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完全に燃え尽きた燃えカスを全て窯炉の中に放り込んでから、二人は立ち上がった。
火が消えてしまえば、さすがに少し肌寒く感じるようになって、ジークハルトとニコラは行きよりも足早に来た道を戻る。
途中、早足が疲れたのかペースが落ちてきたニコラにおんぶを提案すれば、ニコラは珍しく素直にこくりと頷いた。
しょぼしょぼと瞬きをしている辺り、眠くなっていたらしい。
ニコラを背負い、その上から外套を羽織り直せば、温いのかあっという間に寝息が聞こえだして苦笑する。
ニコラが寝ているのをいいことに、ジークハルトは歩調を緩めて、のんびりと石畳を歩いた。
耳元で聴こえる穏やかな寝息と共に、人っ子一人いない月夜を散歩するのは楽しいもの。
日頃のニコラ不足を補うように、ジークハルトはすっかり気を抜いてメインストリートを歩いていた。
そう、こんな真夜中に寮を抜け出して校舎までやって来る人間など居ないと、完全に油断していたのだ。
互いが互いに気付いた時にはもう、月明かりでも顔がはっきりと識別出来る距離で、その人物と目が合った。
「……ジーク?」
「アロイス……?」
月明かりの下、見知った顔に目を瞬く。
互いに相手を認識してからたっぷり数秒は固まった後、先に我に返ったのはアロイスの方だった。
「生徒会長が夜歩きなんて、悪い奴だな。君も眠れなかったのかい?」
アロイスはくすりと笑って、いつもの調子でおどけたようにそう言った。
だがその碧眼の下には、光源が月明かりしか無くともはっきり見て取れるほど、色濃いクマが浮かんでいて、ジークハルトは目を眇める。
「君も、ね。そういう君は、どれくらい眠れていないのかな」
「……ちょっとだけさ」
「知らないようだから言うけれどね。君のちょっとはものすごくなんだよ、いつだってね」
「………………そうかもしれないなぁ」
観念したように、アロイスは両手を挙げて「正直参っているんだ」と零した。
袖から覗く腕に巻かれた包帯と滲んだ血に目を止めたジークハルトは、そっと背中のニコラを揺すって起こす。
ぽやぽやと眠気まなこのまま地面に降り立ったニコラは、ぼんやりとジークハルトを見上げ、それからアロイスの方へゆっくりと視線を移して、ぱちぱちと瞬きすること数回。
それからがっくりと地面に膝をつき、顔を両手で覆って呻いた。
「たったの三日、目を離しただけでコレはないでしょうよ…………」




