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壊れた神のレクイエム  作者: おじじ
2/6

始まりの場所

 過去に投稿していた部分をこちらに再度アップします。

 文面等直せる部分は直していきます。


 俺は呼吸を止めて物音一つ出さないように物陰に隠れていた。


「ねぇ、何処に行ったノォ。怖がらないで出て来てヨォ」


 一瞬見たそう声を発する女性は、明らかにこの世界の住人では無かった。人の形をしているが、あれは明らかに違う。

 全身からは血を滴り落とし、頭が狂ったかのように微笑む女性の顔が頭から離れない。

 ゾンビ………いや違うな。あれはゾンビとは違う類の物。

 言語を発し知性はあるように見えた。ゾンビならばお約束で喋ることも知性も無いはず。

 それにあいつが使ったあの変な力は一体なんだ。アニメや漫画、創作の世界じゃあるまいしあんな事が出来るはずが………。

 理解が追いつかない現状に困惑する。探していた黒猫とも逸れてしまった。

 とりあえず、音を立てずにやり過ごすしか無い。変な力を使ってくる上に、見つかったら間違いなく殺される。

 知性があるとは言え、あの言動や行動は常軌を逸している。


「はぁ、何でこんな事に」

 

 ここで一旦俺が置かれている状況を説明するには、時を少し遡る必要があった。

 そうそれは遡ること数時間程度前のことだったと思う。

 俺は近所で飼われている飼い猫が居なくなったということで、その飼い主さんに頼まれ一緒に猫探しをしていた。


「おーいチル。何処に行ったんだぁ」


 いなくなった黒猫の名前はチル。俺も普段から外で見ては撫でていた人懐っこい猫。

 普段は飼い主さん宅の家の周りだけにいるのだが、この時ばかりは周囲を探しても見つからず何時間経っても帰ってこないことから飼い主さんが捜索を始めた。


「おっかしいなぁ。いつもは遠くに行ってもここら辺にはいるんだけど」

 

 猫の行動範囲なんかは決まっている。去勢手術をしてある飼い猫なら尚更遠くまで行かない。

 俺はいつもチルを目撃している範囲を集中的に探すことにした。

 しかしいくら探しても、チルの姿はどこにもなかった。

 捜索を開始した時は明るかった空も、段々と日が傾き始め夕暮れにへと変わっていく。テスト期間中で学校が早く終わったのにも関わらず、今日は猫探しで1日が潰れそうだな。

 特にやる予定はなかったが、ここまで時間を取られるとは思っていなかったため何故だか急に虚しい気持ちになる。


「もう、本当にどこに行っちゃったのかしら」

 

 チルが見つから無いままお婆さんと合流する。もうそろそろで辺りは完全に暗くなる為、捜索を切り上げざる負えなかった。

 飼い主であるお婆さんはそう呟くと、目から涙が滲み出ていた。ペットと言っても、長い年月を積み重ねて一緒に生活をしていれば家族も道理。

 

「おばさん、俺もう少し探してきます」

 

 泣いてるお婆さんを見ていても立ってもいられなくなり、そう言い残し俺は一人暗くなっていく中でチル捜しを続ける事にした。

 日が完全に傾きかけ周囲が暗くなる。


「懐中電灯持って来ておいてよかったな」


 思った以上の長丁場。想定はしていたが、まさかここまで長引くとは思わなかった。

 近所の公園や、路地裏など。猫が一通り行きそうな場所は探したが、チルの姿は何処にも見当たらない。


「また、明日探すか」


 帰っていく道中、お婆さんの悲しげな表情を思い浮かべるだけで居た堪れなくなる。


「お婆さん、相当悲しむだろうなぁ……」


 ここまで時間をかけておいて見つかりませんでしたって言えないよなぁ。

 ため息をつきどう話をしようか考えている俺の耳に、聴き慣れた鈴の音が数回聞こえてくる。


「……チャリン」


 間違いなくチルの鈴の音だ。

 鈴の音なんかどれも一緒だと思うかもしれないが、昔から俺には変な能力があった。それは、集中した際に五感が鋭くなる事。

 そして集中した時に鋭くなるその五感は人間離れしていると思う事も時々あった。

 俺は鈴の音のする方にへと向かっていく。ただ、いくら走って近づいてもその音は一向に近づいてくる気配が無い。


「なんだよ。チル。逃げてんのか」


 この時の俺は、チルの鈴の音がする方には行くべきではなかったとこの時は知る吉もなかった。

 鈴の音を追いかけて最終的に辿り着いたのが、古びた美術館。その美術館は以上な程の月の光を浴びており、懐中電灯の灯りを消しても問題ないほどに明るかった。


「なんでこの場所だけ、こんなに明るいんだ」


 いくら月の光が明るくたって、こんな限定的に明るく垂らし出すことなんかまず有り得ない。非現実的すぎるだろうこの現象は……。

 それにこの廃れ具合。噂には聞いていたが、この美術館が例の事件のあった美術館なのだろうな。

 俺が生まれるずっと前に運営していたであろうこの美術館は、町から少し離れた外れにある。定期的に展覧会が行われていた経緯があり

 そんな人が集まっていた美術館がどうして閉館することになったのかは、正直町の人でさえ分かっていないことだった。


「チルー。いるのかぁ」


 美術館の扉は鍵が外れており容易に中にへと入る。

 美術館の中には無数の草が壁や床一面に蔓を伸ばし、外も暗いということもあり足元もおぼつかないような現状。

 ただ至る所から月の光が差し込み多少の明るさは確保出来ていた。そしてその中でも一際明るい場所があった。

 それは、入り口を抜け直ぐのメインホールの中央部分。何故かそこだけは、月の光が真上から垂直に降り注ぐような感じ、つまり屋根に向かって光の柱が出来ているような感じで光が集中して降り注ぐ。

 その光の柱の中に、黒が一層目立つチルの姿があった。


「なんでこんなところに。だめじゃないか」


 チルを抱き抱え美術館を去ろうと、進入してきた入り口の方にへと振り返る。

 振り返った俺の目に飛び込んで来たのは、この場所が入っては行けない場所だと断定するような光景だった。


「なんだよ、これ…」


 先まで容易に進入出来ていた入り口は茨が無数に絡み合い、意志があるかのようにそこを塞いでいる。

 そして入り口だけではなく、外にへと出て行けそうな他の箇所にもその茨が頑丈に巻きついており、脱出不可能と化している。

 明らかに俺が入って来た時の茨の感じとは違う、意志を持ち俺を帰らせないようにしている。そう思ったとしても後の祭り状態。


「くそ、どうなってんだよこれ」


 茨を手で引きちぎろうにもがんじがらめになっているそれは、びくともしない。それどころか、茨の棘により手に擦過傷を負い血が滴り落ちる。


「チル、ちょっと大人しくしてて」

 

 チルを片手に抱えたままだと力が入らなかった為、床にへと置き両手で思いっきりの力をかける。だが結果は同じだった。

 当たり前であるが茨はびくともせず、俺の手だけが茨により擦れ血が滲み出てくる。


「いった。くそぉ、なんなんだよもう」

 

 

 そう絶望する俺を他所に、チルは何も無かったかのように後ろ足で首元を掻きながら大きな欠伸を一つして見せた。


「はぁー。いいよなぁ、呑気でお前は」

 

 そんなチルの光景を見て少しだけ落ち着きを取り戻す。茨がどかせない以上、他の脱出口を見つける以外に今の俺に取れる選択はなかった。


「とりあえず、どこか出られる場所はないかな」


 そう思いつつメインホール内を見回す。

 すると、壁にかけられていたこの美術館のものであろう見取り図が目に入ってくる。

 その見取り図には、メインホールからちょっと進んだ所にスタッフルームとそのスタッフが出入りするための裏口が記載されている事に気づく。


「ここからなら出られるかな」

 

 他に外にへと出入りする為の入口らしきものの記載は見て取れなかった為、そのスタッフ用の裏口にへと向かう。


「いくよチル」

 

 チルを再び抱き抱え、メインホールから伸びる長い廊下を突き進む。

 しばらく歩くと、第一展示室と書かれていた場所に到達する。見取り図ではあまり大きさが分からなかったが、その展示室は意外にも奥行きがあり広い作りになっていた。


「この先だな」

 

 スタッフルームは第一展示室を抜けたその先にあるため、足早に第一展示室を後にする。

 第一展示室には当時展示されていた美術品がそのままの形で残っていた。恐らく二階に記載されていた第二展示室も同じで、当時展示していた品がそのまま残っているんだろう。

 そう考えると、町の人も知らずとして突如閉館したこの美術館の存在があまりにも違和感で仕方なかった。


 スタッフルームに到着すると、ルームに面して造られたスタッフ用の裏口を確認する。


「くそっ」 

 

 押し扉になっていたのだが、扉の向こうで何かが邪魔をしておりほんの少ししかドアは開かなかった。

 これだけの隙間じゃどうやっても通る事ができない。完全に詰んでいた。

 俺はその場に崩れるように座り込む。

 幸いにも今は梅雨の時期。一晩過ごすだけならなんら問題はない気候だった。


「明日まで待つか」

 

 これが寒い冬場でなくて良かった。そう思いながら歩き疲れた疲労とチルを見付けられた安心からか急な睡魔に襲われる。

 チルも近くで体を丸めて休んでいる。

 少しくらいならいいよね。目蓋が閉じ、視界がゆっくりと暗くなる。

趣味投稿ですが、感想等いただければ励みになります。

よろしくお願いいたします。

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