裏返りの聖戦⑥
その場いる全員の視線が南善寺小咲芽に向けられる。
「わたくしの奇能は影の蛇。実体なきこの蛇なら、あの者の唾液も突破できると思います!」
小咲芽は力強い目つきを終末を監視する者に向けて言った。
「さあ、お行きなさい! 杯中の蛇影!」
小咲芽の指示と共に、彼女の足元から双頭の蛇の黒い影が、するすると伸びる。
その蛇は途中、左右に裂けるように分かれ、終末を監視する者の唾液の中を泳いでいった。
蛇は終末を監視する者に左右から巻きつこうとする。
終末を監視する者は、その長い舌で蛇を舐め取ろうとするも、影を舐めて消すことなど不可能だった。
「おおっ!」
鬼童院戒が驚きの声を上げる。
「これならいけるかも!」
砌百瀬が小さくガッツポーズをした。
どんどんと際限なく伸びゆく小咲芽の蛇は、終末を監視する者を、十重二十重に雁字搦めにし、その怪物が持つ鬱陶しい舌にも巻きつき、その動きを鈍らせてゆく。
「百瀬!」
緑門莉沙が叫んだ。
ふいに呼びかけられ百瀬は驚いた顔を見せる。
「そのカブトムシの角で、わたしを跳ね上げて!」
莉沙は百瀬に支持した。
「えっ?! な、何するの?」
困惑する百瀬に「早く!」と莉沙が急かすと、百瀬は慌てて「わ、わかった」と頷いた。
「カブトムシ! やって!」
百瀬は己の奇能に指示を出す。
カブトムシは先が溶けた角に理沙を跨らせ、高く上に跳ね上げた。
◇
一方、鳳谷アリアと戦っているリリスとガブリエルは苦戦していた。
アリアは錨の爪で引っ掛け、鎖を巻きつけたガブリエルを振り回し、守備と攻撃の両方に使っている。
リリスはガブリエルを盾にしたアリアの攻撃に、躱し続けることしかできず防戦一方だった。
徐々に体力が奪われる。
そんなリリスに休む暇を与えず、巨船のアリアは鎖で繋がれたアリアを振り回していた。
リリスは攻撃を躱し続けていたものの、やがて躱すタイミングがわずかに遅れ、ガブリエルが手に持つ剣がリリスを身体を掠めた。
宝石のように硬いリリスの身体を傷をつける。
その傷は致命的ではないとは言え、リリスは勢い余って倒れてしまった。
そのリリスの身体の上に、アリアはその隙を逃すまいとガブリエルを叩きつけた。
そして、そのまま二人とも押し潰そうと、巨船のアリアは勢いをつけてリリス達の上から落下してきた。
身動きできないガブリエルをそのままにするか、それとも二人とも助かる方法を理で以って考えるべきか、すぐに判断を下さねばならないこの状況でリリスは逡巡してしまった。
そのわずかな時間が命取りとなり、アリアの船体が目前に迫る。
もはやリリス一人だけが退く猶予も無い。
万事休した時、とてつもない眩い光が、リリスとガブリエル、二人を襲った。