六十年間の儚い約束
随時更新していきます。
以前も書いていましたが、世界観が纏まらずに新たに世界観を纏めたこちらを主に投稿していきます。
文自体が少々苦手で趣味程度で投稿していきます。
暖かい目で見ていってもらえると幸いです。
本来は肌寒いであろう初冬の夜。しかし、今の英太はそんな肌寒さがどこ吹く風の如くに心身共に熱されていた。
心は本当に自分がこの場所にいていい存在なのか、その自問自答により休む暇なく心の臓が鼓動を打ち、身の方は燃え盛る炎の中にその身を置いていた為だった。
所々に消化されずに残っている残り火の僅かな灯りが、英太の思考を更に困惑させる相手の顔を照らし出す。
「姉さん。どこで間違ったんだろうね」
対峙するその人物にそう声を掛ける。
こうなることは大分前から分かっていたのに、何故だか英太の心は濃いモヤで覆い尽くされたかのようにモヤついていて割り切れてはいなかった。
実の姉に刃を向け、また英太自身もその身を実の姉の静音により危険に晒されている。
そんな特殊な状況なだけに頭で考える以上に心は穏やかではなかったのかもしれない。
「英太。貴方は今まで多くの「死」をその目で見てきたはずよ。そして、いかに「死」と言うものが酷く、滑稽な事なのかをね。ルイスがいい見本であったじゃない。力に固執し、周りを信用できずに己で動き結局は無駄死にをした。いくら誰かの為に動いていても、その最後は一瞬なのよ。そして、やってきていた事の理解もされずに一人寂しく死んでいく。だからね、私が全てを終わりにするだけ。痛みも悲しみもない「夢」のような世界を創るために。だから邪魔しないで」
静音の言うように数多くの死を目の当たりにしてきていた英太。ここまでの道のりは決して楽で楽しい道のりではなかったのは当の本人が噛み締め分かっている事。
誰かの為に命を落とす者、自分の信念の為に命を落とす者。生きづらさの為に自ら命を絶つ者。
そして生きたいのに命を奪われる者と、挙げたらキリがないほどの色んな形の「死」をこの一年間見てきている。
その理由は様々だったが、その「死」全てを酷く、滑稽な事と一括りにして判断している静音が、英太の目には一番酷く、滑稽な存在に映っていたのかもしれない。
「姉さん。今の言葉でハッキリとした。この一年間、自分と姉さんの見ていた風景は同じ様で同じではなかったんだと。俺は、今までの「死」を一括りにすることはできない。どの「死」にも、その人の想いが反映されているんだから。姉さんだってそうでしょ。想いがあって、今こうしてここにいる。そして俺も……」
先の一言で、もう話し合いで解決する術はないと悟ったのか。はたまた、静音の想いに生半可な気持ちで対峙することが失礼だと思ったのかは定かではないが、英太の握るその刃が今まで以上の力で握られる。
決心した。そう言ってしまえば簡単な表現なのかもしれないが、我々が思っている以上に英太の心中は高波が発生するであろう海の如く荒れているのは間違いなかった。
「そうよ。それでいいのよ。優柔さは思考を停止させ力を抑制する。私は私のやることを行うだけ。私のやることに意義を唱えるなら、力づくで私を止めて見せなさい」
静音がそう言い切る前に、静音の手からはサーモグラフィがエラーを起こしてしまうかもしれない程の灼熱の炎が英太に向かって辺りに散らばる残り火を吸収し突き進んでいく。
「ぐっ………」
炎の英太までの到達点はそれほど早くはなかったが、その範囲が広大だったために避けるのに精一杯だった。
灯りもない建物内が一瞬、月明かりの薄い灯りを嘲笑うかのように神々しく照らされる。
「英太、遅いわよ」
突き進む炎を横目にやり過ごした英太の進行方向に静音が瞬時にその姿を現し、その身に一発の重い蹴りを入れた。
その凄まじい蹴りの勢いに飛ばされた英太は、体に掛かる重力を無視し建物の中腹部の壁にぶつかる。英太が能力者でなければ、明らかに今の衝撃であの世へ直行であっただろうその威力。
英太がぶち当たった壁は脆かったこともあってか、そのぶつかった瞬間の体の形を刻んでいた。
「いてぇ…」
刀を地面に突き刺し、刀を支点にしゆっくりとダメージの負ったその体を起こす。
「なっ」
やっとの思いで立ち上がった英太のタイミングを静音が待ってくれるはずもなく英太の視界、すぐその目の前に既にその姿が入る。
振り翳したその拳を咄嗟に交わす本当にギリギリだった。交わした静音の拳は能力により強化されていたらしく、脆くなっているとは言え壁一枚を易々と木っ端微塵にする。
「英太、攻撃してこないと本当に死ぬわよ」
そんな事を言われても、と言う心境が今にでも英太の口から漏れ出しそうになるそんな顔。
この時点での英太と静音との力差は火を見るより明らかであり、全ての能力に於いて静音の劣化でしかなかった英太が勝ち筋を見出すのは至極困難な事であった。
攻撃でさえ交わすのがやっとであるこの現状に、攻撃を仕掛けたくても仕掛けられないのが歯痒くてならなかった。
「最初から分かってたさ。姉さんと力差があることくらい……」
この現状を自分に言い聞かせるようにボソッと呟く。
誰しもがその力差に諦めるこの場面で、英太が折れないで立てているのは今までの経験が大きいと言っても過言ではなかった。
今の自分が多くの命の上に存在していることを知っていたためである。
「一%でも可能性が、少しでも可能性があるなら諦めない。ここで負けるわけにはいかないんだ」
刀に手を添えると、刀が能力によりその原型を変え始める。刀の刀身は大きく伸び刀身に纏った雷が甲高い音を立て鳴いている。耳を刺激するほどの嫌な音が建物内に鳴り響く。
そして英太は大きく力を掛けた足を勢いよく踏み出しその刃を静音に向かって振るう。
「そう、それでいいのよ英太。死にもの狂いで来なさい」
雷を纏った英太の刀身を炎を纏った静音の刀身が受けきる。英太が集中することでやっと出せる刀身変化を、瞬きをすれば見逃してしまうその一瞬で静音は行っていた。
建物内には刃同士が激しく交わる金属音が虚しく鳴り響く。
一心一体の攻防でお互いの体には生々しい傷が付き始める。刃を交わせる中で静音は、英太の反応速度や対応速度の速さに焦りを感じ始めていたに違いない。
本来であれば圧倒的な力差の英太に、ここまで傷をつけられることは想定外の事であったからである。明らかに英太のその振るう刃は静音のその速度に順応し始めていたのだ。
いやっ、時折英太の方が優勢に立ち回り始めていた部分も見受けられていた。静音は最悪の状況も考え始める。
そんな攻防が何十分と続く中でその終わりは唐突に訪れた。
英太に接近戦は不利と見た静音が咄嗟に英太との距離を空ける。その距離は約二十メートルほど。
明らかに刀身が届くはずのない距離を保った静音は、天高く刀身を掲げ始める。
「英太、貴方を生き返らせることに執着していた私はもういないの。私は「神」となり全てを終わりにする。英太を殺し全てを手に入れる」
静音の刀身に今まで以上の炎が渦を撒きながら纏わりついていきその炎は天井スレスレまで届くと、天井部分の壁を焼き焦がし始める。
静音の全ての能力を解放したのであろうその炎は正に地獄の業火と呼べるほどに強大であった。
そんな中でも英太は至って冷静だった。逆に怖気付いてしまったのかと言うほどに静かにその光景をまじまじと見つめている。
「姉さん。もう終わりにしよう」
その瞬間、本の一瞬であった。
恐らく静音自身も何が起きたのか分からなかった程のスピードを有した英太のその刃が静音の心臓を貫いていた。
天井まで伸びていた炎は見る見るその勢いを失っていき、静音の刀身は普通の金属の刃にへと戻っていく。
「やっと、終われる……」
英太が刀を体から勢いよく抜くと、静音が血反吐を吐きながらボソッとそう言い残しそのまま地面にへとうつ伏せに倒れ込む。
あれ程の力差があった英太が勝つという偶然がこの時に起こったのは言うまでもない。静音に慢心があったのかと言う推測がされる場面ではあるが、そんな推測は無駄の何物でもない。
何故なら、静音が英太を殺す機会はこの闘いの中でいくらでもあったからである。むしろ英太が静音を殺す以上にその数は多くあった。
闘いを決定付けた最後であってもそれは言える事である。強大な炎を具現化はさせてはいたものの、その懐の隙は今まで以上に大きく空いており隙だらけの状態であったのに変わりない。
英太も薄々と勘づき始めていたのであろうその違和感。静音は英太の能力を開花させるために自らヒール役となり、己のその生涯を終わることを選択したのだ。
「ありがとう、姉さん……」
急に降り出した雨の音と共に、英太の零した言葉はかき流され静音の体は消え無くなっていく。
英太が消える寸前に見た静音の顔は、六十年間の呪縛から解き放たれたが為か何処か穏やかな表情をしていた様に見えていた。
「行くか、最後の闘いに……」
廃墟された美術館に施されていた仕掛けを解き地下へと降りていくと、以前は茨によって塞がっていた更に奥深くへと続く階段がその姿を表していた。
手負いの状態のままその奥にへと消えていく英太。
その後、英太の姿を見た者は誰一人としていなかった。世界の崩壊が行われなかった事を察するに、英太は諸悪の元凶を倒した事は容易に考えられる事であるが、その人物が誰なのかは彼の生き方を追体験して見ていくことにする。
風切英太が辿ったその最期を………。
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