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02

 現実での友人と共にプレイを始めるといったことはないハルトは、ひとまずソロで活動を始める。

 そんな彼の職業は「狩人(ハンター)」であり、ステータス画面から確認できる概要は以下の通りとなっている。


狩人(ハンター)

職業説明:獲物を追い詰めるための複数の技能を持つ初級職業。防御力が低いため継続戦闘能力に欠け、純粋な攻撃力も他の前衛職業に劣るため、スキルやアビリティを活かして戦う必要がある。

職業技能:索敵,隠密,精度向上,アイテムドロップ増加〈戦闘〉

分類:前衛 / 回避 / 収集 / 索敵 / 隠密

武器適正:短剣 / 弓 / クロスボウ / 罠


【ステータス】

Lv : 1

EXP: 0 / 10

HP : 20 / 20

MP : 10 / 10

ATK: 5

MGC: 1

DEF: 3

AGI: 6

【スキル】

索敵(Lv.1) / 隠密(Lv.1) / 精度向上(Lv.1) / アイテムドロップ増加〈戦闘〉(Lv.-)

【アビリティ】

なし


 各項目は、階級(Lv)、経験値(EXP)、耐久値(HP)、魔力(MP)、物理攻撃力(ATK)、魔法適正(MGC)、物理防御力(DEF)、俊敏性(AGI)となっている。

 スキルとアビリティだが、前者は常時発動型、後者は起動型の能力らしい。

 それを踏まえてみると、狩人は攻撃力と俊敏性が高く、防御力が低い。そして魔法に適性がない職業ということになるのだろう。


 ハルトは自身のステータス周りの情報をさらいながら、最初の町「ファーストリア」の散策を始めた。

 最初の目的地は武器屋にする。このゲームは、初期装備が支給されておらず、軍資金1,000Gゴールドで必要なものを揃えるところから始める必要がある。チュートリアルがなく不親切極まりないが、文句を言うべき管理者に通じる連絡先はなかった。


「いらっしゃい」


 武器屋に入ると店主が出迎えてくれる。人間と見間違うほどよくできているが、おそらくはNPCだろう。攻略に出るには武器が必要になる。そのため当然の話だが、店内には他にもプレイヤーの姿が見られた。


「初めまして。ここでは何を売っているんですか?」

「見ての通り武器を売ってるよ。何も装備していない駆け出しさんには、この棚の商品を勧めてる」


 そういって店主が指さしたほうを見ると、値札がかけられた商品棚が置いてある。

 値札を注視するとと全て1,000以下の値が書かれている。一応予算内には収まるものの、他に何も買えなくなる値段に驚いたが、よく見ると店主が指し示したのはその商品ではなく、その奥の棚らしい。

 表の見やすいところに置かれているのは少し値段の高い代物らしい。指示された通りに奥の棚を見ると、値札のない武器が樽に突っ込まれている。樽には一律200Gあるいは300Gと記されており、安物だけあって状態はあまりよくはないが、初期装備というとこんなものだろう。


 ハルトは、値段が同じならば少しでも状態がいいものを選ぼうと思い商品を見比べる。そんなことをしていた彼の背後でばたばたと忙しない足音が鳴る。その音に彼が何事だろうと振り返ると、1人のプレイヤーが店の出口へと駆け出す様子が目に入る。

 店主はそのプレイヤーが目の前を通り過ぎても見向きもしない。しかしプレイヤーが店の出入り口に足をかけると、それまで静観していた店主はプレイヤーの背に言葉を投げる。


「万引きはお断りだよ」


 店主の静かな一言が店内に響くと同時にその万引き犯は立ち止まる。走っていた勢いを殺し立ち往生する理由は何だろうか。そう思ったハルトが店の出口のほうを見ると、そこには甲冑を身に纏った2人の兵士がプレイヤーの行く手をふさいでいた。


「今からでも金を払うか商品を棚に戻すなら今回は見逃してやる。どうする?」


 突然目の前に現れた兵士を前、万引き犯は立ち往生する。しかしプレイヤーは最後の警告を無視し、一線を越えた。


「――パワースラッシュ!」


 彼は店から盗んだ武器を手に兵士に斬りかかった。おそらくアビリティを使用したのだろう。振り下ろされた剣はうっすらと赤いエフェクトを纏っている。


「う、うぁあああ!!」

「(あ、これは無理だ)」


 ハルトがそう思った直後、兵士がプレイヤーの攻撃を軽くいなす。盾によって剣が弾かれ、手が痺れたのかプレイヤーは剣を取りこぼす。そこへもう一人の兵士が攻撃を入れた。

 斬撃がプレイヤーを襲い、彼はダメージエフェクトとともにHPのすべてを失うと、光の粒となり消えていく。


「一応教えておくが、万引きは重罪だ。前科がつけば行動も制限される。1度は警告するが、2度目以降は問答無用で処罰される。気をつけろよ」


 店主は店内にいる全員に聞こえる声量ではっきりと告げる。そんな一連の事件が終わると、店の前に現れた兵士2人は何事もなかったかのように巡回へと戻りその場を去る。残ったのは万引きプレイヤー1人が消えたという結果だけ。しかし目の前で人が消えたことで店内にいた何人かのプレイヤーが騒ぎ出し、中には言いしれない恐怖に捕らわれ店内でうずくまるプレイヤーまで現れる。

 いくらリスポーンが可能と明言されていても、人が消えるという異常な光景は恐ろしいだろう。ゲーム開始直後に武器屋を訪れるようなプレイヤーだ。過去に似たようなフルダイブ型のゲームをプレイした経験のある人が大半であり、人が光の粒になり消えるという光景はなじみのあるものだろう。しかしログアウト不可能という状況でそれが起こると反応が変わるらしい。

 そんな光景を前にして、ハルトは平静さを失ったプレイヤーたちを気持ち悪いと感じる。


「(例えゲームだろうと盗みにはペナルティがつく。それに1度は警告してくれた。引き返すタイミングがあったのにそれでも強行したプレイヤーが悪い。そんな当然のことで何を動揺してるんだ?)」


 彼はそう思ったが、ふと気になって先ほど光となって消えていったプレイヤーが何を考えていたのか少し考えてみる。

 強い武器があれば攻略は早まる。一刻も早く現実に帰りたいというのなら、焦って盗みに手を出してしまうのかもしれない。そう考えるとリスクある行動だと警告を受けてもあの選択を取ったプレイヤーの行動には一理ある。もし兵士に勝てていたなら、あのプレイヤーが攻略の先陣に立ち、人々から賞賛を受けていたかもしれない。

 しかしあのプレイヤーはリスクを取ったのだ。その行動で彼が光となって消えても、ほかのプレイヤーが動揺する理由はないはずだ。現に店主は何事もなかったかのように過ごし、万引きをするなと忠告するだけでプレイヤー全てと敵対したわけではない。それなのに怯えを見せる店内のほかのプレイヤーの姿をハルトは不思議に思う。

 そんな奇妙な光景を横目に、ハルトは先ほどの光景に対して覚えた違和感を思い出し、店主に尋ねる。


「店主、さきほどあなたはこの棚の商品を勧めていると言っていましたよね?」

「ああ、言ったな」

「それはもしかして、俺が今高いモノを買っても使いこなせない(・・・・・・・)からじゃないですか?」

「それもあるな。装備は条件を満たさなきゃ真価を発揮しない。おまえさん、よくわかってるじゃないか」


 先ほど兵士に倒されたプレイヤーの動きを見て持った違和感。店主のその言葉に、違和感の正体が、子供が重いものを振り回した時のような危なっかしさだと気づく。確かにプレイヤーの多くは現実で剣を振るったことはないだろうが、それでも真っすぐ武器を狙った場所に振り下ろすくらいはできるはずだ。しかしそれすら覚束(おぼつか)ず、刃先は傾き柄を握る握力は弱い。それはこのゲームの仕様による強制力が働いていたということなのだろう。

 どうやらこのゲームではステータスに応じて装備できる武器や防具に限界があるらしい。それでも身不相応な装備を身に着けることは可能だった。しかしその場合はステータスが不足していると移動や攻撃力、スキル発動にペナルティがかかるため、結局ステータスに適した装備を着けているプレイヤーの方が強いようにできている。

 よくあるシステムと言われればそれまでだが、何の説明もないのは理不尽だ。先ほどのプレイヤーは盗むというリスクを冒してまで高価な装備を手に入れようとしたが、仮に手に入れられたとしても使い物にならなかった。そのことを知っていれば先ほどの彼は盗みなんて働かなかっただろう。

 悲しい事件だった。ハルトはそう思いつつ、このゲームシステムを知るきっかけを作ってくれた名前も知らないプレイヤーに感謝と憐みの念を込めて簡単な黙とうをささげた。運営のメッセージが本当ならリスポーンしているはずであり、相手は死んでいないだろう。込めた思いはともかく失礼な話だった。


 その後ハルトは一番安い短剣を2本買って店を出る。出費は400Gであり、残りの手持ちは600Gとなった。

 余談だが、購入後にふと装備は壊れるのか尋ねると当たり前だと返ってきた。短剣2本持ちなんて考えていたが、計画を変更して1本は予備として使うことにする。

 その次に彼は宿屋へ向かう。

 順当にいけば、次は防具を買いに行くところだろう。しかし武器屋店主と話した彼は、宿屋の重要性に気が付いた。

 ログアウト不可能という現状、ゲーム内だとしても眠る必要が出てくるというのは予想がつく。その時、路上で寝るわけにもいかないだろう。

 ゲームならば部屋数に制限はない。そんな希望的な見積もりは立てられない。予想に反し睡眠が不要、あるいは睡眠中路上にアバターが放置されずに済む仕組みがあるかもしれないが、その時は多少の金を無駄にするだけ。宿泊代金の額面にもよるが、保険にしては安く済むだろうと考える。


「こんにちは」

「いらっしゃいませー。おひとりですか?」

「はい」


 看板には「宿屋 やすらぎ」と書かれている。店内に入り挨拶をすると、快活そうな店員が返事をした。


「1日の金額ですが、雑魚寝であれば5G、1人部屋なら25G、今後のことを考えて2人部屋にするなら40Gです。個室なら長期予約で割引もありますよ。どうしますか?」


 店員の説明を受け、ハルトは自分の予想が正しそうだなと思う。多くのゲームにおける宿屋の役割、HPやMPの回復を目的とするならば料金の安い雑魚寝部屋で問題ない。しかし雑魚寝部屋はおそらく路上で寝るよりはマシな妥協点に過ぎない。そんな印象を受けた。


「部屋を見せてもらうことはできますか?」

「できますよ」


 そういわれ案内された部屋を見て確信する。雑魚寝部屋の簡素な布1枚の上で寝る行為は、現代の快適なベッドに慣れたプレイヤーたちには酷だろう。

 通常の部屋についても、置かれているのは固めのベッドと机、クローゼットに窓が1つという簡素なものだった。眠るには困らないが手狭であり、ベッドの質もそれほどよくない。現代の柔らかなベッドや布団に慣れていると不満を抱く人もいるだろう。

 ゲームらしく部屋が際限なく用意されているのか。それとも部屋数に制限があり先着制なのか。後者だと今後大変なことになりそうだが、人のことを気にする余裕や配慮は彼にはない。むしろ運営は次の町を開放しなければならない状況に追い込み、攻略を進めさせようとするのではないか。そんな考えが脳裏をよぎった。

 その後、彼は1人部屋を借りた。長期なら割引があるという話だが、次の町の攻略が行き詰まるかどうかはまだわからない。一旦は3日分を適正料金で支払い、それ以降も泊まるかどうかは後で決めることにする。


「宿代が払えなくなるのも困るし、集金手段は確認しておきたいな」


 ハルトは宿屋を出ると、次はギルドと呼ばれる施設に向かう。


「思ったより賑わってるな」


 中に入ると武器屋同様にプレイヤーの姿がある。経過した時間を考えるとログアウト不可のショックも落ち着き始め、ゲームクリアのために行動しようというプレイヤーも現れ始めたのだろう。ギルドであれこれ調べている他のプレイヤーを横目にハルトは受付に向かった。


「こんにちは」

「こんにちは。初めての方ですか?」


 まともな防具も身に着けていないのですぐに初心者だとわかるだろうが、果たして彼らはプレイヤーを外見で区別しているのだろうか。まるで人間と話しているような感覚に陥るNPCを前に、ハルトはそんな疑問を抱く。

 とはいえ直接聞いて変人扱いされても困る。答えの出ない思考を中断すると、目の前の受付係との会話に戻る。


「はじめてです。ギルドの使い方について教えてください」

「わかりました。まず初めにギルドの利用には会員登録が必要になります。

 登録の際には犯罪歴等が開示され、条件を満たさない方は登録することができません。

 ギルド会員になった場合、ギルドのサービスを受けることができます。その代わり、ギルド会員としての義務が発生します。

 重大な犯罪や複数回の犯行等で犯罪者になった場合は会員登録を抹消し、保安機関にギルドが保有する情報が開示されます。

 これらの条件に同意できる場合、会員登録手続きを行います。同意しますか?」


 ゲーム内であれば、現実では犯罪になる行為も許される。そういった考え方をする人は意外といる。しかし快適にプレイできるゲームには、悪質な行為に対する罰則が用意されているものだ。

 ハルトはまだ確認していないが、このゲームにはプレイヤーキル、通称PKと呼ばれる行為が実装されている。それ以外にもハルトが武器屋で遭遇した窃盗など、犯罪行為は可能になっているが、それらには悉く罰則ある。そのため合理的に考えれば犯罪行為に意味はないのだが、一部の人間は感情や快楽で物事を量る人もいる。現実では罰せられる行為を積極的に行うプレイヤーは一定数存在するものだった。

 とはいえ、ログアウト不可のゲームではアカウントを作り直してペナルティをリセットすることはできない。ゲームというリスクの軽い場所だからこそ悪行を重ねていたプレイヤーはリスクに怯え、他人を害することに喜びを感じていたプレイヤーの中には殺しても現実ではバレないデスゲームという環境に歓喜したり、リスポーン可能という一文を残念に思ったりする狂人が潜んでいる。彼らが今後どう動くのかは、今後の攻略が順調に進むかどうかを左右しかねない不穏な存在といえた。


 この規約はそういった悪質なプレイヤーを抑制する仕組みの1つなのだが、ハルトは現実っぽい規約だなと思うだけで特にそういった意図を読み取ることはなかった。


「問題ありません。会員登録を頼みます」

「わかりました」


 ゲームらしく「同意しますか?」というウィンドウが現れ、ハルトは「Yes」を押す。すると手続きが完了し、ステータスなどを確認するウィンドウにギルドの情報が追加された。


【ギルド会員情報】

登録地:ファーストリア

階級:階級なし

貢献度: 0 / 100

犯罪歴:なし


「以上で会員登録は完了です」


 その後、ハルトは簡単にギルドの使い方を聞く。

 一番重要なのは、やはりクエスト受注だろう。このゲームではモンスターを倒しても金は手に入らない。代わりにドロップしたアイテムや採集したアイテムの中に換金用のアイテムがあり、それを店で売ると金を得られる。

 しかしその効率はお世辞にもいいとはいいがたい。レアモンスターなど比較的高価な換金アイテムをドロップするモンスターもいるらしいが、レアと名前がついているだけあって遭遇率は高くないので当てにならない。

 そんな中で、安定して金を得る手段がこのクエストになる。治安維持という名目の「討伐クエスト」に始まり、期限内に一定量、一定品質以上を納品することで店頭買取よりも多くの金を得られる「納品クエスト」、アイテムを運搬し指定の場所に届ける「おつかいクエスト」、それ以外の「特殊クエスト」の4つが主に存在している。その中でも特殊クエストは護衛依頼や弟子探しなどイベントが発生しそうな内容が並んでいる。ただそういったクエストのほとんどの前提条件がB級以上、ものによってはそれに加えていくつか条件がある。受けたければギルドに貢献して階級を上げなければならないし、仮に今受けたとして失敗するのは必至だろう。

 そんな階級は、階級なし、C級、B級、A級、S級の5段階で区分されている。昇級の基準はギルドへの貢献度であり、依頼に成功することでポイントが溜まり、たまったポイントが規定値に達すると昇級試験を受けることができる。昇級試験がある理由は、下位のクエストの数をこなしても上位のクエストを成功させる実力があるとは限らないからだという。


 一通り話を聞いたハルトは、受ける依頼を考えるのだった。

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