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部屋間違いと誘い

 それはゆうの家で突然起こった。


 今年高校二年生になった佑だが青春とは、全く縁のない生活を送っている。

一人暮らしなので誰かと時間を共有しているわけでもない。学校でも必要最低限の会話しかしていないので友達も数少ない。


いつも通り学校から帰り夕飯を作っていると、なぜか家のドアが開いた。部屋に入ってきたのは隣の部屋の佐木さんだ。別に興味があった訳では無いが一年の時に同じクラスだったから、名前は知っている。


何故名前を覚えているのかは明白だ。佐木さんは学校の中でも五本の指に入るほどの美少女だからだ。当然彼女の虜になる男子は数多くいた。中には告白するやつも一定数居たが、それに比例するように振られる奴もいた。

それが現実だ。


人気の理由は、黒髪に特徴的な青色の瞳それに加えて容姿端麗。そんな美しい見た目が癖に刺さる奴の続出する原因だろう。学校では話す人とは話すけれど自分から話しかけることはほぼないタイプだ。そこの所俺と佐木さんは似ているのかもしれない。


だからこそ驚いた。


(......なんで佐木さんが俺の部屋に?)

「......なんで犬井君がうちにいるの?」


どうやら彼女も状況を飲み込めていないようだ。そんな事より俺は名前を覚えられていたことに驚いた。彼女に興味があった訳では無いが、一方的に認知しているだけだと思ったからだ。


「なんでってここは俺の部屋だからだ」


どうやら部屋を間違えたらしい。隣の部屋だから仕方ないっちゃ仕方ない。


(今度から鍵はかけるようにしよう)

俺は割と固めに決意した。このマンションにはほかのクラスメイトも結構住んでいる。こんなとこ見られたら学校で吊るしあげられるのは俺の方だ。


少しの間沈黙が続いたが彼女もやっと今の状況を理解したのだろう。頬が少しばかり赤くなっていた。そりゃあそうだ。クラスメイトの部屋に間違えて入るなんて、誰でも恥ずかしいに決まっている。

人気なだけあって恥ずかしがる顔が可愛かったのは否定できなかった。


「本当にごめん わざとじゃなくて......」


当然だが、佐木さんがわざと家に入るメリットなんて、ただの一つもない。俺が逆の立場でもわざと入ろうなんて思わない。気まずそうに謝る彼女を見てこっちも申し訳なくなってきた。


「いや、俺も悪かった。 鍵ぐらいかけとけばこんなことには......」


 そしてここからが問題なのだが...... 俺は何を血迷ったのだろうか。気まずそうにしている彼女を見て、つい言ってしまった。


「お茶出すから飲んでいく?」


などと余計なことを...... 多分自分なりに気を使ったんだろう。というか自分の失言に納得する理由が欲しかったのだろう。


「うん...... ありがとう。 お言葉に甘えさせてもらう」


佐木さんはまだ少し顔を赤くしたままそう答えた。

余計なお世話だなと思っていた俺は、彼女返事に驚きを隠せなかった。

 

 日常会話すらままならないのにどうしてこんな誘いをしてしまったのだろう。勿論だが家に人を入れるのは初めてだ。なんなら人とまともに会話するのすら久しぶりだ。気を使ったつもりが逆に気を使わせることになりそうな気がしてきた。

(......しかも女子)

突然過ぎて片付けもしていない。まぁ片付ける物も無いんだけど......

人とのコミュニケーションを極端に避けてきた身としては、とても辛い状況だ。しかも自分から招いた以上、今更追い返す訳にも行かない。


「じゃあ、どうぞ......」

「お邪魔します」


佐木さんは遠慮気味で家に上がった。多分というか絶対だが、こんな事初めてでどうすればいいのか分からないのだろう。なぜ分かるかは一目瞭然。俺も今そうなっているからだ。


今家に女の人が入っている。何を話せばいいかわからない。その上、下手な行動をとれば今ですら危うい学校での立場が、一瞬で消えてなくなると思うとゾッとする。


(余計な事を言わなければただの部屋間違いで済んだのに......)


過去の自分が物凄く腹立たしい。そんなことを言ってももう遅い。

変な噂が広がったらたまったもんじゃない。佐木さんの性格的にそういうことを言いふらしたりはしないと思うが周りの人もそうとは限らない。今は彼女からいい人と認識されないと......


「犬井君の部屋ってお洒落だね」

「必要な物しかないけどな」

「成程。 無駄なものがないからお洒落に見えるのか」

「......ありがとう 取り敢えずそこの椅子に座ってて」


あまり人から褒められることがないので、俺は少しだけ照れくさくなった。照れ隠しの意味も込めて椅子に座るように促した。

彼女は椅子に座ってまた俺の部屋を見始めた。座ったらあまり見ないと思ったが…… 大して変わらなかった。

(人を部屋に入れるのはこんな感じなのか......)

私生活を見られているみたいで、すごく恥ずかしい。というか最近のお洒落って一体どんなものなんだ?


確かに趣味がない分インテリアに使えるお金が増える。だからといって物凄く手をかけている訳でもない。観葉植物が少し置いてある程度だ。どこがお洒落なんだ?

俺はそんなことを考えつつカップに紅茶を注いだ。

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