行きたくない。関わらないで済むなら関わりたくない。でも、そういう訳にもいかないのが現実だ。
吹奏楽部だろうか。教室の前を通り過ぎるたびに、色んな楽器の音色が耳を抜けていく。人気のない廊下の中で、それはやけは大きく響いていた。
野球だろうか。なんとなく気分を変えたくて、廊下の窓を覗くと、グラウンドの様子がみえた。気合の入った掛け声、応援、黄色い歓声が、こちらまで聞こえてくる。どうやら、練習試合をしているようだ。
まぁ、だからどうって話。
放課後の学校は騒がしい。だが、今はそんなことどうだって良い。喧騒に身を任せて、不安を頭から追い出そうとしてみても、ただ虚しくなるだけだった。一歩進むたびに、憂鬱な気分が深くなる。本当に、なんでこんなことになってしまったんだろうか。
「ハァ…………………………。」
思わず溜息が漏れた。とうとうたどり着いてしまったのだ。俺の逃避は中断された。いつのまにか、廊下は行き止まりになっている。向かって右に、一つの教室。ドアには大きく、「生徒会」の文字。
俺は意を決して、その扉を開いた。
そう、俺が向かっていたのは、生徒会室だ。
教室の真ん中には大きな机が置かれていて、その上に積み上げられた、大量の書類がまず目に付いた。段ボールがあちこちに散らかっていて、お世辞にも綺麗とは言えない部屋だ。だが、初めてここへきた俺にとっては、とても新鮮な光景に映った。
俺は、一年間、ここでお世話になるのか…………。
教室を見回し、ギュッと拳を握り締めた。勢いよく頭を下げる。
「生徒会書記、2年A組、小鳥遊伊織です。今日からよろしくお願いします。」
「小鳥遊くん、ね。3年A組、会長の久瀬颯人です。よろしくお願いします。」
顔を上げると、1人の男が、書類を捌きながらこちらに目線を向けていた。色素の薄い、髪と瞳。どこか日本人離れした顔立ちは、男の俺から見ても見惚れてしまうものだった。
そして、彼の爽やかな笑顔を前に、俺は思った。
最悪だ…!