#3「ご挨拶なさい」
(母)「ご挨拶なさい」
デジャヴーを感じつつも割烹着に着替えた私は父を含めた料理人さんたちに会釈する。
「不束者ですが何卒よろしくお願いいたします」
とはいえ先程とは違いうちの料理人さん達は全員知っているのでバイト初日の挨拶という形式的なものだ。
(料理人)「なあんだ新しいバイトの子って夢花ちゃんだったんだ、よろしくな!?……っていて!」
(父)「おい!ぼさっとしてんじゃねえ!」
父に頭を叩かれた料理人さん再度会釈し私は母の元で指示を受けた。
(母)「忙しいんだ、さっさとお水出しとオーダー取り、お会計もなさい」
今までにもお手伝い程度にやったことはある作業だがら出来るっちゃ出来るけど__
(客)「なんでえ今日は夢花ちゃんがいんのか華やかじゃねえの」
なんて言われようものなら
(母)「今日からバイトとして入れてるんで甘やかさないでくださいな」
と喝が入る。
お客さんが捌けてきた時間帯でも母から皿洗いや資材搬入やらを命じられ息つく暇もない。
途中父から「おいおいいくらなんでも扱きすぎじゃねえか」と援護射撃が入るものの母は一切聞く耳をもたない。
結局お昼から夕飯時までバッチリ8時間の労働であった。
「はあーしんど……」
お客さんも疎らになったころ私は退勤する事を認められ晴れて自由の身となった。
とはいえこれで今日やるべきことが終わったわけではない。
ここから新たなる我が家へ帰ることになるのだが、学校から直でアパートへ向かいそのままバイトへ駆り出されたわけだ、当然引っ越し作業など済んでいるはずもない。
母からは「必要なものは自分で持って帰ること。お父さんに車出してもらえるなんて甘い考えは捨てることね」と釘を刺されている。
とはいえ明日からは普通に学校に通い終わればバイトもしなければならない、身一つでアパートに帰ってというわけにはいかない。
「どーすっかな……」
煙草に火を付け深く吸い込む。
今9時でしょー、部屋に帰ったらだいたい10時、ご飯食べてないしお風呂にも入りたいから終わったら11時過ぎかー。
起きられるのか私?
(??)「お困りのようですね」
突然声をかけられ声を上げようとするのをしーっとお茶目に遮られる。
「サブ、さん?」
(サブ)「お嬢さんのことが心配で、参上しやした。にしても、血は争えませんな」
煙草のことを言っているのだろうか?私が揉み消そうとするとそのままそのままとオーバーアクションを見せた。
(サブ)「いいんですぜ、それよりお疲れでしょう。どれこのサブが必要なものを運びやしょう、車なんで結構いけますぜ」
「ホントですか?」
車なら布団に着替えその他もろもろ一気に運び出せる。
年甲斐なくサブさんの手を取りぴょんぴょん飛び跳ねてしまった。
(サブ)「!?さ、さあ早く行きなされ」
善は急げと回れ右するも、勝手口が開き血の気が引いた。
ま、まさか母……。
父の助けすら許さない母だあろうことかこれからお世話になる管理人さんに荷物運びなどさせようものならどんな目に合わされることやら__
(??)「何だ、おめえか……」
閉じた目恐る恐る開くとそこには煙草を咥え目を細めた父の姿があった。
(サブ)「ご無沙汰だな兄弟」
(父)「兄弟はよせや俺はもう堅気だ」
父がそういうとサブさんはちげえねえと漏らした、何やら積もる話でもありそうだと私は部屋に荷物を取りに走る。