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終末を止めた世界③

 贄村囚にえむらしゅうは落ち着きを取り戻した街の風景を、自身の相談所がある古びたビルの屋上から眺めていた。


 あれだけ神と悪魔に分かれいがみ合っていた人々は、終末の騒動を忘れたかのように以前の日常生活を過ごしていた。


 そんな贄村の背後から、コツコツと誰かが近づく足音が聞こえる。


 贄村は振り返ることはなかった。


「結局、我々が終末を阻止することになるとはな」


 男は立ち止まり、贄村に声をかける。


 聞き覚えのあるその声の主は、天園司あまぞのつかさだった。


「人間の幸せを思い、互いに理想の新世界を創世しようと目論もくろんでいたのだが、なんのことはない、我々も天帝と呼ばれる者が創造した世界の仕組みの一部だったとは」


 天園がフッと笑う。


 贄村は彼の言葉には応えず、暮れゆく街の様子を眺め続けていた。


 天園は話を続ける。


「だが私は思う。この世は光があれば闇があり、裏があれば表があるように、それぞれが対になり世界のバランスを保っているのは、その方が人間の為になるからではないかと。そのおかげで今まで人類は繁栄してきたのではないかと。なので、どうだろう、情と理、それぞれを司る我々も、互いに手を取り組めば、人類にとって一層……」


 天園は贄村に伝えた。


「……天帝がこの宇宙を創ったのならば、奴は初めに万物の元となる物質と、そして対となる反物質なるものを同じ数だけ創造した」


 贄村は街を眺めたまま口を開いた。


「だが、この世界から反物質は消え、物質で溢れる世界となった。そして世界が物質に溢れたお陰で人類は発展した。つまりどちらかに偏ったとしても、世界を成り立たせることが可能ということ。世界と人間達が理で満たされた、私が理想とする私の新世界を創造する。貴様と組む気はない……」


 贄村は冷たく突き放した。


「相変わらずだな、お前は……」


 天園は手を広げ、肩をすぼめる。


「だが理と情、どちらに偏ろうとも、私も貴様も、人類の幸福を願っている点は同じだ……」


 贄村は天園に伝えた。


 夕闇が二人の頭上の空をじわじわと染めてゆく。


 贄村と天園は並んでたたずみ、闇が世界を覆い、夜の姿に街が変わるまで、行き交う人々を静かに眺めていた。


 -終末を望む者編・完ー

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